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第10話
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お二人のうち、ひょろりとして黒い服を着て銀縁の眼鏡をかけている人は黒須様といって、宰相様のご子息だった。
もう一人の白い服を着て体格のいい人は白洲様といって、近衛少将様だった。
伯爵様を含めお三人はご学友だそうだ。
居間にご案内すると「秘蔵のあれを飲ませろ」とわやわやと大騒ぎし、藤代さんが運んできた厚い硝子のぐらすに深い茶色の洋酒を注いで飲み始めた。
シノさんが奇妙な臭いのするものを薄く切ったぱんと一緒に持ってきた。
それはちーずというのだと黒須様が教えてくださり、食べないかと勧められたが恐ろしくて首を振ってお断りした。
黒須様は気を悪くしたふうでもなかったので、よかった。
いや、お怒りになって、藤代さんには申し訳ないがさっさとここからお暇をいただいたほうがよかったのか。
「キヨノさん、素敵な名前だ。
先週の父が開いたパーティで会えると思っていたのに早々と帰っていたから会えなくて残念だったよ」
「だからこうやってやってきたんだ。
遅くにすまないな。
三条院、かわいらしい方じゃないか」
「どうですか、ここでの生活には慣れましたかね」
「気苦労が絶えないのではないのか。
三条院は優しくしてくれるか」
俺はそふぁのいつものところに座っていると、矢継ぎ早に質問が飛んでくる。
どうしよう、どうやって答えよう、と考えていると答えないうちに次の質問がやってきて、結局なにも言えないままだった。
「あの三条院のハートを射止めたのはどんな方なのか、気になっていたんだ」
「聞いていますか。
恋愛にはとんと疎くて誰にも見向きもしなかった三条院が妻を娶ったというのは、大きな衝撃だったんだよ」
「三条院はいい夫として努めているか。
どうも気が利かないところがあってな。
黒須も俺もそこを心配しているんだ」
「そうだよ。
今なら僕たちが三条院に言うから、キヨノさん、いい機会だと思ってなんでも言ってごらん。
困ったことはないのかい」
「手始めに馴れ初めを聞きたいな。
一体どういう出会いをしたんだ、君たちは」
お客様のこういう会話にもそつなく答えられるのが「妻」というものなのだろうか。
俺は普段の困っている状態に困ったが上乗せされたような気がした。
どうすればいいんだろうか。
「ちょっと待ってくれ!」
「なんだよ、三条院。
出し惜しみしなくてもいいだろう」
「そうだそうだ。
独り身の寂しい俺たちにおまえの幸せを分けてくれてもいいだろう」
「ああ、本当にいい加減にしてくれ!
これ以上、俺がキヨノさんに嫌われるようなことがあったらどうしてくれるんだ!」
俺?
伯爵様が「俺」っと言った?
伯爵様がそんな乱暴な言葉遣いをされるなんて。
それもあんな叫ぶような大声で。
「嫌われる?
穏やかじゃないな」
「説明するから黙って聞いてくれ。
そのあと笑いたければ、この屋敷を出てからにしてくれよ」
怒ったかと思うような声を出した伯爵様は、今度はふてくされたような情けないような顔をしながら、ぽつぽつとこれまでのことを話し始めた。
それまでにやにやしながら囃し立てていたお二人も、次第に静かになり、そして終わる頃にはお三人ともしかめっ面になった。
「はあああああっ?!
滑川様がおっしゃっていた『神隠しのごとく』というのはあながち間違いではなかったのか!」
「いや、もっとひどいぞ。
これではまるで人さらいではないか!」
「キヨノさん、恐かっただろう。
こんな危ない人物のそばにいたらいけない。
今からうちに来なさい」
「待て待て、白洲のところより僕のところのほうが快適ですよ。
丁度、僕の手伝いをしてくれる書生を探していたところだ。
うちにいらっしゃい、キヨノさん」
いやいや、大丈夫です。
「御心配には及びません。
わたしはあと一週間でお暇をいただきますので」
「一週間?」
「どういうことなのだ」
お二人に詰め寄られ、伯爵様は大きな大きな溜息をつき、今がお試しの期間中であることも説明した。
「え、そこまで?」
「冗談だろ」
「本当ですよ。
それにしてもあと一週間でお暇、とは。
本気でしょうか。
もしキヨノさんがここから出ていったら、おまえたちのせいでもあるからな」
伯爵様は頭を抱えた。
あ、伯爵様でも困ることがあるんだ。
「話をしようにもうまくいかないし、どうしていいのかわからないし、ほとほと困っているよ」
俺だけじゃなかったんだ。
そうか。
俺が知っている伯爵様は、いつもご立派だった。
身だしなみもきちんとして、乱暴な物言いや行動はしない。
お屋敷の使用人の人たちにも偉そうにしない。
俺に対してもお優しい。
俺が赤ん坊だと勘違いしているのかと疑うくらい、お優しい。
話をするときもじっと黒い目で俺の目を見るので、俺は気恥ずかしくなって視線を逸らすくらいだ。
田村様のお屋敷では俺は旦那様と話をすることはなかったが、旦那様が使用人と話をするときは、なにかしながらのこともあって目を見ながら話をしているのは見たことがなかった。
俺はずっと伯爵様は完璧な方だと思っていた。
わからないことはおっしゃるけど。
しおれている伯爵様にはとても申し訳なかった。
でもこんなに不機嫌になったり、困ったり、情けないお顔になったりするのだ、俺と同じなんだ、と思うとすごく安心して、どうしようもなくにやけてしまった。
「……っぷ」
一度漏れると止まらなかった。
「ふは……ふ……ふ……ふはははははは」
気が抜けた。
そうしたら笑いが出てきた。
「どうした」
「は、伯爵様も……お困りになっていらしたんだ。
ふはははは。
俺……わたしだけかと、お、お、思って……ふふふふふ。
気……が抜けた……
ふははははははは」
「わははははははは、こんなところで笑えるとはいい度胸をしているぞ、キヨノさん!
気に入った。
うちに来なさい。
俺がきっちりと面倒見よう」
「ずるいぞ、黒須!
ふふふふふふ、本当にいい根性をしている。
僕のところで書生になりなよ、キヨノさん。
そうか、キヨノさんは困っていたんだね」
俺が必死で笑いを堪えているのに、お二人も笑い出したので余計に止まらなくなり、俺は笑いながら「はい」と答えた。
「ふはははは。
とっても困っていました。
くふふふふふ。
俺だけかと、思ってた。
ふふふふふふ。
伯爵様もそんなにお困りだなんて、知らなかった」
「はははははは、困らせておけ。
おまえさんも困って当然なんだから」
「やはりおぼこいとこういうことになってしまいますか。
これが婦女子の憧れの的の三条院伯爵とは。
友人として情けない。
奥方と話ができないとは。
三条院はなにを話していましたか」
「あいとかすきとか雷とかうんめいとか。
あとは赤さんでもないのに抱っこしたり」
「おやまあ。
それは難しいことを」
ちらりと横を向くと、伯爵様はそふぁにもたれかかって半分倒れていた。
「なぁ、キヨノさん」
一番大笑いをしていた白洲様が言った。
「困った奴だが、三条院は気持ちのいい奴だ。
三条院も小難しいことを話さず、もっと楽しいことを話せばいいのにな。
もしキヨノさんがこの屋敷を出るなら、本気で黒須と俺でそのあとのことは世話をしてあげよう。
あと一週間では三条院の良さを知るには短すぎる」
「そうだねぇ」
「もし嫌じゃなかったら、そのお試し期間をあと一か月延長してみないか」
「え」
「それだけの価値はある男だよ」
「多くの人は三条院の見た目と身分だけに惹かれる。
しかし中身も魅力的な男なのはこの二人が太鼓判を押す。
黒須の言う通り、あとのことは心配しなくてもいい。
そして君もとても魅力的な人だ。
君は三条院のなにを知っている?」
え…っと……
「ほら、なにも知らないだろう。
もっと一緒にいて、もっと話をしたほうがいいと思うよ。
それには一週間では足りないと僕も思う。
できれば一か月延長してもらえれば友としては嬉しいが、嫌になれば打ち切ってもいい。
中川と僕たちは仲良しだんだ。
そこのところも頼んでおいてあげよう」
えっと。
俺は黒須様を見ていたが、思わずまた伯爵様のほうを見た。
伯爵様は元気のない様子だったが、首を横に振った。
「無理はしないで、キヨノさん」
「なりあきさまも困っていましたか」
「ああ、とてもね。
どうやっても貴方が心を閉ざしてしまうから」
「そんなつもりはなかったんだけど。
ごめんなさい」
「そうさせたのは私のせいでもあるんだろうね」
そう言うと伯爵様は微笑んだ。
「でも私は今、とても嬉しいんだ」
「?」
「貴方が笑ったからだよ、キヨノさん!」
「?!」
「ここに来てあんなに笑ったのを初めて見ました」
ああそうか。
俺はここでも笑っていたけど、伯爵様のお留守のときだけだったかな。
「欲が出てきそうだ。
もっと貴方の笑顔が見たい、と思ってしまう。
だけど、私からは延長のお願いはしない。
もうこれ以上、負担はかけたくない。
約束通りきちんと最後の日曜日にキヨノさんの考えをお聞きします。
ご安心ください」
そう言った伯爵様はいつもより綺麗に見えた。
目の下のほくろは泣きそうなのに、綺麗な綺麗なお顔をされていた。
「なりあきさま」
お名前を呼んだけど、そのあとは続かなかった。
それから程なくして黒須様と白洲様はお帰りになられた。
見送ると、伯爵様は「今夜は和室で寝なさい。私のことは大丈夫。風邪なんてひかないくらい温かくしておきますよ」と言い、俺のことを藤代さんに任せるとお部屋に戻られた。
お疲れだからだろうと思い、俺は和室で眠ることにした。
土曜日はいつもなら半ドンだが、急な仕事が入ったと俺が目を覚ましたときには伯爵様はもうお出かけになっていた。
夕方お戻りになると、青い顔をしていて、休息を取られた。
日曜日も同じだった。
俺は夕餉の短い時間だけを伯爵様と過ごした。
また月曜日が来て、伯爵様のお仕事がいつものように始まった。
もう一人の白い服を着て体格のいい人は白洲様といって、近衛少将様だった。
伯爵様を含めお三人はご学友だそうだ。
居間にご案内すると「秘蔵のあれを飲ませろ」とわやわやと大騒ぎし、藤代さんが運んできた厚い硝子のぐらすに深い茶色の洋酒を注いで飲み始めた。
シノさんが奇妙な臭いのするものを薄く切ったぱんと一緒に持ってきた。
それはちーずというのだと黒須様が教えてくださり、食べないかと勧められたが恐ろしくて首を振ってお断りした。
黒須様は気を悪くしたふうでもなかったので、よかった。
いや、お怒りになって、藤代さんには申し訳ないがさっさとここからお暇をいただいたほうがよかったのか。
「キヨノさん、素敵な名前だ。
先週の父が開いたパーティで会えると思っていたのに早々と帰っていたから会えなくて残念だったよ」
「だからこうやってやってきたんだ。
遅くにすまないな。
三条院、かわいらしい方じゃないか」
「どうですか、ここでの生活には慣れましたかね」
「気苦労が絶えないのではないのか。
三条院は優しくしてくれるか」
俺はそふぁのいつものところに座っていると、矢継ぎ早に質問が飛んでくる。
どうしよう、どうやって答えよう、と考えていると答えないうちに次の質問がやってきて、結局なにも言えないままだった。
「あの三条院のハートを射止めたのはどんな方なのか、気になっていたんだ」
「聞いていますか。
恋愛にはとんと疎くて誰にも見向きもしなかった三条院が妻を娶ったというのは、大きな衝撃だったんだよ」
「三条院はいい夫として努めているか。
どうも気が利かないところがあってな。
黒須も俺もそこを心配しているんだ」
「そうだよ。
今なら僕たちが三条院に言うから、キヨノさん、いい機会だと思ってなんでも言ってごらん。
困ったことはないのかい」
「手始めに馴れ初めを聞きたいな。
一体どういう出会いをしたんだ、君たちは」
お客様のこういう会話にもそつなく答えられるのが「妻」というものなのだろうか。
俺は普段の困っている状態に困ったが上乗せされたような気がした。
どうすればいいんだろうか。
「ちょっと待ってくれ!」
「なんだよ、三条院。
出し惜しみしなくてもいいだろう」
「そうだそうだ。
独り身の寂しい俺たちにおまえの幸せを分けてくれてもいいだろう」
「ああ、本当にいい加減にしてくれ!
これ以上、俺がキヨノさんに嫌われるようなことがあったらどうしてくれるんだ!」
俺?
伯爵様が「俺」っと言った?
伯爵様がそんな乱暴な言葉遣いをされるなんて。
それもあんな叫ぶような大声で。
「嫌われる?
穏やかじゃないな」
「説明するから黙って聞いてくれ。
そのあと笑いたければ、この屋敷を出てからにしてくれよ」
怒ったかと思うような声を出した伯爵様は、今度はふてくされたような情けないような顔をしながら、ぽつぽつとこれまでのことを話し始めた。
それまでにやにやしながら囃し立てていたお二人も、次第に静かになり、そして終わる頃にはお三人ともしかめっ面になった。
「はあああああっ?!
滑川様がおっしゃっていた『神隠しのごとく』というのはあながち間違いではなかったのか!」
「いや、もっとひどいぞ。
これではまるで人さらいではないか!」
「キヨノさん、恐かっただろう。
こんな危ない人物のそばにいたらいけない。
今からうちに来なさい」
「待て待て、白洲のところより僕のところのほうが快適ですよ。
丁度、僕の手伝いをしてくれる書生を探していたところだ。
うちにいらっしゃい、キヨノさん」
いやいや、大丈夫です。
「御心配には及びません。
わたしはあと一週間でお暇をいただきますので」
「一週間?」
「どういうことなのだ」
お二人に詰め寄られ、伯爵様は大きな大きな溜息をつき、今がお試しの期間中であることも説明した。
「え、そこまで?」
「冗談だろ」
「本当ですよ。
それにしてもあと一週間でお暇、とは。
本気でしょうか。
もしキヨノさんがここから出ていったら、おまえたちのせいでもあるからな」
伯爵様は頭を抱えた。
あ、伯爵様でも困ることがあるんだ。
「話をしようにもうまくいかないし、どうしていいのかわからないし、ほとほと困っているよ」
俺だけじゃなかったんだ。
そうか。
俺が知っている伯爵様は、いつもご立派だった。
身だしなみもきちんとして、乱暴な物言いや行動はしない。
お屋敷の使用人の人たちにも偉そうにしない。
俺に対してもお優しい。
俺が赤ん坊だと勘違いしているのかと疑うくらい、お優しい。
話をするときもじっと黒い目で俺の目を見るので、俺は気恥ずかしくなって視線を逸らすくらいだ。
田村様のお屋敷では俺は旦那様と話をすることはなかったが、旦那様が使用人と話をするときは、なにかしながらのこともあって目を見ながら話をしているのは見たことがなかった。
俺はずっと伯爵様は完璧な方だと思っていた。
わからないことはおっしゃるけど。
しおれている伯爵様にはとても申し訳なかった。
でもこんなに不機嫌になったり、困ったり、情けないお顔になったりするのだ、俺と同じなんだ、と思うとすごく安心して、どうしようもなくにやけてしまった。
「……っぷ」
一度漏れると止まらなかった。
「ふは……ふ……ふ……ふはははははは」
気が抜けた。
そうしたら笑いが出てきた。
「どうした」
「は、伯爵様も……お困りになっていらしたんだ。
ふはははは。
俺……わたしだけかと、お、お、思って……ふふふふふ。
気……が抜けた……
ふははははははは」
「わははははははは、こんなところで笑えるとはいい度胸をしているぞ、キヨノさん!
気に入った。
うちに来なさい。
俺がきっちりと面倒見よう」
「ずるいぞ、黒須!
ふふふふふふ、本当にいい根性をしている。
僕のところで書生になりなよ、キヨノさん。
そうか、キヨノさんは困っていたんだね」
俺が必死で笑いを堪えているのに、お二人も笑い出したので余計に止まらなくなり、俺は笑いながら「はい」と答えた。
「ふはははは。
とっても困っていました。
くふふふふふ。
俺だけかと、思ってた。
ふふふふふふ。
伯爵様もそんなにお困りだなんて、知らなかった」
「はははははは、困らせておけ。
おまえさんも困って当然なんだから」
「やはりおぼこいとこういうことになってしまいますか。
これが婦女子の憧れの的の三条院伯爵とは。
友人として情けない。
奥方と話ができないとは。
三条院はなにを話していましたか」
「あいとかすきとか雷とかうんめいとか。
あとは赤さんでもないのに抱っこしたり」
「おやまあ。
それは難しいことを」
ちらりと横を向くと、伯爵様はそふぁにもたれかかって半分倒れていた。
「なぁ、キヨノさん」
一番大笑いをしていた白洲様が言った。
「困った奴だが、三条院は気持ちのいい奴だ。
三条院も小難しいことを話さず、もっと楽しいことを話せばいいのにな。
もしキヨノさんがこの屋敷を出るなら、本気で黒須と俺でそのあとのことは世話をしてあげよう。
あと一週間では三条院の良さを知るには短すぎる」
「そうだねぇ」
「もし嫌じゃなかったら、そのお試し期間をあと一か月延長してみないか」
「え」
「それだけの価値はある男だよ」
「多くの人は三条院の見た目と身分だけに惹かれる。
しかし中身も魅力的な男なのはこの二人が太鼓判を押す。
黒須の言う通り、あとのことは心配しなくてもいい。
そして君もとても魅力的な人だ。
君は三条院のなにを知っている?」
え…っと……
「ほら、なにも知らないだろう。
もっと一緒にいて、もっと話をしたほうがいいと思うよ。
それには一週間では足りないと僕も思う。
できれば一か月延長してもらえれば友としては嬉しいが、嫌になれば打ち切ってもいい。
中川と僕たちは仲良しだんだ。
そこのところも頼んでおいてあげよう」
えっと。
俺は黒須様を見ていたが、思わずまた伯爵様のほうを見た。
伯爵様は元気のない様子だったが、首を横に振った。
「無理はしないで、キヨノさん」
「なりあきさまも困っていましたか」
「ああ、とてもね。
どうやっても貴方が心を閉ざしてしまうから」
「そんなつもりはなかったんだけど。
ごめんなさい」
「そうさせたのは私のせいでもあるんだろうね」
そう言うと伯爵様は微笑んだ。
「でも私は今、とても嬉しいんだ」
「?」
「貴方が笑ったからだよ、キヨノさん!」
「?!」
「ここに来てあんなに笑ったのを初めて見ました」
ああそうか。
俺はここでも笑っていたけど、伯爵様のお留守のときだけだったかな。
「欲が出てきそうだ。
もっと貴方の笑顔が見たい、と思ってしまう。
だけど、私からは延長のお願いはしない。
もうこれ以上、負担はかけたくない。
約束通りきちんと最後の日曜日にキヨノさんの考えをお聞きします。
ご安心ください」
そう言った伯爵様はいつもより綺麗に見えた。
目の下のほくろは泣きそうなのに、綺麗な綺麗なお顔をされていた。
「なりあきさま」
お名前を呼んだけど、そのあとは続かなかった。
それから程なくして黒須様と白洲様はお帰りになられた。
見送ると、伯爵様は「今夜は和室で寝なさい。私のことは大丈夫。風邪なんてひかないくらい温かくしておきますよ」と言い、俺のことを藤代さんに任せるとお部屋に戻られた。
お疲れだからだろうと思い、俺は和室で眠ることにした。
土曜日はいつもなら半ドンだが、急な仕事が入ったと俺が目を覚ましたときには伯爵様はもうお出かけになっていた。
夕方お戻りになると、青い顔をしていて、休息を取られた。
日曜日も同じだった。
俺は夕餉の短い時間だけを伯爵様と過ごした。
また月曜日が来て、伯爵様のお仕事がいつものように始まった。
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