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第24話
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屋敷に帰ってみると、意外にもルーポを最初に出迎えハグしたのはアルベルトであった。
朝、見送ったときのようにロダを始め屋敷中の者が玄関の広間に集まってルーポとカヤの帰りを待っていた。
扉が開かれルーポが入ってくると、なにかに押されたようにアルベルトが小走りに飛び出してきてルーポを抱きしめた。
「おかえり、ルーポ。
うちの教育係を許してくれ。
今日一日中、君のことを心配してなにも手につかなかったんだ」
向こうでロダの面白がっている声がした。
「アルベルトさん、ありがとうございました。
お陰様で、つつがなくすべてが終わりました」
ルーポも恐る恐るアルベルトの背に腕を回し、ぎゅっと力を入れた。
「こんなに自分が動揺していたとは意外でしたよ。
歳のせいですかね」
「そんなこと、ないです。
アルベルトさんがたくさん教えてくれたので、僕は困ることはなにもありませんでした」
「よくやりましたね、ルーポ」
「さあさあ、アルベルト、そろそろいいかな」とロダがアルベルトの肩をたたき、2人が離れると今度は自分がルーポをがばりと抱きしめた。
「どうだ、王宮は面白かっただろう?」
「ロダ様、ありがとうございました。
お話してくださった通り、不思議で美しい場所でした」
ロダは満足そうにうなずき、ルーポの髪をなでた。
そして腕を離すと「疲れただろう。兄上と汗を流しておいで。料理長が君のために腕をふるって食事を用意している。軽いものにしているから心配はいらないよ」と言い、微笑んだ。
そして「兄上、お疲れ様でした」と玄関の扉のそばに立ち、これらのことを離れて見ていたカヤに言った。
カヤはうなずき、アルベルトにうながされるルーポと共に浴室に向かった。
「俺が洗ってやる」とカヤが言い、ルーポは断る理由もなくそのまま身を任せてしまった。
カヤは丁寧に優しくルーポの身体と髪を洗ってやった。
そして2人でいつものように湯船に浸かった。
ルーポはようやく安堵したのか、大きな息を吐いて身体の力を抜いた。
そのときになって、気がついた。
髪を洗われてカヤの匂いが自分からしなくなっていた。
「カヤ様、今日は練り香をありがとうございました。
ずっとカヤ様がそばにいてくださっているみたいで、心強かったです」
「そうか」
カヤは優しく笑った。
「少しでもおまえの役に立てたのなら、よかった。
朴念仁だから、気が利かなくてすまない」
おかしそうに言うカヤにルーポは抱きついた。
「そんなことありません。
カヤ様はいつも僕のことを考えてくださっていて、それで、それで……
それで」
はずされた空色の硝子玉のことも思い出す。
カヤ様はずっと僕のそばにいてくださった。
他の人にもわかるように示してくださった。
それが、僕には、とても、嬉しい。
カヤはルーポを抱き寄せた。
「おまえがわかっていてくれたら、俺はいいよ」
「僕は……」
「今日をつつがなく終えることができたのは、一番はルーポの力だというのを覚えておけ。
いくら周りがぎゃあぎゃあ言っても、本人がなにもしなければどうにもならないからな。
おまえはよくやったよ、ルーポ」
「………ありがとう、ございます」
「あの練り香が気に入ったのなら、また使うといい」
「……はい、ありがとうございます」
「どうした?」
「いいえ」
「なら、どうしてそんな顔をする?
面倒なことから解放されたんだ、もっと笑っていいんだぞ」
カヤはルーポに湯をかけた。
「うわっ!」
不意打ちにルーポは驚き、反射的にカヤに湯をかけた。
「やったなっ!」
「カヤ様こそっ!」
バシャバシャと湯をかけ合い、ゲラゲラを笑い合う。
お互いむきになって湯を散らす。
それはアルベルトが浴室の扉の向こうから「いい加減にしてください!子どもですか、あなたたちは!」と怒るまで続いた。
2人は「ごめんなさい!」と謝りながらもゲラゲラと笑っていた。
カヤがルーポを見つめていた。
「おまえはいつでも、そうやって笑っていろ、ルーポ」
ゆっくりとした口調でそう言うと、カヤはまたルーポの唇を奪い、ざばりと浴槽から上がっていった。
夕食は軽めのものが用意されていた。
ゆったりとくつろぎ、気兼ねなく食べられるものを。
ルーポの故郷の料理の味付けがされたものも出て、ルーポはこの心遣いにも感謝した。
ロダの提案で、ルーポは甘いシードルを食前酒として飲み、食事中は軽めのワインも薦められて少量飲んだ。
もともとそんなに酒に強いわけでもなく、受勲式でも断っていたが、飲めないことはなかった。
ほわほわとアルコールが身体を回り、とろんとして表情でうっすらと染まった頬が緩んでいた。
「疲れただろう、ルーポ。
今日も早くお休み」
ロダはルーポが話したいことを話せるように仕向けていたが、区切りがついたと判断したのかそう言った。
「続きは明日、また聞かせてくれ」
「……はい。
ありがとうございました」
「おやすみ、ルーポ」
ロダ、カヤも去り、ルーポはアルベルトから手持ちランプを受け取ると、挨拶をして自分の客室に戻った。
部屋は自由に使っていいと言われていた。
クローゼットには今日着た若草色の薬師の服とカヤに買ってもらった干し草色のマントがかかっていた。
棚には小さな上皿天秤と薬袋、上皿天秤のブローチ、そして今日受け取った小さな勲章が並べられていた。
ルーポは棚の上のもの一つひとつに指でふれた。
そうしていると、微かな音がした。
注意深くルーポがドアを開けると、予想通りカヤが立っていた。
ルーポはその時が来たのを知った。
カヤは静かにルーポに近づき一度ぎゅっと抱きしめ、額にキスをした。
「迎えにきた」
「……はい」
カヤは手にしていた薄く透けた青い布を広げた。
それでルーポを頭からすっぽりとくるむ。
そして部屋のランプの灯を落とした。
闇が広がる。
カヤは青い布で包んだルーポを立て抱きにかかえ上げた。
緊張してルーポはカヤの胸に顔を埋めた。
カヤは心配ないとでも言うようにルーポの背中をなで、客室から出た。
柔らかな闇の中をカヤは静かに力強く歩く。
腕の中にあの温もりと重みがあるのを感じ、幸せに思った。
階段をのぼる。
ルーポは息を詰めている。
どんどんカヤの部屋が近づいてくる。
これからなにが起こるのか、怖いような嬉しいような、心臓がどくどくと動いて息苦しいような、そんな気持ちで運ばれていた。
ただ、カヤのたくましい腕はどこまでも信頼感が持てたので、すべては委ねればいいのだと知っていた。
朝、見送ったときのようにロダを始め屋敷中の者が玄関の広間に集まってルーポとカヤの帰りを待っていた。
扉が開かれルーポが入ってくると、なにかに押されたようにアルベルトが小走りに飛び出してきてルーポを抱きしめた。
「おかえり、ルーポ。
うちの教育係を許してくれ。
今日一日中、君のことを心配してなにも手につかなかったんだ」
向こうでロダの面白がっている声がした。
「アルベルトさん、ありがとうございました。
お陰様で、つつがなくすべてが終わりました」
ルーポも恐る恐るアルベルトの背に腕を回し、ぎゅっと力を入れた。
「こんなに自分が動揺していたとは意外でしたよ。
歳のせいですかね」
「そんなこと、ないです。
アルベルトさんがたくさん教えてくれたので、僕は困ることはなにもありませんでした」
「よくやりましたね、ルーポ」
「さあさあ、アルベルト、そろそろいいかな」とロダがアルベルトの肩をたたき、2人が離れると今度は自分がルーポをがばりと抱きしめた。
「どうだ、王宮は面白かっただろう?」
「ロダ様、ありがとうございました。
お話してくださった通り、不思議で美しい場所でした」
ロダは満足そうにうなずき、ルーポの髪をなでた。
そして腕を離すと「疲れただろう。兄上と汗を流しておいで。料理長が君のために腕をふるって食事を用意している。軽いものにしているから心配はいらないよ」と言い、微笑んだ。
そして「兄上、お疲れ様でした」と玄関の扉のそばに立ち、これらのことを離れて見ていたカヤに言った。
カヤはうなずき、アルベルトにうながされるルーポと共に浴室に向かった。
「俺が洗ってやる」とカヤが言い、ルーポは断る理由もなくそのまま身を任せてしまった。
カヤは丁寧に優しくルーポの身体と髪を洗ってやった。
そして2人でいつものように湯船に浸かった。
ルーポはようやく安堵したのか、大きな息を吐いて身体の力を抜いた。
そのときになって、気がついた。
髪を洗われてカヤの匂いが自分からしなくなっていた。
「カヤ様、今日は練り香をありがとうございました。
ずっとカヤ様がそばにいてくださっているみたいで、心強かったです」
「そうか」
カヤは優しく笑った。
「少しでもおまえの役に立てたのなら、よかった。
朴念仁だから、気が利かなくてすまない」
おかしそうに言うカヤにルーポは抱きついた。
「そんなことありません。
カヤ様はいつも僕のことを考えてくださっていて、それで、それで……
それで」
はずされた空色の硝子玉のことも思い出す。
カヤ様はずっと僕のそばにいてくださった。
他の人にもわかるように示してくださった。
それが、僕には、とても、嬉しい。
カヤはルーポを抱き寄せた。
「おまえがわかっていてくれたら、俺はいいよ」
「僕は……」
「今日をつつがなく終えることができたのは、一番はルーポの力だというのを覚えておけ。
いくら周りがぎゃあぎゃあ言っても、本人がなにもしなければどうにもならないからな。
おまえはよくやったよ、ルーポ」
「………ありがとう、ございます」
「あの練り香が気に入ったのなら、また使うといい」
「……はい、ありがとうございます」
「どうした?」
「いいえ」
「なら、どうしてそんな顔をする?
面倒なことから解放されたんだ、もっと笑っていいんだぞ」
カヤはルーポに湯をかけた。
「うわっ!」
不意打ちにルーポは驚き、反射的にカヤに湯をかけた。
「やったなっ!」
「カヤ様こそっ!」
バシャバシャと湯をかけ合い、ゲラゲラを笑い合う。
お互いむきになって湯を散らす。
それはアルベルトが浴室の扉の向こうから「いい加減にしてください!子どもですか、あなたたちは!」と怒るまで続いた。
2人は「ごめんなさい!」と謝りながらもゲラゲラと笑っていた。
カヤがルーポを見つめていた。
「おまえはいつでも、そうやって笑っていろ、ルーポ」
ゆっくりとした口調でそう言うと、カヤはまたルーポの唇を奪い、ざばりと浴槽から上がっていった。
夕食は軽めのものが用意されていた。
ゆったりとくつろぎ、気兼ねなく食べられるものを。
ルーポの故郷の料理の味付けがされたものも出て、ルーポはこの心遣いにも感謝した。
ロダの提案で、ルーポは甘いシードルを食前酒として飲み、食事中は軽めのワインも薦められて少量飲んだ。
もともとそんなに酒に強いわけでもなく、受勲式でも断っていたが、飲めないことはなかった。
ほわほわとアルコールが身体を回り、とろんとして表情でうっすらと染まった頬が緩んでいた。
「疲れただろう、ルーポ。
今日も早くお休み」
ロダはルーポが話したいことを話せるように仕向けていたが、区切りがついたと判断したのかそう言った。
「続きは明日、また聞かせてくれ」
「……はい。
ありがとうございました」
「おやすみ、ルーポ」
ロダ、カヤも去り、ルーポはアルベルトから手持ちランプを受け取ると、挨拶をして自分の客室に戻った。
部屋は自由に使っていいと言われていた。
クローゼットには今日着た若草色の薬師の服とカヤに買ってもらった干し草色のマントがかかっていた。
棚には小さな上皿天秤と薬袋、上皿天秤のブローチ、そして今日受け取った小さな勲章が並べられていた。
ルーポは棚の上のもの一つひとつに指でふれた。
そうしていると、微かな音がした。
注意深くルーポがドアを開けると、予想通りカヤが立っていた。
ルーポはその時が来たのを知った。
カヤは静かにルーポに近づき一度ぎゅっと抱きしめ、額にキスをした。
「迎えにきた」
「……はい」
カヤは手にしていた薄く透けた青い布を広げた。
それでルーポを頭からすっぽりとくるむ。
そして部屋のランプの灯を落とした。
闇が広がる。
カヤは青い布で包んだルーポを立て抱きにかかえ上げた。
緊張してルーポはカヤの胸に顔を埋めた。
カヤは心配ないとでも言うようにルーポの背中をなで、客室から出た。
柔らかな闇の中をカヤは静かに力強く歩く。
腕の中にあの温もりと重みがあるのを感じ、幸せに思った。
階段をのぼる。
ルーポは息を詰めている。
どんどんカヤの部屋が近づいてくる。
これからなにが起こるのか、怖いような嬉しいような、心臓がどくどくと動いて息苦しいような、そんな気持ちで運ばれていた。
ただ、カヤのたくましい腕はどこまでも信頼感が持てたので、すべては委ねればいいのだと知っていた。
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