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番外編 第46話 黒曜石の花
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ヴェルミオンに髪を切ってもらい、軽く、どことなくすーすーする頭を気にしながらルーポはクラディウスの屋敷に帰ってきた。
そのまま屋敷の中には入らず、するりと庭に向かう。
ダ・カンの屋敷ほどではないが、小さな庭があった。
インティアがこの屋敷にやってきてすぐに、クラディウスが薔薇好きのインティアのために庭の植物を全て薔薇に植え替えさせようとしたことがある、といういわくがあるのをルーポは仲良くなった庭師から聞いていた。
インティアの薔薇好きは有名だったらしいが、どの植物もかわいいからとインティアがクラディウスを止めたらしい。
クラディウスの恐ろしいまでのインティアへの想いの深さと執着の強さを感じ、ルーポは背筋がちょっとだけぞぞっとした。
エトコリアでは植物にまみれるように過ごしていたので、ルーポはよく庭に行く。
なにをするわけでもなく、ぼんやりと座っていることも多い。
この日は東屋ではなく、ところどころに置かれている石に座った。
お気に入りの場所が幾つかあって、今日はレモンバームの繁みのそばにいた。
そよりと風が吹くと緑の匂いに混じってつんとしたシトラスの香りが立つ。
ごそりとポケットに手をつっこみ、取り出して摘まみ太陽の光に照らしてみる。
結い紐についている黒曜石の花が揺れた。
「あれ、髪短くしたの?
かわいくなったね」
突然声がして振り向くと、そこにはインティアがいた。
挨拶をし、ヴェルミオンに髪を切ってもらったことを話す。
インティアは「どうして?」とも聞かず、「カヤに話したの?」とも聞かず「似合ってるよ」とだけ言った。
そしてルーポが手にした黒曜石の花を見る。
「修行先でいただいたんです。
髪が伸びてきてうっとうしいだろうから、って」
ふわふわと細いルーポの髪を器用に手櫛で整え、結ってくれたアキトの手を思い出す。
「でも切っちゃったから、もう必要がなくて」
ルーポは切なそうに結い紐を通して、もう会えない人たちを見る。
「それ、鞄につけられるかも」
インティアがルーポの小さな肩掛け鞄を指さした。
大魔術師ダイロスからもらった鞄はとても薄い布で作られているのに、丈夫だった。
おそらく妖精国の布で作られている。
ルーポは出かけるときにはいつもこの鞄を持っていた。
「紐から花を外して縫い付けられるかもよ」
インティアが「貸して」と手を伸ばすと、ルーポは結い紐をそっと出された手のひらに置いた。
微かなサンダルウッドの匂い。
インティアは鞄のふたのところに黒い花を当ててみる。
「できるよ。
やってあげようか」
「いいんですか?
お、お願いしてもいいですか?」
「うん、任しといて。
ちょっと時間がかかるけど、いいかな」
「はい!」
「代わりの鞄、貸そうか?」
「いいえ、なくても大丈夫です」
ルーポは大切そうに鞄の紐を肩から外すとインティアに渡した。
「お願いします!」
「ん。
できるだけ早く仕上げるから」
インティアも恭しくそれを受け取った。
数日後、ルーポが薬局から戻るとインティアの部屋に呼ばれた。
「お待たせ。
確認してみて」
インティアがルーポに渡した鞄には黒曜石の花が細かい目で縫い付けらえていた。
「すごい!」
派手さはないが、きらりと光る石には鋭い煌めきがあった。
それはカヤの瞳のようだった。
アキトの瞳も黒だったが、あれは月のない闇夜のようだった。
どこまでも深く、ずぶずぶと引きずられてしまいには逃げ出せなくなってしまいそうな怖さがあった。
ルーポはアキトがなぜカヤの瞳のような石をつけた結い紐をくれたのか、知らない。
ただ、それを見るたびに、首の後ろで結わえられるたびに、カヤを感じていられた。
「ありがとうございます」
ルーポはインティアに礼を言った。
「実はとても手の込んだ細工がしてある花だったよ。
目の保養になった。
こちらこそ、ありがとう」
インティアはそう言うと、そっと石を失った黒い紐を取り出した。
「これは、どうする?」
ルーポは受け取ると鞄の肩紐に堅結びにした。
これで落ちない。
「なにか石を通さなくてもよかったの?」
「はい、これがいいです」
ルーポは満足そうに言った。
漆黒の紐はアキトの髪を彷彿させたからである。
***
舞台裏「アルベルトのその後について」
ブログ ETOCORIA https://etocoria.blogspot.com/2018/11/soratokizu-butaiura.html
そのまま屋敷の中には入らず、するりと庭に向かう。
ダ・カンの屋敷ほどではないが、小さな庭があった。
インティアがこの屋敷にやってきてすぐに、クラディウスが薔薇好きのインティアのために庭の植物を全て薔薇に植え替えさせようとしたことがある、といういわくがあるのをルーポは仲良くなった庭師から聞いていた。
インティアの薔薇好きは有名だったらしいが、どの植物もかわいいからとインティアがクラディウスを止めたらしい。
クラディウスの恐ろしいまでのインティアへの想いの深さと執着の強さを感じ、ルーポは背筋がちょっとだけぞぞっとした。
エトコリアでは植物にまみれるように過ごしていたので、ルーポはよく庭に行く。
なにをするわけでもなく、ぼんやりと座っていることも多い。
この日は東屋ではなく、ところどころに置かれている石に座った。
お気に入りの場所が幾つかあって、今日はレモンバームの繁みのそばにいた。
そよりと風が吹くと緑の匂いに混じってつんとしたシトラスの香りが立つ。
ごそりとポケットに手をつっこみ、取り出して摘まみ太陽の光に照らしてみる。
結い紐についている黒曜石の花が揺れた。
「あれ、髪短くしたの?
かわいくなったね」
突然声がして振り向くと、そこにはインティアがいた。
挨拶をし、ヴェルミオンに髪を切ってもらったことを話す。
インティアは「どうして?」とも聞かず、「カヤに話したの?」とも聞かず「似合ってるよ」とだけ言った。
そしてルーポが手にした黒曜石の花を見る。
「修行先でいただいたんです。
髪が伸びてきてうっとうしいだろうから、って」
ふわふわと細いルーポの髪を器用に手櫛で整え、結ってくれたアキトの手を思い出す。
「でも切っちゃったから、もう必要がなくて」
ルーポは切なそうに結い紐を通して、もう会えない人たちを見る。
「それ、鞄につけられるかも」
インティアがルーポの小さな肩掛け鞄を指さした。
大魔術師ダイロスからもらった鞄はとても薄い布で作られているのに、丈夫だった。
おそらく妖精国の布で作られている。
ルーポは出かけるときにはいつもこの鞄を持っていた。
「紐から花を外して縫い付けられるかもよ」
インティアが「貸して」と手を伸ばすと、ルーポは結い紐をそっと出された手のひらに置いた。
微かなサンダルウッドの匂い。
インティアは鞄のふたのところに黒い花を当ててみる。
「できるよ。
やってあげようか」
「いいんですか?
お、お願いしてもいいですか?」
「うん、任しといて。
ちょっと時間がかかるけど、いいかな」
「はい!」
「代わりの鞄、貸そうか?」
「いいえ、なくても大丈夫です」
ルーポは大切そうに鞄の紐を肩から外すとインティアに渡した。
「お願いします!」
「ん。
できるだけ早く仕上げるから」
インティアも恭しくそれを受け取った。
数日後、ルーポが薬局から戻るとインティアの部屋に呼ばれた。
「お待たせ。
確認してみて」
インティアがルーポに渡した鞄には黒曜石の花が細かい目で縫い付けらえていた。
「すごい!」
派手さはないが、きらりと光る石には鋭い煌めきがあった。
それはカヤの瞳のようだった。
アキトの瞳も黒だったが、あれは月のない闇夜のようだった。
どこまでも深く、ずぶずぶと引きずられてしまいには逃げ出せなくなってしまいそうな怖さがあった。
ルーポはアキトがなぜカヤの瞳のような石をつけた結い紐をくれたのか、知らない。
ただ、それを見るたびに、首の後ろで結わえられるたびに、カヤを感じていられた。
「ありがとうございます」
ルーポはインティアに礼を言った。
「実はとても手の込んだ細工がしてある花だったよ。
目の保養になった。
こちらこそ、ありがとう」
インティアはそう言うと、そっと石を失った黒い紐を取り出した。
「これは、どうする?」
ルーポは受け取ると鞄の肩紐に堅結びにした。
これで落ちない。
「なにか石を通さなくてもよかったの?」
「はい、これがいいです」
ルーポは満足そうに言った。
漆黒の紐はアキトの髪を彷彿させたからである。
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