地味子が悪役令嬢を破滅させる逆転物語

日本のスターリン

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10章 文化祭 後編

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 待ちに待った文化祭当日である。慈美子たちは冥土喫茶カフェを開店していた。

「おかえりなさいませ~!ご主人様ぁ~!!わたくしはやっぱりメイド服ですわ!」

 城之内は露出過度なメイド服を着ていた。その姿はまるでどっかの娼婦のようである。城之内は自分の家で雇っているメイドの真似をし、メイドを演じきっている。
 一方、慈美子も城之内のすぐそばに居た。

「おかえりなさいませ!ご主人様ぁ!」

 慈美子も露出過度なメイドのコスプレを選んだのだ。慈美子も一生懸命お客様に奉仕し、メイドを演じきった。しかし、城之内はあからさまに慈美子に不快そうな視線を送っていた。

(いー!!結局この女もメイドになるんじゃない!あたくしのアイディアを覆しておいて、おめおめとメイドになるなんて頭に来ますわ!)

「覚えてらっしゃい!この屈辱は後ですぐに晴らしてあげますわ!」

 誰にも聞こえないように、城之内は独り言でそう宣告するのであった。
そこに関都がやってきた。関都は王子様のコスプレをし、気取ったように2人に話しかけた。

「ははは!2人とも似合うじゃないか!そのド派手なメイド服!」
「関都さんもお似合いですわよ!」
「そうよ!そうよ!関都くんはバドミントンの王子様ですもの!」

 慈美子と城之内は珍しく意気投合して関都のコスプレに見惚れていた。関都も2人のセクシーなメイド服姿を気に入ったようであった。
 冥土喫茶カフェは予想以上に評判がよく、大盛況だった。慈美子も城之内も関都も大忙しである。

「いってらっしゃいませ~!ご主人様ぁ!」
「いってらっしゃいませ~!お嬢様ぁ!」

 慈美子と城之内は嫌々ながらも2人で息を合わせてメイド役に従事した。2人とも、自慢の長い髪をかき上げ、セクシーなメイドに成り切っていた。2人は最後のお客様を送り出した。
そして、出し物が終わるといよいよ演劇の時間である。

「地味子さん、ちょっと!」
「なにかしら?」

 慈美子を呼んだのは他ならぬ城之内である。城之内は明らかに良からぬ顔で慈美子を手招いていた。しかし、慈美子はそれに気が付いていない。メイドという共同作業をした事でわだかまりが無くなったと一方的思いこんでいたのだ。

「こっちですわ!こっち!」

 慈美子は城之内に言われるがままに付いて行く。2人はそのまま校舎の外に出て、人気のない裏庭を突き進んだ。すると…。

ズ ボッ!!!

 慈美子は落とし穴にはまってしまった。なんと深さ2mはある落とし穴である。城之内がこの日の為に三バカトリオに掘らせていたのだ。

「ちょっと!城之内さん!?これどういうこと!?」
「ほほほほほ!放課後までしばらくそこでじっとしてなさい!」

 城之内は高笑いし、その場を飛ぶ鳥のように後を濁さず去って行った。慈美子はボー然としている。城之内に煮え湯を飲まされたのだ。城之内に少しでも期待した自分が馬鹿だったのだ。後悔しても後悔しきれない。

「これじゃあ劇にも出られないわ…」

 慈美子はすすり泣くようなか細い声で呟いた。しかし、慈美子が心配なのは、劇に出られないことより関都の事である。
 慈美子は数日前の関都との会話を思い浮かべて、回想を始めた。

「関都くん?本当に城之内さんとキスするつもりなの?」
「まさか!キスシーンって言うのは大抵キスした振りをするもんだ」
「そうよね…」
「まぁ城之内となら本当にキスしても嫌じゃないがな」
「え?」
「はっはっは!冗談だよ!」

 関都はそう言っていたが、城之内の事だ。何をしでかすか分からない。自分がいないと、それを良い事に、関都に本当にキスしてしまうかも知れない。それが不安で不安でしかたがないのだ。
 だが、慈美子はそこから抜け出す事ができない。皆、劇を見る為に体育館に行っており、誰もいないため助けを呼んでも無駄なのである。


一方、体育館ではクラスメート達が、慈美子が居ない事に気が付き始めていた。

「あれ?ジミーさんは?」
「もうすぐ劇が始まるのにいないのか?」

 騒ぎをいち早くかぎつけたのは関都である。一方、そんな騒ぎが起きても城之内は涼しい顔をして待機していた。そんな城之内とは対照的に、関都は子を心配する親のように大騒ぎした。

「慈美子が居ないだと!?大変だ!何かあったに違いない!」
「ほほほほほ!地味子さんならきっと大丈夫ですの!こんな時の為に補欠も決めてましたでしょう?あんな娘の事は放っておきましょう!」
「慈美子は何もないのに用事をすっぽかすような女じゃない!絶対何かあったんだ!」
「ほほほほほ!仕方がないですわねえ。わたくしの親衛隊たちに地味子さんを探させておきましょう。ささっ!地味子さんの事は3人に任せて、関都さんは劇に集中して!」

 親衛隊というのは取り巻きの三バカトリオの事である。三バカトリオは勿論探しになど行っていない。トイレの前でだべって時間を潰していた。

「今週の名探偵コナンみたぁ?」
「アニメオリジナルにしては面白かったわよねぇ!」
「そうそう!今週のドラえもんは見た?」
「もちろんよ!こっちのアニメオリジナルも良かったわ」
「ポケモンも勿論見たわよね?」
「ええ!当然よ!」

 そんな中、劇は進んでいた。そして、ついにクライマックスを終え、いよいよキスシーンがやってきた。

(この時を待ってましたわ!)

 しかし、やってきたガスト役はなんと関都ではない!補欠であった男子が代役を務めていた。
 城之内は戸惑い小声で問いかける。

「どういう事ですの?関都さんは?」
「関都くんはトイレに行った後、ジミーさんを探しに行ってくると言って僕に代役を頼んだよ」

 そう。関都はトイレに行った時、慈美子を探さずにトイレの前でだべっていた三バカトリオを目撃してしまったのだ。慈美子を全く探している様子がない三バカトリオを見た関都は慈美子が心配になり、自ら探しに行ったのだ。

「君が関都くんが好きな事は分かっているよ。僕で悪いね。キスは振りで」
「え、…ええ」

 2人は小声でやり取りした。城之内は仕方がなくそれで納得するしかなかった。


 一方、関都は慈美子の名前を呼び、慈美子を一生懸命に捜しまわっていた。

「慈美子~!慈美子~!どこだ~!」

 慈美子に関都の声が遠くから聞こえた。まさに地獄に仏とはこの事である。慈美子は大喜びで、助けを求めた。

「関都く~ん!!ここよ~!私はここよ~!!!」

 遠くから慈美子の声が聞こえた。関都は声のする方向に警察犬のように駆けていった。声は近い。しかし、慈美子は見つからない。近くから声がするのに姿かたちが全く見えないのだ。

「慈美子~!どこだ~?!」
「ここよ~下!下!」

 関都はコントのように大げさな驚き方をした。それを程びっくりしたのである。なんと慈美子が深い穴に落ちていたのだから当然である。今時落とし穴に落ちるのなんて、ドッキリ番組の芸能人ぐらいなものである。

「大丈夫か~!今引っ張り上げるぞ~!」

 関都は慈美子をクレーン車のように力強く引っ張り上げた。そして、お姫様だっこで慈美子を持ち上げた。
 助け出された慈美子は深く安堵した。関都も慈美子の元気そうな姿に安心したが、一方で呆れてもいた。

「やれやれ。今時落とし穴に落ちるなんてドジだなぁ~!」
「関都くん、劇は!?」
「ああ、それなら補欠に任せてきた。お前の事が心配でいても立っても居られなくなってな」
「…ありがとう」

 慈美子は頬を赤らめて、礼を言った。関都は慈美子をゆっくりと下した。慈美子は少し城之内の事についてカマを掛けたい気分になった。その気持ちを抑えきれず、慈美子はからかうように関都に語り掛ける。

「残念だったわね!城之内さんとキスできなくって!」
「あんなもん!最初っからする気なんて無かったよ!」

 関都は口惜しげもなくそう断言した。関都は頭をぼりぼりと掻いている。
慈美子はそれを聞いて安心した。と同時に、慈美子は一瞬躊躇したが、思った事をつい口に出してしまった。

「私も関都くんとキスシーンやってみたかったわぁ…」

 そう呟くと、関都は無表情で、顔を慈美子の顔に急接近させた。地味子は死後硬直のように固まってしまう。

チュッ!

関都が慈美子の右頬にキスしたのだ。慈美子は顔を猿のように真っ赤にして喜んだ。

「頬にキスするだけでも遠くからみると口づけしているように見えるもんだ」

 関都はポーカーフェイスでそう言ってのけた。関都の心は全く読めない。それに、慈美子はほっぺではなく口にキスして欲しかった。そう口に出そうとしたが、すぐに思いとどまった。
 今はほっぺで良い。
 口づけし合うにはまだ早すぎるのだ。口づけし合うのはもっと後で良い。そう思ったのだ。そして、その後とはそう遠くない未来の気がした。



一方で、城之内は三バカトリオに激怒していた。子どもを叱る親のように3人を叱りつけた。

「トイレの前でしゃべってるなんてどういう事ですの!?ちゃんと地味子さんを捜す振りをしてなきゃ駄目じゃない!あなた達がトイレの前でしゃべってるから関都さんに地味子さんを捜してない事がばれちゃったんですのよ!?どうしてくれますの!?」
「ごめんなさ~い」
「まさか関都くんがトイレに来るなんて思わなくって」
「ついアニメの話に夢中になっちゃって…」

 しかし、城之内の怒りは収まらなかった。城之内は髪の毛を振り乱し、噴火した火山のように激怒した。城之内の振り乱れた長い赤髪はまるでマグマが噴出したようである。

「ごめんで済んだら慰謝料や賠償金は要りませんのよ~!」

 三バカトリオも横暴な城之内には内心嫌気がさしていた。城之内の気が晴れるまで3人は延々と城之内の説教を聞くのであった。



 その後、慈美子は無事に家に帰り日記を綴った。

「今日は最高の1日だったわ!明日はも~っと楽しくなるよね!」
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