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28章 スキー
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慈美子たちの学校も冬休みに入っていた。慈美子と関都と城之内・三バカトリオは冬休みを利用し、スキーのロッジに来ていた。
スキー旅行の発案者の関都は凄くノリノリである。
「さぁ思う存分滑るぞ~!」
全員スキーを履いた。しかし、慈美子はだけは違った。慈美子が持っているものに一同は驚いた。
すかさず、城之内が鋭いツッコミを入れた。
「どうしてソリなんてお持ちなの!?」
そう。慈美子が持っていたのはソリである。皆の疑問そうな顔を見て、慈美子は恥ずかしそうな声で答えた。
「私スキー滑れないの。だからソリで滑ろうかと思って…」
慈美子はスキーが滑れなかったのだ。それを聞いた城之内は勝ち誇った気になった。脚も遅く、泳ぎも下手で補助輪なしでは自転車に乗れないが、スキーとテニスだけは得意なのである。
城之内はあざ笑うような笑顔で、首を横に振る。
「だめに決まってるでしょ!」
「駄目だな」
「駄目ね」
「そうよね」
「そりゃないはね。そりだけに」
関都と三バカトリオも城之内に賛同した。このゲレンデはスキー専用でソリ遊びはできないのだ。
城之内は、慈美子を脅す様に鋭く指を差し、強く言い放った。
「仕方がありませんわね。地味子さんは初心者向けのコースで練習するしかありませんわ!」
少しバツが悪そうな顔をする慈美子だったが、ぐうの音も出ない正論だと思い、首を縦に振った。
「そうね。そうしてみるわ…!」
そのやり取りが終わると、一同は一斉にゲレンデに向かった。城之内達は上級者コースに向かっている。一方、慈美子はスキーをレンタルし、1人で初心者コースで練習していた。
「えーっと、関都くんが言うには、確か足をハの字型に閉じて滑ると良いんだったわね」
慈美子を心配した関都は慈美子にアドバイスを残していた。関都のアドバイス通り、慈美子は練習に励んだ。
「少しずつ滑れるようになってきたわ!これがボーゲンね!この調子で関都くんから教わった止まり方や曲がり方もマスターするわよ~!」
「大分滑れるようになったようだな」
調子づいた慈美子の元に関都がやってきたのだ。慈美子を心配して見に来たのである。慈美子は上機嫌ながらも、わざわざ見に来てくれた関都に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
関都は心配そうに慈美子の顔を伺った。
「1人で練習も大変だろう。一緒に教えようか?城之内には止められたんだが、やっぱり1人じゃ心配だし…」
「いいえ!いいの!私に遠慮しないでどんどん滑ってきて!私は大丈夫だから!」
「本当か?」
慈美子は少し躊躇したが、すぐに明るい顔になって「ええ!もちろんよ!」と大きく頷いた。大丈夫そうだと安心した関都は上級者コースに戻って行った。
慈美子は1人で一生懸命に練習した。関都と一緒に滑るのは無理でも、せめて中級者コースには行きたい。そう志して。
「基本的な滑りは大分マスター出来てきたわね!」
そう言いながら一息ついていた慈美子の前に意外な人物が現る。なんと城之内である。城之内は一休みしている慈美子を見下ろした。
「あら?サボってらしたの?」
「いいえ。休憩中。あなたも私の事が心配で見に来てくれたの?」
「勘違いしないでちょうだい!」と思ったが、思いとどまり無言でスルーした。城之内の目的は別にあるのだ。
「上級者コースに一緒に滑りに行きません?」
「え?確かに大分滑れるようにはなったけれど、そんないきなり…」
「なんですの?怖いんですの?」
城之内は長髪を撫でながら慈美子を激しく挑発した。しかし、慈美子はそんな挑発に乗る程愚かではない。
「怖いわよ!悪い!」
「悪いですわよ!大悪党ですわ!そんなんじゃ一生滑るようにはなりませんわよ!」
「私は私のペースでちゃんとやってるわよ!初心者には初心者なりのやり方が…」
「逃げるんだったらせいぜい逃げなさい!」
「なんですって!?私はただ一般論を…」
「まだビビってらっしゃるんですの?臆病もいい加減になさい!」
城之内は慈美子の手を強引に引っ張った。抵抗しようと思えばできない事もない。しかし、慈美子は無抵抗だった。ここまで言われては逃げ出すわけにもいかない。覚悟を決めたのだ。城之内の粘り勝ちである。2人は上級者向けのゲレンデに行き、リフトに乗り込んだ。全ては城之内の思い通りに事が運んでいた。
頂上に付くと、慈美子は青ざめ、顔は真っ白になった。まるで雪景色のように真っ白な顔である。頂上の光景を見て雪と同じ顔色になる程血の気が引いたのだ。
「なによこれ!斜面が凸凹じゃない!」
「ほほほほほ!凸凹じゃなく『ギャップ』って言いますの!これが上級者向けのコースですわ!」
慈美子が目の当たりにしたのはコブだらけの斜面であった。こんな斜面とてもじゃないが滑れっこない。慈美子の口からは「ううう…」と呻くような声が漏れた。
「それじゃあお先に失礼いたしますわ~!」
城之内はさっそうと斜面を滑り降りていった。慈美子はぽつんとゲレンデに残される。人は沢山いるが明らかに孤立しており、1人で山頂に取り残された気分である。
「どうしましょ…。やっぱり行くしかないわよね…」
慈美子は勇気を持って1歩前に踏み出した。スー!っとものすごい勢いで滑り出した。慈美子はなんとかジグザグに滑り降りようと試みる。ところがどっこい、そうは上手くいかなかった。
慈美子は派手に転倒し、そのまま斜面を転げ落ちた。ゴロゴロゴロと転げ落ちて止まらない。ギャグマンガなら大きな雪玉になっている所である。
ドシーン!
慈美子はコースを外れ、顔面を木に強打し、ようやく止まった。木からは木の葉に降り積もった雪が一斉に落ちてきて慈美子は雪に埋まった。「うぬうぬ」とうめき声を上げながら何とか雪の中から顔を突き出した。
「いたたたたた…」
しかし、慈美子は立ち上がる事ができなかった。足がとても痛いのだ。捲ってみると足が青黒くはれ上がっていた。
「これじゃあもう滑れないわ…」
城之内の狙いはこれだったのである。そう。城之内の目的は慈美子を怪我させ、あわよくば遭難させようと目論んでいたのだ。その目論見通り慈美子は遭難しかけていた。「そうなんですぅ」と思わず独り言を呟いた。そんな冗談でも言わないと不安で不安で気が持たないのだ。
しかし、慈美子に一筋の光明が差し込んだ。
「大丈夫か?」
その声の主は他ならぬ関都であった。その声に、慈美子は関都を見上げた。関都はいつもよりたくましく見えた。慈美子はいつも以上に胸がキュンキュンしている。これが俗に言うゲレンデマジックだろうか。
「上級者コースなのに、お前が滑って行く所を見かけたから心配で一緒に滑ってきたんだ」
なんという偶然だろうか。関都はあの人混みの中から慈美子を見つけ出したのだ。これが運命だろうか。
慈美子は弱々しい声で助けを求める。
「実は足を挫いちゃって…」
「どれどれ…?見せてみろ」
慈美子は足の怪我を申し訳なさそうに関都に見せた。関都は「うぉ!」と思わず声を上げるほどに驚いた。
「真っ黒にはれ上がっているじゃないか!」
「大丈夫折れてはいないみたいだから…」
「骨にひびが入っているかもしれない!すぐに降りよう!」
関都は慈美子を背負って下山した。滑っている人とぶつからない様にコースの外を歩いて。
山を無事下りると、そこには城之内が待ち構えていた。関都におんぶされている慈美子の姿に「どうして…」と声を漏らして驚いた。
「関都さん!どうして彼方が地味子さんを背負ってますの!?」
「ああ、これか。慈美子が足を怪我してな」
「そうじゃなくって…どうして地味子さんを助けたのがよりにもよって関都さんですの?他の人が助ければよかったんですのに!」
「ああ。たまたま慈美子を上級者コースで見かけてな。心配だから後を追ったんだ」
慈美子を怪我させたのは計算通りだ。しかし、それを関都が助け出すとは、さすがの城之内も計算外だった。
関都は優しい声で言い放った。
「慈美子が心配だから、慈美子の看病をするよ。スキーは4人で楽しんでくれ」
「か、看病ならわたくしが致しますわ!」
「いいや。誘ったのは僕だから僕に責任がある。看病は1人で十分だからお前たちは遠慮なく存分に楽しんでくれ」
城之内は慈美子の看病を買って出て慈美子と関都が2人っきりになるのを防ごうとしたが、見事に失敗した。関都は慈美子を背負ってロッジまで運び、ベッドに寝かせつけた。
「いい~!こんな事だったら地味子さんを怪我させるんじゃありませんでしたわ!せっかく地味子さん抜きで関都さんと上級コースで滑れてましたのに~!」
どんなに後悔してももう後の祭りである。後悔先に立たずだ。慈美子にヘタな意地悪をしなければ、関都ともっと滑れたのだ。悔やんでも悔やみきれない。
一方、関都に看病されている慈美子は幸せであった。
(まだ胸がキュンキュンいってるわ!これはゲレンデマジックなんかじゃないわ!)
それはゲレンデマジックではなく、関都をますます好きになった証であった。
スキー旅行の発案者の関都は凄くノリノリである。
「さぁ思う存分滑るぞ~!」
全員スキーを履いた。しかし、慈美子はだけは違った。慈美子が持っているものに一同は驚いた。
すかさず、城之内が鋭いツッコミを入れた。
「どうしてソリなんてお持ちなの!?」
そう。慈美子が持っていたのはソリである。皆の疑問そうな顔を見て、慈美子は恥ずかしそうな声で答えた。
「私スキー滑れないの。だからソリで滑ろうかと思って…」
慈美子はスキーが滑れなかったのだ。それを聞いた城之内は勝ち誇った気になった。脚も遅く、泳ぎも下手で補助輪なしでは自転車に乗れないが、スキーとテニスだけは得意なのである。
城之内はあざ笑うような笑顔で、首を横に振る。
「だめに決まってるでしょ!」
「駄目だな」
「駄目ね」
「そうよね」
「そりゃないはね。そりだけに」
関都と三バカトリオも城之内に賛同した。このゲレンデはスキー専用でソリ遊びはできないのだ。
城之内は、慈美子を脅す様に鋭く指を差し、強く言い放った。
「仕方がありませんわね。地味子さんは初心者向けのコースで練習するしかありませんわ!」
少しバツが悪そうな顔をする慈美子だったが、ぐうの音も出ない正論だと思い、首を縦に振った。
「そうね。そうしてみるわ…!」
そのやり取りが終わると、一同は一斉にゲレンデに向かった。城之内達は上級者コースに向かっている。一方、慈美子はスキーをレンタルし、1人で初心者コースで練習していた。
「えーっと、関都くんが言うには、確か足をハの字型に閉じて滑ると良いんだったわね」
慈美子を心配した関都は慈美子にアドバイスを残していた。関都のアドバイス通り、慈美子は練習に励んだ。
「少しずつ滑れるようになってきたわ!これがボーゲンね!この調子で関都くんから教わった止まり方や曲がり方もマスターするわよ~!」
「大分滑れるようになったようだな」
調子づいた慈美子の元に関都がやってきたのだ。慈美子を心配して見に来たのである。慈美子は上機嫌ながらも、わざわざ見に来てくれた関都に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
関都は心配そうに慈美子の顔を伺った。
「1人で練習も大変だろう。一緒に教えようか?城之内には止められたんだが、やっぱり1人じゃ心配だし…」
「いいえ!いいの!私に遠慮しないでどんどん滑ってきて!私は大丈夫だから!」
「本当か?」
慈美子は少し躊躇したが、すぐに明るい顔になって「ええ!もちろんよ!」と大きく頷いた。大丈夫そうだと安心した関都は上級者コースに戻って行った。
慈美子は1人で一生懸命に練習した。関都と一緒に滑るのは無理でも、せめて中級者コースには行きたい。そう志して。
「基本的な滑りは大分マスター出来てきたわね!」
そう言いながら一息ついていた慈美子の前に意外な人物が現る。なんと城之内である。城之内は一休みしている慈美子を見下ろした。
「あら?サボってらしたの?」
「いいえ。休憩中。あなたも私の事が心配で見に来てくれたの?」
「勘違いしないでちょうだい!」と思ったが、思いとどまり無言でスルーした。城之内の目的は別にあるのだ。
「上級者コースに一緒に滑りに行きません?」
「え?確かに大分滑れるようにはなったけれど、そんないきなり…」
「なんですの?怖いんですの?」
城之内は長髪を撫でながら慈美子を激しく挑発した。しかし、慈美子はそんな挑発に乗る程愚かではない。
「怖いわよ!悪い!」
「悪いですわよ!大悪党ですわ!そんなんじゃ一生滑るようにはなりませんわよ!」
「私は私のペースでちゃんとやってるわよ!初心者には初心者なりのやり方が…」
「逃げるんだったらせいぜい逃げなさい!」
「なんですって!?私はただ一般論を…」
「まだビビってらっしゃるんですの?臆病もいい加減になさい!」
城之内は慈美子の手を強引に引っ張った。抵抗しようと思えばできない事もない。しかし、慈美子は無抵抗だった。ここまで言われては逃げ出すわけにもいかない。覚悟を決めたのだ。城之内の粘り勝ちである。2人は上級者向けのゲレンデに行き、リフトに乗り込んだ。全ては城之内の思い通りに事が運んでいた。
頂上に付くと、慈美子は青ざめ、顔は真っ白になった。まるで雪景色のように真っ白な顔である。頂上の光景を見て雪と同じ顔色になる程血の気が引いたのだ。
「なによこれ!斜面が凸凹じゃない!」
「ほほほほほ!凸凹じゃなく『ギャップ』って言いますの!これが上級者向けのコースですわ!」
慈美子が目の当たりにしたのはコブだらけの斜面であった。こんな斜面とてもじゃないが滑れっこない。慈美子の口からは「ううう…」と呻くような声が漏れた。
「それじゃあお先に失礼いたしますわ~!」
城之内はさっそうと斜面を滑り降りていった。慈美子はぽつんとゲレンデに残される。人は沢山いるが明らかに孤立しており、1人で山頂に取り残された気分である。
「どうしましょ…。やっぱり行くしかないわよね…」
慈美子は勇気を持って1歩前に踏み出した。スー!っとものすごい勢いで滑り出した。慈美子はなんとかジグザグに滑り降りようと試みる。ところがどっこい、そうは上手くいかなかった。
慈美子は派手に転倒し、そのまま斜面を転げ落ちた。ゴロゴロゴロと転げ落ちて止まらない。ギャグマンガなら大きな雪玉になっている所である。
ドシーン!
慈美子はコースを外れ、顔面を木に強打し、ようやく止まった。木からは木の葉に降り積もった雪が一斉に落ちてきて慈美子は雪に埋まった。「うぬうぬ」とうめき声を上げながら何とか雪の中から顔を突き出した。
「いたたたたた…」
しかし、慈美子は立ち上がる事ができなかった。足がとても痛いのだ。捲ってみると足が青黒くはれ上がっていた。
「これじゃあもう滑れないわ…」
城之内の狙いはこれだったのである。そう。城之内の目的は慈美子を怪我させ、あわよくば遭難させようと目論んでいたのだ。その目論見通り慈美子は遭難しかけていた。「そうなんですぅ」と思わず独り言を呟いた。そんな冗談でも言わないと不安で不安で気が持たないのだ。
しかし、慈美子に一筋の光明が差し込んだ。
「大丈夫か?」
その声の主は他ならぬ関都であった。その声に、慈美子は関都を見上げた。関都はいつもよりたくましく見えた。慈美子はいつも以上に胸がキュンキュンしている。これが俗に言うゲレンデマジックだろうか。
「上級者コースなのに、お前が滑って行く所を見かけたから心配で一緒に滑ってきたんだ」
なんという偶然だろうか。関都はあの人混みの中から慈美子を見つけ出したのだ。これが運命だろうか。
慈美子は弱々しい声で助けを求める。
「実は足を挫いちゃって…」
「どれどれ…?見せてみろ」
慈美子は足の怪我を申し訳なさそうに関都に見せた。関都は「うぉ!」と思わず声を上げるほどに驚いた。
「真っ黒にはれ上がっているじゃないか!」
「大丈夫折れてはいないみたいだから…」
「骨にひびが入っているかもしれない!すぐに降りよう!」
関都は慈美子を背負って下山した。滑っている人とぶつからない様にコースの外を歩いて。
山を無事下りると、そこには城之内が待ち構えていた。関都におんぶされている慈美子の姿に「どうして…」と声を漏らして驚いた。
「関都さん!どうして彼方が地味子さんを背負ってますの!?」
「ああ、これか。慈美子が足を怪我してな」
「そうじゃなくって…どうして地味子さんを助けたのがよりにもよって関都さんですの?他の人が助ければよかったんですのに!」
「ああ。たまたま慈美子を上級者コースで見かけてな。心配だから後を追ったんだ」
慈美子を怪我させたのは計算通りだ。しかし、それを関都が助け出すとは、さすがの城之内も計算外だった。
関都は優しい声で言い放った。
「慈美子が心配だから、慈美子の看病をするよ。スキーは4人で楽しんでくれ」
「か、看病ならわたくしが致しますわ!」
「いいや。誘ったのは僕だから僕に責任がある。看病は1人で十分だからお前たちは遠慮なく存分に楽しんでくれ」
城之内は慈美子の看病を買って出て慈美子と関都が2人っきりになるのを防ごうとしたが、見事に失敗した。関都は慈美子を背負ってロッジまで運び、ベッドに寝かせつけた。
「いい~!こんな事だったら地味子さんを怪我させるんじゃありませんでしたわ!せっかく地味子さん抜きで関都さんと上級コースで滑れてましたのに~!」
どんなに後悔してももう後の祭りである。後悔先に立たずだ。慈美子にヘタな意地悪をしなければ、関都ともっと滑れたのだ。悔やんでも悔やみきれない。
一方、関都に看病されている慈美子は幸せであった。
(まだ胸がキュンキュンいってるわ!これはゲレンデマジックなんかじゃないわ!)
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