地味子が悪役令嬢を破滅させる逆転物語

日本のスターリン

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30章 バレンタインデー

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 バレンタイデー。それは日本人なら誰もが恋焦がれる日。そうだ、今日は2月14日バレンタイデーなのだ。勿論、この女、慈美子もその1人だ。この日の為に、ひそかにチョコレートを準備していたのだ。無論、城之内も例外ではない。城之内もバレンタイデーに備えて虎視眈々と関都を狙っていたのだ。
 城之内はさっそく三バカトリオと共に動き出す。城之内は学校の廊下を歩く関都を呼び止めた。

「関都さん!」
「ん?」
「今日はバレンタインデーですの~!」
「そうなんだよ!でもまだ誰からもチョコなんて貰っていないんだぜ」

 関都は決して女の子にモテない性質ではない。むしろ、女子から好かれている。しかし、城之内が財力に物を言わせて、他の女子に根回しし、チョコを渡さないように釘を刺しているのだ。だから、関都はまだ1つもチョコを貰っていないのだ。

「そうなんですの!?意外ですわ!」

 城之内は白々とかまととぶった。そして、ここで三バカトリオの出番である。三バカトリオは恥ずかしそうに関都を囲んだ。

「これ!私からのチョコ!受けって!」
「私からも!安物で申し訳ないのだけれど」
「私のチョコもどうぞ!」

 3人は安物の小さいチョコレートを手渡した。包装も小さなリボンを張りつけただけの陳腐なものである。3人は関都の事は嫌いではなかったが、関都にチョコを渡すのは城之内の指示である。自分のチョコを引き立てるために、あえて、三バカトリオには関都にチョコを渡す様に命令をしたのだ。それも安物のチョコで安っぽい包装にするようにと。

「ありがとう!3人とも!大事に食べさせて貰うよ!」

 関都が3人のチョコを眺めていると、ここぞとばかりに城之内が割り込んできた。いよいよここからが本番である。

「関都さん!わたくしのチョコレートもぜひ受け取ってちょうだい!」

 城之内が渡したのは、3万円もする超高級チョコレートの詰め合わせである。包装も勿論豪華である。
 関都はそのチョコのゴージャスさに度肝を抜かれた。関都はさっそく包装を丁寧に開封して中身を確認した。

「うわあ!ありがとう城之内!こんな高そうなチョコレート食べたことがないよ!」
「ほほほほほ!大した事ありませんの!ほんのおフランス製のチョコレートですの!」
「本当だわ~なんて高級そうなチョコなの?!」
「それもお菓子の本場のフランス製だなんて~!」
「通りで高いわけだわ~!」

 三バカトリオはいつもの調子で城之内のチョコを煽てた。
 作戦成功である。全ては城之内の思惑通りに事が運んでいた。ただ1人の例外を除いて…。

「関都くん!ちょっと良い?渡したいものがあるの…」

 城之内は思わず「!」と吹き出しを出しそうな顔をした。そこに現れたのは慈美子である。他の女子たちとは違い、城之内の脅迫に屈さなかったのである。城之内には大誤算であった。
 慈美子は蓋を開けて、大きな箱を関都に差し出した。

「はい!これ、バレンタインデーのチョコレート!」
「うわあ!こんな大きなチョコレート食べたことがないよ!」

 箱の中には直径1mほどのハートの形をした巨大なチョコレートが入っていた。関都はそのチョコの大きさに魂消た。

「うふふ!こんな大きいチョコどこにも売ってないもの!手作りならではの特大サイズよ!」

 慈美子はドヤ顔で手作りである事を強調した。しかし、城之内は負けた気がしなかった。手作りよりも、プロが作った高級チョコの方が勝ると思っているからである。

「ありがとう!大切に食べるよ!」
「今!食べて欲しいの!」
「ええ!?今か?」
「ええ!彼方の食べるリアクションが見たいの!」
「まぁ、別に良いが…」

 城之内は、なんて厚かましい女なのと心底憤怒していた。しかし、関都の次のリアクションでその怒りも一変した。

「いただきま~す!」

パク!
 
「ん!?これは!!!」

 関都の口の中に香ばしい味が広がった。これはカカオの臭いではない!関都はあまりの美味しさに頬っぺたが落ちそうになった。

「中身がさつまいもチョコになっている~!」
「なんですって!?」

 城之内の怒りは一瞬で霧のように消し飛んだ。さつまいもと言えば関都の大好物である。
 慈美子は恥じらいながら説明した。

「関都くんが大好物だって言ってたから、一生懸命さつまいもチョコを作ったの…」
「覚えていてくれたのか!?僕の大好物!」
「ええ!当然よ!だから手作りにしたの!さつまいもチョコなんて売ってないから…」

 城之内は完全に敗北感に打ちひしがれていた。好物を使うなんて…まさかその手があったとは…。城之内は思いつきもしなかった。さつまいもチョコなど城之内の高級チョコの中にも入っていなかった。
 慈美子の予想外の一撃必殺を目の当たりにし、あまりのショックに城之内はその場に居ても立っても居られなくなった。

「…っ!い、行きましょう!親衛隊の皆様!」

 城之内は三バカトリオを引き連れて去って行こうとした。しかし、慈美子は4人を呼び止めた。

「待って!」
「なんですの!?」
「あなたたちにも渡したいものがあるの」
 
 慈美子が4人に手渡したのは何とチョコレートである。関都のような大きさはない普通のサイズではあったが、全部手作りであった。

「友チョコよ!関都くんに作ったチョコの残りで作ったのだけれど…良かったら!」

 予想外の出来事に、三バカトリオは意表を付かれた。普段意地悪な事ばかりしていた自分たちを友として扱ってくれるとは思わなかったのだ。

「友チョコだなんて…ありがとう」
「まさか私達の分もあるだなんて悪いわぁ…」
「どうも…。本当に貰っちゃっても良いのかしら…」

 三バカトリオは困惑しながらも、慈美子に感謝の意を延べた。しかし、城之内は違った。城之内は握り潰すような思いで、慈美子から貰ったチョコを強く握った。

「ふん!」

 城之内はお礼も言わず、その場を去ってしまった。三バカトリオも慌てて城之内を追うように付いて行った。
 城之内は人気のない場所に行くと、慈美子から貰ったチョコをゴミ箱に捨てた。三バカトリオは苦言を呈したくなった。

「何も捨てなくても…」
「あなた達のせいですわよ…」
「え?」
「あなた達が高級チョコレートを煽てるから、わたくしもそれを関都さんにプレゼントする事にしましたのよ…」

 城之内の怒りの矛先は三バカトリオに向かっていた。3人は必死に弁明する。まるでクレーマーに対応する店員のようである。

「でも…城之内さんも美味しいって言っていたじゃない!」
「そ、そうよ!」
「皆で決めたんじゃない!」
「このわたくしに口答えするおつもり!?」

 3人は、城之内のゴリラのドラミングのような威嚇に黙り込んでしまった。城之内はさらに怒りを爆発させる。

「気が付いてたんですの…。あなた達が余計な事を言わなければわたくしも気が付いていたんですの。関都さんの大好物のさつまいもを使ったチョコレートが良いって…。そうすれば今頃わたくしが関都さんとラブラブでしたのよ~!」

 城之内の説教は延々と長時間続くのであった。3人はただ必死に堪えていた。城之内が満足するまで。
 城之内は小一時間説教を終えると1人でさっさと帰っていた。3人は城之内な横暴な態度にいい加減に愛想を尽かししつつあった。

「私たちのせいじゃないわよね…」
「本当よね…」
「全くだわ…」

 3人は城之内が捨てた慈美子のチョコを拾い3人で分けた。そして、3人は慈美子のチョコを食べてみた。

「美味しい~!」
「さつまいもチョコってこんなにおいしいのね~!」
「城之内さんも捨てなければ食べられたのに!」

 3人は慈美子からの友チョコを思う存分に満喫するのであった。
一方、関都と2人で帰った慈美子は今日も日課の日記を書いて一日を終えてようとしていた。

「今日はいつもよりもかなり楽しかったね!明日はも~っと楽しくなるよね!」
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