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2:ヴェストリオーア戦役編
5:直前直後/前
しおりを挟むやりきった。
徹夜でゲームした充実感に包まれて、わたくしは客間のベッドに倒れ伏した。窓の外はほんのり明るくなってきた。早朝だ。
ネリジェラクはジークムンド卿に預けた。
身ぎれいにしてやるように申し付けて、小さいオンセンストーンも渡してやった。多少、忠誠値もあがるかもしれない。
正直、自分の右目に片手を突っ込んだ男を相手にカードゲームを遊ぶのは、かなり勇気が必要だった。
けれど、わたくしには、この男が同族であるという感触もあった。
新作が出ればゼリー飲料をすすりながらコントローラーを握り続けた記憶はおぼろげにある。転生しても尚クリキンをやっているわたくしは、『聖魔戦役』で正気をつなぐネリジェラクと似たような者。間違いなく同類同族だ。
夢中でゲームをやった後は興奮していて、疲労しているのになかなか眠れないのも馴染み深い感覚だ。
わたくしはうつ伏せのまま、いつものウィンドウを開いた。淑女としてはまったく行儀悪いことだが、侍女はまだ戻っていないから気にしない。
人材一覧を開き、ステータスを確認する。
222:ネリジェラク・エア=ジュラス 王子/騎士 ★★★★★ /HB ++++++++
年齢 24:性別 男:気質 一騎闘戦:野心 90:忠誠 125
統率 8:武勇 255↑:知略 22:内政 40:外政 50
湖の国エアジュラス王国の第二王子。側室腹の兄がいる。
魔剣アンゲスアエシュマエの【運び手】に選ばれ、狂気に陥った。
右目は自分で、素手で抉り出した。
魔剣の力で常人離れした戦闘力を手に入れた結果、恐怖されて孤立。
『聖魔戦役』の名プレイヤーだったが、対戦して貰えなくなった。
身長:187cm 誕生日:海神月28日 猫派
+
王位継承の争いを優位に進めたい兄とその母の策略で、
魔剣の封印を解く羽目になった。
だが、自分なら魔剣を使いこなせると思ったのも事実。
+
エアジュラス王国は湖国と言われるが、湖は国土の1/6
< HB ++++++++++以上で表示 >
ネリジェラクのフレーバーテキストが派手に開いていた。HB値が二段階進んでいる。忠誠値も伸び幅が大きい。大きすぎない? エアジュラス湖って、王国の1/6の面積だったの。知らなかったわ。地図の修正手配が必要かしら。
それはそうとして、HB値は好感度のようなものと思って良さそうだ。
忠誠とは違う軸の、友好が深まった証のような?
わたくしは思いついて、ジークムンド卿のステータスを開いた。
各個人の能力値は経験によって成長している。戦に出たり、わたくしが与えた任務をこなしたり、単純に年数で増えている者もいる。
001:ジークムンド・ヒルシュ 騎士 ★★★★★ /HB ++++++++++
年齢 32 :性別 男 :気質 清廉潔白 :野心 30 :忠誠 255
統率 175 :武勇 156 :知略 82 :内政 30 :外政 55
ヒルシュ伯爵家出身。近衛騎士団に所属していた頃、王太子
婚約者ハイデマリー・アデーレ・トゥ・シーレンベックの護
衛を務めていた。ハイデマリーへのあまりに不当な扱いに、
旧王家への忠誠心を失った。騎士道の男。
ハイデマリー様の最側近である自負がある。
身も心も女王に捧げたい。もしも万一、望まれるのであれば
私的な部分でお支えしたい気持ちも山ほどある。
それは下心ではない。何故なら、彼は精練潔白な騎士だから
表面を炙った北域チーズに蜂蜜をかけて食べるのが好き
「HBが増えている……!?」
今まではなかった。確かに無かった。
ジークムンド卿のパラメータを最後に確認したのは、去年だった気がする。その時には確かに、「HB」なんてなかった。
クリームヒルト卿と同じだ。
さりげなくテキスト情報も増えている。北域チーズが好物なんて文言はなかった。蜂蜜をかけて食べているのは時々見ていたから、好きなのかなとは思っていたけれど、それだけだ。
おそらく、HB値が増えたから、テキストが増えたのだ。
クリームヒルト卿のテキストは増えていなかった。この二人に何の差があるのか。
ネリジュラクのインパクトの強さで忘れていたけれど、地下牢から救出できた星4文官ダミアン・アルデン男爵にはHB値はなかったと思う。
こうなったら、全員のパラメータを再確認するしかない。睡眠は後回しにして、わたくしはデータ確認に没頭した。
昼を過ぎてしばらくして、城の中が騒がしくなった。帰還命令に応じたゲーアハルト卿の第二軍とシュテファニエ卿の第三軍が戻ってきたからだ。
すぐに侍女たちがやってきて、食事や着替えを勧められた。女王の身だしなみは国威のひとつだ。砦内とはいえ、他人の目があるからには自堕落は許されない。
わたくしは逆らわずに身を任せ、無言でひたすらデータ確認に勤しんだ。
さすがに疲れて、目の奥に痛みと眠気を感じ始めた頃、わたくしは棘薮の間に出た。呼び出してきたのはゲーアハルト卿だ。曲がりなりにもこの砦の責任者であるから、基本的にはわたくしも従う。
ウィンドウは開きっぱなしだが、誰にも見えないから問題ない。
「ハイデマリー様! 私の女王陛下!」
扉が開くなり、足下に滑り込んできてひれ伏したのはネリジェラクだ。護衛騎士が制止する間もない動きは、さすがの【魔剣の運び手】だとしか言えない。
「どうか、どうか私に今一度、お情けをおかけください」
「もう一局ということかしら?」
「いいえ、それもお願いしたくはありますが、私の女王陛下に贈り物をしたいのです」
贈り物。
今までエアジュラス王国の周辺を撫で斬りしながら歩き回っていた第二王子の資産状況まではさすがにステータスではわからないのだ。
オンセン効果は忠誠値だけでなく、見た目にもちゃんと出ている。
ぼろぼろの服はエンダベルト王国騎士のものに取り換えられたし、髪も整えられた。抉れた右目には黒い眼帯があてられていて、普通の負傷騎士のようだ。
予想通りの美しい王子様だ。乙女ゲームの攻略対象者でもいけるかもしれない。たったひとりで我が国全兵力を上回るような最終兵器だけど。
「エアジュラス王国を貴女に捧げたい」
物騒なことを、物騒な王子が言い出した。
曰く。
これまでの諍いのすべてを見逃してきた父王こそが諸悪の根源である。王妃、側妃共々滅するのがエアジュラス王国のため。新国王となる兄は必ずエンダベルト王国女王陛下に恭順することでしょう、と。
一理あるようなないような願いは、だが、わたくしからすれば悪くない提案ではある。
「お前は王になりたかったのでしょう?」
壁にかかった周辺地図を背にして座ったわたくしは、整えられたプラチナブロンドを見下ろして問い返した。
王子は這いつくばる姿勢のまま、わたくしについてきていた。普通に歩いてもいいのに、こだわりがあるのだろうか。
「望んだこともありましたが、今は王位など少しも欲しくありません」
姿勢を変えずにネリジェラクが答えた。
「国王では、貴女のお側に侍ることができません」
なるほど、たしかに。
わたくしやヨーゼフ卿、ウーゴ師を相手に『聖魔戦役』を遊ばなければまた魔剣に引きずられてしまうのだ。わたくしの側にいられるかどうかは、死活問題といえる。
「……わかりました。ゲーアハルト卿を後詰に付けます。戦いについてはお前の思う通りに進めばいい。けれど、戦の後のことはゲーアハルト卿に従うこと。それを約束するなら許しましょう」
「感謝いたします、ハイデマリー女王陛下!」
ネリジェラクは頭をさらに下げ、わたくしのドレスの裾を取った。忠誠を示す騎士の作法だと知っているから咎めない。
ゲーアハルト卿を見遣ると、小さな頷きを返してきた。心持ち顔色が悪いが、【魔剣の運び手】を恐ろしく感じるのは仕方がない。
遠征中、できる限りネリジェラクと『聖魔戦役』をプレイするように指示を出しておこう。
そう決めたとき、ウィンドウに新しい通知が点灯した。
わたくしは髪を整える所作に紛れてタップして、表示させた。
【期間限定ピックアップ】まもなく終了!(残り5分)
ヴェストリオーア戦役開戦直前キャンペーン
スペシャル人材雇用のチャンス
10連限定 ★4以上ひとり確定!
「……っほぁっ!」
ポップした小さなウィンドウに、わたくしは息を飲み損ねてのけ反った。貴婦人にあるまじき所作で椅子が軋んだが、それどころではない。
残り、五分……!?
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