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八、後輩とマーブルへ
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マーブルの扉を開けると、いつも通りの乾いた心地良い音が鳴る。僕は、ずっと戸惑いっぱなしの浅岡君を、半強制的に引き連れてきた。道中ずっと、『どこへ行くんですか?』と尋ねられていたのだが、百聞は一見にしかずだ。
「いらっしゃーい! あら? 翔ちゃん? 可愛らしい子と一緒なのね? 珍しい」
小百合ママが手を向けるカウンターへと着席した。都合よく、いつもの席が空いていた。
「小百合ママ、僕は薄目の麦の水割りで、浅岡君はどうする? 生?」
顔を左に向けると、浅岡君は目を大きく見開いて、首をカクカクと上下に動かした。まるで、古い玩具のように、ぎこちない動作だ。浅岡君は、物珍しそうに、視線を店中に飛ばしている。
「スナックは、初めて?」
「・・・は、はい。でも、ここって・・・」
驚きが隠せないようでいる浅岡君の前に、生ビールが置かれた。
「あんた友達と来るの初めてじゃない?」
「ミッチャンママ。彼は浅岡君。会社の後輩なんだ」
「あら? そうなの? どうぞ、ごひいきに」
ミッチャンママは、ニコリとほほ笑んで、別の接客に入った。僕は、浅岡君に耳打ちをする。
「あの人は、ミッチャンママ。僕の父親なんだ」
「えええええ!!!」
浅岡君は、席を立ち、大声を上げた。店内中の人が、浅岡君に注目している。
「翔ちゃん! 新しい彼氏?」
「違うよ、モモちゃん。会社の後輩なんだよ」
「あら、ダメは先輩ね。変な遊び教えちゃダメよ」
変な遊びってなんだよ? カウンターの反対側に座っている常連客のモモちゃんが、絡んできた。僕よりも一回り年上のモモちゃんだが、以前モモさんと呼んだら叱られた。後、敬語を使われるのも嫌いのようだ。本人は、十六歳だと言い張っている。ならば、その手に持っている物はなんだ。酒と煙草、両手で法を破っている。そして、女装をしている。
「あ、小百合ママ。余裕がある時で良いので、少し付き合ってもらえませんか? お酒、ご馳走しますので」
「あら? じゃあ、頂いちゃおうかしら?」
小百合ママは、嬉しそうにサーバーからビールをついで、戻ってきた。
「じゃあ、かんぱーい! 頂きまーす!」
小百合ママと浅岡君、そして僕の三人でグラスを合わせた。僕はチラリと浅岡君を見た。まだ、戸惑いは拭えていないが、目は輝いているように見えた。
「ん? なあに? 私の顔に何かついてる?」
小百合ママは、頬に手を当て、浅岡君に顔を寄せた。
「いえ、あの・・・男性の方ですよね?」
「ええそうよ。チンチン見る?」
「いえ結構です! あの・・・とても、お綺麗です」
「ありがとね。翔ちゃんの後輩君は、お世辞がお上手ね。大好きよ」
浅岡君は、照れくさそうに、グラスを口につけたまま上目遣いで小百合ママを見ている。まるで、憧れの人と対峙しているようだ。
「あなた、名前はなんていうの?」
「え? あ、浅岡と申します」
「違うー下の名前」
「ミクです。未来って書いて、ミクです。浅岡未来です」
そう言えば、浅岡君の下の名前は知らなかった。
「ミクちゃん! 可愛い! 素敵なお名前ね」
小百合ママは、体の前で手を合わせて、満面の笑みを浮かべている。気恥ずかしそうな浅岡君は、はにかんでいた。若干、頬と耳が赤くなっているように見える。ビールをたらふく飲んでも変わらなかった肌の色が、ようやく変化を見せた。浅岡君は、ビールを一気に空け、お代わりを注文する。驚く事に、また生ビールだ。開いた口が塞がらない。
確かに、小百合ママが言うように、未来という名前は素敵だし、可愛い。でも、幼少期は、色々と苦労したのかもしれない。子供は、残酷な生き物だ。
「そうですかね? 子供の頃は、同級生に女みたいだって、からかわれていました。初音ミクが流行っていた時は、歌えって言われたり」
「そうなの。でも、大切なのは、未来よ。過去は踏み台なの。高く飛び上がるかどうかは、ミクちゃん次第よ。ご両親から素敵な名前を頂いたんだもの。ご両親に感謝して、未来を見なきゃね。きっと、そういった理由で、名付けてもらったんじゃないの?」
「どうなんでしょうね? 結構適当なのかもしれません。僕には、二人の姉がいるんですけど、佳子と衣真ですからね」
「あら? 愉快なご両親ね」
「ね? 適当でしょ?」
小百合ママと浅岡君は、楽しそうに笑い合っている。過去、今、未来。うーん、適当なのかもしれない。
きっかけはともかく、今日一日で、浅岡君の人柄や生い立ちを色々知る事ができた。昨日までは、挨拶くらいしかした事がなかったのに。セクシーな下着が繋いでくれた、奇妙なご縁だ。長谷川さんにお礼が言えないのが、残念だ。
「いらっしゃーい! あら? 翔ちゃん? 可愛らしい子と一緒なのね? 珍しい」
小百合ママが手を向けるカウンターへと着席した。都合よく、いつもの席が空いていた。
「小百合ママ、僕は薄目の麦の水割りで、浅岡君はどうする? 生?」
顔を左に向けると、浅岡君は目を大きく見開いて、首をカクカクと上下に動かした。まるで、古い玩具のように、ぎこちない動作だ。浅岡君は、物珍しそうに、視線を店中に飛ばしている。
「スナックは、初めて?」
「・・・は、はい。でも、ここって・・・」
驚きが隠せないようでいる浅岡君の前に、生ビールが置かれた。
「あんた友達と来るの初めてじゃない?」
「ミッチャンママ。彼は浅岡君。会社の後輩なんだ」
「あら? そうなの? どうぞ、ごひいきに」
ミッチャンママは、ニコリとほほ笑んで、別の接客に入った。僕は、浅岡君に耳打ちをする。
「あの人は、ミッチャンママ。僕の父親なんだ」
「えええええ!!!」
浅岡君は、席を立ち、大声を上げた。店内中の人が、浅岡君に注目している。
「翔ちゃん! 新しい彼氏?」
「違うよ、モモちゃん。会社の後輩なんだよ」
「あら、ダメは先輩ね。変な遊び教えちゃダメよ」
変な遊びってなんだよ? カウンターの反対側に座っている常連客のモモちゃんが、絡んできた。僕よりも一回り年上のモモちゃんだが、以前モモさんと呼んだら叱られた。後、敬語を使われるのも嫌いのようだ。本人は、十六歳だと言い張っている。ならば、その手に持っている物はなんだ。酒と煙草、両手で法を破っている。そして、女装をしている。
「あ、小百合ママ。余裕がある時で良いので、少し付き合ってもらえませんか? お酒、ご馳走しますので」
「あら? じゃあ、頂いちゃおうかしら?」
小百合ママは、嬉しそうにサーバーからビールをついで、戻ってきた。
「じゃあ、かんぱーい! 頂きまーす!」
小百合ママと浅岡君、そして僕の三人でグラスを合わせた。僕はチラリと浅岡君を見た。まだ、戸惑いは拭えていないが、目は輝いているように見えた。
「ん? なあに? 私の顔に何かついてる?」
小百合ママは、頬に手を当て、浅岡君に顔を寄せた。
「いえ、あの・・・男性の方ですよね?」
「ええそうよ。チンチン見る?」
「いえ結構です! あの・・・とても、お綺麗です」
「ありがとね。翔ちゃんの後輩君は、お世辞がお上手ね。大好きよ」
浅岡君は、照れくさそうに、グラスを口につけたまま上目遣いで小百合ママを見ている。まるで、憧れの人と対峙しているようだ。
「あなた、名前はなんていうの?」
「え? あ、浅岡と申します」
「違うー下の名前」
「ミクです。未来って書いて、ミクです。浅岡未来です」
そう言えば、浅岡君の下の名前は知らなかった。
「ミクちゃん! 可愛い! 素敵なお名前ね」
小百合ママは、体の前で手を合わせて、満面の笑みを浮かべている。気恥ずかしそうな浅岡君は、はにかんでいた。若干、頬と耳が赤くなっているように見える。ビールをたらふく飲んでも変わらなかった肌の色が、ようやく変化を見せた。浅岡君は、ビールを一気に空け、お代わりを注文する。驚く事に、また生ビールだ。開いた口が塞がらない。
確かに、小百合ママが言うように、未来という名前は素敵だし、可愛い。でも、幼少期は、色々と苦労したのかもしれない。子供は、残酷な生き物だ。
「そうですかね? 子供の頃は、同級生に女みたいだって、からかわれていました。初音ミクが流行っていた時は、歌えって言われたり」
「そうなの。でも、大切なのは、未来よ。過去は踏み台なの。高く飛び上がるかどうかは、ミクちゃん次第よ。ご両親から素敵な名前を頂いたんだもの。ご両親に感謝して、未来を見なきゃね。きっと、そういった理由で、名付けてもらったんじゃないの?」
「どうなんでしょうね? 結構適当なのかもしれません。僕には、二人の姉がいるんですけど、佳子と衣真ですからね」
「あら? 愉快なご両親ね」
「ね? 適当でしょ?」
小百合ママと浅岡君は、楽しそうに笑い合っている。過去、今、未来。うーん、適当なのかもしれない。
きっかけはともかく、今日一日で、浅岡君の人柄や生い立ちを色々知る事ができた。昨日までは、挨拶くらいしかした事がなかったのに。セクシーな下着が繋いでくれた、奇妙なご縁だ。長谷川さんにお礼が言えないのが、残念だ。
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