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ふじゆう

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二十八、無理やり腑に落とした解決

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「お? 目を覚ましたか?」
 星矢さんが、安堵の吐息を漏らした。総合病院の個室のベッドに、星矢さんを刺したヒメカが横になっている。ベッドの脇にある椅子に星矢さんが腰かけ、僕と吉川さんは星矢さんの反対側に並んでいる。ヒメカと共に救急車に乗ってやってきたミュウちゃんは、『じゃあ、ボクは、部外者なんで帰るッス! 社長、残業代宜しくッス!』と言って、帰っていった。元気な女の子だ。
 ここに来るまでに、僕達はいったん吉川探偵事務所へと戻り、着替えを済ませてきた。モモちゃんは、女装のままで構わないと言っていたのだが、色々とややこしくなる可能性があった為、説得した。時計を確認すると、日付が変わる直前であった。勿論、面会時間は過ぎているのだが、星矢さんが院長先生の許可を取ってくれた。ヒメカに至っても、大事になる事はなく、医師の処置により、明日には退院できるそうだ。
「・・・星矢」
 薄目を開けたヒメカが、星矢さんの顔を見るなり、顔を背けた。顔をこちら側に向けている。ヒメカの顔色が悪いのは、アルコールと薬の服用が原因なのか、星矢さんに対する罪悪感からなのか分からない。ヒメカは、鼻を啜り、唇を噛んでいる。
「ヒメカ。辛い想いをさせて、本当に申し訳ない」
 星矢さんは、椅子から立ち上がると、深々と頭を下げた。まだ傷口が痛むのではないか、心配になった。ヒメカが、逃げるように布団を頭まで被ると、次第に嗚咽が漏れ始めた。
「お前は納得できないだろうが、この姿は俺が望んだ姿だ。マーブルの連中に影響を受けた訳じゃねえよ。見てくれは変わったけど、俺は俺だ」
 今まで聞いた事がないくらいに、星矢さんの口調が穏やかだ。まるで、小さな子供を諭すように。個室内には、ヒメカの泣き声だけが、響いている。徐々に泣き声は小さくなっていき、震える呼吸を繰り返している。ヒメカは、嗚咽をかき分けるように、ゆっくりと言葉を紡いでいく。僕達は、ただ黙って、ヒメカの声に耳を傾けていた。
 ヒメカは、仕事やプライベートでの人間関係が上手くいっていなかった。友人がおらず、近寄ってくる男は、皆お金か体が目当てだったそうだ。一縷の望みが打ち砕かれたのは、今日の事だそうだ。今朝、星矢さんを刺して、自宅に逃げ帰った。その後、現実逃避をする為に、酒を飲み続けた。そして、『死にたい』と、ラインに登録されている人達に送った。しかし、誰からの返信もなかった。その事実を突きつけられ、酒がみるみる進み、酩酊してしまった。ヒメカの部屋の鍵が開いていたのは、誰かが助けに来てくれる事を願っての事だ。そもそも、マンションのエントランスの扉は、オートロックなので自室の鍵を開けていても、誰も入っては来られない。星矢さんを刺してしまった動揺なのか、元々知性が足りないのかは、判然としない。どちらも十分にありえる。
 ヒメカが、星矢さんに固執してしまったのは、星矢さんが優しいからだ。ヒメカ自身も客商売をしているのだから、当然業務上の接客だとは理解していた。しかし、それでも、星矢さんの優しさに救われていた。ホストと客、残酷な言い方をすれば、金目当ての付き合いだ。それこそ、プライベートで寄ってくる男達と同じだ。それでも、星矢さんと過ごす時間は、ヒメカにとってなくてはならなかった。そんな時間が、幸福であればあるほど、時間を奪われた衝撃が大きかった。星矢さんへの愛情が、憎悪に変わってしまった。
 僕は、溜息を吐いた。ポツポツと語るヒメカに、まったく同情の念を抱かなかった。抱けなかった。それは、あまりにも身勝手で、自己中心的な考えだ。色恋を商売道具にしていたからと言って、星矢さんが刺されても良い道理にはならない。星矢さんは、職務を全うしていたに過ぎない。何よりも、星矢さんに救われておきながら、星矢さんを傷つけた。恩を仇で返した。勿論、僕にはホストという職業の経験はないし、星矢さんに肩入れはしている。それも当然の事だ。
「すまん、翔太。こいつを許してやってくれねえか? 頼むよ。この通りだ」
 星矢さんは、僕に向かって頭を下げた。納得できない事ばかりだけど、星矢さんのこの姿を見たら、何も言えなくなった。僕は、慌ててベッドを回りこんで、星矢さんに頭を上げてもらった。
「僕は、全然、そんな。全然いいですよ」
 嘘をついた。自分の気持ちにも嘘を付く事にする。納得できないし、許せない。でも、星矢さんの為になるなら、水に流す事にする。
「ありがとう。助かるよ。色々迷惑かけたな。必ず埋め合わせするから。モモ、すまなかったな。ありがとう」
 星矢さんは、モモちゃんもとい吉川さんにも頭を下げた。モモちゃんは、今は吉川さんモードだ。吉川さんは、鼻から息を漏らしながら笑い、小さく手を上げた。
 僕が、マーブルで殴られた事から始まった、今回の騒動は、無理やり腑に落として解決した。
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