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桜の花びら

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 彼方が倒れてから二日が経った。彼方の熱は下がることも、上がることもなく四十一度を保っていた。
 翌日にはちゃんと病院に連れて行った。連れて行ったというよりはおぶってだが。
 幸いなことに雨は上がり太陽は爛々としていた。だからおぶって行けたのだ。
 車では行かなかった。理由は単純明快、隆弘さん昇華さん二人が彼方のことを忘れてしまっていたからである。隆弘さんと昇華さんが彼方のことを忘れてしまったということを彼方が知るとまた傷ついて悲しんでしまう。その姿を見たくなかった俺はおぶって連れていくことにしたのだ。
 しかし、結果は同じ、熱の原因不明。そしてその医者も彼方のことを忘れていた。
 どうすることも出来ない。俺には、今彼方を看病してやることしか出来ない。
 でも、諦めはしない。決めたから、彼方を助けるって。絶対に忘れないって。
 だから今も俺は打開策はないかと考え続けている。全ては、彼方のために。彼方を悲しみから助けてやるために。俺は動き続ける。
 その日の夕方頃、急に彼方はねだった。
『プリンが欲しい~』
 と、まるで駄々っ子がお菓子を求めるように言ったのだ。ポケットに突っ込んであるチャリ銭でプリン一つは変えることを確認した俺は、部屋を出た。
 近くにあるコンビニを見つけ早速入ろうとしたが、その時視界に墓場に続く坂道が見えた。
 いつも通ろうとはしなかった坂道。瞬華に無理やり連れて行かされたが途中で引き返したこの坂道。
 嫌な坂道だというのに、今日俺はコンビニを後にして坂道を上っていた。
 坂道はものの一分程度で踏破することが出来た。見渡せば、墓がたくさん並べられてあった。初めて見た光景に少し唖然としたが、すぐに俺は捜索を開始した。
 もちろん遠江光の墓をだ。
「……あった」
 数分かけて、光の墓を発見することが出来た。
 俺はその墓の前に立って、しばらく墓標を眺める。
「……俺がここにこれたってことは多分、俺は知ってしまったんだろうな、愛を。あれだけ怖い怖い言っていた愛をまた知っちまったよ、光」
 墓標を撫でる。ひんやりと冷たい感触が手に伝わった。
「ふっ、贅沢なもんだよな、ほんと。お前は死んじまって何も感じられないっていうのに、俺はこうやってまだのうのうと生きてまた愛を知った。知っちまったんだ……」
 ごめん、と俺は消え入りそうな声で謝った。届いているのかどうかはわからない。でも謝らなくてはいけなかった。そうじゃないと俺の気が済まなかったからだ。
「でも、進もうと思ったんだ。大切な奴が出来ちまったから、失いたくない奴が出てきちまったからな。だから、進むよ。前を」
 墓標は綺麗だった。多分瞬華がこまめにやってきて綺麗に掃除しているんだろう。ほんと昔からこまめだな、瞬華は。
 少し笑って、俺は言葉を続けた。
「全然これなくてごめんな、光。幼馴染で家族で恋人だったっていうのに、一年間放ったらかしにしてごめんな。でも、もう大丈夫だ。俺はもう一人じゃない、大切な奴がいる。だから、大丈夫だ」
 そして最後。俺は一つ聞きたいことがあった。
 膝をついて、光の墓を仰ぎ見ながら、俺は尋ねる。
「……いいのかな、光。もう俺は愛を知っちまってもいいのかな……。お前を差し置いて、幸せを求めてもいいのかな……光……」
 もちろん答えは返ってこない。わかっていた、でもこうやって質問して答えを返さないっていうのは寂しいものだった。
 苦笑した後、俺は腰を上げ、
「じゃあな、光。またくるよ」
 そう告げた瞬間。
 辺りに風が吹き抜けた。
 落ち葉がひらりと宙を舞う中、一つ異なるものが混じっていた。
 それを確認した俺はそれを手に取ろうと手を伸ばした。
 同時に、心の中に響く声が一つ。
 ――いいよ、ゆーくん。
 と。
 遠江光の声が、あの優しい声音が、心の中で響き渡った。
 幻聴ではない。あれは耳から入り込んだものではなく、心の中に直接響き渡ったような、そんな感覚――。
 ――もういいんだよ、抱え込まないで。貴方は一人じゃない。ちゃんと理解してくれる人がいる。だから、進んで。私を乗り越えて、前へ進んで。貴方が幸せになること、それが私の願いなんだから――。
 また、光の声。
 口元を押さえる。涙が溢れそうになるのを何とか堪える。
 今の現象が何だったのか、それは俺にはわからない。しかしただ一つ言えること。それは、あれが光の声で、光自身であったこと。それは間違いがなかった。
 何かを掴んだ手を開く。
 そこには、時季外れの桜の花びらが握られてあっ
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