高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん

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想い

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 結論を言っておこうと思う。
 生きてた。
 目を覚ましたら病院のベッドだった。ちゅんちゅんと小鳥のさえずりが聞こえ、いかにも平和な雰囲気を感じる。
 首を動かしせば見舞いの品であろう果物がたくさん籠の中に積まれてあった。
「……何で生きてんだ、俺」
 正直俺は死ぬとしか考えていなかった。推測すれば全身骨折、臓器損傷、とかそんな感じだ。何せ俺と激突したのは軽トラックではない。大型トラックなのだ。普通は死んで当然、よくても障害を持つくらいだ。
 でも今俺の首は動く。それはもう軽々と。まるで怪我なんてどこにもなかったと言わんばかりだ。
 何が何だかわからない。
 思案しながら唸っていると、病室のドアが開いた。そこから顔を覗かせたのは双子の少女。瞬華と、光である。
「ゆーくん! うわぁぁ、生きてたよぉ~」
 泣きべそを掻きながら俺の方に詰め寄ってくる光。どうやら助け出すことには成功したらしい。光が目の前にいることがその事実を物語っている。
「まったく、心配させて」
 やれやれと嘆息する瞬華だが、目尻は赤かった。泣いてくれたのだろう、純粋に嬉しかった。
「よかった光、生きてたか」
 安堵の息を漏らす。しかし光は俺の言葉が気に入らなかったのか、ぷくーと頬を膨らませながら言った。
「こっちの台詞だよ! まったく……」
 珍しく光が怒っていた。ぷんぷんしてた。可愛い。
「ほんと何があったのよ。急に永久の木の前で血まみれだなんて。医者が言うには何かとぶつかって生じた大怪我って言ってたけど、アンタ永久の木の前でどうやって何かとぶつかったのよ。もしかして道路で撥ねられて永久の木の前まで吹っ飛ばされたわけ?」
 これは詳細を説明しない方がいいだろう。
「ああ、実はな。あの公園の滑り台が凄くてな。何かメカでも仕込まれてあったらしく、滑った瞬間超スピードで滑り台を下ってな、そのまま吹っ飛んで永久の木に激突したんだよ」
「ナースコール鳴らすね」
「ええ、それがいいと思うわ。頭に障害を持ってますって伝えて」
「ちょっ!」
 直後にどこからかぷるるるる、とナースコールが響き渡った。騒がしい奴らだった。

 次の日は意外なことに夜兎がやってきた。光がいないってことはつまり俺はグレなかったはずなので、てっきり関係がなくなったとばかり思っていたがどうにも違ったらしい。
 思い切って俺は聞いてみた。
「おい夜兎。俺らの出会いっていつだっけ?」
「何だよ柚季。僕らのあの刺激的な出会いを忘れたのか?」
「忘れた」
「即答かよ」
 呆れ交じりにそう言われた。
 俺は包帯が巻かれてある手でこめかみにこつんと当てて、
「てへ」
「気持ち悪いからやめてくれる?」
 引かれてしまった。
「僕らの出会いはそう、クリスマスイブだよ。僕がそこら辺をバイクで走って自販機でジュースを買ってたら突然それを盗む野郎がいた」
「誰それ?」
「アンタだよ! しらばっくれてんじゃねえ! アンタ最終的には壊してたじゃねえか! スクラップにしやがって!」
 あ、あのバイク夜兎のだったのか。
「そんで後日追及したら知らねえとしらばっくれたから殴ったら殴り返された。んで喧嘩になってこの通り親友になったわけだよ」
 ほほう。この世界でも夜兎とは親友だったのか。そりゃよかった。こいつは数少ない友人の一人だからな。ありがたい。
「そっか。じゃあ正直に白状するが、あれを壊したのは俺だ!」
「やっぱ柚季かよ。まぁもうどうでもいいけどね」
 夜兎は鼻歌を刻みながら、
「君はあのバイクよりも僕の退屈しのぎになる。楽しいんだ。だから僕は君に出会えたことの方があのバイクよりも価値があると思った。だから別にもう怒っちゃいないよ」
「やっぱりお前……」
 この発言。少し感じつつあったがこいつは。
「ホモなのか?」
「違うよ!」
 全力で否定された。

 続いてきたのは、秋紅葉だった。秋は近くにあった椅子を引き寄せて座って、リンゴを剥きながらこう聞いてきた。
「時間旅行の感想。聞かせて」
「死ぬかと思った」
 率直な感想を述べた後、俺は胸に秘めていた質問をした。
「てかお前あの聞き取り辛い喋り方がわざとだったんだな。何でそんなことしたんだ」
「理由、簡単。一柚季に興味を持たせるため」
「おい、少し喋り方が残ってるぞ。というかバンバン残ってるぞ」
「……三週間も続けたから、癖の修復。困難」
「馬鹿だろ」
 てっきり秋は無関心無表情の冷徹女かと思ったがそうではないらしく、問題が解決した今では表情をよく変える。ずっと無表情の印象があったからか、ギャップがめっちゃ激しい。
「で。お前ならわかってんだろ」
「何を」
「俺がなぜ生きているか」
「…………」
 一瞬黙り込む秋。俺はじっと秋を見据えた。
 やがて秋はふぅ、とため息を吐いた後、答えた。
「一柚季。貴方も薄々気がついているはず。なぜ貴方が生きているのか。どうして死ぬはずだった体が治りつつあるのか、気がついているはず」
「ああ、そうだな。確かに、わかりつつあるよ。こんな現象、一つしかありえねえだろ」
 一拍を置いて、俺は告白した。
「誰かが、俺を死なせないよう永久の木に想いを届けた」
「その誰かとは」
「……みなまで言わせるなよ。どうせ彼方だろうが。あいつ一回消えかかってんのに、懲りねえな」
「貴方のことが大事。それゆえの行動」
「わかってるよ。あいつの愛は、俺が一番な」
「羞恥の極み」
「うるせえ」
 俺用に剥いてくれていたのかと思ったが、そうではないらしく、秋は自分で剥いたリンゴを自分で食べ始めた。俺のもの何だけどなー。
「ところで彼方はどこにいるんだ? お前ならそれくらいわかってるんじゃないのか?」
「貴方が緊急搬送されてからずっと永久の木。ずっと貴方が助かるように想い続けている」
「は? ずっと? じゃあ何も食ってねえんじゃ……」
「肯定。今一彼方は何も口にしていない。そろそろ彼女の体力が底をつく」
「っ――あの馬鹿……」
 今もなお、彼方が想い続けているお陰か、松葉杖を使ってなら歩けそうだった。近くに立てかけられている松葉杖を持って、俺は病室を出ようとする。
 その時背中に声をかけられた。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
 それだけ言葉を返して、俺は病室を出て永久の木に向かって行った。
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