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22 飯島美晴のイジメ体験
そのとき選択肢が現れた。
『①飯島美晴のいじめ体験を見る』
『②飯島美晴のいじめ体験を見ない』
僕は①を選んだ。
◯飯島美晴視点◯
ある日、突然、私はクラスメートから無視されるようになった。小学3年生のときだった。
いじめの理由はわからない。成績がよかったからかもしれない。容姿に恵まれていたからかもしれない。口数が少ないのが癇に障ったのかもしれない。本当に理由はわからなかった。わからないまま私はイジメられ続けた。
はじめのうちは無視。無視の次は机の上に落書きされた。『学校来るな』『目障りなんだよ』『鬱陶しい』『キモいんだよ』と落書きされた。
落書きの内容は時間の流れとともに酷くなっていった。『死ね』『消えろ』『自殺しろ』『生きてる価値なし』
私は泣きながらその落書きを消していた。
どうしてこんな酷いことするの?私、何か悪いことした?誰か教えてよ。心の中でそう思った。でも私はその思いを口にすることができなかった。口下手だったし、余計なことを言ったらもっと酷いことをされると思ったからだ。
だから私は耐えた。
先生は私が酷いことをされていると知っていた。でも先生は私を助けてくれなかった。見て見ぬ振りをした。学校に私の味方はいないと思って絶望的な気持ちになった。
それでも私は学校に通い続けた。家族にイジメられているのを知られたくなかったからだ。私は長女だった。妹の見本にならなければならない立場だった。そんな私がイジメられているのを知れば両親や妹に失望されると思った。軽蔑されると思った。そんなの嫌だった。
私は両親も妹も大好きだった。そんな家族に失望されたり、軽蔑されたりするのは絶対嫌だった。だから私は学校に通い続けた。調子が悪くても頑張って通い続けた。
黒板に『死ね』『消えろ』『ブス』と書かれるようになった。
先生はそれを何も言わずに消した。
私は毎日の否定の言葉に、消耗していった。物理的被害はない。でも心の傷は確実に増えていった。この世界に私の味方なんていないと思った。絶望が深くなり、生きる気力を失っていった。
そして私は夢遊病のように屋上に向かい、屋上の金網の前に立ち、金網を登り始めた。飛び降り自殺するために。
そんな私を背後から抱きしめて止めてくれた人がいた。里菜だった。
「飯島さん。駄目だよ。死んじゃ駄目」
里菜は私を背後から抱きしめながら言った。
私は屋上の床に座り込む。
里菜は私を抱きしめたまま言う。「ごめんね。飯島さん。イジメられてるのに助けてあげなくて。私、怖かったの。あなたを助けたら自分もイジメられるんじゃないかって。私だけじゃなくて妹もイジメられるんじゃないかって。だから助けてあげられなかったの。本当にごめんね」
里菜は泣いていた。懺悔するように泣いていた。
私もいつの間にか泣いていた。涙が次から次へと溢れて止まらなかった。嬉しかったのだ。この学校に私の自殺を止めてくれる人がいたことが嬉しかったのだ。
みんな私の死を望んでいるように感じていた。そう感じるくらい私は人間不信に陥っていた。でも違っていた。
里菜は本気で自殺しようする私を止めてくれた。泣きながら懺悔しながら私を止めてくれた。「死なないで。お願いだから死なないで」と何度も言ってくれた。私を背後から抱きしめながら。
それが嬉しかった。涙が出るほどに。
もし、里菜が止めてくれなかったら私は自殺していたと思う。それくらい私は追い詰められていたのだ。言葉の暴力で自殺するなんて情けないと言う人がいるかもしれない。
でも私は弱かった。言葉の暴力で自殺に追い詰められるほどに弱かった。だから里菜が助けてくれなかったら絶対に自殺していたと思う。そして両親や妹に悲しい思いをさせていたと思う。だから里菜は私の命の恩人だった。
その日から里菜は私の友達になってくれた。酷い落書きを一緒に消してくれた。里菜も酷い落書きをされるようになった。でも里菜は私に恨み言1つ言わなかった。私は里菜と一緒に里菜の落書きも消した。そういう作業を一緒にしているうちに里菜との仲が深まっていった。
やがてクラスの違う陽菜も私の友達になってくれた。そして一緒に落書きを消してくれた。私達はどんどん仲良くなっていった。いつしかイジメが終わっていた。
私は2人に心から感謝した。特に里菜にはどれだけ感謝しても足りない。その里菜が妹を失い、心に深い傷を負った。でも私はそばにいることしかできなかった。それが辛かった。情けなかった。
情けなさを抱えながら私は中学生になり、高校生になり、2年生になった。そして里菜の好きな鮎川光が入学してきた。
里菜は興奮して私に彼のことを話してきた。「新入生に光くんがいたの。すごくカッコ良くなっていたの」と目を輝かせながら言った。その目は恋する乙女の目だった。
こんなに幸せそうな里菜を見るのは初めてだった。里菜の幸せそうな顔を見ていると胸が痛んだ。鮎川くんを好きなのは陽菜なのだ。里菜ではないのだ。そう思うと泣きたい気分になった。素直に里菜の幸せを喜べない自分に嫌悪感を感じた。でも、どうしても素直に喜ぶことができなかった。
里菜は鮎川くんに話しかけなかった。自分の容姿に自信がないせいだった。里菜は小学生に間違われるほどの幼児体型にコンプレックスを抱いていたのだ。
話しかけられないまま時が流れる。そして鮎川くんがクラスメートの杉浦さんを好きなことに里菜は気づいてしまう。
杉浦さんは里菜とは正反対の容姿をした女の子だった。スタイル良いし、胸も大きいし、身長も高いし、脚も長い。顔立ちも大人っぽい。女としての魅力に溢れた女の子だった。そんな女の子を鮎川くんが好きだということを知り、里菜はショックを受けた。
「当然だよね。男の子ならああいう女の子を好きになるよね」
里菜は力なく笑いながら言う。
「里菜にだって杉浦さんに負けないくらい良いところあるよ。私が男だったら里菜を好きになるもん」
私は正直な気持ちを言う。
「ありがと」
「・・・」
「でも、私、諦めないよ。光くんのこと。だって大好きだから。光くんのこと大好きだから。誰よりも好きだって自負があるから。だから絶対諦めない」
「うん」
「でも光くんの恋は応援するわ。好きな人には幸せになってほしいからね。できるなら私が光くんを幸せにしてあげたいけどね」
里菜は本当に良い子だ。どうして鮎川くんはこんな良い子を好きにならないのだろう。そう思うと怒りを感じた。
鮎川くんはなかなか杉浦さんに告白しなかった。私はさっさと告白して玉砕すればいいのにと思ってしまう。そう思うたびに自己嫌悪を感じた。でもそう思うことを止めることができなかった。玉砕すれば里菜が幸せになれるかもしれない。そう思うと鮎川くんの玉砕を願わずにはいられなかった。私って本当に情けないと思った。
里菜はすごいと思った。自分の好きな男性の恋が成就することを応援できるなんて本当にすごい。里菜はそういうすごいことができる女の子なのだ。素敵な女の子なのだ。そんな素敵な女の子の幸せを私は願わずにはいられなかった。
鮎川くんには里菜を幸せにできる可能性があるように思えた。陽菜に愛され、里菜に愛された鮎川くんにはその可能性があるように思えた。
できるなら里菜を好きになってと鮎川くんにお願いしたかった。叶わぬ恋を諦めて里菜を好きになってと懇願したかった。
でも、里菜はそれを望んでいない。私は里菜が望まないことをしたくなかった。だから余計なことをせずに静観し続けた。静観しながら里菜の幸せを願った。願うことしかできない自分を情けないと思いながらも願い続けた。『里菜が幸せになりますように』と。
『①飯島美晴のいじめ体験を見る』
『②飯島美晴のいじめ体験を見ない』
僕は①を選んだ。
◯飯島美晴視点◯
ある日、突然、私はクラスメートから無視されるようになった。小学3年生のときだった。
いじめの理由はわからない。成績がよかったからかもしれない。容姿に恵まれていたからかもしれない。口数が少ないのが癇に障ったのかもしれない。本当に理由はわからなかった。わからないまま私はイジメられ続けた。
はじめのうちは無視。無視の次は机の上に落書きされた。『学校来るな』『目障りなんだよ』『鬱陶しい』『キモいんだよ』と落書きされた。
落書きの内容は時間の流れとともに酷くなっていった。『死ね』『消えろ』『自殺しろ』『生きてる価値なし』
私は泣きながらその落書きを消していた。
どうしてこんな酷いことするの?私、何か悪いことした?誰か教えてよ。心の中でそう思った。でも私はその思いを口にすることができなかった。口下手だったし、余計なことを言ったらもっと酷いことをされると思ったからだ。
だから私は耐えた。
先生は私が酷いことをされていると知っていた。でも先生は私を助けてくれなかった。見て見ぬ振りをした。学校に私の味方はいないと思って絶望的な気持ちになった。
それでも私は学校に通い続けた。家族にイジメられているのを知られたくなかったからだ。私は長女だった。妹の見本にならなければならない立場だった。そんな私がイジメられているのを知れば両親や妹に失望されると思った。軽蔑されると思った。そんなの嫌だった。
私は両親も妹も大好きだった。そんな家族に失望されたり、軽蔑されたりするのは絶対嫌だった。だから私は学校に通い続けた。調子が悪くても頑張って通い続けた。
黒板に『死ね』『消えろ』『ブス』と書かれるようになった。
先生はそれを何も言わずに消した。
私は毎日の否定の言葉に、消耗していった。物理的被害はない。でも心の傷は確実に増えていった。この世界に私の味方なんていないと思った。絶望が深くなり、生きる気力を失っていった。
そして私は夢遊病のように屋上に向かい、屋上の金網の前に立ち、金網を登り始めた。飛び降り自殺するために。
そんな私を背後から抱きしめて止めてくれた人がいた。里菜だった。
「飯島さん。駄目だよ。死んじゃ駄目」
里菜は私を背後から抱きしめながら言った。
私は屋上の床に座り込む。
里菜は私を抱きしめたまま言う。「ごめんね。飯島さん。イジメられてるのに助けてあげなくて。私、怖かったの。あなたを助けたら自分もイジメられるんじゃないかって。私だけじゃなくて妹もイジメられるんじゃないかって。だから助けてあげられなかったの。本当にごめんね」
里菜は泣いていた。懺悔するように泣いていた。
私もいつの間にか泣いていた。涙が次から次へと溢れて止まらなかった。嬉しかったのだ。この学校に私の自殺を止めてくれる人がいたことが嬉しかったのだ。
みんな私の死を望んでいるように感じていた。そう感じるくらい私は人間不信に陥っていた。でも違っていた。
里菜は本気で自殺しようする私を止めてくれた。泣きながら懺悔しながら私を止めてくれた。「死なないで。お願いだから死なないで」と何度も言ってくれた。私を背後から抱きしめながら。
それが嬉しかった。涙が出るほどに。
もし、里菜が止めてくれなかったら私は自殺していたと思う。それくらい私は追い詰められていたのだ。言葉の暴力で自殺するなんて情けないと言う人がいるかもしれない。
でも私は弱かった。言葉の暴力で自殺に追い詰められるほどに弱かった。だから里菜が助けてくれなかったら絶対に自殺していたと思う。そして両親や妹に悲しい思いをさせていたと思う。だから里菜は私の命の恩人だった。
その日から里菜は私の友達になってくれた。酷い落書きを一緒に消してくれた。里菜も酷い落書きをされるようになった。でも里菜は私に恨み言1つ言わなかった。私は里菜と一緒に里菜の落書きも消した。そういう作業を一緒にしているうちに里菜との仲が深まっていった。
やがてクラスの違う陽菜も私の友達になってくれた。そして一緒に落書きを消してくれた。私達はどんどん仲良くなっていった。いつしかイジメが終わっていた。
私は2人に心から感謝した。特に里菜にはどれだけ感謝しても足りない。その里菜が妹を失い、心に深い傷を負った。でも私はそばにいることしかできなかった。それが辛かった。情けなかった。
情けなさを抱えながら私は中学生になり、高校生になり、2年生になった。そして里菜の好きな鮎川光が入学してきた。
里菜は興奮して私に彼のことを話してきた。「新入生に光くんがいたの。すごくカッコ良くなっていたの」と目を輝かせながら言った。その目は恋する乙女の目だった。
こんなに幸せそうな里菜を見るのは初めてだった。里菜の幸せそうな顔を見ていると胸が痛んだ。鮎川くんを好きなのは陽菜なのだ。里菜ではないのだ。そう思うと泣きたい気分になった。素直に里菜の幸せを喜べない自分に嫌悪感を感じた。でも、どうしても素直に喜ぶことができなかった。
里菜は鮎川くんに話しかけなかった。自分の容姿に自信がないせいだった。里菜は小学生に間違われるほどの幼児体型にコンプレックスを抱いていたのだ。
話しかけられないまま時が流れる。そして鮎川くんがクラスメートの杉浦さんを好きなことに里菜は気づいてしまう。
杉浦さんは里菜とは正反対の容姿をした女の子だった。スタイル良いし、胸も大きいし、身長も高いし、脚も長い。顔立ちも大人っぽい。女としての魅力に溢れた女の子だった。そんな女の子を鮎川くんが好きだということを知り、里菜はショックを受けた。
「当然だよね。男の子ならああいう女の子を好きになるよね」
里菜は力なく笑いながら言う。
「里菜にだって杉浦さんに負けないくらい良いところあるよ。私が男だったら里菜を好きになるもん」
私は正直な気持ちを言う。
「ありがと」
「・・・」
「でも、私、諦めないよ。光くんのこと。だって大好きだから。光くんのこと大好きだから。誰よりも好きだって自負があるから。だから絶対諦めない」
「うん」
「でも光くんの恋は応援するわ。好きな人には幸せになってほしいからね。できるなら私が光くんを幸せにしてあげたいけどね」
里菜は本当に良い子だ。どうして鮎川くんはこんな良い子を好きにならないのだろう。そう思うと怒りを感じた。
鮎川くんはなかなか杉浦さんに告白しなかった。私はさっさと告白して玉砕すればいいのにと思ってしまう。そう思うたびに自己嫌悪を感じた。でもそう思うことを止めることができなかった。玉砕すれば里菜が幸せになれるかもしれない。そう思うと鮎川くんの玉砕を願わずにはいられなかった。私って本当に情けないと思った。
里菜はすごいと思った。自分の好きな男性の恋が成就することを応援できるなんて本当にすごい。里菜はそういうすごいことができる女の子なのだ。素敵な女の子なのだ。そんな素敵な女の子の幸せを私は願わずにはいられなかった。
鮎川くんには里菜を幸せにできる可能性があるように思えた。陽菜に愛され、里菜に愛された鮎川くんにはその可能性があるように思えた。
できるなら里菜を好きになってと鮎川くんにお願いしたかった。叶わぬ恋を諦めて里菜を好きになってと懇願したかった。
でも、里菜はそれを望んでいない。私は里菜が望まないことをしたくなかった。だから余計なことをせずに静観し続けた。静観しながら里菜の幸せを願った。願うことしかできない自分を情けないと思いながらも願い続けた。『里菜が幸せになりますように』と。
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