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実に美味しかった。評判通りと言った所か。路地裏にあったその店は、雰囲気も静かで、出てくる料理も実に凝っていて箸が進んだ。特にキッシュが美味しかった。
美味しいものを食べると気分もよくなる。星空に鼻歌でも浮かべながら帰るとしよう。
「クリフ・スタッドか」
店を出て歩き出そうとした瞬間、眼前に立ちはだかった兵士に呼び止められた。忘れ物か何かをしたのだろうかと思ったが、武器に手を掛けてしかめ面をしている辺りそういうわけでもないらしい。対応をあぐねているうちに後ろにも回り込まれた。
「そうですけど」
「お前を拘束する。抵抗はするな」
目の前の男が何を言っているのか理解できないのは突然だったからか、浮かれていたからか。
その言葉を言い終わるか否か、後ろに立った兵士がクリフの腕を後ろ手に縛る。それから麻袋を頭からかぶせられ、瞬く間に強引に連れ去られてしまった。
ここに連れてこられてから三日は立つだろうか。通路と鉄格子で仕切られたここは燭台もなく、明かりになるものは荒い石のブロックで作られた壁の高いところに開けられた小さな窓だけ。床もごつごつと固く、薄っぺらい布団では慰めにもならない。
看守の会話を盗み聞いて推測した限り、おそらくここは城の地下に設けられた牢獄だ。何処にあるか以外は居心地の悪さと出される食事の質でなんとなく分かった。
しかし、一番の疑問はなぜ自分がこんな場所に入れられているか、だ。憶えている限り犯罪行為を行った記憶はない。大体単なる犯罪者であれば街中にある王都警備兵の本部にある勾留所に送られるはずだ。城の地下牢獄も昔は使われていたらしいが、現在の法制度が整備されてからは使用されていない。
情報を得ようにも外界との接触手段はないし、食事を出してくれる看守も何も喋ってはくれない。せめて何故入れられているかくらい話してくれればいいのに。段々イラついてきた。本が読めないのも活字中毒のクリフにとってはつらい。本の差し入れでも頼んでみようか。
いやいやいやいや。何を現状に納得しているんだ。明らかに不当に拘束されている。たとえ犯罪行為を犯していたとしても、何も知らされずに牢屋にぶち込むのはルール違反だ。
あちらがその気ならこちらにもお行儀良く座して待つ理由はない。勝手に出てしまえばいいのだ。食事を出しくれる以上殺す気はないらしい。牢の奥で血でも吐いておけば看守が入ってくるはずだ。後はそいつの首でも捻って……。
「クリフ・スタッド。話をさせてもらうぞ」
通路の方から低い声がクリフの名を呼ぶ。その声には聞き憶えがあった。
「セイジスさん……!」
王城近衛兵のバルザスト・セイジス。ここに来て初めて見知った顔に会えたのでほっとする。
「どういうことなんで……」
鉄格子を掴んだクリフの訴えはこちらを睨みつけるバルザストの手によって制される。
「君には国王暗殺の嫌疑がかかっている」
「は!?」
完全に思考が停止した。目の前の人物が何を言っているのかが分からない。それでも何とか、一つずつ事柄を飲み込んでいく。。
国王暗殺。つまり、国王が死んだという事になる。それもその疑いで拘束されたというなら、クリフが国王と会ったその日に、ということだ。そんな事は信じられるはずもない。国王と別れてから拘束されるまで二時間も立っていないはずだ。
もちろんクリフは国王を殺してなどいない。生きている国王に別れの挨拶をして、そのまま真っ直ぐ小料理屋に向かったのだから。そもそも殺す理由もないし、そんな大それたことをする勇気もない。
それを訴えようと顔を上げると、口を開く前に再び眼前を手で塞がれて止められる。
「弁解は必要ない。君の処刑は近いうちに行われる」
一方的にそれだけ言うと、彼は踵を返して去って行った。
呆気にとられるクリフは、しかしその後ろ姿に違和感を覚えた。鎧の背中についた紋章。二つの三角を横に半分重ねた図形。王城近衛兵の矛を模した紋章ではない。
それを見て思い出した。先日クリフを拘束したあの兵士達。彼らが身に着けていた鎧にもあの紋章があった。あれは確か、教皇親衛隊の紋章だ。
分からないことが多すぎる。本当に国王は死んだのか。それがなぜクリフのせいになっているのか。なぜバルザストが教皇親衛隊の紋章を身に着けているのか。自分にありもしない疑いがかけられているが、周りの人は大丈夫だろうか。シグは、メリカは。
いや、そんな心配ももう必要ないのか。死刑にされるというのだから。
美味しいものを食べると気分もよくなる。星空に鼻歌でも浮かべながら帰るとしよう。
「クリフ・スタッドか」
店を出て歩き出そうとした瞬間、眼前に立ちはだかった兵士に呼び止められた。忘れ物か何かをしたのだろうかと思ったが、武器に手を掛けてしかめ面をしている辺りそういうわけでもないらしい。対応をあぐねているうちに後ろにも回り込まれた。
「そうですけど」
「お前を拘束する。抵抗はするな」
目の前の男が何を言っているのか理解できないのは突然だったからか、浮かれていたからか。
その言葉を言い終わるか否か、後ろに立った兵士がクリフの腕を後ろ手に縛る。それから麻袋を頭からかぶせられ、瞬く間に強引に連れ去られてしまった。
ここに連れてこられてから三日は立つだろうか。通路と鉄格子で仕切られたここは燭台もなく、明かりになるものは荒い石のブロックで作られた壁の高いところに開けられた小さな窓だけ。床もごつごつと固く、薄っぺらい布団では慰めにもならない。
看守の会話を盗み聞いて推測した限り、おそらくここは城の地下に設けられた牢獄だ。何処にあるか以外は居心地の悪さと出される食事の質でなんとなく分かった。
しかし、一番の疑問はなぜ自分がこんな場所に入れられているか、だ。憶えている限り犯罪行為を行った記憶はない。大体単なる犯罪者であれば街中にある王都警備兵の本部にある勾留所に送られるはずだ。城の地下牢獄も昔は使われていたらしいが、現在の法制度が整備されてからは使用されていない。
情報を得ようにも外界との接触手段はないし、食事を出してくれる看守も何も喋ってはくれない。せめて何故入れられているかくらい話してくれればいいのに。段々イラついてきた。本が読めないのも活字中毒のクリフにとってはつらい。本の差し入れでも頼んでみようか。
いやいやいやいや。何を現状に納得しているんだ。明らかに不当に拘束されている。たとえ犯罪行為を犯していたとしても、何も知らされずに牢屋にぶち込むのはルール違反だ。
あちらがその気ならこちらにもお行儀良く座して待つ理由はない。勝手に出てしまえばいいのだ。食事を出しくれる以上殺す気はないらしい。牢の奥で血でも吐いておけば看守が入ってくるはずだ。後はそいつの首でも捻って……。
「クリフ・スタッド。話をさせてもらうぞ」
通路の方から低い声がクリフの名を呼ぶ。その声には聞き憶えがあった。
「セイジスさん……!」
王城近衛兵のバルザスト・セイジス。ここに来て初めて見知った顔に会えたのでほっとする。
「どういうことなんで……」
鉄格子を掴んだクリフの訴えはこちらを睨みつけるバルザストの手によって制される。
「君には国王暗殺の嫌疑がかかっている」
「は!?」
完全に思考が停止した。目の前の人物が何を言っているのかが分からない。それでも何とか、一つずつ事柄を飲み込んでいく。。
国王暗殺。つまり、国王が死んだという事になる。それもその疑いで拘束されたというなら、クリフが国王と会ったその日に、ということだ。そんな事は信じられるはずもない。国王と別れてから拘束されるまで二時間も立っていないはずだ。
もちろんクリフは国王を殺してなどいない。生きている国王に別れの挨拶をして、そのまま真っ直ぐ小料理屋に向かったのだから。そもそも殺す理由もないし、そんな大それたことをする勇気もない。
それを訴えようと顔を上げると、口を開く前に再び眼前を手で塞がれて止められる。
「弁解は必要ない。君の処刑は近いうちに行われる」
一方的にそれだけ言うと、彼は踵を返して去って行った。
呆気にとられるクリフは、しかしその後ろ姿に違和感を覚えた。鎧の背中についた紋章。二つの三角を横に半分重ねた図形。王城近衛兵の矛を模した紋章ではない。
それを見て思い出した。先日クリフを拘束したあの兵士達。彼らが身に着けていた鎧にもあの紋章があった。あれは確か、教皇親衛隊の紋章だ。
分からないことが多すぎる。本当に国王は死んだのか。それがなぜクリフのせいになっているのか。なぜバルザストが教皇親衛隊の紋章を身に着けているのか。自分にありもしない疑いがかけられているが、周りの人は大丈夫だろうか。シグは、メリカは。
いや、そんな心配ももう必要ないのか。死刑にされるというのだから。
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