オカルトアワー~都市伝説怪奇譚~

ユーカン

文字の大きさ
33 / 47
第九話「ミッシングアワー~都市伝説妖怪譚~」

9-2.

しおりを挟む
 とりあえずリモコンが見つからないままのテレビを本体の脇についた電源ボタンを押して静める。そのあと、空子は痛む小指をかばいつつ、ちゃぶ台の天子の向かい側に腰を下ろした。
「それで、その妖怪がなんだって言うんですか?」
「うむ。この家には今、日常生活の邪魔をする妖怪が多数入り込んでいるようじゃ」
 天子が言うには、リモコンが見つからないこと、探そうとしたとたんに何を探そうとしていたか忘れること、足の小指をぶつけたこと。これら全てがその妖怪の仕業なのだという。
「それぞれ『妖怪リモコン隠し』、『妖怪何をしようとしていたか忘れ』、『妖怪小指ぶつけ』、じゃな」
「妖怪って……、どれもただの不注意じゃないですか」
「侮るでない!これらの出来事は気を付けていても、果てはその妖怪を認識していても、回避することはできないのじゃ」
「ばかばかしい。私は探しに行きますよ。流石に唱えながら行けば忘れることはないでしょう」
「やめるんじゃ!気を付けたところでどうにかなるものではないといったじゃろ!」
 天子の忠告を話半分に聞き、空子はスクッと立ち上がり、先ほどまでのように隣の部屋に向かう。
「リモコン、リモコン、リモコン……」

ガッ!

 三度、本棚に小指をぶつける。探し物の名を唱えるのに集中して、足元への意識がおろそかになっていた。
「あああああ!痛い、痛い!」
「だから言ったじゃろ。大丈夫か」
「だ、大丈夫です……」
 倒れこんだまま、何とか這いずって隣の部屋まで入る。
「……。ああ!今の衝撃で何を探すのか忘れてしまいました!」
 涙目の空子が叫ぶ。なにか妖怪とやらに負けた気がするし、小指は痛いし、踏んだり蹴ったりだ。
「リモコンじゃ。リモコンを探すんじゃろう」
「あ、ああ……。そうでした。リモコン、リモコン」
 空子は何とか立ち直り、隣の部屋を見渡す。とりあえず今見える場所にはなさそうだ。
 座布団が積まれている場所、棚の上、床の間……。あちこちを探すが、探し物は見つからない。
 あと探していないのは押入れの中くらいだろうか。流石にここにはないだろうと思いつつ、押し入れを開ける。
「うーん……。あ、あれは姉さんが昔買っていた週刊の漫画雑誌……」

 一方、天子はもう一度居間をあちこちあさってみる。テレビのリモコンはテレビの前でしか使わないのだから、そう遠くに行くはずがない。
 右往左往していると、ちゃぶ台の下に黒くて四角い何かがあるのを見つけた。すわリモコンか。天子は這いつくばってちゃぶ台の下に潜り込み、それを手に取って確かめる。
「なんじゃ。これはわしの眼鏡ケースではないか」
 一つため息をついて、立ち上が……。
「あだっ!頭をぶつけてしもうた……。妖怪頭ぶつけの仕業か……」
 痛む頭をさすりつつ、バックでちゃぶ台の下を脱出する。
「しかし、空子の奴は静かじゃな。そんなに奥まで探しておるのか」
 空子が隣の部屋に消えてから、それなりの時間が経つ。だが、帰ってくるどころか声の一つも聞こえてこない。なにかよからぬことが起こってからでは遅い。すでにこの神社は妖怪たちの手に落ちているのだから。
 というわけで、空子のいる隣の部屋に通じる襖を開け、中に入る。
「……。なんじゃったっけ」
 何をしにこの部屋に来たのだったか。確か妖怪が……。
 考えている間に、空子を見つけた。押し入れの前で座り込んでいる。その傍らには、大量の漫画雑誌が山積みになっている。
 空子、そうだ。空子を呼びに来たのだ。天子は一足跳びに歩み寄り、空子の肩を叩いた。
「おい空子。ずいぶん時間が掛かっとるじゃないか」
「……。ああ、姉さん。押し入れの奥から漫画雑誌が出てきまして。読み直すと結構面白いですよ」
「どれどれ。おお。この頃か、わしの好きだった漫画が載っておるではないか」
 天子は空子の隣に腰を下ろし、積まれた雑誌のなるべく古いものを手に取り、肩を並べて読み始める……。

 ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン。
 壁に掛けられた時計が、五時を示す鐘を鳴らす。
「ん。もうそんな時間か。しかしこの漫画は面白いのう」
 時計にチラと目をやった後、天子は漫画雑誌の次の号を手に取った。空子は寝そべりながら読んでいる。よほど集中しているようで、鐘の音も聞こえていないらしい。
「……」
 昔一度読んだはずの物語だが、面白いものは何度読んでも面白い。しかも、一つの連載が終わっても、他の連載が始まるので読む手が止まることはない。
 ページをめくる、紙がこすれる音だけが静かな部屋に響く……。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

処理中です...