オカルトアワー~都市伝説怪奇譚~

ユーカン

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第十話「ビハインドアワー~都市伝説接近譚~」

10-4.end

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「おえ……。もしもし……」
「私メリーさん。今、あなたのうし……。……!?」
 真紀奈が回す回転遊具に、突如としてカジュアルな服装の少女が現れる。高速で回転するところにいきなり飛びのったため、一瞬バランスを崩すが、すぐに外側の柵をつかんで体勢を直した。
「あの服、『ブロッサム』の……。本当にショッピングしてたんだ」
 栞がつぶやく。回転遊具に現れた『メリーさん』はイマドキなファッションに身を包んでいる。想像する都市伝説像とは、少々離れていた。
「本当に出てきちまったな。ただ、出てきたからといって、すぐに殺すわけじゃなさそうだ」
 メリーさんは、柵をつかんでまま動かずに、ぽん吉と一緒にグルグルとただ回っている。足を踏ん張り、動き出そうという気配はない。
「……?どうしたんだろう、メリーさん、ぽん吉さんに近づく気配はないですね」
 本当に殺すつもりならさっさとぽん吉を殺すために行動を起こしてもよさそうなものだが。
 すると、誠が手のひらに拳を叩きつけて。
「そうか。遠心力だ」
「遠心力?」
「回転運動をする物体にかかる力だ。物を回転させると、外側に引っ張られる力が働く」
「なるほど。小学生の時、掃除の時間にバケツに水を入れて振り回して遊んだ記憶がある!回転させていれば、バケツが真っ逆さまになっても水がこぼれないアレですね」
「君そんなことして遊んでたのか……」
 事実、誠の推理通り、メリーさんは柵に体を預けて、ぽん吉のいる中心に向けて、一歩も進めていない。しかし、その顔は、自身に満ち溢れている。
「メリーさん、あんなに回転してるのに目が回らないんでしょうか」
「……。聞いたことがある。フィギュアスケートの選手は、ちょっとやそっとの回転じゃ目を回さない。競技として体を回転させるフィギュアスケーターは、訓練で鍛えられていて、常人なら立っていられないほど体を回転させても、目を回さずに真っすぐ歩くことさえ可能なんだそうだ」
「つまり、メリーさんには目を回さない自信があると?」
「ああ。それに回転させている真紀奈もロボットとはいえ限界がある。これは真紀奈が疲れて回転を止めるか、メリーさんが目を回して音を上げるかの根競べだ」
 真紀奈はここに来てからずっと回転遊具の周りを走り続けている。流石にその顔には疲労の兆しが見える。少しづつだが速度が緩んできている。メリーさんの口角が少し上がり……。
「負けました……。ギブアップです……」
 すぐにメリーさんが白旗をあげた。
「なにか策があったわけじゃないんかい!」
「……」
 ギブアップを聞いて、真紀奈は回転遊具を止める。目を回してへたり込んだメリーさんに抵抗の意志はなさそうだ。誠が歩み寄り、ばつの悪そうな顔で彼女に手錠をかけた。
「なんとかなったのか~……。おええ」
 より長い時間回されていたぽん吉は、もうグロッキーだ。

 一行は近くのベンチに場所を移して、メリーさんに事情を聴く。
「で、本当に今回の犯行が初めてだったんだな?」
 ピクニックテーブルの椅子にメリーさんを座らせ、対面の誠が質問を投げかける。
「はい……。『メリーさん』として生まれたからにはやらなければいけないと思って……」
 うつむきながら、泣きそうな声で事情を説明する。
「そういうものか。じゃあ途中で雑貨屋やなんかに寄ったのはなんでだ?」
「あの……。メリーさんとして電話をかけると、近づくときに瞬間移動できるんです……」
「確かにそんくらいの移動速度だったな」
「はい……。あちこち歩くのは面倒なので……。せっかくですからお買い物を楽しもうと……」
「都市伝説の能力を買い物に利用したって訳か……」
 大きくため息を一つ。しかし、すぐに表情を引き締める。
「ただ、未遂に終わったからって逃がすって訳にもいかないな。どうしたものか」
「はい!いいことを思いつきました!」
 二人が座るピクニックテーブルの下からヌルリと真紀奈がはい出してきた。目を回したぽん吉を看ていたはずなのだが。
「うわあいきなり出てくるな」
「てへへ。それでですねえ。メリーさんの処遇は……、ごにょごにょ……」
 難しい顔をしていた誠は、その耳打ちの内容を聞いて表情を緩ませる。
「なるほど、いい考えだ」
 にやりと笑う誠とは正反対に、メリーさんは良く分からないといった風に首をかしげている……。

 数日後。四葉駅の近くで起きた怪奇現象犯罪の捜査に、ぽん吉と真紀奈は駆り出されていた。
「よし。とりあえず辺りを調べるか」
「はい!……。あっ!署に『誰でも簡単鑑識セット』を置いてきてしまいました!」
「お前そんなの使ってたのか……」
「でも大丈夫です!」
 真紀奈は得意げに携帯電話を取り出し、電話をかける。
「あ、もしもし。はい、机の上の……。ありましたか?じゃあそれを持ってきてください。はいありがとうございます~」
 用件だけをまとめた短い電話を済ませると、一息つく。
「誰にかけたんだ?持ってこさせるのか?」
「はい~。すぐに来ると思いますが」
「もうあなたの後ろにいます……」
 真紀奈が携帯電話をしまった直後、二人の背後から声がする。ぽん吉は思わず思いきり体を捻じ曲げてしまい、腰から嫌な音が出る。
「あ、いきなりすいません……。真紀奈さん、こちらご注文の品です……」
 背後に現れたのはあのメリーさん。手には真紀奈の顔のシールのついた工具箱のようなものを持っている。
「これです!ありがとうございます。メリーさん」
「いえ……。驚かせてしまってすみませんでした……。では……」
 品物の受け取りを済ませると、メリーさんは瞬間的に姿を消した。
「便利かもしれないが、あいつに怖がらせられた身としちゃあ、なかなかおかしな気分だぜ」
 ぽん吉は痛めた腰をかばいながら立ち上がる。
 メリーさんは、犯した罪の償いとして、怪奇現象犯罪対策課の手伝いをしている。主に外に出た人へ物を届けたりなど、彼女の瞬間移動を利用した仕事だ。ぽん吉の言う通り便利なので、あっちこっちへ引っ張りだこだが、その度に後ろにいきなり出てくるので、心臓に悪いというのがもっぱらの評判だ。
「さっき頼んだ私が言うのもなんですが、メリーさんいっぱい仕事して大変そうですね~。忙しさで目が回ってるかもしれません」
「目が……。う、思い出しちまった。おえ……」
「鑑識セットも来ましたから、早速調べに行きましょう!」
「気分が悪いから一人でやっといてくれ……」
「何言ってんですか!シャキっとしてください!」
 ふらつくぽん吉の背中に思いきりビンタを仕掛けると、ちょうど片足で立っていた所に勢いがつきコマのように回転してしまう。
「ぐおお……。何の恨みが……」
「ああ~。これはメリーさんに救急箱も持ってきてもらった方がいいですね」
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