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最終話「クライマックスアワー~都市伝説終末譚~」
12-2.
しおりを挟むあの目玉に近づくにつれ、風は強くなり、竜巻に破壊された建物が目立つようになってきた。確かに危険ではある。それにあいつに対抗できる術を持っているわけでもない。しかし、自分の住むこの町が破壊されるのを黙ってみているというのは、できない相談だっった。
天子の考えが間違っていると思うわけではない。しかし、頭より体が先に動いていた。
何ができるかは分からないがとにかく足を動かす。不意に上を見ると、竜巻がこちらに向かって伸びてきた。今までの物と同じように、今度は駆人の走る道の隣の家に。
通り過ぎようとしたその家の前に、小学生くらいの男の子がうずくまっている。
「危ない!」
またも考えるより先に足が動いた。その子の上に覆いかぶさる。それと同時に爆音。竜巻が屋根に直撃した。瓦の破片が背中に当たる。幸い大きなものはなく、自分にも、この子にも怪我はない。背中に当たる感触がなくなり、上を見上げたその時。
屋根の梁だろうか、宙を舞っていた角材が今まさに、駆人に直撃せんと落下してきた。
逃げるか。この子を残して?ではこの子ごと飛びのく。無理だ。
万事休す。顔を背けて目をつむる。
「危ねえ!なにやってんだ!」
ザクッ!
恐る恐る目を開ければ、あの角材は二本に分かたれ、直撃を免れている。
「って。お前駆人か?こんなところで何やってんだ」
声の主はぽん吉だ。手には刀を持っている。その刀であの角材を両断し自分を救ってくれたのだろう。
「あ。ぽん吉さん。助かりました。いや、あの目玉をどうにかできないものかと思いまして」
「よくやるな。天子は?一緒じゃねえのか?」
「天子様は……、援軍を呼びに行きました」
「……。そうか」
その時、駆人の下にいる男の子がもぞもぞと動く。
「ちょっと……。重いよ……」
「あ、ごめん」
覆いかぶさっていたままだったことに気付き、慌てて立ち上がる。その男の子も立ち上がった。
その子は周りの瓦礫を見て、少し緊張したようにこちらに顔を向ける。
「お兄さん達が助けてくれたの」
「ああ。まあ。そうなるかな」
「ありがとうございました!」
ペコリと頭を下げる。
「どういたしまして」
礼儀よく礼を言われたので、こちらもなるべく丁寧に返す。改めてその子を見るとキャラクターもののTシャツは多少汚れてしまっているが、目立った怪我はない。
「この家の子?」
「いや、友達と小学校で遊ぼうと思ってたんだけど。急に風が吹いてこわくなっちゃって……」
小学校のグラウンドが解放されているので、そこに向かっていた所、ということだろう。よく見れば傍らにはサッカーボールが落ちている。そのボールを渡して、今度はぽん吉に顔を向ける。
「ぽん吉さんは何やってたんですか?」
「あの目玉に決まってるだろ。何とかできねえかと思ってな。っつっても、あの天子がさじを投げたってことは都市伝説ってことだろ?」
「さじを投げたわけではないと思います」
「……。そうだな……。わりい」
「いえ……。あの、この子を小学校まで連れて行ってあげてもらっていいですか?」
小学校は災害時の避難場所として指定されているので、もしこの子の家族が探しているのであれば、見つかる可能性は高くなるかもしれない。それに、ここよりはあの目玉からも遠い。
「それは構わないが……。お前はやっぱりあれの所に行くのか?」
「はい。そのために来ましたから」
「そうか。気を付けろよ。俺も後で行く」
「はい。ぽん吉さんも」
ぽん吉が男の子の手を引いて、小学校の方に向かっていくのを見届けてから、またあの目玉の方へ走り出した。
かなりあの目玉の下へ近づいてきた。今の場所は四葉公園の近く。いつもなら人が行きかう場所だが、今は時々避難袋を担いで避難所へ向かう人が通る程度。この風だ、電車もすでに止まっているのだろう。
さらに駅の方へ向かって走る。大通りの店も大半はシャッターを閉め、休業している。
と、そこに人影を見つけた。あれは……。
「綾香さん!こんなところで何してるの!」
「あ、七生クン……。お買い物に出てたんだけど。あの目玉は何?」
駆人はあの目玉が都市伝説であるらしいことと、それを追っていることを伝えた。天子の力が及ばなかったことも、自分が無計画にただ追っていることも……。
「ふーん。そんなことになってるんだ」
確かにこの辺りは竜巻の被害はなさそうだが、それでも悠長に構えすぎなような。
「一人だったら不安かもしれないけど……」
トゥルルル……。
続きを言いかけたところで、電話の着信音がなる。どうやら栞の鞄の中から聞こえるようだ。
「あ、ちょっとごめんね。……、もしもし。あ、お母さん。うん、うん。え!?」
電話で話す栞の顔はどんどん暗くなっていき、通話を終え、震えた唇で何とか言葉を紡ぐ。。
「お母さんがうちの弟と連絡が取れないって……」
「弟?」
「うん。遊びに行くって言ったきり……。七生クン見てない?」
「いや……。弟って年は?」
「小学生なんだけど……。サッカーをしに行くって言ってたかも……」
サッカー。小学生。もしかしたら……。
「もしかしてキャラクターもののTシャツとか着てない?」
「あ、確か着てたかも。見たの!?」
「うん。竜巻が迫ってたから、ぽん吉さんに小学校まで連れて行ってもらうように頼んだんだ。だからそこにいると思う」
栞の顔に明るさが戻る。それから駆人の手を握って賛辞を述べた。
「じゃあ早速行かないと。あ、でも七生クンはまだあれを追うの?」
「そうしたいところだけど……」
ここから小学校までは結構距離がある。この嵐の中を栞一人で行かせるのは少々心もとない。
「大丈夫だから。私は一人でも帰れるよ。最近の騒動で自分でもたくましくなったと思うし。それに、あれが都市伝説ならなんとかできるのは七生クンだけだよ」
「……。でも……」
その時、急に風が強くなったと思えば、空から竜巻が伸びてきた。
「まずい!離れて!」
栞の腕を引っ張り、抱き寄せる。しかし、次の瞬間には、近くの雑居ビルに竜巻が直撃し、その上半分は破壊され、辺りに瓦礫を飛び散らせる。その一つの特に大きいものが、例によってこちらに落ちてきた。
今度こそ駄目だ。
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