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目覚めそして飛ばされた俺
俺は強い筈なのに?
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20XX年。
魔界・東領
一昔前の中華風の赤を基調とした華美な建物内の一室。
硝子にも見える氷の大きな柱。中には生きているのか死んでいるのか?眠る様に男がいた。
目を閉じて居ても何処かしら気品ある整った顔立ち。
その氷の中の男性を見上げる若い2人の男。
「今日ですよね?」
「全く、早く目覚めて頂かないと。」
2人は顔を見合わせて溜息を付く。
氷に触れると手が悴む様に冷たい。それなのに溶けない。
これが魔力による封印か・・と再び溜息を付いた。
「黒龍殿も封印そのままにするなんて意地悪ですよね。あの方なら解けそうなのに。」
「しっっ!!龍族の誰かに聞かれたら殺られるぞ!」
2人はそんな会話をしながら氷漬けの男性を再び見上げた。
・・・・・・・・・
魔界と聞くとどんな世界を想像するか?人間の考える魔界とは少し認識が違うかもしれない。
暗く草木も生えず血の臭いの漂う妖怪や異形の者が住む有象無象の世界・・では無い。
魔界は地球と言う名の人間界と隣り合わせの最も近い妖怪が住む異世界だ。
地球の様に恵まれた大地は少ないが太陽より小さい恒星からの光もあり地球程では無いが薄明るい。
異世界の広さは定かではなく人間界の様に機械文明は殆ど発展していない。
と、解説の様に思い出しているのは身体は動かないが数日前から意識だけが戻っていたからだ。
そう、俺は封印されている。
最初に意識が戻った時は状況や記憶も混濁していた。
ここは何処?俺は誰だ?から少しずつ脳も機能してきた。
俺は魔界の四天王の1人に勝てると思って挑んであっさりと負けて10年間の封印中なのだ。だが反省はしていない。
俺の父親は魔界の四天王の1人、黒龍。母親は吸血鬼・志乃。
俺は頼まれてもいないのに勝手に魔界統一したいと思っている。
やっぱりトップって必要だと思うんだよなあ。
人間界に暫く住んで居た時に実行に移せないだけで世界征服したい願望のある奴の血を好んで良く飲んだ。
案外そういう輩が多くて人間は強欲だと思いつつ野望のある奴の血は美味いんだ。
早く解けねかなー。でも、10年、案外あっという間だったな。寝てただけだったし。
全く封印されちまうとか本当、ドジった。
やっぱり魔界の四天王は強い。親父も強いが他も強い。
しかし・・俺にもその血は流れている。
次は必ず!勝つ!!
数時間後。
時が来ようだ。
身体に妖力が戻るのを感じる。
この硝子の様に見える氷の中で今まで動くことも叶わなかったのに。
妖気を身体にも体外にも巡らせると同時に封印がパリーンと音を立てて割れ砕け散った。
久々に目を開くと眩しい光が差し込む。
空中に放り出された俺は粉々に砕けた封印をザリッと踏みしめて着地した。
己の両手を見る。拳を握る。不思議と筋肉は落ちておらず力は封印前と変わらない感じだ。
「ふっかぁぁぁーつ!!」
声を高らかに気合いを入れると人の気配を背後に感じて振り返った。
「那岐様!!」
「やっとお目覚めですね。」
そう言って駆け寄って来た二人は吸血鬼一族の俺のお付きの奴らだった。
「あれ?何でお前たちが?」
俺が封印されたのって敵地だったと思うんだが。
「西の地から運んだのですよ。」
溜息をつきながら仲間はたっぷりと赤い飲み物の入ったグラスを差し出した。
鼻腔に良い香りが広がる。
勿論これは赤ワインでは無い。
赤い赤い血液だ。
「気が利くな。新鮮だ。」
グラスを受け取り一気に飲み干した。
20代女性、日本人か。まあ、悪くない味だ。
血液は吸血鬼にとっては食料だけでなく個人情報。
飲めば色々と解るだけでない。吸血鬼の能力が強い者は人を操る事も出来る。
まっ、めったに操るとかはしないが。
「全く封印されたと聞いた時は肝が冷えましたよ。」
「身体も変化なく大丈夫そうで何よりです。」
2人はグチグチとさらに愚痴や小言やらこの10年の事やら止めどないが。
聞いてる振りだけはして聞いていない・・・。
「さーて!行ってくるぜ!!」
血も飲んだ!気力体力完全復活。
「ちょっと、那岐様!お目覚めの御報告を!!」
「お待ち下さい!黒龍殿と志乃様に御挨拶をー!」
何やら叫び声が聞こえた気がしたがもう俺は空へ飛び上がっていた。
挨拶ねぇ。
めんどくせーし。
吸血鬼はここ数百年の間に純血種が居なくなった。純血種は俺の母親ともう1人。ハーフは数人。後はだいぶ血が薄まって来ている。
龍族と吸血鬼族の良いとこ取りで生まれたハーフである俺は吸血鬼一族の長候補であり将来の四天王・・予定。
否、魔界を統一するのが夢だ。
10年経っても変わり映えしない魔界の風景を眺めつつ西の四天王・瀬戸の元へ急いだ。
「せーーーーとぉーーーー!!」
西領はうちの領地と違い建物は人間界で言うなら中東から西洋に近い気がする。
瀬戸の神殿が目に入った瞬間に挑発する様に大声で叫んだ。
地上では雑魚共がワラワラと姿を表し俺の姿を見上げていた。
「また来たよ。」
「東領の息子だろ?」
「アホがまた来た。」
そんな声が耳に入り領地諸共ぶっ壊してやろうかと空中で戦闘態勢に入った時だった。
「懲りないねえ。」
気配なく目の前に現れたのは紛れも無く瀬戸だった。
「やあ!10年ぶりだな!今度はお前を血祭りに上げてやるよ!」
こいつの血を吸えればなあ。俺が格段に優位になる。
少しでいい出血させれば勝てる!!
「予想通りと言うか予言的中と言うか。これから君には飛んで貰わなければならないんだよね。」
瀬戸は不敵な笑みを浮かべて腕組みをし仕舞いにはクスクスと笑いだした。
そんな状態でも隙が無いのがムカつく!!
「僕に勝つには3000年くらい早いんだよねぇ。」
言葉が終わるか終わらないかの瞬間には間合いを詰められていた。
目の前に瀬戸!?
速い!!噛んで血を飲むチャンスなのだが全くそんな事は出来そうも無く必死で後退し距離を取った。
空中戦だぞ?陸地ならまだしも。
何でそんなに早く飛べるんだよ!!
この前より強くなってないか?!
今度は回り込まれて背後から蹴りを入れられた。
「グハッ!!!」
地面に叩きつけられそうになったのをかろうじて着地。
「くっそ!!」
俺も負けじと攻撃を開始した。
数分後・・・。
力の差はやはり大きかった。俺は何故こんなに拘ってこいつに挑み続けているのだろう?
「じゃあそろそろ潮時ね。この技は1度習っただけで使うのは初めてなんだけど。」
瀬戸はニヤりと笑いながらそう言った。
「ヨッド・ヘー・・・」
瀬戸が不思議な呪文の様な言葉を発した途端身体が金縛りにあったみたいに動かなくなってしまった。
「また!!ふっ・・封印する気かよ!!」
前回とは違う感じだけど身体は固まって俺の力ではどうする事も出来そうにない。
瀬戸が聞いた事の無い言語の呪文を唱え終わると・・・俺の身体は瀬戸の前から消えて居た。
「行ってらっしゃーい。」
気の抜けた瀬戸の声が耳に残った。
・・・・・・・・・・・
目の前が真っ暗になり何も見えない。
それは異世界へ行く時の感じにも似ていた。
人間界に強制的に飛ばしたのか?または別世界?
身体の自由はまだ効かない。
「うっわ!!眩しっっ!!」
目が眩む様な光が見えた途端。
「えっ?!ここ?何処?!うっわ!!」
受け身を取ることも出来ず真っ逆さまに地面に落ちた。
ボスッッッ!!!!
痛く・・・ない。
「てか、冷たっ!」
雪?何故?!
半身はズッポリ雪の中に埋まってしまった。
「雪だよなあ。雪山?酸素が少し薄い。」
埋まったまま辺りをキョロキョロと伺った。木々も少ない一面雪の傾斜面。
「空気は人間界だよな?」
恐らく人間界の雪山だろう。
日本は今、初夏の筈だから日本では無い何処か別の国?
とりあえず出るか。身体を捩りながら雪の中から外に出る。
銀世界はキラキラと光り美しい光景だった。
綺麗な景色だけど此処に居ても意味が無い。
魔界に戻り一旦、立て直して再度挑むかな。
また、負けたのか。大きく溜息を付いた。
「よし!!帰るか。」
魔界への入口を作らないと。そう思った時に数キロ先の山頂付近から鋭い殺気を感じた。
「なっ?!何だこの殺気と力!」
肌にビリビリと挑発する様な殺気と人では無い気配に俺は身構えた。
魔界・東領
一昔前の中華風の赤を基調とした華美な建物内の一室。
硝子にも見える氷の大きな柱。中には生きているのか死んでいるのか?眠る様に男がいた。
目を閉じて居ても何処かしら気品ある整った顔立ち。
その氷の中の男性を見上げる若い2人の男。
「今日ですよね?」
「全く、早く目覚めて頂かないと。」
2人は顔を見合わせて溜息を付く。
氷に触れると手が悴む様に冷たい。それなのに溶けない。
これが魔力による封印か・・と再び溜息を付いた。
「黒龍殿も封印そのままにするなんて意地悪ですよね。あの方なら解けそうなのに。」
「しっっ!!龍族の誰かに聞かれたら殺られるぞ!」
2人はそんな会話をしながら氷漬けの男性を再び見上げた。
・・・・・・・・・
魔界と聞くとどんな世界を想像するか?人間の考える魔界とは少し認識が違うかもしれない。
暗く草木も生えず血の臭いの漂う妖怪や異形の者が住む有象無象の世界・・では無い。
魔界は地球と言う名の人間界と隣り合わせの最も近い妖怪が住む異世界だ。
地球の様に恵まれた大地は少ないが太陽より小さい恒星からの光もあり地球程では無いが薄明るい。
異世界の広さは定かではなく人間界の様に機械文明は殆ど発展していない。
と、解説の様に思い出しているのは身体は動かないが数日前から意識だけが戻っていたからだ。
そう、俺は封印されている。
最初に意識が戻った時は状況や記憶も混濁していた。
ここは何処?俺は誰だ?から少しずつ脳も機能してきた。
俺は魔界の四天王の1人に勝てると思って挑んであっさりと負けて10年間の封印中なのだ。だが反省はしていない。
俺の父親は魔界の四天王の1人、黒龍。母親は吸血鬼・志乃。
俺は頼まれてもいないのに勝手に魔界統一したいと思っている。
やっぱりトップって必要だと思うんだよなあ。
人間界に暫く住んで居た時に実行に移せないだけで世界征服したい願望のある奴の血を好んで良く飲んだ。
案外そういう輩が多くて人間は強欲だと思いつつ野望のある奴の血は美味いんだ。
早く解けねかなー。でも、10年、案外あっという間だったな。寝てただけだったし。
全く封印されちまうとか本当、ドジった。
やっぱり魔界の四天王は強い。親父も強いが他も強い。
しかし・・俺にもその血は流れている。
次は必ず!勝つ!!
数時間後。
時が来ようだ。
身体に妖力が戻るのを感じる。
この硝子の様に見える氷の中で今まで動くことも叶わなかったのに。
妖気を身体にも体外にも巡らせると同時に封印がパリーンと音を立てて割れ砕け散った。
久々に目を開くと眩しい光が差し込む。
空中に放り出された俺は粉々に砕けた封印をザリッと踏みしめて着地した。
己の両手を見る。拳を握る。不思議と筋肉は落ちておらず力は封印前と変わらない感じだ。
「ふっかぁぁぁーつ!!」
声を高らかに気合いを入れると人の気配を背後に感じて振り返った。
「那岐様!!」
「やっとお目覚めですね。」
そう言って駆け寄って来た二人は吸血鬼一族の俺のお付きの奴らだった。
「あれ?何でお前たちが?」
俺が封印されたのって敵地だったと思うんだが。
「西の地から運んだのですよ。」
溜息をつきながら仲間はたっぷりと赤い飲み物の入ったグラスを差し出した。
鼻腔に良い香りが広がる。
勿論これは赤ワインでは無い。
赤い赤い血液だ。
「気が利くな。新鮮だ。」
グラスを受け取り一気に飲み干した。
20代女性、日本人か。まあ、悪くない味だ。
血液は吸血鬼にとっては食料だけでなく個人情報。
飲めば色々と解るだけでない。吸血鬼の能力が強い者は人を操る事も出来る。
まっ、めったに操るとかはしないが。
「全く封印されたと聞いた時は肝が冷えましたよ。」
「身体も変化なく大丈夫そうで何よりです。」
2人はグチグチとさらに愚痴や小言やらこの10年の事やら止めどないが。
聞いてる振りだけはして聞いていない・・・。
「さーて!行ってくるぜ!!」
血も飲んだ!気力体力完全復活。
「ちょっと、那岐様!お目覚めの御報告を!!」
「お待ち下さい!黒龍殿と志乃様に御挨拶をー!」
何やら叫び声が聞こえた気がしたがもう俺は空へ飛び上がっていた。
挨拶ねぇ。
めんどくせーし。
吸血鬼はここ数百年の間に純血種が居なくなった。純血種は俺の母親ともう1人。ハーフは数人。後はだいぶ血が薄まって来ている。
龍族と吸血鬼族の良いとこ取りで生まれたハーフである俺は吸血鬼一族の長候補であり将来の四天王・・予定。
否、魔界を統一するのが夢だ。
10年経っても変わり映えしない魔界の風景を眺めつつ西の四天王・瀬戸の元へ急いだ。
「せーーーーとぉーーーー!!」
西領はうちの領地と違い建物は人間界で言うなら中東から西洋に近い気がする。
瀬戸の神殿が目に入った瞬間に挑発する様に大声で叫んだ。
地上では雑魚共がワラワラと姿を表し俺の姿を見上げていた。
「また来たよ。」
「東領の息子だろ?」
「アホがまた来た。」
そんな声が耳に入り領地諸共ぶっ壊してやろうかと空中で戦闘態勢に入った時だった。
「懲りないねえ。」
気配なく目の前に現れたのは紛れも無く瀬戸だった。
「やあ!10年ぶりだな!今度はお前を血祭りに上げてやるよ!」
こいつの血を吸えればなあ。俺が格段に優位になる。
少しでいい出血させれば勝てる!!
「予想通りと言うか予言的中と言うか。これから君には飛んで貰わなければならないんだよね。」
瀬戸は不敵な笑みを浮かべて腕組みをし仕舞いにはクスクスと笑いだした。
そんな状態でも隙が無いのがムカつく!!
「僕に勝つには3000年くらい早いんだよねぇ。」
言葉が終わるか終わらないかの瞬間には間合いを詰められていた。
目の前に瀬戸!?
速い!!噛んで血を飲むチャンスなのだが全くそんな事は出来そうも無く必死で後退し距離を取った。
空中戦だぞ?陸地ならまだしも。
何でそんなに早く飛べるんだよ!!
この前より強くなってないか?!
今度は回り込まれて背後から蹴りを入れられた。
「グハッ!!!」
地面に叩きつけられそうになったのをかろうじて着地。
「くっそ!!」
俺も負けじと攻撃を開始した。
数分後・・・。
力の差はやはり大きかった。俺は何故こんなに拘ってこいつに挑み続けているのだろう?
「じゃあそろそろ潮時ね。この技は1度習っただけで使うのは初めてなんだけど。」
瀬戸はニヤりと笑いながらそう言った。
「ヨッド・ヘー・・・」
瀬戸が不思議な呪文の様な言葉を発した途端身体が金縛りにあったみたいに動かなくなってしまった。
「また!!ふっ・・封印する気かよ!!」
前回とは違う感じだけど身体は固まって俺の力ではどうする事も出来そうにない。
瀬戸が聞いた事の無い言語の呪文を唱え終わると・・・俺の身体は瀬戸の前から消えて居た。
「行ってらっしゃーい。」
気の抜けた瀬戸の声が耳に残った。
・・・・・・・・・・・
目の前が真っ暗になり何も見えない。
それは異世界へ行く時の感じにも似ていた。
人間界に強制的に飛ばしたのか?または別世界?
身体の自由はまだ効かない。
「うっわ!!眩しっっ!!」
目が眩む様な光が見えた途端。
「えっ?!ここ?何処?!うっわ!!」
受け身を取ることも出来ず真っ逆さまに地面に落ちた。
ボスッッッ!!!!
痛く・・・ない。
「てか、冷たっ!」
雪?何故?!
半身はズッポリ雪の中に埋まってしまった。
「雪だよなあ。雪山?酸素が少し薄い。」
埋まったまま辺りをキョロキョロと伺った。木々も少ない一面雪の傾斜面。
「空気は人間界だよな?」
恐らく人間界の雪山だろう。
日本は今、初夏の筈だから日本では無い何処か別の国?
とりあえず出るか。身体を捩りながら雪の中から外に出る。
銀世界はキラキラと光り美しい光景だった。
綺麗な景色だけど此処に居ても意味が無い。
魔界に戻り一旦、立て直して再度挑むかな。
また、負けたのか。大きく溜息を付いた。
「よし!!帰るか。」
魔界への入口を作らないと。そう思った時に数キロ先の山頂付近から鋭い殺気を感じた。
「なっ?!何だこの殺気と力!」
肌にビリビリと挑発する様な殺気と人では無い気配に俺は身構えた。
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