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1話 完璧王子は宣告される
しおりを挟むあるところに完璧な王子がいた。
名はクラウド・フォン・デトラポット。
デトラポット王国の第三王子だ。
どことなく色気のある緩いウェーブがかった黄金色の髪、宝石のごとき輝きを放つ切長の翡翠の瞳、それを縁どる絵筆で描いたような長く濃い睫毛、すっと通った鼻筋とシャープな輪郭――まるで彫刻かと見紛う完璧な美貌の王子だった。
そして完璧なのは容姿だけではない。
幼少期から大人顔負けの知性を発揮し、王宮の蔵書をわずか8歳で読破。以降もあらゆることに興味関心を持って貪欲に知識を吸収し、現在の知識量は賢者アインシュテインに匹敵するという。
おまけにその読書遍歴の影響で世界各国の言語を自然と習得し、人だけでなく魔物や精霊とすらも意思疎通ができ、現在ではその言語能力をいかんなく外交に活かしている完璧ぶりだ。
魔術についても幼少期に指南役の王国屈指の宮廷魔導師が舌を巻くほどで、剣術についても王国騎士団長と引きわけるほどの力を幼少期にすでに身につけており、17歳になった現在では披露する機会もなく未知数ではあるが、すでにそれぞれの実力は英雄にまで匹敵するとまで言われている。
各分野で頂点に立てる才能を持った“完璧王子”――それがクラウド・フォン・デトラポットだった。
しかし――
そのあまりの完璧さゆえに、人々から多くの嫉妬を買うことにもなった。
――ある日の王宮。
「クラウド……てめえは追放だァ!」
デトラポット王国、王都パルコ。
“完璧王子”ことクラウドが、叔父である現国王メルクリウスに呼ばれ、謁見の間を訪れたときのことだった。
同席した義兄の第一王子ドレイク・フォン・デトラポットが、ニヤニヤと喜悦の笑みでそんなことをのたまった。
(……また、ですか)
クラウドはすぐに状況を理解し、ついつい頭を抱えてしまう。
この兄王子はクラウドに対してコンプレックスがあり、根拠もない言いがかりで自分に文句をつけてくることが、これまでにも幾度となくあった。今回もそれだろうと思ったのだ。
クラウドは辟易としながらもしかたなくドレイクに向きなおると、
「追放……ですか。いきなりなんの話なのかさっぱりわかりませんね。順を追って説明していただけますか?」
「しらばっくれんな! てめェが邪悪なものたちと手を組み、陛下の暗殺をたくらんでいるのはわかっている!」
「なるほど、まったく覚えがない」
即答するクラウド。
もちろんしらばっくれているわけではなく、本当に覚えがなかった。
「白々しいのであるぞ、クラウド」
「そうよそうよ、さっさと認めて楽になっちゃいなさいよ!」
そこでドレイクに加勢してきたのは、この王国の第二王子サンドと第一王女ユーフェミアの二人だった。
どちらもドレイクと同じ妾妃から生まれた子であり、クラウドの義兄姉に当たる。端的に言えば、ドレイクの仲間だ。
(この兄姉はまったく……相変わらず頭がお花畑すぎて、一周まわってもはやかわいく見えてくる)
こうして三人が結託してクラウドをおとしいれようとすることは、これまでにも幾度もあったことだった。
つまるところ、クラウドは彼らに嫌われている。蛇蝎のごとく、嫌われている。
クラウドが国王と正妃とのあいだに生まれた唯一の子だったこと、国王の子のなかで圧倒的に優秀だったこともあり、幼少期から彼らに妬まれていたのだ。特に贔屓をされていたとは思わないが、思うところがあったのだろう。
クラウドが規格外の優秀さを持つのには、実は特別な事情があるのだが――まあそれはともかく、クラウドは彼らから事あるごとになにかと理由をつけて嫌がらせをされてきたわけである。
そしてそんな彼らによる嫌がらせは、国王であったクラウドの父フェンネルが戦場で命を落とし、国王が叔父のメルクリウスへと替わってから、よりエスカレートしているのだった。
クラウドの母は数年前に病死しており、唯一にして最強の後ろ盾であった父も他界したことで、王宮に表立ってクラウドの味方をする権力者がいなくなったことが原因であろう。
内心では皆クラウドに正義があることがわかってはいるのだろうが、義母の派閥の権力が一気に増したことで、下手に口を出せば飛び火をしてしまうという状況になっているのだ。
(頭がお花畑なのは構わないけれど、それが人の上に立って政を取りしきっている現状はさすがにまずいですよね)
さっさと問題を解決しておかなかったことを後悔するクラウド。
前々から彼らの台頭をどうにかせねばとは思ってはいたのだが、優秀な父の亡きいまクラウドが代わりにせねばならないことはあまりに多く、そこまで手がまわっていなかったのだ。
根拠のない言いがかりをつける時間があるのなら、少しは王族としての責務を全うしろと思うのだが――
「クラウド、だんまりってことは陛下の暗殺をたくらんだのを認めたってこどだなァ!? なんとか言えやコラァ!」
「なんとか」
クラウドが頭を抱えているとドレイクが猿のようにわめき立ててきたので、とりあえず要望通りにこたえてみた。
「て、てめえ舐めやがって!」
「いえ、舐めたりはしてませんよ。兄上を舐めたら腹を壊しそうです」
「ッ!!!」
元々短気な性格ということもあり、ずに激昂して案の定クラウドに殴りかかろうとするドレイクだったが、
「落ちつくのだ、ドレイクよ」
それをとめたのは玉座の壮年の男。
クラウドやドレイクたちの叔父であり、この国の現国王メルクリウス・フォン・デトラポットその人であった。
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