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2話 完璧王子は状況を察する
しおりを挟む「……陛下」
クラウドふくめ、謁見の間の注目が玉座のメルクリウスに集まる。
だがクラウドの表情は晴れない。
正直、メルクリウスからの援護は期待できないからだ。彼はなにしろ王に向いておらず、まわりに流されやすい性格をしていて、前王であるクラウドの父が亡くなってからは、義母の派閥の傀儡のようになってしまっているからだ。
これまでクラウドの才能を認めてクラウドが自由に動けるように取りはからってくれていたので、まったくの無能というわけでない。しかし基本は義母たちの味方という立場のため、この状況ではまるで期待できないのは間違いない。
実際、続くメルクリウスの言葉はクラウドの首を絞めるものだった。
「クラウドよ、簡潔に説明しよう。昨晩のことだ。吾輩の夕餉に毒が盛られておった。そしてその毒とまったく同じもの――このあたりでは出回っていない希少なバジリスクの毒が、おぬしの部屋から見つかったのじゃ」
「……!?」
紫色の液体の入った小瓶を見せられ、クラウドは目を見開いた。
(なるほど……きっぱりとぼくを切ったということですね)
そしてすぐに理解する。
メルクリウスがもはやクラウドを完全に見捨て、義母たちに加担することに決めてしまったのだということを。
「おぬしはこの王国に多大な貢献してくれたが……さすがに毒という証拠が出ておる以上、客観的におぬしはかぎりなく黒じゃ。そのような危険な人間をこの王宮には置いてはおけん」
「だから追放、ということですか」
淡々と訊ねると、メルクリウスは気まずそうに視線をそらす。
メルクリウスもクラウドが毒を盛るはすがないとわかっているのだろう。しかしそれを言えば、義母たちが敵にまわる。そうなれば自身も危ういため、しかたなくというわけだ。
メルクリウスが黙りこんでしまったところで、兄姉たちは完全に勝ちほこったような表情で横槍を入れてくる。
「オホホ、陛下はなんと慈悲深いのでしょう! 命をねらわれたというのに、処刑ではなく追放で済ませるとは!」
「しかも追放とは言うが、ちゃんと領地まで用意してくださってるんだからなァ!? 感謝しろよォ!?」
領地を? と首をかしげるクラウド。
「ああ、エスタリアっていう立派な領地だァ。広くて未開拓のやりがいのある場所だろォ? ガハハハハ!!!」
なるほど、とクラウドは納得する。
――エスタリア半島。
それは言わずと知れた魔境だった。
面積の多くが作物の育たない瘴気におかされた不毛の大地となっているうえに、大陸に行き場を失った邪悪な魔物や亜人、蛮族たちが無数棲みついている桁外れに危険な場所だ。
数年前、半島と大陸の境にあったダクネシア帝国をこのテトラポット王国が打ち倒したので、確かに形式的にはこの王国のものにはなったが、好戦的な先住民の反発は根強く、実効支配には至っていない。以前派遣した領主一行が行ったきりで連絡がつかなくなって以来、完全に放置している状況だ。
おそらくみな魔物に喰われたか、蛮族に襲われたかしたのだろう。今後どうするつもりなのかと思っていたが、どうやら自分を追いだす口実としてうまく使うことにしたようだ。
(あの場所に行くぐらいなら、処刑と大差ない……というか、むしろ単に追放のほうがましですよね。ふつうは)
あらためて大軍を率いて実効支配を目指すのならわからなくもないが、もちろんそういうわけではあるまい。クラウドをとにかく王都から追いだし、半島の邪悪なものたちに殺してもらえたら万々歳といったところか。
クラウドは民からの人気がとてつもないので、追放となると反乱も起こりかねない。だから表向きにはエスタリアの領主という立場を与え、いらぬ反感を買わぬように追いだしたいのだろう。発案者は不明だが、よく考えられている。
(しかし……なんにしろ、いまぼくが王都を離れるのは正直まずい)
クラウドの尽力で国の景気はなんとか上向きつつあったが、あの義母の派閥に好きにさせてしまっては、景気は悪くなる一方だろう。いずれ民が飢えて国が滅んでもおかしくない。
いや――その前に周辺国家や魔物によって滅ぼされてしまうかもしれない。
クラウドはその卓越した語学力で、国の周辺の人語が通じない存在たちとほぼ単独で外交を行ってきた。クラウドが追放されてしまえば、独自の言葉と価値観を持った亜人や妖精たちと意思疎通がまともにできなくなるはずだからだ。
「お待ちください。決めつけはこまります。ぼくは陛下の暗殺をたくらんだりしてはいないし、そうするメリットもないでしょう。お時間をいただければ、必ずや身の潔白を証明――」
「往生際がわりいぞォ!!!」
勝ちほこったように、クラウドの弁明をさえぎってくるドレイク。
「観念しろ、証拠は毒だけじゃねえんだよォ! おまえの使い魔であるこの獰猛な魔獣が、夜な夜な陛下の部屋のまわりをうろついていたっていう目撃情報があるんだァ! おそらく毒を入れる隙をさがしてたんだろォ。さっきとっつかまえてやったぜェ!」
まさかと思い、クラウドは慌ててドレイクに目を向ける。
するといつのまにかドレイクの手には、丸くてもふもふとした毛玉のような物体があった――いや、捕まっていた。
「ポメット先生!?」
間違いない。
それは――クラウドの友人として王宮に身を置いている、愛らしい小型犬の姿をした光の精霊ポメットであった。
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