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3話 完璧王子は追放される
しおりを挟む「ほらよ、受けとりなァ」
すでにぐったりとしていたポメットは、ドレイクに乱暴に放られ、謁見の間の床に転がった。
「先生、大丈夫ですか!?」
クラウドは慌てて駆けよると、ポメットの体に打撲痕を発見し、抱きかかえて治癒魔法を施していく。
しばしあって、ポメットはようやく話せるほどに回復したらしい。
つぶらな瞳でこちらを見上げ、
『クラウド……おおきに。食堂におやつをもらいに行ったんやけど、なんやよーわからんうちにしばかれとったわ』
少年のようなトーンの訛った精霊語で、うめくように言った。
『……なるほど、そうでしたか。大方、先生を待ちぶせてねらっていたのでしょう。あの脳筋……こんなもふもふと愛らしい天使のような先生によくもこんなひどいことを!』
同じく精霊語でこたえるクラウド。
いや、かわいらしいのは置いておいても、ポメットは長い歳月を生きた精霊だ。クラウドは博識な彼からいろいろなことを教わってきた。だからこそ“先生”と呼んでいるのだ。
かわいくてもふもふとしているが、偉い精霊なのだ。このような仕打ちをするなんて許されることではない。
「……」
クラウドはポメットをそっと床におろすと、ゆっくりと立ちあがる。
クラウドが怒ることは滅多にない――いや、ここ数年で一度もなかった。だがいま、全身は怒りに震えていた。
するとそれをどう勘違いしたのか、ドレイクが哄笑をあげる。
「へへへへへ、ざまぁねえなァ! 陛下のお命をそう簡単にとれるわけがねえだろォ! このデトラポットには大陸最強と名高いオレさま……“絶対防御”のドレイクさまがいるんだからなァ!」
そしてこれは好機とばかりに、謁見の間の面々に自身がメルクリウスを助けたのだと大声でアピールする。
だがクラウドはそのときにはすでに、ポメットを傷つけられたことによって、たまりにたまった怒りが限界を突破してしまっており、ドレイクの戯言は一切耳に入ってはいなかった。
クラウドの全身から刺すような魔力があふれ、ゴゴゴゴゴと大気をゆらす。
「フッ、この王国はオレさまが守る……ってなァ! この獰猛な魔獣め、もしまた悪さしやがったら、今度こそ間違いなく息の根をとめて毛をそいだあと燻製にして食ってやるから――」
そして調子に乗ってドレイクがそんなことをのたまった瞬間だった。
「――ごぼっ!?!?」
クラウドの拳が、ドレイクの顔面にまっすぐに突きささる。
ドレイクの顔面はとてつもなく不細工にゆがみ、ドレイクはとんでもない勢いでふっとんでいった。
「は、歯が……! オレさまの歯が欠けて……! て、てめえ……オ、オレさまを殴りやがったなァ。ママにも打たれたことないのに、こんなことをして許されると思っていやがるの――」
「不快です。黙っていてくださいませんか、絶対防御さん」
言いかけたところで、クラウドはふたたびドレイクの顔面に二発目の拳を見舞った。
慈悲はなかった。
ドレイクは無様に転がった。
「そしてそれはこちらのセリフです、この蛆虫めが。ポメット先生に手を出して許されると思っているのですか?」
クラウドはそれだけで人を殺められそうな凍てつく視線とともにドレイクの喉元に剣を突きつける。
「ひ、ひいいいい……!」
ドレイクが腰をぬかしたまま後ずさると、そこでようやく護衛の騎士たちが動いてクラウドを取りかこんだ。
「剣をお納めるのじゃ、クラウド」
「元より斬るつもりはありませんよ。その価値もないですから」
メルクリウスに言われ、クラウドはあっさりと剣をおさめる。
そして、くるりと身をひるがえした。
「出ていけというのなら出ていきましょう。エスタリア……よい場所ではありませんか。そこで領主としてのびのびと辺境暮らしを楽しませていただきます。みなさまもお幸せに」
それではごきげんよう、と言いのこすと、ポメットを手早く抱きかかえ、さっさと謁見の間を出ていくクラウド。
そのとてつもない剣幕の彼を引きとめられるものはいなかった。
こうして――
デトラポット王国は愚かな王族たちのせいで、みすみす世界最高の人材を流出させることとなったのだった。
当人たちがそれを後悔することになるのは、まだ少しさきのことだが。
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