魔王軍の修繕師(リペアラー)

AI異世界小説家

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第4章:死体が語る「手術痕」

死体が語る「手術痕」

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 地下の隠れ家(シークレット・エリア)に戻った俺を待っていたのは、安らかな寝息と、わずかに残るスープの匂いだった。  ロゼ、ベル、ルルの三人は、一つの大きなベッドに身を寄せ合って眠っている。体は直したが、極限まで摩耗した精神を癒やすには、まだ眠りが必要なのだろう。


「……さて、仕事(解析)を始めるか」

 俺は作業机に向かい、懐から取り出した「検体」を無機質な銀のトレイに載せた。  闘技場で殺されたインプの腕の肉片。まだ生温かく、どす黒い血液がトレイに広がる。  俺は右目に魔力を集中させ、【解析眼】を起動した。

『対象:魔族(インプ)の組織片。損傷率:100%(死亡)。……解析中……』

 視界に青白い文字列が高速で流れていく。  だが、そのログはいつもと違っていた。本来、自然界の魔物なら「骨格構成」や「魔力純度」といった項目が出るはずなのだが、目の前の肉片からは異常なノイズが走る。

「……なんだ、これは」

 肉片の深部。筋肉と神経が複雑に絡み合う箇所に、俺は見覚えのある「不純物」を見つけた。  凱旋パレードの夜にロゼたちを直した時に見つけた、あの三流の術式。  だが、このインプに施されていたのは、それよりもさらに悪質で、さらに「人工的」なものだった。

『異常個所:上腕骨頭付近。……微細な魔力刻印を確認。照合します』

 俺はピンセットで肉を分け、骨の表面を剥き出しにした。  そこには、ノミで刻んだような歪な文字が並んでいた。

【No.4021 - Type:C - Test:Success】

「シリアルナンバー……だと?」


 背筋に冷たいものが走る。  魔王軍の兵士に背番号があるのは珍しくない。だが、これは装備品に刻むような管理番号だ。生きた魔物の「骨」に直接刻むような代物じゃない。  さらに深く、【解析眼】の感度を最大まで引き上げる。  すると、肉片に残っていた死に際の「残留思念」が、ノイズ混じりの音声として俺の脳内に直接流れ込んできた。

『……い、たい……熱いよ……』 『……たすけて……ママ……。……おなかすいた……よ……』

 俺は思わず息を呑み、肉片から手を離した。  インプ(小鬼)の鳴き声ではない。  それは、どこにでもいる、人間の子供の声だった。

「……まさか。そんなことがあっていいはずがない」

 だが、証拠は目の前にある。  このインプは、もともと人間だったのだ。  拉致されたか、戦場で拾われたかした人間の子供を、何らかの手段で魔素に浸し、肉体を無理やり作り変えて「インプという名の兵器」に仕立て上げたのだ。

「……ザガン、貴様……!」

 あの優男の笑みが脳裏にこびりついて離れない。  彼は闘技場で言った。「あれは素材だ」と。  それは比喩でも何でもなかった。彼にとって、命はただの粘土であり、実験材料に過ぎなかったのだ。

「……カイト……さん?」

 背後から、怯えたような声がした。  振り返ると、いつの間にか目を覚ましていたロゼが、毛布を抱きしめて立ち尽くしていた。彼女の視線は、俺の手元にある「肉片」に釘付けになっている。


「ロゼ、これを見るな。あっちへ行って……」 「……それ、知ってる」

 ロゼの瞳が、恐怖で大きく見開かれる。  彼女はガタガタと膝を震わせ、その場にへたり込んだ。

「あいつ……大きな牙の、怖いオーガ……。あいつが、変な薬を持って、笑いながら……『次はお前の番だ、4番目のスライム』って……」

 オーガ。  闘技場で俺の胸ぐらを掴んだ、あのザガンの重臣。  ザガンは現場では手を汚さない。  あの大衆を惹きつける「英雄」の皮を被った男の裏で、あの凶暴なオーガが、汚物処理と非道な実験の実行役を担っているのだ。

「……『第3研究棟』」

 俺は【解析眼】で肉片に付着していた薬品の成分を特定した。  城の北西、陽の当たらない場所に位置する隔離区画。  そこが、奴らの「工房」だ。

「……直すだけじゃ、足りないな」

 俺は作業机の上の工具を握りしめた。  俺の仕事は修繕(リペア)だ。  壊れたものを元通りにするのが俺の矜持だ。  ならば。  この歪んだ「軍隊のシステム」そのものが壊れているというのなら。

「管理係として、徹底的に『解体』してやる」

 俺の目は、もはやただの用務員のそれではなくなっていた。  震えるロゼの肩を抱き寄せながら、俺は城の深部へと続く地図を脳内に描き出す。    ザガン。そしてあのオーガ。  お前たちがゴミとして捨てた「元・人間」たちが、お前たちの築き上げた虚飾の秘密を暴いてやる。    その準備を、今ここで始めることにした。
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