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第7章:交錯する悪意と戦火の予兆
交錯する悪意と戦火の予兆
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「ガハハッ! 面白い、実におもしろいぞ! ゴミどもがここまで『跳ねる』とはな!」
巨躯を誇る研究職のオーガーは、自らの腕を切り裂いたロゼの刃を忌々しげに睨みつけながら、懐から紫色の液体が詰まった注射器を取り出した。
「だが、所詮はザガン様が拾い上げ、俺が加工した素材だ。主(あるじ)を超えることは万に一つもありえん!」
オーガーはその液体を自らの首筋に注入する。瞬間、彼の筋肉がさらに肥大化し、血管がどす黒く浮き上がった。禁忌の魔薬による強制強化。 だが、覚醒した三人の少女は、もはやその威圧感に屈することはなかった。
「……もう、あなたの声は届かない」
ロゼが床と一体化するように滑り込み、死角から水の刃を放つ。 ベルの影の糸がオーガーの動きをミリ単位で束縛し、ルルの真空波が逃げ場を奪う。 三人の「元人間」としての連携と、「魔物」としての出力が、オーガーを確実に追い詰めていく。
「ぐっ……おのれぇ! 貴様ら、自分たちが何をしているか分かっているのか!? ザガン様は……ザガン様は、この世界の『神』になられるお方だぞ!」
俺は、もがき苦しむオーガーの前に歩み出た。
「神、だと? 笑わせるな。あいつはただの『壊れた演出家』だ」
「何も知らんのだな、管理係(リペアラー)! ザガン様は魔王軍だけの存在ではない。人間領の教会枢機卿とも深く繋がっておられるのだよ!」
オーガーは勝ち誇ったように、血混じりの唾を吐き捨てた。
「攻める村の情報を流し、教会の邪魔者を排除する代わりに、最高の『人間のサンプル』を頂く。逆に、不要になった魔物どもを人間側に狩らせて『英雄』を演出させてやる。すべてはウィンウィンの関係よ!」
俺の脳内で、バラバラだったパズルがつながっていく。 ザガンの異常なまでの武功。そして、供給され続ける「実験体」。その裏には、種族を超えたドブ川のような癒着があった。
「ザガン様の本当の計画……それは、まもなく始まる大戦争だ。人間と魔族、双方が数え切れぬほど死に、絶望し、叫ぶ。その地獄を特等席で眺めることこそが、あのお方の至福……! 闘技場にいるゴズのような脳筋(バカ)には理解できぬ、高尚な芸術なのだよ!」
「……それが、あいつの望みか」
俺の心の中にあった冷めた怒りが、静かに、そして鋭い殺意へと変質した。 こいつらは、壊れたものを直そうとする俺たちの営みを、ただの「余興」として踏み潰そうとしている。
「ロゼ、ベル、ルル。……終わらせろ」
俺の合図と共に、三人の魔力が一点に集中した。 ロゼの水の刃がオーガーの心臓を貫き、ベルの糸がその首を断ち、ルルの突風がその魂さえも粉砕した。
「ガ、ハ……ザガン、様……万、歳……」
巨大な肉体が、ズシンと研究棟の床に沈んだ。
◇
静寂が戻った研究室で、俺は【解析眼】を周囲に巡らせた。
「さて……『お片付け』の時間だ」
俺は床に手を突き、最大出力で《迷宮建築(ダンジョン・ビルド)》を発動した。 目的は破壊ではない。**「解体」と「隠蔽」**だ。
部屋中の薬品、実験器具、そして記録文書。それらすべてを分子レベルで分解し、俺の亜空間倉庫へと吸い込んでいく。ザガンが丹精込めて作り上げたこの地獄の工房を、文字通り「空っぽ」にしてやるのだ。 ルルの幼馴染、ティートが入っていたカプセルも慎重に回収した。彼を元に戻せる保証はないが、少なくともこの男の手に残しておくわけにはいかない。
「カイトさん、これからどうするの……? ザガンは、戦争を起こそうとしているんでしょう?」
ロゼが不安げに尋ねる。 俺は空になった部屋を見渡し、不敵に笑った。
「ああ。戦争を止めるつもりはない。あいつが豪華な『舞台』を用意してくれるなら、俺たちはその舞台の裏方を乗っ取ってやる」
ザガンは死を望み、俺は生(修復)を望む。 ならば、あいつが起こす大戦争の戦果――そのすべてを俺が『修復』という名で奪い取ってやる。
「あいつの計画を、俺たちの計画に書き換える(リライト)。ザガンが最後に手にするのは、至福の光景じゃない。自分が築き上げたすべてが、一介の管理係の手のひらで踊らされていたという屈辱だ」
俺は三人の少女に手を差し出した。
「行こう。俺たちの戦場(ダンジョン)は、まだ始まったばかりだ」
深夜の魔王城。 第3研究棟からひっそりと消えた一行の足跡は、誰にも見つかることはなかった。 あとに残されたのは、塵ひとつ落ちていない、真っ白で不気味なほどの空白だけだった。
巨躯を誇る研究職のオーガーは、自らの腕を切り裂いたロゼの刃を忌々しげに睨みつけながら、懐から紫色の液体が詰まった注射器を取り出した。
「だが、所詮はザガン様が拾い上げ、俺が加工した素材だ。主(あるじ)を超えることは万に一つもありえん!」
オーガーはその液体を自らの首筋に注入する。瞬間、彼の筋肉がさらに肥大化し、血管がどす黒く浮き上がった。禁忌の魔薬による強制強化。 だが、覚醒した三人の少女は、もはやその威圧感に屈することはなかった。
「……もう、あなたの声は届かない」
ロゼが床と一体化するように滑り込み、死角から水の刃を放つ。 ベルの影の糸がオーガーの動きをミリ単位で束縛し、ルルの真空波が逃げ場を奪う。 三人の「元人間」としての連携と、「魔物」としての出力が、オーガーを確実に追い詰めていく。
「ぐっ……おのれぇ! 貴様ら、自分たちが何をしているか分かっているのか!? ザガン様は……ザガン様は、この世界の『神』になられるお方だぞ!」
俺は、もがき苦しむオーガーの前に歩み出た。
「神、だと? 笑わせるな。あいつはただの『壊れた演出家』だ」
「何も知らんのだな、管理係(リペアラー)! ザガン様は魔王軍だけの存在ではない。人間領の教会枢機卿とも深く繋がっておられるのだよ!」
オーガーは勝ち誇ったように、血混じりの唾を吐き捨てた。
「攻める村の情報を流し、教会の邪魔者を排除する代わりに、最高の『人間のサンプル』を頂く。逆に、不要になった魔物どもを人間側に狩らせて『英雄』を演出させてやる。すべてはウィンウィンの関係よ!」
俺の脳内で、バラバラだったパズルがつながっていく。 ザガンの異常なまでの武功。そして、供給され続ける「実験体」。その裏には、種族を超えたドブ川のような癒着があった。
「ザガン様の本当の計画……それは、まもなく始まる大戦争だ。人間と魔族、双方が数え切れぬほど死に、絶望し、叫ぶ。その地獄を特等席で眺めることこそが、あのお方の至福……! 闘技場にいるゴズのような脳筋(バカ)には理解できぬ、高尚な芸術なのだよ!」
「……それが、あいつの望みか」
俺の心の中にあった冷めた怒りが、静かに、そして鋭い殺意へと変質した。 こいつらは、壊れたものを直そうとする俺たちの営みを、ただの「余興」として踏み潰そうとしている。
「ロゼ、ベル、ルル。……終わらせろ」
俺の合図と共に、三人の魔力が一点に集中した。 ロゼの水の刃がオーガーの心臓を貫き、ベルの糸がその首を断ち、ルルの突風がその魂さえも粉砕した。
「ガ、ハ……ザガン、様……万、歳……」
巨大な肉体が、ズシンと研究棟の床に沈んだ。
◇
静寂が戻った研究室で、俺は【解析眼】を周囲に巡らせた。
「さて……『お片付け』の時間だ」
俺は床に手を突き、最大出力で《迷宮建築(ダンジョン・ビルド)》を発動した。 目的は破壊ではない。**「解体」と「隠蔽」**だ。
部屋中の薬品、実験器具、そして記録文書。それらすべてを分子レベルで分解し、俺の亜空間倉庫へと吸い込んでいく。ザガンが丹精込めて作り上げたこの地獄の工房を、文字通り「空っぽ」にしてやるのだ。 ルルの幼馴染、ティートが入っていたカプセルも慎重に回収した。彼を元に戻せる保証はないが、少なくともこの男の手に残しておくわけにはいかない。
「カイトさん、これからどうするの……? ザガンは、戦争を起こそうとしているんでしょう?」
ロゼが不安げに尋ねる。 俺は空になった部屋を見渡し、不敵に笑った。
「ああ。戦争を止めるつもりはない。あいつが豪華な『舞台』を用意してくれるなら、俺たちはその舞台の裏方を乗っ取ってやる」
ザガンは死を望み、俺は生(修復)を望む。 ならば、あいつが起こす大戦争の戦果――そのすべてを俺が『修復』という名で奪い取ってやる。
「あいつの計画を、俺たちの計画に書き換える(リライト)。ザガンが最後に手にするのは、至福の光景じゃない。自分が築き上げたすべてが、一介の管理係の手のひらで踊らされていたという屈辱だ」
俺は三人の少女に手を差し出した。
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