9 / 13
第8章:英雄の演説と裏切りの録音(レコーディング)
英雄の演説と裏切りの録音(レコーディング)
しおりを挟む
誰もいないはずの「第3研究棟」跡地。俺は一人、静寂の中に座り込み、指先に集中させていた。 この建物の構造を完全に把握している俺にとって、ここを通過する「魔力の震動」を拾い上げるのは造作もない。特に、ザガンが愛用している高級な通信用魔道具は、その出力の高さゆえに、壁を伝って微かな残響を漏らしていた。
「……拾ったぞ」
俺は空中に魔力の膜を張り、増幅された「声」をロゼたちにも聞こえるように展開した。
『――順調ですよ、枢機卿(すうききょう)。今回の遠征で得た最上級の魔石と、オーガの角を裏ルートで送り出しました。そちらの軍資金、あるいは教会の権威を高める聖遺物の「素材」としてお役立てください』
ザガンの、反吐が出るほど甘い声だ。それに応えるのは、しわがれた老人の声――人間領の教会枢機卿。
『ふむ……感謝するよ、ザガン将軍。こちらも手配は済んでいる。次の戦場、北方にある「白百合の砦」には、徴兵されたばかりの右も左も分からぬ新兵だけを配置しておこう。君がそこを鮮やかに攻め落とせば、魔王軍での君の地位は揺るぎないものになる』
『くくく、素晴らしい。その際、私が連れていく「魔物」たち――元人間のサンプルたちを、彼らのかつての同胞と戦わせる。絶望に染まった悲鳴が、戦場を最高の劇場に変えてくれるでしょう』
『救えぬ悪趣味だ……。だが、我々に逆らう不逞な輩を「戦死」として処理するには、この戦争はあまりに都合がいい。憎しみを煽り、戦争を永続させる。それこそが我々の利益だ』
通信が切れる。 俺は冷めた手つきで、その会話のすべてを記録結晶(ログ・クリスタル)へと封じ込めた。
「……信じられない」
影から現れたベルが、怒りで拳を血が滲むほど握りしめていた。 人間を守るはずの教会が、魔族の将軍と結託して私腹を肥やし、自国の民を「戦果」として差し出している。この世界そのものが、ザガンという男によって「壊されている」のだ。
「いい材料が取れた。こいつは、あいつをただ殺す以上の『絶望』を与えるための特等席のチケットだ」
翌朝。魔王城の広場には、出陣を控えた数千の魔族兵が集結していた。 壇上に立つのは、朝日を反射して輝く黄金の鎧を纏ったザガンだ。
「勇敢なる魔王軍の諸君! これより我々は、愚かな人間どもに真の恐怖を教えに行く! このザガンが先頭に立ち、勝利を約束しよう! 弱きを挫き、強きを称えよ! 我が剣の向かう先に、敗北の文字はない!」
沸き起こる大歓声。魔物たちは拳を突き上げ、英雄の名を叫ぶ。 その熱狂の隅で、俺は地味な灰色の防具に身を包み、荷車を引いていた。
「……演技派だな。吐き気がする」
俺が今回配属されたのは、戦闘部隊ではない。 『魔王軍・工兵第4部隊』。 主な任務は、進軍路の整備、キャンプの設営、そして陥落させた砦の修繕(リペア)だ。地味で目立たず、死体片付けも請け負う裏方中の裏方。 だが、今の俺にとって、これほど都合のいい役職はない。
「カイト隊長、準備できました」
部下として変装させたロゼたちが、恭しく頭を下げる。 工兵部隊は、戦場のあらゆる「構造」に手を加える権限を持つ。ザガンが勇ましく剣を振るうその足元で、俺たちは戦場そのものを「リフォーム」してやるのだ。
「出発だ。……ザガン、お前が用意した『白百合の砦』。俺が世界で一番、頑丈で、お前にとって残酷な場所に作り変えてやるよ」
凱旋のファンファーレが鳴り響く中、俺たちは英雄の背後で、静かに、そして着実に逆襲の歩みを開始した。
「……拾ったぞ」
俺は空中に魔力の膜を張り、増幅された「声」をロゼたちにも聞こえるように展開した。
『――順調ですよ、枢機卿(すうききょう)。今回の遠征で得た最上級の魔石と、オーガの角を裏ルートで送り出しました。そちらの軍資金、あるいは教会の権威を高める聖遺物の「素材」としてお役立てください』
ザガンの、反吐が出るほど甘い声だ。それに応えるのは、しわがれた老人の声――人間領の教会枢機卿。
『ふむ……感謝するよ、ザガン将軍。こちらも手配は済んでいる。次の戦場、北方にある「白百合の砦」には、徴兵されたばかりの右も左も分からぬ新兵だけを配置しておこう。君がそこを鮮やかに攻め落とせば、魔王軍での君の地位は揺るぎないものになる』
『くくく、素晴らしい。その際、私が連れていく「魔物」たち――元人間のサンプルたちを、彼らのかつての同胞と戦わせる。絶望に染まった悲鳴が、戦場を最高の劇場に変えてくれるでしょう』
『救えぬ悪趣味だ……。だが、我々に逆らう不逞な輩を「戦死」として処理するには、この戦争はあまりに都合がいい。憎しみを煽り、戦争を永続させる。それこそが我々の利益だ』
通信が切れる。 俺は冷めた手つきで、その会話のすべてを記録結晶(ログ・クリスタル)へと封じ込めた。
「……信じられない」
影から現れたベルが、怒りで拳を血が滲むほど握りしめていた。 人間を守るはずの教会が、魔族の将軍と結託して私腹を肥やし、自国の民を「戦果」として差し出している。この世界そのものが、ザガンという男によって「壊されている」のだ。
「いい材料が取れた。こいつは、あいつをただ殺す以上の『絶望』を与えるための特等席のチケットだ」
翌朝。魔王城の広場には、出陣を控えた数千の魔族兵が集結していた。 壇上に立つのは、朝日を反射して輝く黄金の鎧を纏ったザガンだ。
「勇敢なる魔王軍の諸君! これより我々は、愚かな人間どもに真の恐怖を教えに行く! このザガンが先頭に立ち、勝利を約束しよう! 弱きを挫き、強きを称えよ! 我が剣の向かう先に、敗北の文字はない!」
沸き起こる大歓声。魔物たちは拳を突き上げ、英雄の名を叫ぶ。 その熱狂の隅で、俺は地味な灰色の防具に身を包み、荷車を引いていた。
「……演技派だな。吐き気がする」
俺が今回配属されたのは、戦闘部隊ではない。 『魔王軍・工兵第4部隊』。 主な任務は、進軍路の整備、キャンプの設営、そして陥落させた砦の修繕(リペア)だ。地味で目立たず、死体片付けも請け負う裏方中の裏方。 だが、今の俺にとって、これほど都合のいい役職はない。
「カイト隊長、準備できました」
部下として変装させたロゼたちが、恭しく頭を下げる。 工兵部隊は、戦場のあらゆる「構造」に手を加える権限を持つ。ザガンが勇ましく剣を振るうその足元で、俺たちは戦場そのものを「リフォーム」してやるのだ。
「出発だ。……ザガン、お前が用意した『白百合の砦』。俺が世界で一番、頑丈で、お前にとって残酷な場所に作り変えてやるよ」
凱旋のファンファーレが鳴り響く中、俺たちは英雄の背後で、静かに、そして着実に逆襲の歩みを開始した。
0
あなたにおすすめの小説
勇者の様子がおかしい
しばたろう
ファンタジー
勇者は、少しおかしい。
そう思ったのは、王宮で出会ったその日からだった。
神に選ばれ、魔王討伐の旅に出た勇者マルク。
線の細い優男で、実力は確かだが、人と距離を取り、馴れ合いを嫌う奇妙な男。
だが、ある夜。
仲間のひとりは、決定的な違和感に気づいてしまう。
――勇者は、男ではなかった。
女であることを隠し、勇者として剣を振るうマルク。
そして、その秘密を知りながら「知らないふり」を選んだ仲間。
正体を隠す者と、真実を抱え込む者。
交わらぬはずの想いを抱えたまま、旅は続いていく。
これは、
「勇者であること」と
「自分であること」のあいだで揺れる物語。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる