魔王軍の修繕師(リペアラー)

AI異世界小説家

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第8章:英雄の演説と裏切りの録音(レコーディング)

英雄の演説と裏切りの録音(レコーディング)

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 誰もいないはずの「第3研究棟」跡地。俺は一人、静寂の中に座り込み、指先に集中させていた。  この建物の構造を完全に把握している俺にとって、ここを通過する「魔力の震動」を拾い上げるのは造作もない。特に、ザガンが愛用している高級な通信用魔道具は、その出力の高さゆえに、壁を伝って微かな残響を漏らしていた。

「……拾ったぞ」

 俺は空中に魔力の膜を張り、増幅された「声」をロゼたちにも聞こえるように展開した。

『――順調ですよ、枢機卿(すうききょう)。今回の遠征で得た最上級の魔石と、オーガの角を裏ルートで送り出しました。そちらの軍資金、あるいは教会の権威を高める聖遺物の「素材」としてお役立てください』

 ザガンの、反吐が出るほど甘い声だ。それに応えるのは、しわがれた老人の声――人間領の教会枢機卿。

『ふむ……感謝するよ、ザガン将軍。こちらも手配は済んでいる。次の戦場、北方にある「白百合の砦」には、徴兵されたばかりの右も左も分からぬ新兵だけを配置しておこう。君がそこを鮮やかに攻め落とせば、魔王軍での君の地位は揺るぎないものになる』

『くくく、素晴らしい。その際、私が連れていく「魔物」たち――元人間のサンプルたちを、彼らのかつての同胞と戦わせる。絶望に染まった悲鳴が、戦場を最高の劇場に変えてくれるでしょう』

『救えぬ悪趣味だ……。だが、我々に逆らう不逞な輩を「戦死」として処理するには、この戦争はあまりに都合がいい。憎しみを煽り、戦争を永続させる。それこそが我々の利益だ』

 通信が切れる。  俺は冷めた手つきで、その会話のすべてを記録結晶(ログ・クリスタル)へと封じ込めた。

「……信じられない」

 影から現れたベルが、怒りで拳を血が滲むほど握りしめていた。  人間を守るはずの教会が、魔族の将軍と結託して私腹を肥やし、自国の民を「戦果」として差し出している。この世界そのものが、ザガンという男によって「壊されている」のだ。

「いい材料が取れた。こいつは、あいつをただ殺す以上の『絶望』を与えるための特等席のチケットだ」

 翌朝。魔王城の広場には、出陣を控えた数千の魔族兵が集結していた。  壇上に立つのは、朝日を反射して輝く黄金の鎧を纏ったザガンだ。

「勇敢なる魔王軍の諸君! これより我々は、愚かな人間どもに真の恐怖を教えに行く! このザガンが先頭に立ち、勝利を約束しよう! 弱きを挫き、強きを称えよ! 我が剣の向かう先に、敗北の文字はない!」

 沸き起こる大歓声。魔物たちは拳を突き上げ、英雄の名を叫ぶ。  その熱狂の隅で、俺は地味な灰色の防具に身を包み、荷車を引いていた。

「……演技派だな。吐き気がする」

 俺が今回配属されたのは、戦闘部隊ではない。  『魔王軍・工兵第4部隊』。  主な任務は、進軍路の整備、キャンプの設営、そして陥落させた砦の修繕(リペア)だ。地味で目立たず、死体片付けも請け負う裏方中の裏方。  だが、今の俺にとって、これほど都合のいい役職はない。

「カイト隊長、準備できました」

 部下として変装させたロゼたちが、恭しく頭を下げる。  工兵部隊は、戦場のあらゆる「構造」に手を加える権限を持つ。ザガンが勇ましく剣を振るうその足元で、俺たちは戦場そのものを「リフォーム」してやるのだ。

「出発だ。……ザガン、お前が用意した『白百合の砦』。俺が世界で一番、頑丈で、お前にとって残酷な場所に作り変えてやるよ」

 凱旋のファンファーレが鳴り響く中、俺たちは英雄の背後で、静かに、そして着実に逆襲の歩みを開始した。
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