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第10章:メッキ剥がれの「英雄」と「武人」
メッキ剥がれの「英雄」と「武人」
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「ガハハ! 死ねえ、ゴミ溜めの管理係がッ!」
地響きを立てて突進するゴズ。その手にある巨大な戦斧は、かつて多くの「実験体」を文字通り肉片に変えてきた凶器だ。 だが、迎え撃つロゼの表情には、微塵の動揺もなかった。
「……遅い」
ロゼがわずかに体を傾けると、斧の刃は空を切り、床の白いグリッドに激突した。 ゴズは力任せに斧を引き抜こうとするが、足元から伸びたベルの影の糸が、彼の太い腕を瞬時に絡め取った。
「な、なんだ!? 離せ、この蜘蛛女が!」 「闘技場で、鎖に繋がれた相手ばかり殴っていたから……感覚が死んでいるのね。あなたの動き、**『素人』**以下よ」
ベルが冷徹に告げ、糸を引く。 ゴズの巨体が無様に前のめりに倒れた。彼は必死に立ち上がろうとするが、かつての敏捷さはどこにもない。私設闘技場での「出来レース」――弱らせた獲物を一方的に嬲るだけの「遊び」が、彼の戦士としての牙を完全に腐らせていたのだ。
「ぐ、あああ……! 嘘だ、俺様はザガン軍最強の……!」 「最強? 笑わせないで」
ルルが上空から急降下し、真空の刃をゴズの背中に叩き込む。 絶叫と共に、ゴズの誇っていた「強化された筋肉」が呆気なく切り裂かれた。 彼はそのまま、一度もまともな反撃を繰り出すことすらできず、白黒の床に沈んだ。
「……使い物にならないな。構造強度は高いが、制御系(中身)がガタガタだ」
俺は冷たく言い放ち、視線をザガンへと移した。 ザガンは引き攣った笑いを浮かべ、自慢の黄金の剣を抜き放つ。
「ふ、ふん……ゴズが不甲斐ないだけだ。いいだろう、この私が直々に引導を渡してやる!」
ザガンが剣を構え、突っ込んでくる。 ――だが、その足運びを見ただけで、俺の【解析眼】は失笑を禁じ得なかった。 腰が浮き、剣筋はブレている。最前線で戦わず、手柄だけを掠め取ってきた「英雄」の剣術は、ただの型だけの踊り(ダンス)に過ぎなかった。
ガキンッ!
ロゼが腕を硬質化させただけで、ザガンの剣は容易く弾き飛ばされた。
「ぐわぁっ!? は、離れろ! 来るな、この化け物ども!」
尻餅をつき、後ずさりするザガン。 英雄の面影はどこにもない。そこにあるのは、死を病的に恐れるただの臆病な凡人だった。 追い詰められ、背後の見えない壁にぶつかったザガンが、狂ったように笑いながら懐から一つの赤い水晶を取り出した。
「ハ、ハハハ……そうだ、これがあった! お前たちは、私の『作品』だったな!」
ザガンの目がギラリと光る。
「思い出させてやる! お前たちの脳内に仕込んだ、あの素晴らしい術式を! 理性を焼き切り、ただの殺戮機械へと戻るための『暴走回路(オーバーロード)』をな!」
ザガンが魔力水晶を握り潰す。 赤い波動が空間に広がり、ロゼたちの体へと流れ込んでいく。 ザガンは、彼女たちが苦悶の声を上げ、カイトを食い殺す獣へと変貌する瞬間を、期待に満ちた顔で待ち構えていた。
……しかし。
「…………」
十秒が過ぎた。 ロゼたちは、眉一つ動かさず、静かにザガンを見下ろしている。
「な……なぜだ!? なぜ暴走しない! 私の『制御(コントロール)』が、効かないというのか!?」
ザガンは予備の水晶まで取り出し、何度も起動しようと試みる。だが、何も起きない。
「無駄だよ、ザガン」
俺はゆっくりと彼に歩み寄った。
「お前が『最高傑作』だと思っていたその回路……俺が全部、**『アンインストール』**しておいた」
「アンイン……だと……?」
「お前が埋め込んだ三流の術式は、彼女たちの魂をひどく傷つけていた。だから、手術(オペ)で綺麗に除去して、空いた隙間は彼女たち自身の『意志』で補強したんだ」
俺はザガンの目の前で、ロゼの肩に手を置いた。
「今の彼女たちは、お前の駒(魔物)じゃない。自分の心で、お前を殺すと決めた『人間』だ」
「バ……バカな……! 記憶を消し、脳を弄ったはずだ! 人間などに戻れるはずがない! ありえない、ありえないぞッ!」
ザガンの絶叫が、無機質な空間に虚しく響く。 彼が信じてきた「支配」という名の万能感は、一介の修繕師が施した丁寧な「手入れ」によって、音を立てて崩れ去った。
地響きを立てて突進するゴズ。その手にある巨大な戦斧は、かつて多くの「実験体」を文字通り肉片に変えてきた凶器だ。 だが、迎え撃つロゼの表情には、微塵の動揺もなかった。
「……遅い」
ロゼがわずかに体を傾けると、斧の刃は空を切り、床の白いグリッドに激突した。 ゴズは力任せに斧を引き抜こうとするが、足元から伸びたベルの影の糸が、彼の太い腕を瞬時に絡め取った。
「な、なんだ!? 離せ、この蜘蛛女が!」 「闘技場で、鎖に繋がれた相手ばかり殴っていたから……感覚が死んでいるのね。あなたの動き、**『素人』**以下よ」
ベルが冷徹に告げ、糸を引く。 ゴズの巨体が無様に前のめりに倒れた。彼は必死に立ち上がろうとするが、かつての敏捷さはどこにもない。私設闘技場での「出来レース」――弱らせた獲物を一方的に嬲るだけの「遊び」が、彼の戦士としての牙を完全に腐らせていたのだ。
「ぐ、あああ……! 嘘だ、俺様はザガン軍最強の……!」 「最強? 笑わせないで」
ルルが上空から急降下し、真空の刃をゴズの背中に叩き込む。 絶叫と共に、ゴズの誇っていた「強化された筋肉」が呆気なく切り裂かれた。 彼はそのまま、一度もまともな反撃を繰り出すことすらできず、白黒の床に沈んだ。
「……使い物にならないな。構造強度は高いが、制御系(中身)がガタガタだ」
俺は冷たく言い放ち、視線をザガンへと移した。 ザガンは引き攣った笑いを浮かべ、自慢の黄金の剣を抜き放つ。
「ふ、ふん……ゴズが不甲斐ないだけだ。いいだろう、この私が直々に引導を渡してやる!」
ザガンが剣を構え、突っ込んでくる。 ――だが、その足運びを見ただけで、俺の【解析眼】は失笑を禁じ得なかった。 腰が浮き、剣筋はブレている。最前線で戦わず、手柄だけを掠め取ってきた「英雄」の剣術は、ただの型だけの踊り(ダンス)に過ぎなかった。
ガキンッ!
ロゼが腕を硬質化させただけで、ザガンの剣は容易く弾き飛ばされた。
「ぐわぁっ!? は、離れろ! 来るな、この化け物ども!」
尻餅をつき、後ずさりするザガン。 英雄の面影はどこにもない。そこにあるのは、死を病的に恐れるただの臆病な凡人だった。 追い詰められ、背後の見えない壁にぶつかったザガンが、狂ったように笑いながら懐から一つの赤い水晶を取り出した。
「ハ、ハハハ……そうだ、これがあった! お前たちは、私の『作品』だったな!」
ザガンの目がギラリと光る。
「思い出させてやる! お前たちの脳内に仕込んだ、あの素晴らしい術式を! 理性を焼き切り、ただの殺戮機械へと戻るための『暴走回路(オーバーロード)』をな!」
ザガンが魔力水晶を握り潰す。 赤い波動が空間に広がり、ロゼたちの体へと流れ込んでいく。 ザガンは、彼女たちが苦悶の声を上げ、カイトを食い殺す獣へと変貌する瞬間を、期待に満ちた顔で待ち構えていた。
……しかし。
「…………」
十秒が過ぎた。 ロゼたちは、眉一つ動かさず、静かにザガンを見下ろしている。
「な……なぜだ!? なぜ暴走しない! 私の『制御(コントロール)』が、効かないというのか!?」
ザガンは予備の水晶まで取り出し、何度も起動しようと試みる。だが、何も起きない。
「無駄だよ、ザガン」
俺はゆっくりと彼に歩み寄った。
「お前が『最高傑作』だと思っていたその回路……俺が全部、**『アンインストール』**しておいた」
「アンイン……だと……?」
「お前が埋め込んだ三流の術式は、彼女たちの魂をひどく傷つけていた。だから、手術(オペ)で綺麗に除去して、空いた隙間は彼女たち自身の『意志』で補強したんだ」
俺はザガンの目の前で、ロゼの肩に手を置いた。
「今の彼女たちは、お前の駒(魔物)じゃない。自分の心で、お前を殺すと決めた『人間』だ」
「バ……バカな……! 記憶を消し、脳を弄ったはずだ! 人間などに戻れるはずがない! ありえない、ありえないぞッ!」
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