誰かが望んだ楽園の迷い人

AI異世界小説家

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第8章:鮮血の逃亡者と、勇者の憤怒

追っ手

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8-1
穏やかな日常は、唐突に、そして最悪の形で終わりを告げた。
その日、俺とエリア、リリスの三人は、中級ポーションの素材となる『月光草』の採取依頼を終え、ギルドへ報告に来ていた。
王都グランヴェルにおいて、中級ポーションの素材集めは実質的に最上位クラスのクエストだ。本来なら大部隊で挑むような危険地帯だが、俺たちにとってはピクニックのようなものだった。
目立つセレニティは、クリエイト・ハウスで留守番だ。
「よし、これで報酬ゲットだな。今日は奮発していい肉でも買うか」
「賛成! シンジの焼肉食べたーい!」
受付で金貨を受け取り、和やかに帰ろうとした、その時だった。
バンッ!!
ギルドの扉が乱暴に蹴破られ、血相を変えた女性が転がり込んできた。
「誰か! 誰か助けて!! お願い!!」
銀髪の女性、ミアだ。
以前、街で見かけたことのある元気な弓使いの少女。だが今の彼女は、服が土と血でドロドロに汚れ、美しい銀髪は乱れ、瞳には恐怖の涙が溜まっていた。
彼女の後ろから、同じパーティの見習い魔法使いブレアが、肩で息をしながらよろよろと入ってくる。
そして、その後ろに運ばれてきた担架を見た瞬間、ギルド中の空気が凍りついた。
「えっ……!? 嘘……」
エリアが息を呑み、口元を押さえる。
担架に乗せられ、親切な冒険者たちに運ばれてきたのは、ミアのパーティメンバーであるデイジー、ベラ、ゾーイの三人だった。
その姿は、あまりにも惨たらしい。
革の鎧は無惨に砕かれ、全身が鋭利な刃物で切り刻まれている。包帯から滲み出る血の量が、尋常ではない。
ひと目で、致命傷だと分かった。
「いやぁっ! デイジー! 目を開けて! 死なないでよぉ!」
ミアが泣き叫び、床に崩れ落ちる。
ギルドに常駐している見習い神官(男性)が気だるげに近づき、適当に手をかざして『ヒール』を唱えたが、すぐに興味なさそうに首を横に振った。
「あー、こりゃダメだ。内臓がいってる。見習いの俺じゃ治せねぇよ。諦めな」
「そんな……! お金ならあります! 私たちの全財産です! お願いです、もっとちゃんと診てください!」
ミアが震える手で、なけなしの銀貨が入った袋を差し出す。
だが、見習い神官はそれを冷たく鼻で笑い、足蹴にした。
「金の問題じゃねぇよ。仮に中級ポーションがあったとしても、意識不明じゃ飲ませられねぇ。それに、こんな状態の女に高価な薬を使う価値なんてねえよ。新しいメンバーを探しな。女なんて、掃いて捨てるほどいるだろ?」
「……っ!!」
あまりの言い草に、ミアは絶望の表情で周囲を見回す。
「誰か……誰か助けて……」
だが、周囲の冒険者たちは目を逸らすか、「運が悪かったな」と囁き合うだけだ。
この世界では、女冒険者の死など日常茶飯事。『消耗品』が壊れた程度の認識なのだ。
ブチリ。
俺の中で、何かが切れる音がした。
常識? 世界の理? 知ったことか。
目の前で助けを求めている女の子を見捨てるなんて、男が廃る。
俺は人垣を乱暴にかき分け、ミアの元へと走った。
「ミア!」
「シンジ……? エリア……?」
ミアが縋るような目で俺を見る。涙で俺のこともよく見えていないようだ。極限状態だ。
「お願い、助けて……! デイジーたちが……森でいきなり、蝙蝠の翼を生やした化け物が出てきて……!」
俺は三人の状態を瞬時に『ステータス表示』スキルで確認した。
HP残量、わずか3パーセント。
状態異常:『瀕死』『出血多量』『肺挫傷』『魔力枯渇』。
このままでは、あと数時間で心臓が止まる。今日の夜は越せないだろう。今日中にどうにかしないとならない。
「エリア、デイジーを運べ! 潰さないように優しくだぞ! リリスはベラを運んで! 俺はゾーイを運ぶ!」
「はいっ! 任せて!」
「う、うん! 『レビテーション』!」
リリスが浮遊魔法を3人にかける。
俺の指示に、二人は即座に動いた。
浮遊魔法のお陰でクッションを持っているかのように3人は持ち上がった。
俺は一番重症のゾーイを横抱きにした。あまり食べていないのか、ただ重傷だけには見えなかった。こんな体で戦っていたのか。
「え、ちょっ……どこへ連れて行くの!?」
「説明は後だ! ミア、ブレア、死なせたくなかったらついて来い! 全力で走れ!」
俺たちはギルドを飛び出し、呆気にとられる御者へ金貨を投げつけ、馬車を強引に借り上げた。
王都の石畳を、馬車が軋むほどの速度で駆け抜ける。
(くそっ、間に合え……! 死神になんて渡してやるもんか!)
ゾーイの微かな呼吸が、今にも消えそうだ。俺は彼女の手を握りしめ、うまくいってくれと願い続ける。
森の中の隠れ家に到着すると、俺は馬車から飛び降り、扉を蹴破る勢いで開けた。
「セレニティ!! 緊急事態だ! 準備してくれ! 重傷者が三人!」
奥からエプロン姿のセレニティが飛び出してきた。手にはおたまを持っている。
「あら、お早かっ……きゃっ!?」
血まみれの女性たちを見て、彼女の表情が一瞬で『聖女』のものへと切り替わった。
おたまを放り投げ、即座に指示を飛ばす。
「こちらの寝室へ! ……これは酷い、魂が抜けかけています!」
どう見てももうすぐ命が尽きるのが明白だった。
キングサイズのベッドに三人を並べる。
遅れて入ってきたミアとブレアは、見たこともない清潔で美しい家と、そこにいる神々しいオーラを纏った女性に呆気にとられ、入り口で立ち尽くしている。
「あの、この人は……?」
「いいから見てろ。……セレニティ、頼めるか?」
「はい。この程度の傷、私の『祈り』の前では掠り傷です」
セレニティはミスリルの杖を構えた。
その先端に埋め込まれた巨大なエメラルドと、彼女の頭上のティアラが共鳴し、部屋の空気がビリビリと震え出す。
彼女は静かに瞳を閉じ、祝詞を紡いだ。
「慈悲深き女神よ、その御手にて傷つきし子らを癒やしたまえ。失われし血肉を戻し、灯火を再び燃え上がらせよ……」
カッ!!!!
「――『ハイ・ヒール(上級治癒)』!!」
部屋中が、直視できないほどの黄金の光に包まれた。
それは単なる光ではない。生命エネルギーの奔流だ。
ミアとブレアが悲鳴を上げて目を覆う。
光の中で、奇跡が起きた。
ズタズタに裂かれた皮膚が、ビデオの早回しのように再生していく。
砕けた骨が元の位置に戻り、どす黒い顔色に赤みが差し、苦しげだった呼吸が穏やかな寝息へと変わっていく。
本来なら数ヶ月かかるはずの治療が、わずか数秒で完了したのだ。
「ゴホッ! ……う、ん……」
デイジーが咳き込み、喉の奥にたまっていた血の塊を吐き出す。そしてゆっくりと目を開けた。
「……ここは……天国……?」
「気がついた!」
「デイジー!! よかったぁぁぁ!」
ミアとブレアが泣きながら駆け寄り、友の体を抱きしめる。
セレニティは額の汗を拭いながら、聖母のような微笑みを浮かべた。
「峠は越えました。内臓の損傷も完全に修復しました。あとは失った血液を作るために、栄養のあるものを食べて寝れば大丈夫です」
「す、すごい……」
ミアが震える声で呟く。
赤い輝くブロンドを完璧にカールさせ、高貴なドレスとティアラを身に着けたセレニティ。
どう見ても、ただの人間ではない。
「こんな魔法、見たことない……。あなたは、最近顕現された女神様なのでしょうか……?」
セレニティが着ているローブも杖も、下級神官が持っているものではない、ひとめで上級職の装備だと分かる。何年もグランヴェルで冒険者をしているミアたちでも、これほどの上位神官などお目にかかったことはない。
セレニティは困ったように俺を見た後、悪戯っぽく人差し指を口元に当てた。
「ふふっ、内緒ですよ? 私はただの、シンジ様のメイドですから」
その姿に、ミアとブレアはコクコクと何度も頷いた。
この家には、世界の常識を覆す何かが住んでいる。それだけは本能で理解したようだった。

***
三人の命は助かった。だが、まだ何も終わっていない。
「ミア、さっき『蝙蝠の翼を生やした化け物』と言っていたな。詳しく教えてくれないか?」
リビングで、俺が作った特製コンソメスープを飲ませて落ち着かせた後、俺は切り出した。
ミアはカップを両手で包み込み、震える声で語り始めた。
「うん……。私たち、いつもの森でゴブリン退治をしてたの。そうしたら、急に空が暗くなって……見たこともない悪魔がたくさん現れて……」
「レッサーデーモンと、ガーゴイルか……」
「そう。あいつら……近くにいた男の冒険者パーティは適当に払うだけで無視して、執拗に周りにいた女の子だけのパーティ、特に魔法使いがいるパーティーを狙ってきたの。まるで、何かを探しているみたいに」
俺の背筋に冷たいものが走る。
セレニティがビクリと体を強張らせた。
「私たちのところには1匹しか来なかったから、ブレアを守るためにデイジーたちが盾になって……なんとか私が隙を見て、そのガーゴイルの目を矢で射抜いたら逃げてったけど……」

「目を射抜いた? あの素早いガーゴイルのか? ミア、すごい腕前だぞ」
「まぐれよ。……でも、矢を放った時によく見えたの。そのガーゴイルの顔、半分が焼けただれて溶けていたわ」
「……焼けただれた顔」
パズルのピースが集まってきた。
そんな顔に大ダメージを受けても弱い女の子に執着するのは、なにか理由でもあるのだろうか?
つまり、そのガーゴイルはセレニティを探して、しらみつぶしに「魔力を持つ人間の女」を襲っているのだ。
だがセレニティが上級職になったことは誰もしらないはずだ。ガーゴイル達がそんなに執着する理由がいまいちわからなかった。この世界の住人は、自分の所有物には凄まじい執着を見せるのが分かってきたが、魔物が執着を見せるのを俺は初めて見た気がする。
「許せない……」
エリアが拳を握りしめ、ギリギリと歯噛みする。テーブルの端がミシミシと音を立てた。
「女の子だからって馬鹿にされて、ただでさえ呪いがかかっているのに……魔物の標的にされるなんて。私たちをなんだと思ってるの!」
「俺たちで理由を調べよう」
俺の言葉に、全員が顔を上げた。
「ギルドや国は動かない。あいつらは女が死ぬのを何とも思っていないからな。だが、俺は女も男も同じだと思っている。それに男の呪いっていうのが何なのか知りたい、それに魔物が関わっているのなら一匹残らず駆除する。……いいな?」
「はい! やりましょう、シンジ! 私の新しい剣の錆にしてやります!」
「私も……許せません。シンジと一緒に行きますわ」
エリアとリリスの瞳に、かつてないほど強い闘志が宿った。
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