誰かが望んだ楽園の迷い人

AI異世界小説家

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第11章:三千年の呪縛と、哀れな先駆者の夢

勇者パーティーの女性たち怒り出す

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11-2
「……は?」
 漏れ出たのは、エリアの低い、地を這うような声だった。
 隣を見ると、エリアが鬼の形相で震えている。その瞳は、初めて会った時にあの腐った王様を睨みつけていた時と同じ――いや、それ以上に激しい、どす黒い憤怒に燃えていた。
「もちろん、その欲望はこの後ろにある水晶に『負のエネルギー』となり蓄積され、魔物の育成に使われている。女が弱くなり、男より能力が下がれば、女は一人で町から出ることすらできないからな。単純な理屈だ、女を町に閉じ込めて奪った力をこの水晶に集めて魔界では有効活用しておるのじゃ」
 悪魔神官は、エリアたちの殺気にも気づかず、得意げに語り続ける。
「それから何人も転生勇者がこの世界に来たが、どいつもこいつも勇者の末裔である『グランヴェル』の王に夜の世話をする女をあてがわれ、満足して一生を過ごしていたぞ。中には国中に娼館を建てた強欲の勇者もいたな。勇者の呪いでこの世界では女は男より多く生まれるようになった。……ふふ、人間の子供は世界を選んで生まれてくると聞いたことがある。人間の女はこの世界が好きで生まれてくるんだろうな。この世界の授かりものだ。娼館を建てまくった勇者も、女達が喜んでくれているって、大はしゃぎだったぞ。わしも人間に姿を変えて、何度か娼館に行ったことがあるからのう。たくさんいる女にはたくさん働いてもらう、それがこの世界が授かった恩恵じゃよ! わしもこの水晶のお陰で三千年長生きできておる!!」
悪魔神官の話が最高潮に盛り上がったところで、
バキィッ!!
硬質な音が響き渡った。
エリアの足元の石畳が、踏み込みだけで粉々に砕けていた。
「……ふざけるな……何が授かりものよ」
 エリアだけではない。
 リリスの周囲には漆黒の闇が渦巻き、セレニティの背後には神々しくも恐ろしい光背が出現している。温厚なリースでさえ、大剣の柄がミシミシと音を立てるほど強く握りしめていた。
「たった一人の男の……そんなくだらない、身勝手な欲望のために……! 私たちは三千年も……! 泥をすすり、家畜のように扱われてきたというの!?」
 エリアの叫びは、悲鳴にも似ていた。
 才能があっても認められない。努力しても「女だから」と笑われる。理不尽な暴力に晒されても、消耗品のように扱われ守ってもらえない。
 その地獄のような歴史のすべてが、一人の「モテない男」の八つ当たりから始まったという事実に、彼女たちの理性は完全に消し飛んだ。
「許さない……絶対に、許さないッ!! 覚悟しろ悪魔神官!」
「ヒッ、な、なんだその魔力は!? 何をそんなに怒ることがあるというのじゃ、全部お前たち人間が望んで授けてくれたものじゃないか!」
 悪魔神官が狼狽えて後ずさる。こいつには一生理解できないだろう。虐げられる側の痛みが。
「悪魔神官は聖属性の魔法が弱点だ!コイツ自体は不死身に近いが、聖属性なら消し炭にできるぞ!」
 俺はガルドに聞いたことを覚えていて、今悪魔神官と話して、こいつがなんで人間界を視察していたのか、わかった。自分を倒せる相手を3000年間を使って、封じ込めてきていたのだ。
「聖なる裁きを! 『ホーリー・クロス・スラッシュ』!」
「氷結地獄へ堕ちろ! 『コキュートス・ブレイカー』!」
「闇には闇を! 『アビス・インパクト』!」
「浄化せよ! 『セイクリッド・レイ』!」
勇者の魔法に聖属性の攻撃魔法はないが、そのかわりにセレニティとリースが俺の言葉に聖属性の攻撃魔法を悪魔神官に打ち込んだ。
 悪魔神官は慌てて得意の暗黒魔法障壁を展開しようとしたが、リリスが放った上位の闇魔法が、相殺した。悪魔神官は長年強敵と戦いをしてこなかったせいで、戦闘の勘がまったくない、勇者の俺と変わらなかった。無防備になったその体に、聖属性と氷属性の極大魔法が直撃する。
「ギャアアアアアッ!? バ、バカなァァァ! 我が三千年の栄光がぁぁぁ!」
 骨が砕け、ローブが焼け焦げる。再生する暇など与えない。次々と叩き込まれる怒りの連撃。
 悪魔神官は無惨にも地面に転がり、もはや骸骨の残骸のようになって虫の息となった。
「シンジ様、あの水晶を!」
 エリアが叫ぶ。
「その水晶をぶっ壊しましょう。あれが全ての元凶です!」
 リースがミスリルの大剣を構え、黒い水晶に肉薄する。
「ま、待て……! ゴホッ! ゴホッ! 良いのか勇者よ!」
 這いつくばった悪魔神官が、最後の力を振り絞って俺に問いかける。
「その水晶を壊すと世界のバランスが崩れる! 3000年前の勇者の呪いが消えて、以前のように強い女が生まれるようになるぞ! この世界で授かったもの、それは……男であるお前の望みの世界ではないのか!?」
 俺は冷めた目でその骸骨を見下ろした。
 哀れなやつだ。本当に、何もわかっていないのはお前の方だ悪魔神官。
「何が分かっていないというのだ、わしは数年に一度人間に変身してお前の国の娼館に行き、お前の国の人間と話をして、魔界では人間通で通っている!!」
「……お前には何を言っても分かってもらえない気がしてきたけど、俺はな、女を踏み台にしている世界があっても、一緒になって踏みつけたいなんて思わねーんだよ。」
 俺はエリアたちの背中を見た。怒りに震えながらも、自らの手で運命を切り開こうとする彼女たちの強さを。
「それに、俺はあいにく『三十歳オタクのゲーマー』の先輩とは趣味が合わないし、今までこの世界に来た勇者たちのやってることのほうが特殊な野郎だし一部でしかない奴らだ……リース、その水晶をぶっ壊せ! 粉々にだ!」
「御意!!」
 リースの大剣が一閃。
 カァァァァァァァッン!!!
 耳をつんざくような破壊音と共に、黒い水晶は粉々に砕け散った。内部に溜まっていたドス黒い霧が、断末魔のような音を立てて霧散していく。
「バ、カな……勇者め……今更世界が変わるわけ……ない……」
 水晶の破壊と連動していたのか、悪魔神官の体も黒い灰となってボロボロと崩れ落ちた。
 後に残ったのは、ただの静寂と、砕け散った水晶の欠片だけだった。
「終わった……のですか?」
 リリスが肩で息をしながら呟く。
「いや、まだだ」
 俺は窓の外、すぐ隣に見える巨大な城を睨み据えた。
「悪魔神官の方の水晶はこいつの個人的な趣味、あるいは中継点に過ぎないかもしれん。大元は、魔王の方だ」
 魔王城。
 三千年の取り返しのつかない呪いをかけた張本人達との、最後の決着をつける時が来たのだ。
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