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第12章:崩壊する男の力と、混沌の夜明け
魔王
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12-2
魔王の表情から笑みが消え、冷酷な支配者の顔が現れた。
「ならば死ね。いでよ、暗黒竜(ダーク・ドラゴン)よ! この分からず屋の人間どもを喰らい尽くせ!」
魔王が床を叩くと、巨大な魔法陣が出現し、そこから漆黒の鱗を持つ巨大なドラゴンが這い出してきた。
全長二十メートルはある巨体。口元からは絶えず黒い炎が漏れ出し、そのブレスは城壁をも溶かすだろう。
「シンジ、あれは……!」
「落ち着け! 俺が相手をする!」
俺は即座に詠唱を開始した。
「大地よ、我が意に従い巨人を成せ! 『サモン・ストーンゴーレム』!」
ズウウウン!
床の石材が集まり、3.5メートルほどの石のゴーレムが形成される。それがドラゴンの前に立ちはだかるが、サイズ差は歴然だ。大人と子供どころではない。
「グオオオオッ!」
ドラゴンの爪がゴーレムの岩の腕を一撃で粉砕する。
「くっ、やはりパワー負けするか……! だが、時間は稼げる!」
俺は叫んだ。
「みんな、魔王を狙え! ドラゴンは俺が引き受ける!」
「はいっ!」
「シンジ様、ご武運を!」
エリアたちが魔王に向かって走る。
魔王も大剣を抜き、迎撃態勢を取るが、四人の猛攻に防戦一方になり始めた。
「小癪なァ! 女風情が!」
魔王の剣戟をリースが盾で弾き、その隙をエリアが突く。リリスの闇魔法が視界を奪い、セレニティの光魔法が魔王の皮膚を焼く。
「こっちだ、トカゲ野郎!」
俺はゴーレムの残骸を足場に高く跳躍した。
ドラゴンが俺を視認し、大きく息を吸い込む。ブレスが来る。
「させないッ! 『ウォーター・イージス』! 重ねて『勇者の加護(シールド)』ッ!」
俺は全魔力を込めて、ドラゴンの口元――ブレスが放たれる寸前の口腔内に向けて、巨大な水の盾を「蓋」をするように展開した。
ボッ!!!
ブレスが口の中で水盾と衝突し、行き場を失った熱エネルギーが水蒸気爆発を起こす。
ドォォォォン!!
ドラゴンの顔面が内側からの爆発で裂け、黒煙が吹き出した。
「ギャアアアッ!」
怯んだ隙を見逃さない。
「これで……終わりだッ! 空間ごと斬り裂け、必殺・『次元斬(ディメンション・スラッシュ)』!!」
俺の剣が、認識できない速度で空間そのものを切断した。
一瞬の静寂。
次の瞬間、ドラゴンの巨首にズレが生じ、鮮血が噴水のように吹き上がる。だが、まだ死んでいない。ドラゴンの巨大な鉤爪が、死に物狂いで俺を襲う。
俺は横に飛び込むように避けるが、風圧だけで吹き飛ばされそうになる。長期戦になれば不利だ。
俺は『無限収納』からとっておきの自作武器を取り出した。
――魔動ライフル。
この世界にはない、俺の知識と錬金術の結晶。
俺は『次元斬』でつけたドラゴンの首の傷、その深部をスコープで捉えた。
「あばよ」
トリガーを引く。圧縮された魔力弾が、音速を超えて放たれる。
ドォォン!
魔力弾は傷口から体内に侵入し、ドラゴンの延髄を貫通した。
ズズ……ン。
巨体が地響きを立てて崩れ落ちる。俺はすかさずドラゴンの死体に触れ、『無限収納』の生物素材フォルダに収納した。これだけの素材、腐らせたらもったいない。
一方、魔王の方も決着の時を迎えていた。
「こ、この……女風情がァァッ! なぜだ、なぜこれほどの力が……!」
魔王は全身傷だらけになりながら、信じられないものを見る目でエリアたちを見ていた。
「私達は道具じゃない! 仲間と共に戦う冒険者だ!」
エリアが叫ぶ。彼女の持つミスリルの剣が、極限まで高まった魔力で青白く輝く。
「終わりです! 『スターダスト・ストリーム』!」
エリアの剣から放たれた無数の流星のような斬撃が、魔王の鎧を剥ぎ取り、全身を切り刻む。
「ぐあぁぁぁっ!」
魔王が玉座に倒れ込む。
俺たちは合流し、追い詰められた魔王を包囲した。
「し、しまっ……貴様ら、絶対に後悔するぞ! 何の権利があってその水晶を壊すんだ!」
魔王が血を吐きながら、背後のダーククリスタルを庇うように手を伸ばす。
「その呪いが解ければ、世界は……秩序を失うぞ!」
「黙れ! 誰かが泣かなきゃ保たれない秩序なんて、クソ食らえだ!」
リースが渾身の力でミスリルの大剣を振り上げた。
「邪悪な源よ、消え去れ!」
カァァァァァァァッン!!!!
大気を震わせる甲高い音と共に、ダーククリスタルが真っ二つに割れた。
瞬間、蓄積されていた三千年分の――当時の勇者が望んだ「男の妄執」のエネルギーが、爆発的に噴き出す。
「グギャギャギャギャギャ!!!」
魔王はその黒い奔流に飲み込まれた。「あの方の……夢がぁ……!」という断末魔と共に、その体は蒸発するように消滅していった。
黒い霧は城の天井を突き抜け、どす黒い雲となって世界中へと拡散していく。
「……やった、のか?」
静寂が戻った玉座の間で、俺たちは顔を見合わせた。
「はい……魔王の気配が、消えました」
セレニティがへなへなと座り込む。
俺はすぐにステータス画面を開き、『クリエイト・ハウス』で留守番をさせていた御者のクロエの状態を確認した。
【名前:クロエ 状態:健康(呪い解除)】
そこには、以前あった『男の呪い(能力制限)』の記述がきれいさっぱり消えていた。
「呪いが……消えたんだ」
俺の言葉に、エリアたちの目から涙が溢れ出した。三千年の歴史が、今ここで終わったのだ。
***
魔王討伐から数日後。
俺たちはクロエの御者する馬車で王都グランヴェルに凱旋した。
英雄としての凱旋パレード……でも行われるかなと想像していた俺たちは、王都の異様な光景に冷水を浴びせられたような気持ちになる。
「おい、どうなってるんだ!?」
街に入った俺たちの目に飛び込んできたのは、逃げ惑う男たちと、武装した女性たちの姿だった。
「あ、シンジ!」
人混みの中から、ミアが駆け寄ってきた。彼女の装備は一変していた。以前のボロボロの革鎧ではない。上質な素材で作られたスナイパー用のミスリル製のボディスーツに身を包み、背中には巨大な魔導ライフルを背負っている。
「ミア、これは一体……?」
「シンジたちが魔王を倒した後に、みんなの力が溢れ出してきたの! 私、上級職の『魔導狙撃手(スナイパー)』になれたんだよ!」
ミアだけではない。グレースのパーティメンバーたちも、全員が上級職に覚醒していた。
「それでね、城の妾や使用人たちが一斉に反乱を起こしたの。今まで虐げられていた分、もう誰も止められなくて……」
城では、力の戻った女性たちが衛兵をなぎ倒し、脱走。王様は一部の重臣と共に何処かへ逃亡し、行方不明になっていた。
街中でも、今まで男の冒険者の荷物持ちや妾をさせられていた女性たちが、その能力を開花させ、次々と独立していた。
「ふざけるな! 女の分際で!」
路地裏から怒号が聞こえた。
駆けつけると、薄汚れた元冒険者の男が、女性店主を殴ろうとしていた。
だが、女性店主は冷ややかな目で男の手を片手で受け止め、逆にねじり上げた。
「痛い痛い痛い! なんて力だ!」
「あら、お代は払っていただきますよ? もう私たちは、あなた達の言いなりにはなりませんから」
逆転現象。
能力の枷が外れた女性たちは、もはや男に頼る必要がなくなった。今まで「勝ち組」だった男たちの立場が一気に崩壊したのだ。
男たちの多くは、突然の変化を受け入れられず、プライドを傷つけられ、暴走し始めていた。
「シンジ、これ……思ったより深刻かも」
町の状況を見たエリアが不安そうに呟く。
「ああ。魔王が倒れてから数日で力関係が急激に変わりすぎた」
俺は決断した。
「俺たちで町のいざこざを収めよう。このままじゃ、男と女で別れて復讐と暴動の連鎖で国が滅びる」
俺は王都の郊外に、私設の『治安維持部隊』の詰め所を建設した。拠点はもちろん、巨大化させたクリエイト・ハウスだ。
そこには、俺たち『ブレイブ・ハート』を中心に、ミアやグレースのパーティ、そして解放された有志の女性冒険者たち、総勢百名ほどが集まった。
それからというもの、俺たちは火消しに奔走した。
「報告します! 東区画で元冒険者の集団が強盗を働いています!」
「よし、ミア部隊、制圧に向かってくれ!」
「了解! ……『アロー・レイン』で一網打尽にしてあげる!」
「西区画には怪我人が! グレース、頼む!」
「はーい! 任せてくださいな♡」
グレースは自宅にいる時に一度俺の世界にも架空の魔法少女がいたと、前世の魔法少女の話をしたら、その話は私のことかも知れませんとか言い出して、俺の話した魔法少女のような短めスカートの魔法使いのローブを気に入るようになった。俺は錬成の能力で試しで魔法使いのローブを作ってやった事があり、グレースはその魔法使いのローブを基準に装備を着るようになった。そして彼女は上位職になると『ハイ・ウィザード』でありながら回復魔法も使いこなす万能職になった。最近の彼女は、自分の作った衣装で俺の家に押しかけてくるのが日課だ。
「ねぇシンジさーん、この服、似合いますかぁ? 今日頑張ったご褒美に、このローブに魔法石のエンチャント掛けてくださいよー?」
俺の勇者スキルは錬成で制作した装備に魔法石を消費することで永続的なプラス効果が追加される。
上目遣いで迫るグレースに、エリアとリリスが対抗意識を燃やし、三人で俺の周りで色々と話すのが、この殺伐とした日々の唯一の癒やし(?)だった。
捕まえる犯罪者の事件件数は、魔物討伐のクエストを超えるようになってきた。その犯罪者は「元上級冒険者」の男たちだった。
留置所の中は、女性に暴行や強盗未遂などで捕まった男たちで満杯だ。
ある日、リリスが悲痛な顔で戻ってきた。
「シンジ……。昔のパーティメンバーを、捕まえました」
連行されてきたのは、以前リリスをオークの囮にして見捨てた男だった。彼はボロボロの姿で、虚ろな目をしていた。
「なんでだ……なんでこんな事になってんだ……」
男はブツブツと呟いていた。
「今までどこでも女たちを男たちが言い聞かせてきたじゃないか。何で急に言うこと聞かなくなってんだよ。 なあ、俺は悪くないよな? どの女も言うこと聞かねーじゃねーか。女の分際で刃向かいやがって……」
男は完全に精神を病んでいた。現実を受け入れられず、過去の栄光と歪んだ自分の世界にしがみついている。
「……おかしい」
俺はその様子を見て、違和感を覚えた。
ただのプライドの崩壊にしては、男たちの精神状態が異常すぎる。攻撃性が増幅され、理性が極端に低下している。まるで何かの衝動に動かされているようだ。
ふと、魔王城で見た、あの砕け散った水晶から溢れ出した「黒い霧」のことを思い出した。
「まさか、あの霧が……男たちの精神に影響を与えているのか?」
三千年の負のエネルギー。それが世界中に拡散し、今度は男たちの心の闇、喪失感や支配欲を増幅させているとしたら。水晶を壊した俺にはやらなくちゃいけないことがあるんじゃないか。
「シンジ様、どうされました?」
リースが心配そうに声をかけてくる。
「いや……まだ、戦いは終わってないかもしれない」
俺は窓の外を見る。
魔王は倒した。女性たちの呪いも解いた。だが、三千年かけて染み付いた「男たちのいつもの日常」の構造は、そう簡単には消えない。
そして、目に見えない「水晶の黒い霧」が、消えてしまったことは事実だ。それがなんらかの依存だとしたら、治療する必要もあるかも知れない。
「リリス、セレニティ。精神を安定させる薬の研究を始めたい。手伝ってくれるか?」
「はい、もちろんです!」
「シンジ様のためなら、何なりと」
俺たちは新たな戦いに向けて動き出した。
剣と魔法だけでは解決できない、人と人との争い。そして、心に巣食う闇との戦い。
魔王なき後の混沌の世界で、俺たち『ブレイブ・ハート』の本当の冒険は、ここから始まるのかもしれない。
俺はエリアの手を強く握りしめた。彼女もまた、強く握り返してくれた。
「行きましょう、シンジ。どこまでも」
楽園の迷い人たちの旅は、まだ終わらない。
魔王の表情から笑みが消え、冷酷な支配者の顔が現れた。
「ならば死ね。いでよ、暗黒竜(ダーク・ドラゴン)よ! この分からず屋の人間どもを喰らい尽くせ!」
魔王が床を叩くと、巨大な魔法陣が出現し、そこから漆黒の鱗を持つ巨大なドラゴンが這い出してきた。
全長二十メートルはある巨体。口元からは絶えず黒い炎が漏れ出し、そのブレスは城壁をも溶かすだろう。
「シンジ、あれは……!」
「落ち着け! 俺が相手をする!」
俺は即座に詠唱を開始した。
「大地よ、我が意に従い巨人を成せ! 『サモン・ストーンゴーレム』!」
ズウウウン!
床の石材が集まり、3.5メートルほどの石のゴーレムが形成される。それがドラゴンの前に立ちはだかるが、サイズ差は歴然だ。大人と子供どころではない。
「グオオオオッ!」
ドラゴンの爪がゴーレムの岩の腕を一撃で粉砕する。
「くっ、やはりパワー負けするか……! だが、時間は稼げる!」
俺は叫んだ。
「みんな、魔王を狙え! ドラゴンは俺が引き受ける!」
「はいっ!」
「シンジ様、ご武運を!」
エリアたちが魔王に向かって走る。
魔王も大剣を抜き、迎撃態勢を取るが、四人の猛攻に防戦一方になり始めた。
「小癪なァ! 女風情が!」
魔王の剣戟をリースが盾で弾き、その隙をエリアが突く。リリスの闇魔法が視界を奪い、セレニティの光魔法が魔王の皮膚を焼く。
「こっちだ、トカゲ野郎!」
俺はゴーレムの残骸を足場に高く跳躍した。
ドラゴンが俺を視認し、大きく息を吸い込む。ブレスが来る。
「させないッ! 『ウォーター・イージス』! 重ねて『勇者の加護(シールド)』ッ!」
俺は全魔力を込めて、ドラゴンの口元――ブレスが放たれる寸前の口腔内に向けて、巨大な水の盾を「蓋」をするように展開した。
ボッ!!!
ブレスが口の中で水盾と衝突し、行き場を失った熱エネルギーが水蒸気爆発を起こす。
ドォォォォン!!
ドラゴンの顔面が内側からの爆発で裂け、黒煙が吹き出した。
「ギャアアアッ!」
怯んだ隙を見逃さない。
「これで……終わりだッ! 空間ごと斬り裂け、必殺・『次元斬(ディメンション・スラッシュ)』!!」
俺の剣が、認識できない速度で空間そのものを切断した。
一瞬の静寂。
次の瞬間、ドラゴンの巨首にズレが生じ、鮮血が噴水のように吹き上がる。だが、まだ死んでいない。ドラゴンの巨大な鉤爪が、死に物狂いで俺を襲う。
俺は横に飛び込むように避けるが、風圧だけで吹き飛ばされそうになる。長期戦になれば不利だ。
俺は『無限収納』からとっておきの自作武器を取り出した。
――魔動ライフル。
この世界にはない、俺の知識と錬金術の結晶。
俺は『次元斬』でつけたドラゴンの首の傷、その深部をスコープで捉えた。
「あばよ」
トリガーを引く。圧縮された魔力弾が、音速を超えて放たれる。
ドォォン!
魔力弾は傷口から体内に侵入し、ドラゴンの延髄を貫通した。
ズズ……ン。
巨体が地響きを立てて崩れ落ちる。俺はすかさずドラゴンの死体に触れ、『無限収納』の生物素材フォルダに収納した。これだけの素材、腐らせたらもったいない。
一方、魔王の方も決着の時を迎えていた。
「こ、この……女風情がァァッ! なぜだ、なぜこれほどの力が……!」
魔王は全身傷だらけになりながら、信じられないものを見る目でエリアたちを見ていた。
「私達は道具じゃない! 仲間と共に戦う冒険者だ!」
エリアが叫ぶ。彼女の持つミスリルの剣が、極限まで高まった魔力で青白く輝く。
「終わりです! 『スターダスト・ストリーム』!」
エリアの剣から放たれた無数の流星のような斬撃が、魔王の鎧を剥ぎ取り、全身を切り刻む。
「ぐあぁぁぁっ!」
魔王が玉座に倒れ込む。
俺たちは合流し、追い詰められた魔王を包囲した。
「し、しまっ……貴様ら、絶対に後悔するぞ! 何の権利があってその水晶を壊すんだ!」
魔王が血を吐きながら、背後のダーククリスタルを庇うように手を伸ばす。
「その呪いが解ければ、世界は……秩序を失うぞ!」
「黙れ! 誰かが泣かなきゃ保たれない秩序なんて、クソ食らえだ!」
リースが渾身の力でミスリルの大剣を振り上げた。
「邪悪な源よ、消え去れ!」
カァァァァァァァッン!!!!
大気を震わせる甲高い音と共に、ダーククリスタルが真っ二つに割れた。
瞬間、蓄積されていた三千年分の――当時の勇者が望んだ「男の妄執」のエネルギーが、爆発的に噴き出す。
「グギャギャギャギャギャ!!!」
魔王はその黒い奔流に飲み込まれた。「あの方の……夢がぁ……!」という断末魔と共に、その体は蒸発するように消滅していった。
黒い霧は城の天井を突き抜け、どす黒い雲となって世界中へと拡散していく。
「……やった、のか?」
静寂が戻った玉座の間で、俺たちは顔を見合わせた。
「はい……魔王の気配が、消えました」
セレニティがへなへなと座り込む。
俺はすぐにステータス画面を開き、『クリエイト・ハウス』で留守番をさせていた御者のクロエの状態を確認した。
【名前:クロエ 状態:健康(呪い解除)】
そこには、以前あった『男の呪い(能力制限)』の記述がきれいさっぱり消えていた。
「呪いが……消えたんだ」
俺の言葉に、エリアたちの目から涙が溢れ出した。三千年の歴史が、今ここで終わったのだ。
***
魔王討伐から数日後。
俺たちはクロエの御者する馬車で王都グランヴェルに凱旋した。
英雄としての凱旋パレード……でも行われるかなと想像していた俺たちは、王都の異様な光景に冷水を浴びせられたような気持ちになる。
「おい、どうなってるんだ!?」
街に入った俺たちの目に飛び込んできたのは、逃げ惑う男たちと、武装した女性たちの姿だった。
「あ、シンジ!」
人混みの中から、ミアが駆け寄ってきた。彼女の装備は一変していた。以前のボロボロの革鎧ではない。上質な素材で作られたスナイパー用のミスリル製のボディスーツに身を包み、背中には巨大な魔導ライフルを背負っている。
「ミア、これは一体……?」
「シンジたちが魔王を倒した後に、みんなの力が溢れ出してきたの! 私、上級職の『魔導狙撃手(スナイパー)』になれたんだよ!」
ミアだけではない。グレースのパーティメンバーたちも、全員が上級職に覚醒していた。
「それでね、城の妾や使用人たちが一斉に反乱を起こしたの。今まで虐げられていた分、もう誰も止められなくて……」
城では、力の戻った女性たちが衛兵をなぎ倒し、脱走。王様は一部の重臣と共に何処かへ逃亡し、行方不明になっていた。
街中でも、今まで男の冒険者の荷物持ちや妾をさせられていた女性たちが、その能力を開花させ、次々と独立していた。
「ふざけるな! 女の分際で!」
路地裏から怒号が聞こえた。
駆けつけると、薄汚れた元冒険者の男が、女性店主を殴ろうとしていた。
だが、女性店主は冷ややかな目で男の手を片手で受け止め、逆にねじり上げた。
「痛い痛い痛い! なんて力だ!」
「あら、お代は払っていただきますよ? もう私たちは、あなた達の言いなりにはなりませんから」
逆転現象。
能力の枷が外れた女性たちは、もはや男に頼る必要がなくなった。今まで「勝ち組」だった男たちの立場が一気に崩壊したのだ。
男たちの多くは、突然の変化を受け入れられず、プライドを傷つけられ、暴走し始めていた。
「シンジ、これ……思ったより深刻かも」
町の状況を見たエリアが不安そうに呟く。
「ああ。魔王が倒れてから数日で力関係が急激に変わりすぎた」
俺は決断した。
「俺たちで町のいざこざを収めよう。このままじゃ、男と女で別れて復讐と暴動の連鎖で国が滅びる」
俺は王都の郊外に、私設の『治安維持部隊』の詰め所を建設した。拠点はもちろん、巨大化させたクリエイト・ハウスだ。
そこには、俺たち『ブレイブ・ハート』を中心に、ミアやグレースのパーティ、そして解放された有志の女性冒険者たち、総勢百名ほどが集まった。
それからというもの、俺たちは火消しに奔走した。
「報告します! 東区画で元冒険者の集団が強盗を働いています!」
「よし、ミア部隊、制圧に向かってくれ!」
「了解! ……『アロー・レイン』で一網打尽にしてあげる!」
「西区画には怪我人が! グレース、頼む!」
「はーい! 任せてくださいな♡」
グレースは自宅にいる時に一度俺の世界にも架空の魔法少女がいたと、前世の魔法少女の話をしたら、その話は私のことかも知れませんとか言い出して、俺の話した魔法少女のような短めスカートの魔法使いのローブを気に入るようになった。俺は錬成の能力で試しで魔法使いのローブを作ってやった事があり、グレースはその魔法使いのローブを基準に装備を着るようになった。そして彼女は上位職になると『ハイ・ウィザード』でありながら回復魔法も使いこなす万能職になった。最近の彼女は、自分の作った衣装で俺の家に押しかけてくるのが日課だ。
「ねぇシンジさーん、この服、似合いますかぁ? 今日頑張ったご褒美に、このローブに魔法石のエンチャント掛けてくださいよー?」
俺の勇者スキルは錬成で制作した装備に魔法石を消費することで永続的なプラス効果が追加される。
上目遣いで迫るグレースに、エリアとリリスが対抗意識を燃やし、三人で俺の周りで色々と話すのが、この殺伐とした日々の唯一の癒やし(?)だった。
捕まえる犯罪者の事件件数は、魔物討伐のクエストを超えるようになってきた。その犯罪者は「元上級冒険者」の男たちだった。
留置所の中は、女性に暴行や強盗未遂などで捕まった男たちで満杯だ。
ある日、リリスが悲痛な顔で戻ってきた。
「シンジ……。昔のパーティメンバーを、捕まえました」
連行されてきたのは、以前リリスをオークの囮にして見捨てた男だった。彼はボロボロの姿で、虚ろな目をしていた。
「なんでだ……なんでこんな事になってんだ……」
男はブツブツと呟いていた。
「今までどこでも女たちを男たちが言い聞かせてきたじゃないか。何で急に言うこと聞かなくなってんだよ。 なあ、俺は悪くないよな? どの女も言うこと聞かねーじゃねーか。女の分際で刃向かいやがって……」
男は完全に精神を病んでいた。現実を受け入れられず、過去の栄光と歪んだ自分の世界にしがみついている。
「……おかしい」
俺はその様子を見て、違和感を覚えた。
ただのプライドの崩壊にしては、男たちの精神状態が異常すぎる。攻撃性が増幅され、理性が極端に低下している。まるで何かの衝動に動かされているようだ。
ふと、魔王城で見た、あの砕け散った水晶から溢れ出した「黒い霧」のことを思い出した。
「まさか、あの霧が……男たちの精神に影響を与えているのか?」
三千年の負のエネルギー。それが世界中に拡散し、今度は男たちの心の闇、喪失感や支配欲を増幅させているとしたら。水晶を壊した俺にはやらなくちゃいけないことがあるんじゃないか。
「シンジ様、どうされました?」
リースが心配そうに声をかけてくる。
「いや……まだ、戦いは終わってないかもしれない」
俺は窓の外を見る。
魔王は倒した。女性たちの呪いも解いた。だが、三千年かけて染み付いた「男たちのいつもの日常」の構造は、そう簡単には消えない。
そして、目に見えない「水晶の黒い霧」が、消えてしまったことは事実だ。それがなんらかの依存だとしたら、治療する必要もあるかも知れない。
「リリス、セレニティ。精神を安定させる薬の研究を始めたい。手伝ってくれるか?」
「はい、もちろんです!」
「シンジ様のためなら、何なりと」
俺たちは新たな戦いに向けて動き出した。
剣と魔法だけでは解決できない、人と人との争い。そして、心に巣食う闇との戦い。
魔王なき後の混沌の世界で、俺たち『ブレイブ・ハート』の本当の冒険は、ここから始まるのかもしれない。
俺はエリアの手を強く握りしめた。彼女もまた、強く握り返してくれた。
「行きましょう、シンジ。どこまでも」
楽園の迷い人たちの旅は、まだ終わらない。
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その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。
世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。
そして何故かハンターになって、王様に即位!?
この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。
注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。
R指定は念の為です。
登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。
「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。
一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。
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