7 / 33
第一章 その魔女はコーンスープが苦手
初めての訓練
しおりを挟む
「まずは小さな干渉から。だそうだ」
魔女の城から歩いて少し、湖の横に作られた桟橋で、俺は魔女を相手に教鞭をとっていた。
「小さい干渉。わかった……」
小さい。それは俺のイメージでは【指先に火を灯す】だとか【手に砂を作り出す】だとか、そんな程度のものだった。
しかし彼女は、一つ指を振るだけで湖の色を透き通った青から、真逆ともいえる赤色に変えて見せた。
「これのどこが小さいんだ?」
と問いかけるが、この規格外の生徒はさもこれが普通だろうとでも言うかのよに涼し気に。
「だって【色】を変えるだけだよ?何かを出すより、簡単だと思うんだけど……」
変だったかな?と目で訴えかけてくる彼女から、俺は手元の書物に視線を移す。決して、逃げではない。
「えっと……。指に火って、つけれるか?」
とりあえず俺のイメージである小さな干渉をねだってみる。
というか、きっと俺のイメージは一般論として間違っていないだろう。だって本の挿絵もそんな感じだし。
「指にだけ?やってみるね」
そういって、彼女は人差し指を伸ばすと、数センチばかりの小さな炎を灯した。
それはまるで成功しているかのように見えたのだが。
油断をしたのもつかの間、その炎は何十倍にも膨れ上がり……。
気づくと俺は、空を見上げていた。
若干の倦怠感を覚えながらも起き上がると、桟橋に打ち付けそうなほどに頭を下げている魔女の姿が。
「……死んだのか?」
うん。と顔を上げた魔女は申し訳なさそうにいう。
「聞いた話だと、冒険者の中でも最上位のパーティーには、死者蘇生を行える回復術師がいるらしい」
急にそんな話をしだした俺を、彼女は不思議そうに見てくるが、俺は気にせず続ける。
「俺は、いつかそんなパーティーすら超せるようになりたいと思ってる。だから、ちょっとくらい殺したところで気にすんな。仲間になったらその何倍も生き返らせてもらうから」
俺は、自慢できるほど強くないから。そういってもう一度本を開く。幸いにも焦げ付きなどは見受けられなかった。いや、直したのか?
「なあ、これ……って、どうした!?」
真偽を確かめようと彼女を見れば、魔女は静かに泣いていた。
瞼をうっすらと濡らすほどの微かな涙ではあったが、手を触れられるほど近くにいることもあり、気づかないふりはできなかった。
だが恋愛経験どころか女友達すらろくにいたことのない俺にとっては、泣いている女性への対応が
てんで分からない。幼馴染はむしろ泣かせて来るような奴だったしな。
そんなこんなで慌てる俺に、魔女はただ一言。まっすぐにこちらの目を見て宣言した。
「私、頑張るよ」
そうして再び指先に火を灯す。
俺がまた空を見ることになったのは、ほんの数秒後のことだった。
死までが一瞬すぎて、痛くないのが幸いだよな……。
★
次に起きたとき、俺は一度魔女の練習をストップさせた。
なぜならいつまでも次のステップに進めないから。
そもそも、魔力制御の練習では、この過程は失敗することが前提なのだ。失敗の程度こそ違えど、この魔女の失敗例は本に載っていた。
「理想よりも干渉が強すぎる場合、魔力の注ぎすぎが考えられます。大きな干渉から縮めていく練習をしましょう……だそうだ。できる?」
「大きなって、大丈夫?」
「炎だと厳しそうだな。水とか、行けるか?」
たぶん……。と彼女は両手を空にかざす。
炎じゃ焼け死ぬことは確実だが、水なら即死は免れるだろう。そう思っての提案だったのだが。
「じゃあ、行くよ!」
世界がどっぷり、沈んでしまったのかと思った。
だって頭の数センチ上からはるか上空まで、澄んだ水の球体がゆらりと浮かんでいるのだから。
「お、おい……。大きすぎないか?」
おもわず呟くも、彼女は縮めることに集中しているようで聞く耳を持たない。
しかたなく彼女の作り出した球体を眺めれば、それは目に見える速度でみるみる縮んでいった。
だがしかし、民家の一回り小さいくらいの大きさまで縮んでくると、ピタリと動かなくなった。
一筋の汗を流しながら大きな水球をかかげる彼女を見ていると、これから大技を使う魔術師のように見えなくもないが彼女は生粋の魔女であった。彼女が苦しんでいるのは魔力が枯渇しそうになっているのではなく、その有り余る魔力ゆえに小さな作業が困難なだけ。
いわば、巨人に裁縫をさせるようなものなのである。
だからその手には小さすぎる針をへし折ってしまったとしても、それを責めることはできないのだ。
頭上から降りかかる大量の水。バケツどころかため池一つひっくり返したような水の暴力に押しつぶされつつ、俺は気まずそうにこちらを見る巨人の姿を睨んでいた。
「魔法って、使用者には効かないんだもんな……」
同じような位置にいたのにほとんど濡れた様子のない彼女に恨み言を投げる。
今回は死なずに済んだものの、服はびしょびしょだし無理やり曲げられた関節が痛む。
「うん。だから火とかも熱くないんだよ」
魔女はそれを嫌味だとは受け取らなかったようだ。だって得意げなんだもん。
毒気を抜かれた俺は再び本に書いてあることを伝えることにした。
「あとはこれを繰り返していくらしいぜ。まあ、しばらくは水でやってみようか」
「わかった。頑張る!」
さて、今日はあと何回魔法を食らうのだろうか。
魔女の城から歩いて少し、湖の横に作られた桟橋で、俺は魔女を相手に教鞭をとっていた。
「小さい干渉。わかった……」
小さい。それは俺のイメージでは【指先に火を灯す】だとか【手に砂を作り出す】だとか、そんな程度のものだった。
しかし彼女は、一つ指を振るだけで湖の色を透き通った青から、真逆ともいえる赤色に変えて見せた。
「これのどこが小さいんだ?」
と問いかけるが、この規格外の生徒はさもこれが普通だろうとでも言うかのよに涼し気に。
「だって【色】を変えるだけだよ?何かを出すより、簡単だと思うんだけど……」
変だったかな?と目で訴えかけてくる彼女から、俺は手元の書物に視線を移す。決して、逃げではない。
「えっと……。指に火って、つけれるか?」
とりあえず俺のイメージである小さな干渉をねだってみる。
というか、きっと俺のイメージは一般論として間違っていないだろう。だって本の挿絵もそんな感じだし。
「指にだけ?やってみるね」
そういって、彼女は人差し指を伸ばすと、数センチばかりの小さな炎を灯した。
それはまるで成功しているかのように見えたのだが。
油断をしたのもつかの間、その炎は何十倍にも膨れ上がり……。
気づくと俺は、空を見上げていた。
若干の倦怠感を覚えながらも起き上がると、桟橋に打ち付けそうなほどに頭を下げている魔女の姿が。
「……死んだのか?」
うん。と顔を上げた魔女は申し訳なさそうにいう。
「聞いた話だと、冒険者の中でも最上位のパーティーには、死者蘇生を行える回復術師がいるらしい」
急にそんな話をしだした俺を、彼女は不思議そうに見てくるが、俺は気にせず続ける。
「俺は、いつかそんなパーティーすら超せるようになりたいと思ってる。だから、ちょっとくらい殺したところで気にすんな。仲間になったらその何倍も生き返らせてもらうから」
俺は、自慢できるほど強くないから。そういってもう一度本を開く。幸いにも焦げ付きなどは見受けられなかった。いや、直したのか?
「なあ、これ……って、どうした!?」
真偽を確かめようと彼女を見れば、魔女は静かに泣いていた。
瞼をうっすらと濡らすほどの微かな涙ではあったが、手を触れられるほど近くにいることもあり、気づかないふりはできなかった。
だが恋愛経験どころか女友達すらろくにいたことのない俺にとっては、泣いている女性への対応が
てんで分からない。幼馴染はむしろ泣かせて来るような奴だったしな。
そんなこんなで慌てる俺に、魔女はただ一言。まっすぐにこちらの目を見て宣言した。
「私、頑張るよ」
そうして再び指先に火を灯す。
俺がまた空を見ることになったのは、ほんの数秒後のことだった。
死までが一瞬すぎて、痛くないのが幸いだよな……。
★
次に起きたとき、俺は一度魔女の練習をストップさせた。
なぜならいつまでも次のステップに進めないから。
そもそも、魔力制御の練習では、この過程は失敗することが前提なのだ。失敗の程度こそ違えど、この魔女の失敗例は本に載っていた。
「理想よりも干渉が強すぎる場合、魔力の注ぎすぎが考えられます。大きな干渉から縮めていく練習をしましょう……だそうだ。できる?」
「大きなって、大丈夫?」
「炎だと厳しそうだな。水とか、行けるか?」
たぶん……。と彼女は両手を空にかざす。
炎じゃ焼け死ぬことは確実だが、水なら即死は免れるだろう。そう思っての提案だったのだが。
「じゃあ、行くよ!」
世界がどっぷり、沈んでしまったのかと思った。
だって頭の数センチ上からはるか上空まで、澄んだ水の球体がゆらりと浮かんでいるのだから。
「お、おい……。大きすぎないか?」
おもわず呟くも、彼女は縮めることに集中しているようで聞く耳を持たない。
しかたなく彼女の作り出した球体を眺めれば、それは目に見える速度でみるみる縮んでいった。
だがしかし、民家の一回り小さいくらいの大きさまで縮んでくると、ピタリと動かなくなった。
一筋の汗を流しながら大きな水球をかかげる彼女を見ていると、これから大技を使う魔術師のように見えなくもないが彼女は生粋の魔女であった。彼女が苦しんでいるのは魔力が枯渇しそうになっているのではなく、その有り余る魔力ゆえに小さな作業が困難なだけ。
いわば、巨人に裁縫をさせるようなものなのである。
だからその手には小さすぎる針をへし折ってしまったとしても、それを責めることはできないのだ。
頭上から降りかかる大量の水。バケツどころかため池一つひっくり返したような水の暴力に押しつぶされつつ、俺は気まずそうにこちらを見る巨人の姿を睨んでいた。
「魔法って、使用者には効かないんだもんな……」
同じような位置にいたのにほとんど濡れた様子のない彼女に恨み言を投げる。
今回は死なずに済んだものの、服はびしょびしょだし無理やり曲げられた関節が痛む。
「うん。だから火とかも熱くないんだよ」
魔女はそれを嫌味だとは受け取らなかったようだ。だって得意げなんだもん。
毒気を抜かれた俺は再び本に書いてあることを伝えることにした。
「あとはこれを繰り返していくらしいぜ。まあ、しばらくは水でやってみようか」
「わかった。頑張る!」
さて、今日はあと何回魔法を食らうのだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。
しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。
絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。
一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。
これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
阿里
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた
黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆
毎日朝7時更新!
「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」
過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。
絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!?
伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!?
追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる