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聖王国からの支援
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アリシアは追放したジルに泣きつくという醜態をさらした。
いま思えば気が弱っていたのだ。精神的に弱っている時、人は平時には考えないようなとんでもない行動をするものだ。
アリシアは仕方なく、王国に戻った。そこにしか今のアリシアの居場所はなかった。死ぬわけにもいかなかった。死ねば人生は終わりだ。だが、逆に言えば死なない限り人生は続いていく。そういうものだ。当たり前ではあるが真理である。
「ど、どこに行っていたのですか!? アリシア様!」
外交大臣が言ってくる。
「別に……どこでもいいでしょ」
「国のトップがそんな事では困ります」
「別に。私なんてお飾りじゃない」
「それよりアリシア様! 朗報ですぞ! 朗報!」
「朗報?」
「聖王国が王国に対する支援の話を持ってきました」
「へー……」
「聖王国は多くのプリーストを抱えております。作業員の治療も捗るでしょうし。それに経済的支援もしてくれるそうです」
どうせ何か裏があるだろう。アリシアはそう考えた。人間行きつく先は結局自分の欲求なのだ。
「それで? 何か向こうから要求があったの?」
「ええ。とりあえずはアリシア様にお会いしてお話を聞いて欲しいとの事。それで聖王国に来て欲しいという事です」
断るにしても、直接会うより他にない。詳細な話を聞いてはいないのだ。こちらにとって利益のある話であるのは間違いない。聖王国の支援を受けなければ今の王国はとても立て直せそうにない。
「いいわ。行くわ」
「はい。馬車を手配しておきました。是非聖王国に向かってください」
アリシアは従者を従え、聖王国へと旅立つ。
◆◆◆
「よくぞ参られた、聖女アリシア。我が名はアトラス。聖王国の国王である」
玉座からアリシアを見下ろすのは聖王だった。白い司祭のような恰好をした、厳かな中年である。だが、何となくアリシアは自分と同じような印象を感じた。表向きはそう取り繕っているかもしれない。だが、中身は悪魔のような人間ではないか。
そう考えていた。何となく雰囲気でわかるのだ。同族の気配というものは。同じ穴の狢、その匂いを感じる。
「お初にお目にかかります。私がアリシア。王国ハルギニアの国王が亡きあと、国を率いし者です。援助の提案を頂き、誠にありがたく思っております」
「そうか。そう思って頂きこちらとしてもとても嬉しく感じているよ」
「して。援助の内容とは」
「金銭的支援、及び人材の支援を出来うる限りの事をこちらはするつもりだよ」
「上限などは?」
「ない。我が聖王国が仕えている神の慈悲は無限だ」
話が旨すぎる。得られる利益が大きすぎる場合、損失も通常大きくなる。リスクとリターンは紙一重だ。世の中にそんなおいしい話はない。
「何をお望みですか? 聖王。正直におっしゃってください。私はあなたの言葉をそのまま鵜呑みにするほど浅い人生経験をしてきたとは思っておりません」
にやり。聖王は笑った。その笑みは陰湿なもので、その素顔の覗かせるようなものだった。そこまで理解しているなら建前や綺麗事を並べる必要はないだろう。そのような感じであった。
「王国ハルギニアには我々と同じ神を信奉し、我が聖王国の傘下となって欲しい」
「それはつまりは……我が王国を取り込もうとしているという事ですか?」
「聞こえが悪いな。同盟を組もうといっているのだ。しかし対等な関係ではない。やはり我が聖王国の方が立場が上だからな。いうならば師と弟子のような、親と子のような。対等な力関係ではなく、上下関係を結ぼうという事だ」
「それは……」
「悪いようにはしない。なにせ我が聖王国と同じ神を信奉する、いわば私達の子供になるという事だからな」
「なんにせよ、私の一存では決まりませぬ。持ち帰らせてください。王国に帰り、大臣たちと相談の末決定させて頂ければと存じます」
「そうか。そうだろうな。良い返答を期待しているよ」
にやり。聖王は笑った。それもまた含みのある笑みであった。
それからしばらくして、詳細な条件が書面で取り交わされ、王国ハルギニアは聖王国の正式な同盟国になった。表向きは同盟国ではあるが、現実には属国であった。
王国は聖王国に支配国となったのだ。
いま思えば気が弱っていたのだ。精神的に弱っている時、人は平時には考えないようなとんでもない行動をするものだ。
アリシアは仕方なく、王国に戻った。そこにしか今のアリシアの居場所はなかった。死ぬわけにもいかなかった。死ねば人生は終わりだ。だが、逆に言えば死なない限り人生は続いていく。そういうものだ。当たり前ではあるが真理である。
「ど、どこに行っていたのですか!? アリシア様!」
外交大臣が言ってくる。
「別に……どこでもいいでしょ」
「国のトップがそんな事では困ります」
「別に。私なんてお飾りじゃない」
「それよりアリシア様! 朗報ですぞ! 朗報!」
「朗報?」
「聖王国が王国に対する支援の話を持ってきました」
「へー……」
「聖王国は多くのプリーストを抱えております。作業員の治療も捗るでしょうし。それに経済的支援もしてくれるそうです」
どうせ何か裏があるだろう。アリシアはそう考えた。人間行きつく先は結局自分の欲求なのだ。
「それで? 何か向こうから要求があったの?」
「ええ。とりあえずはアリシア様にお会いしてお話を聞いて欲しいとの事。それで聖王国に来て欲しいという事です」
断るにしても、直接会うより他にない。詳細な話を聞いてはいないのだ。こちらにとって利益のある話であるのは間違いない。聖王国の支援を受けなければ今の王国はとても立て直せそうにない。
「いいわ。行くわ」
「はい。馬車を手配しておきました。是非聖王国に向かってください」
アリシアは従者を従え、聖王国へと旅立つ。
◆◆◆
「よくぞ参られた、聖女アリシア。我が名はアトラス。聖王国の国王である」
玉座からアリシアを見下ろすのは聖王だった。白い司祭のような恰好をした、厳かな中年である。だが、何となくアリシアは自分と同じような印象を感じた。表向きはそう取り繕っているかもしれない。だが、中身は悪魔のような人間ではないか。
そう考えていた。何となく雰囲気でわかるのだ。同族の気配というものは。同じ穴の狢、その匂いを感じる。
「お初にお目にかかります。私がアリシア。王国ハルギニアの国王が亡きあと、国を率いし者です。援助の提案を頂き、誠にありがたく思っております」
「そうか。そう思って頂きこちらとしてもとても嬉しく感じているよ」
「して。援助の内容とは」
「金銭的支援、及び人材の支援を出来うる限りの事をこちらはするつもりだよ」
「上限などは?」
「ない。我が聖王国が仕えている神の慈悲は無限だ」
話が旨すぎる。得られる利益が大きすぎる場合、損失も通常大きくなる。リスクとリターンは紙一重だ。世の中にそんなおいしい話はない。
「何をお望みですか? 聖王。正直におっしゃってください。私はあなたの言葉をそのまま鵜呑みにするほど浅い人生経験をしてきたとは思っておりません」
にやり。聖王は笑った。その笑みは陰湿なもので、その素顔の覗かせるようなものだった。そこまで理解しているなら建前や綺麗事を並べる必要はないだろう。そのような感じであった。
「王国ハルギニアには我々と同じ神を信奉し、我が聖王国の傘下となって欲しい」
「それはつまりは……我が王国を取り込もうとしているという事ですか?」
「聞こえが悪いな。同盟を組もうといっているのだ。しかし対等な関係ではない。やはり我が聖王国の方が立場が上だからな。いうならば師と弟子のような、親と子のような。対等な力関係ではなく、上下関係を結ぼうという事だ」
「それは……」
「悪いようにはしない。なにせ我が聖王国と同じ神を信奉する、いわば私達の子供になるという事だからな」
「なんにせよ、私の一存では決まりませぬ。持ち帰らせてください。王国に帰り、大臣たちと相談の末決定させて頂ければと存じます」
「そうか。そうだろうな。良い返答を期待しているよ」
にやり。聖王は笑った。それもまた含みのある笑みであった。
それからしばらくして、詳細な条件が書面で取り交わされ、王国ハルギニアは聖王国の正式な同盟国になった。表向きは同盟国ではあるが、現実には属国であった。
王国は聖王国に支配国となったのだ。
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