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第4話 小麦からパンを作り出す

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「はぁ……はぁ……はぁ……やっと終わりました」

「……はぁ……はぁ……はぁ、そうだな。やっと終わったな」

 俺達は小麦の収穫を終えた。

「ただでさえ、すいていたお腹がますます、すいてしまいました」

 ティファリアは腹をさする。

「……そうだな。労働をした事だし、この小麦からパンを作るか」

「でも、どうやってパンを作るのですか? こんな何もない北の辺境で。こんな作物があったくらいでは、とてもおいしく食べれそうにもありません。草でもかじっているかのような気分になってしまいます」

 ティファリアはそう言って嘆いた。

「本来、小麦からパンを作るには、小麦だけでは不可能だ。小麦粉に牛乳やバターも必要だ。それにオーブンだって必要になってくる」

「まあ! ……そんなに色々な物が必要になってくるのですね。生きるのって大変な事な事です」

「そうだ。だから、普通は人間は群れを成す。人間だけではない。エルフやドワーフもそうだ。大抵が国を作り、共同して生活している。そうしなければ、パン一つ作り出す事すら、困難だからだ」

「はぁ……国を出て初めて、そのありがたみに気づきました。だったら、私達は小麦を収穫できても、肝心のパンを食べられる事は出来ないのですから、飢え死ぬしかないのでしょうか?」

「……まあ、待て。そう勝手に絶望するな。本来であるならばこんなズル——魔法は使いたくないが、今、ティファリアはお腹が減っている」

ぐうーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!

 再度、ティファリアはお腹を盛大に鳴らした。ティファリアの顔が羞恥のあまり、真っ赤に染まる。

「……は、はい。申し訳ありませんが、私は今、すごく、ものすごく、お腹が減っているのです」

「そうだ。だから、ここはもう、四の五の言っていられない。魔法を使わざるを得ない……」

 俺は無詠唱で魔法を発動させる。俺の魔力が高まり、バチバチと火花を散らした。

「こ、これは。な、なんと凄い力でしょうか……一体、これから何が」

「創造魔法(クリエイト)」

「そ、創造魔法(クリエイト)。い、一体、グレン様はどんな魔法を使うつもりですの……」

「魔法道具(アーティファクト)!」

 俺の魔力が集約していき、一つの魔法道具(アーティファクト)が作り出された。

「こ、これは一体……何なんですの。一見すると、ただのオーブンのように見えませんが……」

 その作り出された魔法道具(アーティファクト)とは、ティファリアが言っているように、一見ただのオーブンにしか見えない物であった。

「このオーブンは一見するとただの普通のオーブンにしか見えない。だが、俺の創造魔法(クリエイト)により作り出した魔法道具(アーティファクト)なんだ」

「魔法道具(アーティファクト)、とは一体、どんな道具(アイテム)ですの?」

「特別な効果や魔法が込められた道具(アイテム)の事だ。普通、魔法はその使用者しか使えないだろ? 例えば俺の魔法をティファリアに譲り渡す事はできない。しかし、魔法道具(アーティファクト)であれば、それに込められた効果や魔法を使用できるようになるのだ」

「つまり、魔法道具(アーティファクト)を使用すれば、誰でも魔法が使えるようになると」

「そうだ……その通りだ。だが、当然のように制約もある。魔法道具(アーティファクト)に込められた魔法の効果は限定的なものが大半だ。大抵の場合、一個か二個の用途でしか使う事は出来ない。だが、誰でも使えるのだから便利は便利だ。魔法が使えない人でも、魔法が使えるんだからな」

「た、確かに、それは凄いですし、素晴らしい事ですね。それで、このオーブンにはどんな魔法の効果が込められているのですか!?」

 ティファリアは目を輝かせて聞いてくる。

「その効果はな……なんと」

「……なんと?」

「このオーブンは『小麦を入れるだけでパン』ができるという魔法の効果が込められているんだ」

「はっ! まさかっ! そんな事がっ! って……その言葉だけを聞くと別になんて事なさそうですね」

 ティファリアは呆気にとられたような顔になる。

「うっ……確かに、その通りだ。この魔法道具(アーティファクト)は派手なものじゃない。それこそ、雷が出て敵を倒すような、わかりやすく派手なものではない。だから、その凄さも理解しづらいだろう。だが、しかし、今の俺達、特にティファリアにとっては必要なものなんだっ!」

 俺はそう力説する。

「論より証拠。何より実践してみるしかない。ティファリア、このオーブンに小麦を入れるんだ」

「は、はい! わかりました!」

 ティファリアはオーブンに小麦を入れる。

「点火するぞ」

「は、はい!」

 オーブンに火が灯る。

「そして五分くらい待つんだ」

「は、はい! 五分待ちます!」

 時間が過ぎる。

「こう、待っている五分って随分と長く感じますね」

「まあ……なんでかな。待ち遠しいからかな」

 五分……わざわざ加速魔法(ヘイスト)で時間を早める程のものでもないだろう。逆に焼きすぎてしまう結果にもなりかねない。

 チーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!

 オーブンが音を奏でた。五分経ったのだ。

「で、できた。ティファリア、オーブンを開けてみろ」

「は、はい! こ、これは!」

 ティファリアはオーブンの中から、大量のパンを取り出してきたのだ。

「凄い、こんなにパンが沢山、しかもあんなあっと言う間にできるなんて。地味な魔法効果ですが、今の私達にとっては何よりも必要なものですっ!」

 ティファリアは涙ながらに喜んだ。

「そうだろ……そうだろ」

 俺は頷く。

「あ、あの……グレン様」

「ん? なんだ?」

「た、食べてもよろしいでしょうか」

「ああ……勿論だ。小麦は収穫すればまだあるし。なくなったなら、種を植えればいいだけなんだから」

「ありがとうございます! パクパクパク!」

 ティファリアは出来たばかりのパンを頬張る。

「うっ!」

 ティファリアの動きが止まる。

「どうした!? ティファリア!? 大丈夫か!? 喉にパンを詰まらせたのかっ!」

「違いますっ! パンがとてもおいしいんですっ! それで感激したんですっ! 私、こんなおいしいパン、初めて食べましたっ!」

「大袈裟な奴だな……空腹な何よりものご馳走とも言う。腹が減ってれば、その分おいしく感じるのは当然の事だよ」

「空腹だからおいしいというだけではありません。ほら、グラン様も食べてください」

 俺はパンを一個渡される。

「ありがとう」

 俺は受け取った。そして、頬張る。口にパンの味が広がった。バターもジャムに何もつけていないが、それでも十分においしかった。

「……これは確かにおいしいな」

「でしょう? 私の言った通りです」

 ティファリアは胸を張った。

 別にティファリアは何もしていないだろう。ただパンを食べただけで。そう思ったが、わざわざ俺はそれを声に出す事はなかったのだ。

 こうして俺達はパンを作り出し、食べて空腹を満たしたのだ。
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