サンカヨウ

東雲

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 佐藤と僕の家は近かった。歩いて十分もせずに互いの家に行くことができる。先に佐藤の家が見えてくる。

「わー、もう俺ん家かよ~」
佐藤は眉尻を下げてそう嘆く。
「今日はいつもより早く着いた感じがするね」
別のクラスになったことにより共感できる思い出が減ったためか今日の二人の会話には休憩がなかった。今までなら学校の話が一通り終わったら、各々の好きなものの話をする、それで佐藤の家にちょうど着くような感じだった。しかし今日は学校の話だけで盛り上がりすぎてしまい二人も気付かぬうちに佐藤の家の前にいたのだ。

「もう少し話してたいな~、ね、そこのコンビニ寄らない?」
佐藤はここより二十メートルほど離れたコンビニを指さす。
「また来た道戻るの?」
僕はそう言って笑った。
「木田だってまだ話し足りないだろ?」
「ふふ、うん、そうだね、コンビニ行こう」
「よっしゃ!何食べよ」
佐藤は満足げに笑うと歩くスピードを少しあげてコンビニへ向かう。僕は彼に着いていくように歩いて行った。

 と、どこからか桜の花びらが舞ってきた。右を見てみるとそこには満開の桜がゆらゆらと揺られていた。そこは小さいながらも僕たちの遊び場であった公園である。この地区に住む子供たちはこの公園で少ない遊具や砂場で遊んでいる。

 一枚の花びらが風に揺られて僕たちの方へ飛んできた。その花びらはふわふわとなびく佐藤の髪の毛に落ち着いた。僕はそれがなんだか可愛いと思いスマホのカメラ機能を使ってこっそり撮る。しかしそのカメラはしっかりとカシャッという音を鳴らした。
「何撮ってんだよ~」
佐藤はふわふわ笑いながら振り返る。
「見て、佐藤に桜が咲いた」
僕はその画面を佐藤に向ける。
「え!気づかんかった!てかその写真めっちゃ綺麗」
佐藤はそう言うと自分のスマホを取りだし「エアドロで送って!」と笑う。僕はエアードロップという近くにいる人に自分の画像や動画を送ることができる機能を使い、佐藤に写真を送信する。
「ありがとう!お礼にアイス、奢るよ」
佐藤は桜を咲かせている自分のスマホの画面を顔の横に持ってくるとそう言ってニカッと笑う。

「アイスか、バニラがいいな」
「オッケー!じゃあ俺はチョコミント!」
二人は制服のジャケットをくっつけながらコンビニへと入っていった。

 「じゃあ、今度こそまた明日!」
コンビニでアイスを買い、公園のベンチで駄弁っていた僕らは空が暗くなったのを合図にまた佐藤の家まで歩いていった。
「うん、明日の朝からは迎え行くね」
僕はそう言うと肩から少しズレていたリュックを背負い直す。
「うん!もう一人で登校とか、やめろよ?」
佐藤はそう言うと「バイバイ」と手を振った。僕もそれに応え、「また明日」と手を振り返す。佐藤の家のドアがガチャッと閉まる音を聞いて僕は一人、思い耽る。

 高校最終年、一日目。いろんなことがたくさん起きた。一定の波で過ごしてきた僕には対応し切れない程の出会いがあった。一般にそれは『最悪』と呼べるものであった。しかしどうだろう。今の僕はぽかぽかと春の昼頃の空気のように暖かい。
 今日も佐藤に助けられてばかりだった。申し訳ないという気持ちとは裏腹に、そんな友達を持てた奇跡に口元を緩めてしまう。

 家の鍵を開けると甘いカレーの香りがした。「おかえり~」母の声がした。
「ただいま」
靴を脱ぎながら少し声を張って言う。廊下を滑るように歩きリビングに行くと母はニコニコ笑いながら口を開く。
「何かいいことがあったんだね」
「ううん、最悪だったよ」
「あら、あの子、えーと……」
「佐藤、あ、な、渚紗?」
「あ、そう!渚紗くん!その子とは?クラス分かれちゃった?」
「うん、別のクラスにされちゃったし、僕の後ろの人、なんかすんごい怖いし……」
「あら~、それは嫌だね……」
「でもね、佐藤と帰ってきてさ、すごい楽しくて」
母の顔は僕が口を開く度に曇っていったが、僕の笑顔を見てホッとしたのか目尻に皺を寄せる。
「明日からも頑張ろうと思えたよ」
「そう、良かった。制服、着替えてきなさい」
母はそう言うと止めていた手を動かし始めた。僕は「うん」と言い、リビングを出て二階に登り自分の部屋に入る。制服をハンガーにかけ、中学の頃のジャージに着替える。
 
目に見えたベッドに安心できそうで、ほんの少し寝るつもりで横たわった。スマホのアラーム機能で三十分後にアラームが鳴るように設定し目を瞑った。

 木田は酷く疲れていたのだろう。微かに香るカレーの匂いにお腹がすいたと目を覚ますこともなく、ぐっすりと深い眠りについてしまった。
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