サンカヨウ

東雲

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 月日は流れ、季節は梅雨に入っていた。僕は相変わらず佐藤と一緒に登下校し毎日の学校の出来事を駄弁っている。倉本はというと新学期初日のあの出来事以来なにも関わっていない。

 僕はやっぱりクラスの底辺として孤立していて、倉本は何を言わなくても一軍に囲まれているクラスの王となっていた。僕にはそれが大変嬉しかった。

 日に日に彼に怯える必要もなくなり、二年生までのような安定した日々を送ることができていた。今ではあまり彼を意識することなく生活できている。

 「今日はグループワークをします」
先生のその言葉に冷や汗をかいた。グループワーク、僕の今までの経験では近くの席の人と一緒に行ってきたものだ。近くの席、ということは、倉本がいる。
 
 あの時の緊張が蘇ってくるようだった。これからは彼と関わらなくて済むと思っていたのに、まさかここで嫌でも話をしないといけないのか。僕は目の前が真っ暗になった。

「前後の席で二人のグループを作って」
先生のその声にめまいがしてしまった。前後で二人、つまり、僕と倉本だ。

 僕は前世でどんな大罪を犯したのだろう。複数人のグループならまだ会話に参加しなくても良いという期待が残されていた。しかし、二人というのは本当に嫌でも話さなければいけないのだ。ただでさえ話すことが苦手なのに、相手は『倉本』である。息があがっているのを感じる。僕は肩をキュッとあげたまま緊張して動けないでいた。

「おい」
倉本の低い声が聞こえた。と同時にイスの脚を強く蹴られた。僕は「は、はい!」と言うと恐る恐る振り返ってみる。凄まじい圧だった。腕を組ませてふんぞり返っている。まるでこの国の王であるとでも言うかのように偉そうにそのイスに座っていた。

「あ、え、えっと、何を話すんですっけ……」
僕は締まってしまった喉から精一杯の声を出す。
「好きな国について調べんだよ」
倉本は迷惑そうにため息をつくとそう言った。
「す、好きな国……ど、どど、どこが、いいですか、ね、ははは」
「おい」
「は、はいっ」
「その敬語、やめろよ」
「え?」
「同い年の奴に敬語とか、きめぇだろ」
誰のせいだよ、と内心思っていると周りのみんながクスクス笑っていることに気づく。

「異色の二人すぎる、やばい」
女子が僕たちにスマホを向けて笑う。
「木田くんが可哀想だよ~、いじめないであげて?倉本」
「いや普通に、倉本も可哀想だろ」
「確かに。木田くんってなんか、ね」
そんな会話をしながらこちらを見ていた。また四月のあの時のように苦しくなった。何も言い返せなかった。ここでノリの良い発言や逆に「やめろ」と強く言える勇気がなかった。

 すると倉本は自分の机を蹴ると
「お前ら、うるせーわ」
と声を荒らげた。僕含めクラスのみんなは彼の大きな声を聞いたことがなかったので一気に静かになる。
「授業くらい真面目にやれよ」
倉本はそう言うとスマホで何かを調べ始めた。周りのみんなは彼に萎縮してしまい、とうとう何も言えず静かに授業へと戻って行った。

 もしかしたら僕はまた倉本に助けられたのかもしれない。いや彼自身は助けていないのだろうが僕は彼の発言にまた助けられた。なぜか少しだけ安堵してしまい、ふぅと深呼吸をする。

「ここ」
倉本はそう言うと僕にスマホの画面を見せてきた。

そこには『日本』の文字と日本地図、和食などの画像が映されていた。好きな国のことか、と思い思わずふっと笑ってしまう。しかし瞬時にそれは誤った行動だと思い「すみま、あ、ご、ごめん」と謝る。
「何笑ってんの」
「あ、いや、あの、日本、なんだなって……」
「悪い?」
「いや、意外と『和』なんだなって……その、ごめん……!」
倉本は僕のその言葉を無視するとその『和』の国について調べ始めた。この授業ではスマホを使っても良かったので僕もスマホで調べ始める。
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