8 / 12
8
しおりを挟む
日本について順調に調べていき残り時間が半分になった頃、僕のスマホに誰かからのラインが来た。
おじいちゃんからだった。スマホに不慣れで中々連絡をくれない人からの連絡に今気づいてしまったので見たいのに見れないという状況にムズムズしていた。そんな僕の不自然な動きに何かを勘づいたのか倉本は「見れば?」と言う。
「い、いやでも、授業中だし」
「見るくらいならいいだろ。俺らもう終わるし」
「う、うん」と言って僕はその通知をタップする。
何かの写真が送られてきているようだった。
そこにはどこかの山で撮ったのだろう、生い茂る雑草の中に光る透明な花が映っていた。信じられないだろう。しかし本当なのだ。静かながらも強く光る、ガラス細工のように美しい透明な花だったのだ。僕は思わず「綺麗……」と口にする。
「あ?」
「あ、いやえっと、こ、この花、すごい、き、綺麗……」
そう言うとその画面を倉本の方に向ける。
「サンカヨウ……」
倉本はおじいちゃんからのメッセージを読むとそう呟いた。
「水に濡れると透明になる花、サンカヨウ、見つけたよ」
僕もメッセージを呟く。
僕たちは数秒その花の美しさに気を取られていた。
「あ、いや、どーでもよ」
倉本は前かがみになっていた姿勢をイスの背もたれに寄りかかるようにして戻すとそう言った。
「あ、ご、ごめん」
こんな話どうでもいいよなと僕は謝る。僕は「綺麗だね」と早打ちで送るとスマホの画面を閉じた。
「はい、じゃあ、ここのグループから発表してください」
先生はそう言うと僕の右斜め前の方に手を向けた。指名されたグループの代表一人が立ち上がり発表を始める。僕たちは五番目だった。
倉本が発表してくれるらしい。彼が自分から名乗り出たのだ。きっと自分で調べたことを僕に違う解釈で説明されることが嫌なのだろう。僕もこのクラスの中でただ一人自分だけが立って数分それについて説明する、なんてこと冗談でもやりたくなかったので好都合だった。彼らの説明は思っていたよりも短くあっという間に僕たちの順番になる。
先生が「次!そこかな?」と僕たちを指さすと倉本は黙って立ち上がった。周りのみんなは密かに倉本か僕かどちらが代表なのか気になっていたのだろう。倉本のイスが動き出した瞬間ざわざわと騒ぎ始める。
「はーい、静かにして」
先生は生徒を静められるくらいの声量でそう言うと教壇をバンバン叩く。生徒はそれで多少は落ち着いたが、やはり普段みんなに冷たく常にだるそうにしている倉本がこのような発表の代表になったことを面白く感じて笑みを消せないでいる。先生はこれ以上は無理だと諦め、「倉本くん、お願いします」と言う。
「俺たちが調べた国は日本、です」
倉本がカタコトの敬語で言うとこの部屋の中は一瞬の静寂こそあったもののすぐに笑い声が充満した。
「待って待って、日本?」
「これ選んだの絶対木田くんでしょ」
「木田くんさ、ほんとなんか」
「普通につまらんくない?」
彼らはそんなことを言いながらゲラゲラ笑っている。
「選んだん、俺」
またこの部屋の中が静寂で包まれる。今度は一瞬なんかではなく、僕でもこれは気まずいやつだと感じられるほど。
「いや、ちょ、倉本まじ?」
口を開いたのはクラスのお調子者、武田だった。彼は机に手をつき立ち上がると
「日本ってお前、ボケのつもりなん?」
倉本を指さしながら笑う。倉本は武田の方を睨むと性格の悪い人のように黒目を上にあげため息をつく。
「ボケとか、なくね」
倉本はそう言うと何事もなかったかのように日本について僕らが調べたことを発表し始めた。武田はそんな倉本に従うように黙ってイスに座った。
このように、彼を見てもらうと分かるだろうが彼はとてつもなく冷たい。倉本と武田は仲が悪いわけではない。むしろ昼休みなど自由時間は常に一緒にいるイメージだ。一緒にいる、は語弊があったかもしれない。正しくは、武田が倉本に従っている、イメージだ。
僕が言うのもなんだが、彼は本当に最低な人だ。あの冷たく鋭い瞳で誰かを傷つけ、ぶっきらぼうな言葉でとどめを刺す。僕が言えたものではないかもしれないが、彼は本当は嫌われてもおかしくない人だと思う。ではなぜ彼が嫌われず、むしろクラスの人気者となっているのか。
それは、彼が『容姿端麗だから』である。サラサラの髪の毛に白く透き通る肌、抜群のスタイル。そして、麗しい茶髪から垣間見える鋭いあの瞳は機嫌の良い時であれば切れ長で妖美なのだ。クラスの女子だけでなく他学年の女子ですらも彼に魅了されている。いつもは冷たい彼がいつかは自分に向けて笑いかけてくれるのではないかと期待を寄せながら──
そんなことを思われている倉本だ。当然、彼の周りにはモテたいと思う男子が集まる。倉本と仲が良いというだけで、女子から話しかけてもらえるきっかけになるし、自分の価値が上がったように感じるのだ。だから倉本は自分からここに馴染もうとしなくても、勝手に彼色に染まってしまう。武田だけではない、このクラスの男子ほとんどが彼に従ってしまっている。
僕はというと、武田たちや倉本とそこまでできるような仲ですらないので、ある意味孤立している。逆張りだと思われるかもしれないが、それ以前なのである。僕は彼らのような陽の人間とは仲良くなれない。緊張してしまうのだ。何を話せばいいのか分からないし、ああ言うノリについていけないのだ。僕は根っからの陰キャなのである。
おじいちゃんからだった。スマホに不慣れで中々連絡をくれない人からの連絡に今気づいてしまったので見たいのに見れないという状況にムズムズしていた。そんな僕の不自然な動きに何かを勘づいたのか倉本は「見れば?」と言う。
「い、いやでも、授業中だし」
「見るくらいならいいだろ。俺らもう終わるし」
「う、うん」と言って僕はその通知をタップする。
何かの写真が送られてきているようだった。
そこにはどこかの山で撮ったのだろう、生い茂る雑草の中に光る透明な花が映っていた。信じられないだろう。しかし本当なのだ。静かながらも強く光る、ガラス細工のように美しい透明な花だったのだ。僕は思わず「綺麗……」と口にする。
「あ?」
「あ、いやえっと、こ、この花、すごい、き、綺麗……」
そう言うとその画面を倉本の方に向ける。
「サンカヨウ……」
倉本はおじいちゃんからのメッセージを読むとそう呟いた。
「水に濡れると透明になる花、サンカヨウ、見つけたよ」
僕もメッセージを呟く。
僕たちは数秒その花の美しさに気を取られていた。
「あ、いや、どーでもよ」
倉本は前かがみになっていた姿勢をイスの背もたれに寄りかかるようにして戻すとそう言った。
「あ、ご、ごめん」
こんな話どうでもいいよなと僕は謝る。僕は「綺麗だね」と早打ちで送るとスマホの画面を閉じた。
「はい、じゃあ、ここのグループから発表してください」
先生はそう言うと僕の右斜め前の方に手を向けた。指名されたグループの代表一人が立ち上がり発表を始める。僕たちは五番目だった。
倉本が発表してくれるらしい。彼が自分から名乗り出たのだ。きっと自分で調べたことを僕に違う解釈で説明されることが嫌なのだろう。僕もこのクラスの中でただ一人自分だけが立って数分それについて説明する、なんてこと冗談でもやりたくなかったので好都合だった。彼らの説明は思っていたよりも短くあっという間に僕たちの順番になる。
先生が「次!そこかな?」と僕たちを指さすと倉本は黙って立ち上がった。周りのみんなは密かに倉本か僕かどちらが代表なのか気になっていたのだろう。倉本のイスが動き出した瞬間ざわざわと騒ぎ始める。
「はーい、静かにして」
先生は生徒を静められるくらいの声量でそう言うと教壇をバンバン叩く。生徒はそれで多少は落ち着いたが、やはり普段みんなに冷たく常にだるそうにしている倉本がこのような発表の代表になったことを面白く感じて笑みを消せないでいる。先生はこれ以上は無理だと諦め、「倉本くん、お願いします」と言う。
「俺たちが調べた国は日本、です」
倉本がカタコトの敬語で言うとこの部屋の中は一瞬の静寂こそあったもののすぐに笑い声が充満した。
「待って待って、日本?」
「これ選んだの絶対木田くんでしょ」
「木田くんさ、ほんとなんか」
「普通につまらんくない?」
彼らはそんなことを言いながらゲラゲラ笑っている。
「選んだん、俺」
またこの部屋の中が静寂で包まれる。今度は一瞬なんかではなく、僕でもこれは気まずいやつだと感じられるほど。
「いや、ちょ、倉本まじ?」
口を開いたのはクラスのお調子者、武田だった。彼は机に手をつき立ち上がると
「日本ってお前、ボケのつもりなん?」
倉本を指さしながら笑う。倉本は武田の方を睨むと性格の悪い人のように黒目を上にあげため息をつく。
「ボケとか、なくね」
倉本はそう言うと何事もなかったかのように日本について僕らが調べたことを発表し始めた。武田はそんな倉本に従うように黙ってイスに座った。
このように、彼を見てもらうと分かるだろうが彼はとてつもなく冷たい。倉本と武田は仲が悪いわけではない。むしろ昼休みなど自由時間は常に一緒にいるイメージだ。一緒にいる、は語弊があったかもしれない。正しくは、武田が倉本に従っている、イメージだ。
僕が言うのもなんだが、彼は本当に最低な人だ。あの冷たく鋭い瞳で誰かを傷つけ、ぶっきらぼうな言葉でとどめを刺す。僕が言えたものではないかもしれないが、彼は本当は嫌われてもおかしくない人だと思う。ではなぜ彼が嫌われず、むしろクラスの人気者となっているのか。
それは、彼が『容姿端麗だから』である。サラサラの髪の毛に白く透き通る肌、抜群のスタイル。そして、麗しい茶髪から垣間見える鋭いあの瞳は機嫌の良い時であれば切れ長で妖美なのだ。クラスの女子だけでなく他学年の女子ですらも彼に魅了されている。いつもは冷たい彼がいつかは自分に向けて笑いかけてくれるのではないかと期待を寄せながら──
そんなことを思われている倉本だ。当然、彼の周りにはモテたいと思う男子が集まる。倉本と仲が良いというだけで、女子から話しかけてもらえるきっかけになるし、自分の価値が上がったように感じるのだ。だから倉本は自分からここに馴染もうとしなくても、勝手に彼色に染まってしまう。武田だけではない、このクラスの男子ほとんどが彼に従ってしまっている。
僕はというと、武田たちや倉本とそこまでできるような仲ですらないので、ある意味孤立している。逆張りだと思われるかもしれないが、それ以前なのである。僕は彼らのような陽の人間とは仲良くなれない。緊張してしまうのだ。何を話せばいいのか分からないし、ああ言うノリについていけないのだ。僕は根っからの陰キャなのである。
3
あなたにおすすめの小説
病弱の花
雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
美澄の顔には抗えない。
米奏よぞら
BL
スパダリ美形攻め×流され面食い受け
高校時代に一目惚れした相手と勢いで付き合ったはいいものの、徐々に相手の熱が冷めていっていることに限界を感じた主人公のお話です。
※なろう、カクヨムでも掲載中です。
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる