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「えーと、最後に日本の花について、ですが」
倉本のその声で僕たちの発表もそろそろ終わりなのだと気づく。
「日本には、サンカヨウという水に濡れると透明になる花があります」
僕は咄嗟に後ろを振り返ってしまった。なんで……。
僕たちの中でサンカヨウについて発表しようだなんて会話は、ひとつもなかった。ただただ唖然としてしまう。倉本はそんな僕を一瞬見ると気まずそうに目線を外した。「えっと」と小さく呟き、
「スマホ、で調べてもらったらわかると思う、んですけど、すごく……」
倉本はそこまで言うと何かに気づいたかのように黙り込んだ。僕は彼が何に詰まっているのか分からなかった。そのため助けに助けられず、ただじっと彼を見つめる。
「すごく綺麗だって木田が言ってた」
倉本は早口でそう言うとすぐさま腰をおろした。
「え?」
僕は思わず声に出してしまう。倉本は木田に見られているのを知りながら頬杖をつき黒板の上にある時計を見つめている。
「え、え?何?サン、サンシャイン……?」
武田のその発言が笑いの渦を巻き起こす。
「サンシャインってなんだよ武田」
「てか、木田くん、倉本とそんな会話してんの?」
「それなー、倉本つまんないっしょ」
彼らが口々に言う。僕は倉本に驚きながらも彼らの言葉に怯えていた。静かに体を前に向け、ジッと机を見つめる。
このクラスは倉本が絶対なのだ。倉本が「木田がそう言っていた」と言ってしまえば、それは嘘でも真実となってしまう。彼らはすぐに真実だと信じてしまう。関わらなければ僕に害がないと思っていた。でもこんな形で関わってしまったがために。
あの日僕が心配していたことが本当になってしまったのかもしれない。僕はついに『いじめの対象』になってしまったのかもしれない。鳥肌が立つ。指先が冷たい。それはこの蒸し蒸しとした梅雨の一瞬の肌寒さにやられたからではない。経験したことのない恐怖に襲われているためである。僕はこれからどんな言葉を投げつけられ、何をされて傷つけられるのだろう……。ジットリとした汗がもみあげから輪郭を伝ってシャツと肌の隙間に落ちる。こんな時、佐藤がいれば……。彼がいれば何を言われようとサラッとスルーできたはずだ。独りがこんなに怖いものとは知らなかった。こんなことを考えてしまう自分の弱さやみんなへの恐怖、いろんな感情が混ざり指先が震える。
「木田くん?大丈夫?」
そう言って下を向く僕の顔を覗き込んできたのは先生だった。すごく心配したような顔をしていた。僕は顔を上げ一瞬周りを見渡すと「すみません、大丈夫です」と答えた。
「うーん、でもちょっと顔色悪いね。一応保健室行こっか」
「え、いや、ほんとに大じょ」
「倉本くん!着いてってちょうだい!」
え?僕は先生の顔を見つめる。今、なんて……。聞き間違いでなければ『倉本』と保健室に行けと、そう言った。
「何びっくりした顔してんの、着いていきなさいよ、倉本くん!」
どうやら倉本も驚いていたらしい。そりゃそうだ。さっきまでのみんなの発言を聞いていたら倉本と僕を一緒に行動させるなんて発想には絶対に至らないのだ。きっと先生は聞いているようで何も聞いていなかったのだ。先生は倉本と僕を立たせ「ほらほら」と廊下へ投げやる。僕らは目を合わせその丸く開いた目でぱちくりと瞬きをした。
倉本のその声で僕たちの発表もそろそろ終わりなのだと気づく。
「日本には、サンカヨウという水に濡れると透明になる花があります」
僕は咄嗟に後ろを振り返ってしまった。なんで……。
僕たちの中でサンカヨウについて発表しようだなんて会話は、ひとつもなかった。ただただ唖然としてしまう。倉本はそんな僕を一瞬見ると気まずそうに目線を外した。「えっと」と小さく呟き、
「スマホ、で調べてもらったらわかると思う、んですけど、すごく……」
倉本はそこまで言うと何かに気づいたかのように黙り込んだ。僕は彼が何に詰まっているのか分からなかった。そのため助けに助けられず、ただじっと彼を見つめる。
「すごく綺麗だって木田が言ってた」
倉本は早口でそう言うとすぐさま腰をおろした。
「え?」
僕は思わず声に出してしまう。倉本は木田に見られているのを知りながら頬杖をつき黒板の上にある時計を見つめている。
「え、え?何?サン、サンシャイン……?」
武田のその発言が笑いの渦を巻き起こす。
「サンシャインってなんだよ武田」
「てか、木田くん、倉本とそんな会話してんの?」
「それなー、倉本つまんないっしょ」
彼らが口々に言う。僕は倉本に驚きながらも彼らの言葉に怯えていた。静かに体を前に向け、ジッと机を見つめる。
このクラスは倉本が絶対なのだ。倉本が「木田がそう言っていた」と言ってしまえば、それは嘘でも真実となってしまう。彼らはすぐに真実だと信じてしまう。関わらなければ僕に害がないと思っていた。でもこんな形で関わってしまったがために。
あの日僕が心配していたことが本当になってしまったのかもしれない。僕はついに『いじめの対象』になってしまったのかもしれない。鳥肌が立つ。指先が冷たい。それはこの蒸し蒸しとした梅雨の一瞬の肌寒さにやられたからではない。経験したことのない恐怖に襲われているためである。僕はこれからどんな言葉を投げつけられ、何をされて傷つけられるのだろう……。ジットリとした汗がもみあげから輪郭を伝ってシャツと肌の隙間に落ちる。こんな時、佐藤がいれば……。彼がいれば何を言われようとサラッとスルーできたはずだ。独りがこんなに怖いものとは知らなかった。こんなことを考えてしまう自分の弱さやみんなへの恐怖、いろんな感情が混ざり指先が震える。
「木田くん?大丈夫?」
そう言って下を向く僕の顔を覗き込んできたのは先生だった。すごく心配したような顔をしていた。僕は顔を上げ一瞬周りを見渡すと「すみません、大丈夫です」と答えた。
「うーん、でもちょっと顔色悪いね。一応保健室行こっか」
「え、いや、ほんとに大じょ」
「倉本くん!着いてってちょうだい!」
え?僕は先生の顔を見つめる。今、なんて……。聞き間違いでなければ『倉本』と保健室に行けと、そう言った。
「何びっくりした顔してんの、着いていきなさいよ、倉本くん!」
どうやら倉本も驚いていたらしい。そりゃそうだ。さっきまでのみんなの発言を聞いていたら倉本と僕を一緒に行動させるなんて発想には絶対に至らないのだ。きっと先生は聞いているようで何も聞いていなかったのだ。先生は倉本と僕を立たせ「ほらほら」と廊下へ投げやる。僕らは目を合わせその丸く開いた目でぱちくりと瞬きをした。
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