10 / 12
10
しおりを挟む
「チッ、だる」
倉本はそう言うと目を離しズカズカと進んでいった。僕はそれを追いかけるようにして小走りで追いかけた。徐々に速度を下げ、倉本の少し後ろを歩く。
隣のクラス、つまり佐藤のいるクラスももちろん授業中だった。先生の声がかすかに響いている。佐藤はいるかな、とドアのガラス部分から教室の中を覗く。ちょうど真ん中らへんに彼は座っていた。彼は僕の視線に気づいたのかこちらを見る。手を振ろうかと思ったがやめた。佐藤の顔が引きつっていたのだ。
そうか……。僕は今、授業中に倉本と廊下を歩いている。怯えているんだ何度も伝えてきたと彼と二人きりで。しかも僕の話を聞いたから佐藤は倉本の事がかなり嫌いだ。
僕はなぜか佐藤を裏切ってしまったという気持ちになり青ざめる。僕は「これは違うんだ!」と佐藤に伝えようとしたがその小さなガラス部分がそれを許さなかった。ただ慌てふためく僕を残して、ドアは佐藤と僕を突き放した。その様子が逆に佐藤の不安を煽る。
あぁ、佐藤、違うんだ、これはただ先生に言われただけで──
「なあ、おい」
「……」
「……おい!」
「あ、は、はい!」
「はぁ……お前、具合悪いん?」
「え?あ、い、いや悪くない」
「チッ」
大きめの舌打ちに肩を揺らす。倉本は心底だるそうに首元を掻くと保健室とは反対の方に歩いていった。
「え?え、保健室はあ、あっちだよ」
「知っとるわ」
僕は保健室の方へさした指を静かに下げると黙って倉本の行く先を見た。倉本はそんな僕をものともせず長い廊下をズカズカと突き進んでいく。これってもしかして……。
三年生の教室は三階にあり、ここが最上階であった。しかし長い廊下を真っ直ぐ歩き切った先には階段があったのだ。そこには立ち入り禁止の看板が立てられており、先生ですらも立ち入ることができなかった。その階段を上るどこに行き着くのか、なぜそこが立ち入り禁止なのか、僕たちは教えられずとも分かっていた。ここは最上階。そう。その階段を上ると、屋上へ行き着くのだ。
倉本はそこに立っている看板には目もくれず階段を上っていく。
「そこ、入っちゃだめなんじゃ……!」
と言おうとしたがやめた。実は僕も屋上がどんな所なのか気になっていたのだ。理性と本能は五秒ほど喧嘩して理性は本能に抗えないことを学んだようだった。黙って倉本に着いていく。倉本は振り返るとそんな僕を見てまた前を向いた。
重い扉を開けるとそこには絶景が広がっていた。僕は意外にも鍵はかけられていないものなんだなとその絶景を見ながら思う。
僕たちの住んでいる街の近くには海がある。当然この学校からも屋上の高さから見たら大きく広がる海を見渡せるのだ。
「す、すごい……」
僕は二、三歩足を進めると改めてそう言葉にする。
「邪魔」
倉本はそう言うと僕の肩を押して突き放した。
「あ、ご、ごめん」
さっき、階段を上る時、一瞬僕の方を見たのは「お前も来るんかよ……」の眼差しだったのだと気づく。僕は教室に戻ろうとしてドアに手をかける。
「俺あそこで寝るから、お前あっち」
倉本は大きめの声でそう言うと、僕の居場所を指さした。
「え、いや、戻るよ……迷惑だし」
「今戻ったらまずいんじゃねーの?」
倉本は自分の居場所まで行き横になるとそう言う。
「え、なんで……?」
倉本は僕の言葉を聞くとイライラしたようにため息をつき目を閉じる。
「お前はあそこに戻りたいんか?」
「いやぁ……」
「じゃあいれば?」
倉本はそう言うとジャケットを脱ぎ自分の腹元にかけた。僕はそんな彼を見届けてあの海へ目をやる。
本当にここにいていいのだろうか。倉本は僕のことが嫌いなはずなんだから、本当は一刻も早くここからいなくなってほしいのではないのだろうか。少し離れた場所で寝ている倉本の方に顔を向ける。
初めて、いや改めて彼の顔を見たが、確かに、彼はイケメンかもしれない。太陽光に照らされ赤茶色に輝く前髪は風に揺らされ、そこから垣間見える肌はシルクのように滑らかで透き通っていた。僕は少し近くに寄ってみる。いつもならあの冷たい瞳に近寄りたいなんて思わない。ただこの暖かい日差しと柔らかい風に惑わされたせいか、今なら倉本に近寄っても大丈夫だと思えた。
静かに倉本を起こさないように近づいて、とうとう彼の瞳を真上から見ることができる位置まで来てしまった。黙って見つめてみる。僕の影で少し暗くなっている彼の肌はやっぱり白く美しかった。
「なんか用?」
瞳も開かずにそう言う倉本に思わず後ずさりしてしまう。
「あ、ああ、あのこれは、違くて」
「何?」
「サンカヨウって、ろ、ロシアでも、咲くら、しい……!」
「は?」
「あ、ち、違う!えっと、ごめんっ」
僕はそう言うと走って屋上のドアを開けそこを出る。倉本は上半身をあげ不思議そうな顔をしていた。
やってしまった。いや何もしていないけれど。近づいてしまった。大丈夫だと思った。そんなわけがないのだ。いくら美しいからって、いつもの彼と違ったからって、結局は倉本なのだ。僕の怯えている倉本に違いないのだ。
周りの目なんか気にせずに走った。とりあえず教室に戻ってリュックをとって、そしてどこかへ向かおう。一心不乱に走る。
教室に入ろうとした時「ちょちょ!」と誰かに肩を叩かれた。
倉本はそう言うと目を離しズカズカと進んでいった。僕はそれを追いかけるようにして小走りで追いかけた。徐々に速度を下げ、倉本の少し後ろを歩く。
隣のクラス、つまり佐藤のいるクラスももちろん授業中だった。先生の声がかすかに響いている。佐藤はいるかな、とドアのガラス部分から教室の中を覗く。ちょうど真ん中らへんに彼は座っていた。彼は僕の視線に気づいたのかこちらを見る。手を振ろうかと思ったがやめた。佐藤の顔が引きつっていたのだ。
そうか……。僕は今、授業中に倉本と廊下を歩いている。怯えているんだ何度も伝えてきたと彼と二人きりで。しかも僕の話を聞いたから佐藤は倉本の事がかなり嫌いだ。
僕はなぜか佐藤を裏切ってしまったという気持ちになり青ざめる。僕は「これは違うんだ!」と佐藤に伝えようとしたがその小さなガラス部分がそれを許さなかった。ただ慌てふためく僕を残して、ドアは佐藤と僕を突き放した。その様子が逆に佐藤の不安を煽る。
あぁ、佐藤、違うんだ、これはただ先生に言われただけで──
「なあ、おい」
「……」
「……おい!」
「あ、は、はい!」
「はぁ……お前、具合悪いん?」
「え?あ、い、いや悪くない」
「チッ」
大きめの舌打ちに肩を揺らす。倉本は心底だるそうに首元を掻くと保健室とは反対の方に歩いていった。
「え?え、保健室はあ、あっちだよ」
「知っとるわ」
僕は保健室の方へさした指を静かに下げると黙って倉本の行く先を見た。倉本はそんな僕をものともせず長い廊下をズカズカと突き進んでいく。これってもしかして……。
三年生の教室は三階にあり、ここが最上階であった。しかし長い廊下を真っ直ぐ歩き切った先には階段があったのだ。そこには立ち入り禁止の看板が立てられており、先生ですらも立ち入ることができなかった。その階段を上るどこに行き着くのか、なぜそこが立ち入り禁止なのか、僕たちは教えられずとも分かっていた。ここは最上階。そう。その階段を上ると、屋上へ行き着くのだ。
倉本はそこに立っている看板には目もくれず階段を上っていく。
「そこ、入っちゃだめなんじゃ……!」
と言おうとしたがやめた。実は僕も屋上がどんな所なのか気になっていたのだ。理性と本能は五秒ほど喧嘩して理性は本能に抗えないことを学んだようだった。黙って倉本に着いていく。倉本は振り返るとそんな僕を見てまた前を向いた。
重い扉を開けるとそこには絶景が広がっていた。僕は意外にも鍵はかけられていないものなんだなとその絶景を見ながら思う。
僕たちの住んでいる街の近くには海がある。当然この学校からも屋上の高さから見たら大きく広がる海を見渡せるのだ。
「す、すごい……」
僕は二、三歩足を進めると改めてそう言葉にする。
「邪魔」
倉本はそう言うと僕の肩を押して突き放した。
「あ、ご、ごめん」
さっき、階段を上る時、一瞬僕の方を見たのは「お前も来るんかよ……」の眼差しだったのだと気づく。僕は教室に戻ろうとしてドアに手をかける。
「俺あそこで寝るから、お前あっち」
倉本は大きめの声でそう言うと、僕の居場所を指さした。
「え、いや、戻るよ……迷惑だし」
「今戻ったらまずいんじゃねーの?」
倉本は自分の居場所まで行き横になるとそう言う。
「え、なんで……?」
倉本は僕の言葉を聞くとイライラしたようにため息をつき目を閉じる。
「お前はあそこに戻りたいんか?」
「いやぁ……」
「じゃあいれば?」
倉本はそう言うとジャケットを脱ぎ自分の腹元にかけた。僕はそんな彼を見届けてあの海へ目をやる。
本当にここにいていいのだろうか。倉本は僕のことが嫌いなはずなんだから、本当は一刻も早くここからいなくなってほしいのではないのだろうか。少し離れた場所で寝ている倉本の方に顔を向ける。
初めて、いや改めて彼の顔を見たが、確かに、彼はイケメンかもしれない。太陽光に照らされ赤茶色に輝く前髪は風に揺らされ、そこから垣間見える肌はシルクのように滑らかで透き通っていた。僕は少し近くに寄ってみる。いつもならあの冷たい瞳に近寄りたいなんて思わない。ただこの暖かい日差しと柔らかい風に惑わされたせいか、今なら倉本に近寄っても大丈夫だと思えた。
静かに倉本を起こさないように近づいて、とうとう彼の瞳を真上から見ることができる位置まで来てしまった。黙って見つめてみる。僕の影で少し暗くなっている彼の肌はやっぱり白く美しかった。
「なんか用?」
瞳も開かずにそう言う倉本に思わず後ずさりしてしまう。
「あ、ああ、あのこれは、違くて」
「何?」
「サンカヨウって、ろ、ロシアでも、咲くら、しい……!」
「は?」
「あ、ち、違う!えっと、ごめんっ」
僕はそう言うと走って屋上のドアを開けそこを出る。倉本は上半身をあげ不思議そうな顔をしていた。
やってしまった。いや何もしていないけれど。近づいてしまった。大丈夫だと思った。そんなわけがないのだ。いくら美しいからって、いつもの彼と違ったからって、結局は倉本なのだ。僕の怯えている倉本に違いないのだ。
周りの目なんか気にせずに走った。とりあえず教室に戻ってリュックをとって、そしてどこかへ向かおう。一心不乱に走る。
教室に入ろうとした時「ちょちょ!」と誰かに肩を叩かれた。
2
あなたにおすすめの小説
病弱の花
雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
美澄の顔には抗えない。
米奏よぞら
BL
スパダリ美形攻め×流され面食い受け
高校時代に一目惚れした相手と勢いで付き合ったはいいものの、徐々に相手の熱が冷めていっていることに限界を感じた主人公のお話です。
※なろう、カクヨムでも掲載中です。
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる