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かみさま
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今朝、とっても大きなお肉が入荷した。
たいやきさん曰く「いちばんおいしいばしょ」らしい。
そしてそれはお店には並ばなかった。
「さきちゃーん、きょうはおひるでおみせしめるよ」
「はい。夕方からなにかあるんですか?」
また猫の集会だろうか?
そう思いながら今にもよだれを垂らしそうなたいやきさんを見ていると、はっとしたようにこちらを振り向いた。
「さきちゃんもいっしょにくる?」
「え?」
猫の集会は猫しか参加出来ないはずだ。しかも虎猫限定だったり茶虎限定だったりと条件がいろいろある。ちなみにたいやきさんは雑種猫だから雑種猫の集会にも参加している。そしてここが一番酒癖が悪い猫が多い。
「きょうはね、かみさまのひなの」
「かみさま?」
かみさまって神様?
キリストだとかアラーだとかそういった?
猫もキリストさんだとかお釈迦さんだとかそういうものを崇拝したりするのだろうか?
不思議に思って首を傾げると、たいやきさんはふふっと笑う。
「うん。ねこにはね、ねこのかみさまがいるんだよ。すごくきれいなめがみさま」
たいやきさんはそう言って、大きなお肉を見つめる。
「きょうはね、かみさまにおそなえをもっていくひなんだ。ぼくはね、やっぱりおいしいものがいちばんだとおもうの。だから、いちばんおいしいばしょをもっていくんだ」
一番おいしい場所。いったいどこなんだろう。
「しかのおにくー、ここいちばんおいしいの」
「えっと、どの部位なんですか?」
「ろーす。ぼくはここがいちばんおいしいとおもうよ」
たいやきさんと同じくらいの大きさのお肉をどうやって持っていくつもりなのだろうと思っていると、丁寧に葉で包み、それを風呂敷で包み込んだ。
「さきちゃんもいくならおそなえよういしておいたほうがいいかも」
「あ、はい。現地で買ったりもできるんですか?」
「うん? うーん、しんでんのちかくにやたいがたくさんあるよ。おはなとかおにくとかおさかなとかたくさんうってるけど……ちょっとたかいかも」
そりゃあそう言う場所で買うとそうなるだろうなと思いつつ。猫社会でもそれは同じなのかと驚いた。
「えっと、たいやきさんがお肉を持っていくならお花を持っていこうかな?」
お花なら……その辺で摘めそうだし……。
田舎だからいろいろな花が咲いている。
「うん。いいね。じゃあ、いっしょにおはなつむ?」
楽しい提案にすぐ頷いた。
当然、その日はふたりで店を放り出し、お客は誰も来なかった。
いつぞやの車力さんの猫力車に乗って神殿へ向かう。
また自称「ぱり」のある浅草じみた街へ到着したと思ったが、猫力車は浅草ゾーンを通過し、なぜかそこだけエジプト風の建築物がある。
そう、「しんでん」はエジプト風なのだ。
そして、猫の行列が見える。その中にいくつか見知った柄が紛れ込んでいる。
「あれ、大将さんかな?」
「あ、ほんとだ。おーい、たいしょう!」
たいやきさんが声をかける。
「おう、てんちょうもきたか」
「うん。きょうはいいおにくがはいったんだ。きっとめがみさまもよろこんでくれるとおもうな」
たいやきさんと大将猫はしばらくお供えについて話をする。
その間もきょろきょろと辺りを見渡したけれど、本当に猫ばかりでひとり紛れ込んだ人間の私はとても場違いに感じられてしまう。
少し落ち着かない気分になっていると、なにかがふくらはぎにぶつかった。
「おっとしつれい」
爽やかな声が響く。
「あ、探偵さん。こんにちは」
「こんにちは。さきちゃんもきていたんだね」
「はい。お供えも用意しました」
たいやきさんと一緒に摘んだよくわからない花たち。でも見た目がきれいだ。なにより花の中を歩き回るたいやきさんが楽しそうだった。
「いいこだ。きっとめがみさまもきにいってくださるよ」
そう言う探偵猫は桶を抱えている。猫の手でよくそんな物が持てるなと思ってしまう。
桶の中にはどうやらうなぎが入っているらしかった。
「あついときにはうなぎがいちばんだとおもってね」
「た、たしかに……」
生でお供えするのか、その場で捌いて炙るのか……あまり考えたくはない。
それにしても、猫たちがこんなに熱心にお供えを運ぶ女神様はどんな神様なのだろうか?
不思議に思いながら前へと進む列について歩く。うっかり前の猫を踏んでしまわないように気をつけながら。
お供えはこれまたエジプト風な装飾をされた祭壇に置くらしい。
祭壇の中央に、白い石像が置かれている。あれが女神様なのか。
猫の頭に人間の女性のような不思議な姿をしている。
なんというか、強そう。
そんな感想を抱きながら、自分の番になったので、たいやきさんと一緒に摘んだ花で作った花束を供える。
(たいやきさんと出会えたことはとても幸運でした。こちらの神様にも感謝します。たいやきさんがこれからも健康でのんびり生活出来るようお力添えをお願いします。あと、たいやきさんにもっとたくさんおいしい物を食べて欲しいです)
お祈りはなにをしたらいいのかわからないので、ついつい願望ばかりを並べてしまう。
そして、次の猫と交代し、それからどうして元の世界に戻れるように祈らなかったのかと呆れてしまう。
「さきちゃん、ずいぶんねっしんにおいのりしてたね」
「え? ああ、まぁ……作法とか全然わからないので、元いた世界と同じ感覚になっていました」
お賽銭のにぼしを入れる場所はなかったから諦めたけれど。
「ぼくは、とりあえず、いちばんおいしいおにくをたのしんでくださいっておねがいしたよ」
「え?」
もしや、自分の願望を伝えてはいけないタイプの女神様だったのだろうか。
なんか強そうだもんね。
祟られたりしないだろうか。
少しだけ不安になってしまった。
たいやきさん曰く「いちばんおいしいばしょ」らしい。
そしてそれはお店には並ばなかった。
「さきちゃーん、きょうはおひるでおみせしめるよ」
「はい。夕方からなにかあるんですか?」
また猫の集会だろうか?
そう思いながら今にもよだれを垂らしそうなたいやきさんを見ていると、はっとしたようにこちらを振り向いた。
「さきちゃんもいっしょにくる?」
「え?」
猫の集会は猫しか参加出来ないはずだ。しかも虎猫限定だったり茶虎限定だったりと条件がいろいろある。ちなみにたいやきさんは雑種猫だから雑種猫の集会にも参加している。そしてここが一番酒癖が悪い猫が多い。
「きょうはね、かみさまのひなの」
「かみさま?」
かみさまって神様?
キリストだとかアラーだとかそういった?
猫もキリストさんだとかお釈迦さんだとかそういうものを崇拝したりするのだろうか?
不思議に思って首を傾げると、たいやきさんはふふっと笑う。
「うん。ねこにはね、ねこのかみさまがいるんだよ。すごくきれいなめがみさま」
たいやきさんはそう言って、大きなお肉を見つめる。
「きょうはね、かみさまにおそなえをもっていくひなんだ。ぼくはね、やっぱりおいしいものがいちばんだとおもうの。だから、いちばんおいしいばしょをもっていくんだ」
一番おいしい場所。いったいどこなんだろう。
「しかのおにくー、ここいちばんおいしいの」
「えっと、どの部位なんですか?」
「ろーす。ぼくはここがいちばんおいしいとおもうよ」
たいやきさんと同じくらいの大きさのお肉をどうやって持っていくつもりなのだろうと思っていると、丁寧に葉で包み、それを風呂敷で包み込んだ。
「さきちゃんもいくならおそなえよういしておいたほうがいいかも」
「あ、はい。現地で買ったりもできるんですか?」
「うん? うーん、しんでんのちかくにやたいがたくさんあるよ。おはなとかおにくとかおさかなとかたくさんうってるけど……ちょっとたかいかも」
そりゃあそう言う場所で買うとそうなるだろうなと思いつつ。猫社会でもそれは同じなのかと驚いた。
「えっと、たいやきさんがお肉を持っていくならお花を持っていこうかな?」
お花なら……その辺で摘めそうだし……。
田舎だからいろいろな花が咲いている。
「うん。いいね。じゃあ、いっしょにおはなつむ?」
楽しい提案にすぐ頷いた。
当然、その日はふたりで店を放り出し、お客は誰も来なかった。
いつぞやの車力さんの猫力車に乗って神殿へ向かう。
また自称「ぱり」のある浅草じみた街へ到着したと思ったが、猫力車は浅草ゾーンを通過し、なぜかそこだけエジプト風の建築物がある。
そう、「しんでん」はエジプト風なのだ。
そして、猫の行列が見える。その中にいくつか見知った柄が紛れ込んでいる。
「あれ、大将さんかな?」
「あ、ほんとだ。おーい、たいしょう!」
たいやきさんが声をかける。
「おう、てんちょうもきたか」
「うん。きょうはいいおにくがはいったんだ。きっとめがみさまもよろこんでくれるとおもうな」
たいやきさんと大将猫はしばらくお供えについて話をする。
その間もきょろきょろと辺りを見渡したけれど、本当に猫ばかりでひとり紛れ込んだ人間の私はとても場違いに感じられてしまう。
少し落ち着かない気分になっていると、なにかがふくらはぎにぶつかった。
「おっとしつれい」
爽やかな声が響く。
「あ、探偵さん。こんにちは」
「こんにちは。さきちゃんもきていたんだね」
「はい。お供えも用意しました」
たいやきさんと一緒に摘んだよくわからない花たち。でも見た目がきれいだ。なにより花の中を歩き回るたいやきさんが楽しそうだった。
「いいこだ。きっとめがみさまもきにいってくださるよ」
そう言う探偵猫は桶を抱えている。猫の手でよくそんな物が持てるなと思ってしまう。
桶の中にはどうやらうなぎが入っているらしかった。
「あついときにはうなぎがいちばんだとおもってね」
「た、たしかに……」
生でお供えするのか、その場で捌いて炙るのか……あまり考えたくはない。
それにしても、猫たちがこんなに熱心にお供えを運ぶ女神様はどんな神様なのだろうか?
不思議に思いながら前へと進む列について歩く。うっかり前の猫を踏んでしまわないように気をつけながら。
お供えはこれまたエジプト風な装飾をされた祭壇に置くらしい。
祭壇の中央に、白い石像が置かれている。あれが女神様なのか。
猫の頭に人間の女性のような不思議な姿をしている。
なんというか、強そう。
そんな感想を抱きながら、自分の番になったので、たいやきさんと一緒に摘んだ花で作った花束を供える。
(たいやきさんと出会えたことはとても幸運でした。こちらの神様にも感謝します。たいやきさんがこれからも健康でのんびり生活出来るようお力添えをお願いします。あと、たいやきさんにもっとたくさんおいしい物を食べて欲しいです)
お祈りはなにをしたらいいのかわからないので、ついつい願望ばかりを並べてしまう。
そして、次の猫と交代し、それからどうして元の世界に戻れるように祈らなかったのかと呆れてしまう。
「さきちゃん、ずいぶんねっしんにおいのりしてたね」
「え? ああ、まぁ……作法とか全然わからないので、元いた世界と同じ感覚になっていました」
お賽銭のにぼしを入れる場所はなかったから諦めたけれど。
「ぼくは、とりあえず、いちばんおいしいおにくをたのしんでくださいっておねがいしたよ」
「え?」
もしや、自分の願望を伝えてはいけないタイプの女神様だったのだろうか。
なんか強そうだもんね。
祟られたりしないだろうか。
少しだけ不安になってしまった。
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