悪役令息な婚約者の将来が心配です。

ROSE

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4 見つからなければ不正ではない

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「マヌエラ、なにをしているのだ?」

 決闘演習で起こした騒ぎの後処理で休講になってしまった授業が多くすっかり暇だったから寮の談話室で鍋を掻き回していると大抵の生徒は逃げていく。みんな私が深海の魔女の孫娘だと知っているからだ。
 人魚の生徒はそれぞれ水槽になった個室を与えられるが、だからと言って寮に居る時間をすべて個室で過ごすような生徒は稀だ。
 私の場合、エドガーが消灯時間までは離れたくないとただを捏ねてくれるお陰で他の生徒に嫌な顔をされながら鍋を掻き回している。
「ちょっとしたおこづかい稼ぎよ」
 深海の魔女は毒と薬の専門家。つまり他の生徒から様々な依頼があるのだ。
 今日頼まれているのは記憶力が上がる薬と筋力を倍増させる薬。それと万能解毒薬を同時進行で作っているので鍋は三つある。
 自動掻き回し機能のついた大鍋が欲しい。
 そのためにも稼がないと。
「小遣い稼ぎ? 欲しいものがあれば私がなんたって贈ろう」
「いいのよ。自分の練習にもなるから」
 薬の素材をエドガー経由で入手すればすぐに足がつく。私には私の独自ルートがあるからこそ、学内持ち込み禁止の素材も自由に使えるのだ。
 悪学級の規則によると「不正は見つからなければ不正ではない」「狡猾であれ」とのこと。
 つまり教員に見つからない方法であれば試験中の不正を推奨している。
「これは?」
「記憶力が上がる薬よ」
「……試験対策か……試験など日頃の課題をこなせば簡単に点を取れるだろうに」
 本気で呆れた様子を見せる限り、彼は一生世話にならないような薬だろう。私もそんなに必要とすることはないけれど。脳が九つあるもの。
「みんなあなたほど真面目じゃないのよ」
「そうか? 私は課題をこなし、自主訓練をこなしてもこのようにあなたと過ごす時間を確保できるよ?」
 そう言いながら腰に腕を回してくる。あまりに日常的ですっかりと慣れてしまった。
「……マヌエラ、コルセットはやめないか?」
「あら、校則に悪学級は悪らしい装いをと書かれているじゃない。それに、締めるところは締めた方が美しいわ」
 毎日魔法でしっかり締めているコルセットのお陰で腰回りが人差し指一本分締まった。括れは重要よ。
 胸とお尻に詰め物をして、腰を締めると豊満で魅力的な体になる。
「そもそも君の体は締め付けない方がいいのではないか?」
「人化しているときは人間と変わらないわ」
 人間の姿で作った括れはもとの姿に戻っても反映されるのよ。つまり、括れのある蛸ね。
「しかしだな……私は豊満な方が好みだ。とだけ言わせてくれ」
 気を遣った結果の発言らしい。
「考えておくわ。でも、ダンスパーティーは私の好きな装いで行くつもりよ」
「あ、ああ! それは勿論。あなたにドレスを贈りたかったがあなたにも好みがあることは理解している」
 ここで自分のために着飾ってくれと言えないから心配になってしまう。
 悪は遠慮なんてしない。
「マヌエラ、あなたは私の全てだ。あなたのためならなんだって出来る」
 正義の塊みたいな性格の癖にその言葉には偽りがない。
 どんなに嫌だろうと私が猫を殺せと言えばエドガーは従うだろうし、明らかに失敗した料理を残さず食べろと言えばそうする。いや、料理なら言わなくても無理して全部食べるだろう。
「エドガー様、毎日そんなことを口にされては安っぽく感じてしまいますわ」
「むっ……私は常に本心で話しているつもりなのだが……難しいな。溢れるあなたへの愛をどう表現すれば伝えられるだろうか」
 表現しなくていい。
 だって愛とか悪っぽくない。
 エドガーは全く私との温度差に気づいてくれていない。
「エドガー様はそのうち真実の愛だとか永遠の誓いだなんておとぎ話みたいなことを口にするのでしょうね」
「そのうちではない。私とあなたの真実の愛で永遠を手に入れられると信じている。あなたと共になら悪の勝利で永遠を手にする物語を紡ぎ出せる」
「はいはい、そのうちね」
  話しにならない。
 そんなにきらきらした瞳で永遠を語る悪がどこに居るのよ。
 やっぱり向いていないわ。
 エドガーを立派な悪にするなんて私には無理なのよ。
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