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シャロン 3 浮かび始めた疑問 3
しおりを挟む山積みのパイ。
昨日は作りすぎてしまったと反省はしている。そして、消費のために若干の後悔。
朝食に、作りすぎたミートパイを食べた。味はたぶん悪くはない。
それから授業の予定を確認し、準備をしたのに、時間になってもクラウド夫人は現れなかった。
「どうしたのかしら?」
彼女が遅刻なんて滅多にない。
一度だけあったのは、途中で馬車が事故を起こしたという時だった。
まさか、なにかよくないことでもあったのだろうか。
不安になり、そわそわしていると、来客を告げられた。
クラウド夫人だと思い、慌てて玄関へ向かえば、想像した姿とは違う愛らしい女性がいた。
見覚えがある。確かエイミーという名だったはずだ。
「突然すみません」
彼女は頭を下げる。
「どのような御用でしょうか?」
彼女とは親しいわけではない。精々顔見知り程度の関係で、少し苦手意識がある。
殿下の部下だと聞いてはいる。けれども、殿下の隣に立っていた彼女を思い出すとどうしても悲しい気持ちが蘇ってしまう。
「クラウド夫人はもうこちらにはいらっしゃいません」
「え?」
「代わりの教育係が見つかるまでは授業はお休みになります」
そんな話は聞いていない。
まさか、シャロンはもう用済みという意味だろうか。
ただでさえアレクシスが王宮で暴れてくれたのだから、カラミティー侯爵家全体が罰則を受ける可能性はある。
あんな凶暴な兄を持つシャロンは王子の婚約者に相応しくないと判断されてしまったのかもしれない。
それだでけはない。
殿下が大勢の前でシャロンを告発したのだから……。
「シャロン様、あなたがお考えになるようなことは起こりませんのでご安心下さい」
エイミーは騎士のような礼をして言う。
「クラウド夫人に少々問題があるようですので調査中です。この機会にシャロン様も少し気晴らしをされてはいかがでしょうか?」
「……気晴らし、でしたら……昨日、後悔するほどしました」
「は?」
エイミーは困惑した様子を見せる。
先程まで少し気取った態度だったくせに、素の声が出てしまっていた。
「あの……お嫌でなければ、ミートパイをお渡ししたいのですが……」
作りすぎてしまったパイ。
もう使用人達も食べ飽きてしまっているはずだ。
「……ミートパイ、ですか?」
「気晴らしに……気晴らしのつもりだったのですが……作りすぎてしまって……」
どうしてエイミーにそんな話をしてしまったのかわからない。
けれども彼女はなにかに閃いたような様子を見せた。
「是非! ありったけ頂いていきます」
「え?」
「あー、同僚達もパイが大好物でして。余っていて、お困り、なんですよね?」
「え? はい」
有り難い話ではあるが、エイミーがなにか企んでいるように見えてしまう。
警戒したことに気づかれたのか、エイミーは困ったように笑った。
「実は、シャロン様と面会禁止になった殿下の前で、お兄様方がこれ見よがしにパイを食べるという嫌がらせを始めまして……ええ、殿下が大変不機嫌なんです。シャロン様お手製のパイを持ち帰れば少しは……暴言が止むかと」
兄たちはそんな下らない嫌がらせを始めたのかと呆れてしまう。
「どうぞ、お好きなだけお持ち下さい……リンゴのパイもあります」
「あら、そちらは私のおやつに頂いてもよろしいですか? リンゴのパイが大好物で」
「ど、どうぞ……」
距離が近い。
なんというか、エイミーはぐいぐいと接近してくる。
カゴに詰め込めるだけパイを詰め込みエイミーに持たせる。
「あ、シャロン様、戸締まりはしっかりして下さいね? 特に寝室は」
「は、はぁ……」
一体何の話だろう。
シャロンは首を傾げる。
しかしエイミーはパイの詰まったカゴを持ってそさくさと帰ってしまった。
まさか、授業がなくなったことを伝えに来ただけなのだろうか?
少し驚きつつ、山のようなパイが半分近く消えたことを喜ぶべきなのか悩む。
とりあえず、誰もいないのならおやつにしよう。
シャロンは籠に入りきらなかった分のリンゴのパイを切り、お茶の用意をした。
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