奪われたはずの婚約者に激しく求められています?

ROSE

文字の大きさ
14 / 47

シャロン 3 浮かび始めた疑問 3

しおりを挟む

 山積みのパイ。
 昨日は作りすぎてしまったと反省はしている。そして、消費のために若干の後悔。
 朝食に、作りすぎたミートパイを食べた。味はたぶん悪くはない。
 それから授業の予定を確認し、準備をしたのに、時間になってもクラウド夫人は現れなかった。
「どうしたのかしら?」
 彼女が遅刻なんて滅多にない。
 一度だけあったのは、途中で馬車が事故を起こしたという時だった。
 まさか、なにかよくないことでもあったのだろうか。
 不安になり、そわそわしていると、来客を告げられた。
 クラウド夫人だと思い、慌てて玄関へ向かえば、想像した姿とは違う愛らしい女性がいた。
 見覚えがある。確かエイミーという名だったはずだ。
「突然すみません」
 彼女は頭を下げる。
「どのような御用でしょうか?」
 彼女とは親しいわけではない。精々顔見知り程度の関係で、少し苦手意識がある。
 殿下の部下だと聞いてはいる。けれども、殿下の隣に立っていた彼女を思い出すとどうしても悲しい気持ちが蘇ってしまう。
「クラウド夫人はもうこちらにはいらっしゃいません」
「え?」
「代わりの教育係が見つかるまでは授業はお休みになります」
 そんな話は聞いていない。
 まさか、シャロンはもう用済みという意味だろうか。
 ただでさえアレクシスが王宮で暴れてくれたのだから、カラミティー侯爵家全体が罰則を受ける可能性はある。
 あんな凶暴な兄を持つシャロンは王子の婚約者に相応しくないと判断されてしまったのかもしれない。
 それだでけはない。
 殿下が大勢の前でシャロンを告発したのだから……。
「シャロン様、あなたがお考えになるようなことは起こりませんのでご安心下さい」
 エイミーは騎士のような礼をして言う。
「クラウド夫人に少々問題があるようですので調査中です。この機会にシャロン様も少し気晴らしをされてはいかがでしょうか?」
「……気晴らし、でしたら……昨日、後悔するほどしました」
「は?」
 エイミーは困惑した様子を見せる。
 先程まで少し気取った態度だったくせに、素の声が出てしまっていた。
「あの……お嫌でなければ、ミートパイをお渡ししたいのですが……」
 作りすぎてしまったパイ。
 もう使用人達も食べ飽きてしまっているはずだ。
「……ミートパイ、ですか?」
「気晴らしに……気晴らしのつもりだったのですが……作りすぎてしまって……」
 どうしてエイミーにそんな話をしてしまったのかわからない。
 けれども彼女はなにかに閃いたような様子を見せた。
「是非! ありったけ頂いていきます」
「え?」
「あー、同僚達もパイが大好物でして。余っていて、お困り、なんですよね?」
「え? はい」
 有り難い話ではあるが、エイミーがなにか企んでいるように見えてしまう。
 警戒したことに気づかれたのか、エイミーは困ったように笑った。
「実は、シャロン様と面会禁止になった殿下の前で、お兄様方がこれ見よがしにパイを食べるという嫌がらせを始めまして……ええ、殿下が大変不機嫌なんです。シャロン様お手製のパイを持ち帰れば少しは……暴言が止むかと」
 兄たちはそんな下らない嫌がらせを始めたのかと呆れてしまう。
「どうぞ、お好きなだけお持ち下さい……リンゴのパイもあります」
「あら、そちらは私のおやつに頂いてもよろしいですか? リンゴのパイが大好物で」
「ど、どうぞ……」
 距離が近い。
 なんというか、エイミーはぐいぐいと接近してくる。
 カゴに詰め込めるだけパイを詰め込みエイミーに持たせる。
「あ、シャロン様、戸締まりはしっかりして下さいね? 特に寝室は」
「は、はぁ……」
 一体何の話だろう。
 シャロンは首を傾げる。
 しかしエイミーはパイの詰まったカゴを持ってそさくさと帰ってしまった。
 まさか、授業がなくなったことを伝えに来ただけなのだろうか?
 少し驚きつつ、山のようなパイが半分近く消えたことを喜ぶべきなのか悩む。
 とりあえず、誰もいないのならおやつにしよう。
 シャロンは籠に入りきらなかった分のリンゴのパイを切り、お茶の用意をした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

わたしのヤンデレ吸引力が強すぎる件

こいなだ陽日
恋愛
病んだ男を引き寄せる凶相を持って生まれてしまったメーシャ。ある日、暴漢に襲われた彼女はアルと名乗る祭司の青年に助けられる。この事件と彼の言葉をきっかけにメーシャは祭司を目指した。そうして二年後、試験に合格した彼女は実家を離れ研修生活をはじめる。しかし、そこでも彼女はやはり病んだ麗しい青年たちに淫らに愛され、二人の恋人を持つことに……。しかも、そんな中でかつての恩人アルとも予想だにせぬ再会を果たして――!?

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...