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頼れる友
しおりを挟む昼食は賑やかで、殿下とアマンダ、そしてブルースが揃った。相変わらずアマンダと殿下はじゃれ合っていてなんだか微笑ましく感じてしまう。
「ヴィオラ嬢も大変だね。こんな馬鹿と元気な妹のお守りで」
「……まぁ、賑やかですね」
早く食べて楽器を触りたい。
切実にそう願っていることを察知してくれているのはブルースだけだろう。
「それにしても、昨夜いきなりクレムが部屋に来たときは驚いたよ」
「え?」
ブルースはやれやれと言った様子で眼鏡を押し上げる仕種をする。実は伊達眼鏡なのだけど、彼は立派な顔の一部だと主張している。
「あの王宮育ちの山猿の身体能力を舐めていたよ。まさか、うちの屋敷の壁をよじ登って窓から侵入してくるとは」
それは犯罪ではないだろうか。
「ヴィオラ嬢と結婚するために試験の出題範囲を教えろなんてわけのわからないことを言い出してね」
ブルースは溜息を吐く。
彼は事情を知らないようだ。
「実は、昨夜、陛下に中間考査で満点を取らなければ婚約を解消すると宣言されてしまいまして」
「あー、うん。大体わかった。けど……いくら僕が過去百年分の試験問題を解析して出題傾向を予測しているとは言え完全一致させられるわけではないのだから解答だけ覚えたって無駄だよ」
なにそれ。出題傾向の予測? この人毎回そんなことしてるの?
流石学年主席と言うよりは最早異常だ。
「試験対策ノートくらいは貸してあげてもいいけど、あのクレムがそれくらいで満点を取れるなんて思わないよ」
「その試験対策ノート、私も気になるのですが」
いくら平均点を狙っているとは言えそんな試験ノートが存在するのなら好奇心は刺激される。むしろそのノートが他の生徒に渡ってしまったら平均点が上がってしまうのではないだろうか。
「ヴィオラ嬢にならいつでも貸すよ。いつもクレムの面倒見て貰ってるし」
ブルースは笑う。別に私は殿下の保護者ではないのだけれど。
「おい、ブルース! ヴィオラと近すぎるぞ」
「はいはい、でも、クレムがヴィオラ嬢の婚約者で居られるのもあと一月ちょっとだと思うけど? 俺に嫉妬してる暇あったら自分の名前くらいちゃんと書けるようになれ。大体、自分の名前が書けないとヴィオラ嬢と結婚できないぞ」
人を餌に使わないで欲しいところだ。
それにしても、読み書きが出来なくても困らないと胸を張っていたはずの殿下が慌て出すのは少し面白い。まさか今まで婚姻届に署名する時自分の名前が書けなくて困るなんてことは予想していなかったらしい。殿下らしいと言えばらしいけれど。
「僕は! なにがなんでもヴィオラと結婚するんだ! ヴィオラ、今度は絶対に逃がさないからな! 覚悟しとけ!」
大声で叫ばないで欲しい。みんなが注目してしまったではないか。
頭が痛い。
けれども、また、殿下がおかしなことを言っていた気がする。
今度は? 一体どういうことだろう。私はいつだって殿下に振り回されているし、殿下から逃げたことなんてないはずだ。
不思議に思いつつも返答することすら出来ず昼休みは終わりを迎えた。
勉強会を名目に放課後付き合えと命じられてしまったが、門限がある。昨夜の陛下出現で、父が余計に苛立っていることは明白で出来ればこれ以上刺激したくないのが本心だ。
「殿下、お勉強は自力で頑張るものです」
「お前がいた方がやる気が出る」
「……美術史が自信ないので一人でゆっくりひっそり静かに勉強させて頂きたいのですが」
勉強会を断る口実がこれは少し弱い。けれども選択教科が違うのは利用できると思った。
「……くそっ、なんでお前絵画なんだよ」
殿下は不機嫌そうに頬を膨らませる。けれども少し経ってゆっくり息を吐き、それから少し気取った顔に戻った。
「仕方ないから今日はブルースを捕まえることにする。けど、明日もちゃんと学校に来いよ? 迎えに行くからな」
驚いた。いつも思うようになるまで拗ね続ける殿下が妥協して下さるなんて。
それ以上にどうして彼は私が不登校になることを前提に話しているのだろう。
「勿論単位を落とすのは嫌なので出席しますよ」
「な、ならいい」
僅かに頬を染める姿に困惑する。
どうも、近頃様子がおかしい。いつからだっただろう。たぶんヴァイオリンを持っていったあの日だ。そう言えば、一瞬殿下らしくない音になっていた。
「えっと……試験が終わったら、合奏しますか? その……人前では緊張してしまって手が動かなくなってしまいますが、その……」
殿下と二人なら大丈夫だと思う。そう言おうとして、言葉が迷ってしまう。
「ヴィオラ……お前が優れた演奏家だということは僕が保証する。少なくとも、上級者の指導も出来るだけの腕はある。だから、うじうじするな。もっと胸を張れ。猫背になったら良い音は出ないぞ」
励ますように背を叩かれ少し戸惑う。
殿下はいつも背筋が綺麗だ。胸を張って自信に満ちあふれている。彼は失敗を恐れない。まるで出来ると信じてさえいればなんでもできると言わんばかりに。
「合奏、約束だぞ。お前はなんか暗い曲ばっかり選ぶからな。もっと楽しい曲を選んでやる」
離れ際に一瞬髪を撫でられた。その仕種にどきりとする。
「約束だからな」
とても力強く見つめられ、息が詰まりそうになる。
どうして、そんなに美しいのだろう。どうしてそんなに私に関わろうとしてくれるのだろう。
引きこもりを強引に外に連れ出すようなお節介な王子。昔から強引で私を振り回してきた。
あと一月もしたら、私の婚約者ではなくなってしまう人。そう思うのに、どうしてか、彼ならと思ってしまう。
「はい。約束します」
普段の彼の学力では無謀すぎると思うのに信じたいと思わされてしまう。
つまりそれほどまでにクレメント殿下は私にとって特別な存在なのだろう。
数日の間、私は学校以外の時間、自室に引きこもっていた。丁度試験も近いので試験勉強が捗る。時々楽器に触れると、どういうことか部屋の前でアマンダが拍手をしていることがあったので恥ずかしくなり消音器を付けるようにした。しかし、そうなると今度はアマンダが部屋の戸を叩いてくるようになった。
「お姉様! 助けて下さ~い」
瞳をうるうると揺らしながら甘えるような声で擦り寄られるのには弱い。
「どうしたの?」
「……実技試験で落第しそうです……」
実技試験。そうは言ってもいくつかある。まずは必修の体育。ブルースでさえ落第はしないのだからこの科目はとりあえず出席さえしていれば落第はしない。どんなに体力がなくても。次に同じく必修の科学。これは班で行う実験とそれに関するレポートだ。班員全員が落第するレベルでなければとりあえず通過できる。となると次に考えられるのは教養課程だ。私なら絵画。期日までに作品を完成させられなければ落第になる。しかし、絵画専攻は多少出来が悪くても落第という物はない。気が楽な科目だ。
「……まさか、音楽?」
教養課程で落第の可能性がある科目とすれば音楽くらいなものだろう。作品を完成させなくてはいけない。つまり、人に聴かせられる演奏をしなくては落第になる。毎年殿下が首席で合格出来る二つの教科のうちの一つだったので気にしたことがなかったが、そう言えば年間十人程度は落第してしまう科目だ。まぁ、この科目が落第だったところで卒業にそれほど大きな影響は出ないけれど。
「先生にセンスも才能もない。今からでも遅くないから絵画に変更しなさいと言われてしまいました」
それは酷い。なんという先生だろう。始めたばかりの初心者の心をくじいてどうする。
「課題曲はどんな曲ですか?」
訊ねると、おずおずと楽譜を差し出された。
なるほど。初心者向けの入門書に最初に出てくるような曲だ。
「どこで躓いたのかわかりますか?」
「……そもそもまともに音が出せていないと言われました。お姉様に楽器を選んで頂いたときはちゃんと鳴ったのに……先生と一緒だと音がおかしいのです」
おかしいのは音じゃなくてあなたの頭だとは流石に言えない。そもそも調弦せずにいきなり弾こうとしたのではないだろうか。教養課程の教室では授業が始まる前に調弦を済ませていることが前提だ。授業前に道具の準備は済ませておけというのが学校の方針だから。
「アマンダ、自分で調弦はできますか?」
「調弦?」
あ、誰も教えていなかったのか。おかしい。父がアマンダに家庭教師を付けたはずなのに。
「家にヴァイオリンの先生は来ないのですか?」
「いつもたくさん褒めてくれます」
なるほど。父の機嫌を取るのが上手い先生が来てしまったのか。これでは上達なんてするはずがない。
「調子笛や音叉を使って音を整えるのですが……」
調子笛はどこにあったかなと部屋を見渡す。慣れると自分の耳で調弦出来るようになるのだけれど、最初のうちは必要だ。ケースを漁ればしばらく使っていない笛が出てきた。
「この笛を使って同じ音になるまでこの糸巻きを動かして調弦します。えっと、楽器店で買って貰った一式の中に入っていなかったかしら?」
「あ、あったかも。使い方がわからなくて。あと、弓を当てても音が鳴りません」
「松脂不足です。最初の時ほど念入りに塗る必要はありませんが演奏前に少し塗って下さい」
これは私が教師をしなくてはいけないのだろうか。私はあくまで技師で演奏家ではない。けれども楽器の知識はアマンダに必要だろう。
「教科書はなにを使っていますか? 私は一年から絵画を専攻しているので学校の授業内容がわかりません。なので教科書を参考に教えることしか出来ないのですが……楽器制作者なので楽器の構造については教えられると思います」
演奏については正直殿下に教わったら良いと思うのだけれど、彼は感覚派だ。こうやってこうだとか擬音だらけでなにが起きているかわからないだとかそんな説明をしてしまうに決まっている。もしくは見て覚えろかもしれない。初心者じゃなくても難易度が高すぎる。
「お姉様が教えて下さるならすぐに上達しそうです」
なんという楽観的な。
「楽器というのは買ってすぐ弾けるものではありません。毎日毎日の基礎の積み重ねがあって初めて楽しめるものです。問題はアマンダ、あなたが基礎を楽しめる人間かどうかというところでしょう」
基礎を楽しめる人間は強い。初めて楽器に触れて、初めて音が鳴る。その感動を胸に、基礎練習を楽しめるかどうかが上達の分岐点になるはずだ。
それを考えると殿下は異常だった。未だに初めての感動には届かないとあの日を求めている。基礎練習の積み重ねさえ楽しんでいる。楽器と一体化することを心から楽しんでいるように見える。あんな風になれたら。
ああ、そうだ。私はあのクレメント殿下に憧れているのだ。彼という生き方に。
アマンダに指導しながらどうしても彼の姿が過る。
あと少し。あと少しの間しか一緒に居られない。そう思うととても苦しい。
「お姉様?」
アマンダが不思議そうな声を上げる。どうしたのだろう。なにかわからない部分があっただろうか。
「なにかわからないことが?」
訊ねて、自分の声が震えていることに気がついた。どうしたのだろう。
「お姉様、大丈夫?」
心配そうに覗き込む顔が歪んで見える。
どうやら泣いてしまっていたようだ。
「あら……私……どうしたのかしら……」
きっと寝不足が続いているのせいね。少し不安定になっているのだわ。
「そんなに私の出来が酷かったのでしょうか」
アマンダが申し訳なさそうに言う。
「ちょっと疲れてしまったみたい。最近よく眠れなくて」
「あっ、試験も近いですものね。座学はそこそこ出来ると思うのですが。やっぱり試験前って不安になっちゃいますよね」
アマンダはまるで誤魔化そうとするように言う。
「そうね。試験が近づくと解いても解いても終わらない夢を見たり、全科目落第する夢を見たりするわよね」
ヴィオラになってからはないけれど、前世では何度か師匠に失格を言い渡される夢を見た。目の前で出来損ないの楽器を壊される光景は夢だとわかっていても怖い。そういう夢はあらゆる職業共通であるらしく、教師をしていた前世の友人は採点が永遠に終わらない夢で魘されていたと聞く。
「お姉様でもそういうことあるんですね」
アマンダは驚きを見せ、楽器の片付けを始める。けれどもやっぱり扱い方がわかっていない。
「こら、弓は緩めて。使い終わった楽器は毎回きちんと拭かないとだめよ」
涙を拭って叱る。アマンダが雑に扱おうとしている楽器は私の子供のような物だ。大事にして貰わないと。
「ご、ごめんなさい。つい……」
「楽器というのはとても繊細だから、何でも簡単に直せる訳じゃないのよ」
そう言って弓を緩め、新しい布を渡す。
「木だから、弾き込めば弾き込むだけ応えてくれるわ。あなたが大事に扱えば楽器があなたに寄り添うになるの」
そんなものは思い込みかもしれない。けれども長く大事に扱われた楽器は良く鳴る。やっぱり自分の楽器が一番馴染むようになる。
「なるほど……」
アマンダは感心を見せ、それから丁寧に楽器を拭き始めた。
驚くほど素直な子だ。決して親しく出来る相手ではないはずなのに。そう思ってしまうのは私の心の醜さのせいだろうか。
私はアマンダを警戒している。警戒しているという表現が正しいのかさえ定かではない。けれども愛らしく擦り寄ってくる彼女に心を開き切れていないのは事実だ。それは父という存在があるからだろうか。仮に彼女が母の再婚相手の連れ子だったとしたらもう少し受け入れられただろうかと考え、その仮定が無駄だと思い直す。そもそも、母を狂わせた原因があの男なのだ。どうすることも出来ない。
いつの間にか部屋に一人になっていた。ちゃんとアマンダを見送ったかさえ覚えていない。ただ、今日はとても疲れた。体が重い。入浴さえ億劫でベッドに体を運ぶことさえ難儀だった。手近な椅子に腰を下ろす。
そうしてそのまま意識を途絶えさせた。
どういった経緯でそうなったのかは思い出せない。いや、考えることさえ億劫なのかもしれない。いつもの騒がしい声が無理矢理私を引きずっていったことは確かだろう。馬車に乗っているのだから。
いつ目覚めたのか、着替えたのか、朝食を摂ったのかさえ覚えていない。ただ、ぼんやりと騒がしい声に導かれるまま動いたと思う。
「おい、聞いているのか?」
不機嫌そうな声がようやく現実に引き戻してくれた。
「はい?」
間の抜けた返事をして、しまったと思う。これは完全に聞いていなかったと白状してしまっているではないか。
「だから、放課後僕の勉強に付き合えと言っている」
ああ、試験が近かった。そうだ。もうすぐ試験だから頑張らないと。
「……ヴィオラ、顔色が悪いぞ? そんなに具合が悪いのか? 今日は随分とぼけぼけしている」
無駄にきらきらとした瞳が心配そうに揺れている。
「……いつ眠ったのか、いつ起きたのか覚えていません。きっと連日の夜更かしが原因だと思います」
夜更かし。いや、違う。眠れていないだけだ。眠ると言うよりは意識が途切れるという表現の方が合うくらい寝付きが悪い。眠ったと思うと恐ろしい夢を見たという感覚と共に目が覚める。
「私のせいですか?」
アマンダが不安そうに訊ねた。
「いいえ。昨夜読んでいた本が面白すぎてつい、夜更かしを」
こう言っておけば二人とも呆れてくれるだろうと思ったのに、殿下はまるで疑うように私を見る。
「お前がそこまで面白いという本はどんな本だ?」
「チェリストの骨格と筋肉に関する本です」
確か大分前に読んだ本にそんなものがあったはずだ。こんな専門的な内容なら殿下は興味を持たない。
「……お前、前にその本読んでなかったか? 一度読んだ本で夜更かしをするのか?」
なっ。ものすごく疑われている。
殿下は勉強の成績こそ残念だけれど集中したときの記憶力と洞察力は恐ろしいほどだ。
「……心配事があるなら言え。僕はお前の婚約者だ。力になる。それとも……僕の成績が悪すぎて婚約解消になることが不安なのか? 安心しろ。絶対に全教科満点を取って父上を驚かせてやる」
……。折角一瞬ときめきそうになったのに、やっぱり殿下は殿下だ。
「……殿下がいつも通りで安心しました」
しかし、あの成績でドヤれる自信は一体どこから湧いてくるのだろう。
「ふふん、口答でなら満点を取れるようになったからな。後はスペルを覚えていくだけだ」
「は?」
「僕は耳がいいからな。家庭教師十人に問題と解答を読み上げさせて全部覚えたぞ」
十人の声を一度に聞いて覚えられるというのは耳が多い以前の問題だろう。
「ベンジャミン兄上が楽団の演奏を一度で覚えられるなら耳で聞いて覚えればいいと助言を下さった。文字で覚えようとするからできないのなら耳で覚えればいい」
「……それは素晴らしい案ですね」
しかし試験は筆記だ。どう乗り越えるつもりだろう。
「あとは音と文字を一致させるだけだ。ということで、スペルを一つ一つ読み上げさえて覚えることにした」
なるほど? 楽譜が読めるのが奇跡だなんて言われていたけれどそういうからくりなのだろうか。目と音で覚える。むしろ音だけで覚えているのではないだろうか。
「そういえば、ご自分の名前は書き間違えるのに楽譜だけはいつも完璧でしたね」
「だけはとはなんだ。だけはとは。お前の名前はちゃんと書けるぞ。楽器と同じだしな」
それが不思議だ。自分の名前は間違えるくせにどうして私の名前は書けるのだろう。そう言えば、初めて殿下から頂いたプレゼントに添えてあったカードも文章は滅茶苦茶だったのに私の名前だけはちゃんと書けていた。
「……殿下はずっと殿下でしたね」
「は? 当たり前だろ。僕はこの国の王子だぞ?」
困惑したような声に思わず笑ってしまう。
「いえ、殿下のお人柄が変わらず真っ直ぐで安心しました」
彼という存在は素晴らしい出来の楽器のようだ。魂が真っ直ぐでよく響く。見た目も美しく人を惹きつける。
「……お前は、変わったな」
ぽつりと呟くような声に驚く。殿下の様子が少しだけ寂しそうに見えた。
「え?」
「昔は、もっとよく笑っただろ。それに……家から出たくないとよく駄々を捏ねていたな。祖父さんと一緒に居たいってずっと」
「……そんなに昔のことを持ち出さないで下さい。祖父が一緒だと学校よりも面白いことをたくさん教えて頂けましたし……それに……たぶん、あんまり長く一緒に居られないと……たぶん、気付いていたのだと思います」
祖父は病気だった。心臓病だったらしい。孫の前では元気なふりをして見せていたけれど、きっとあまりよくなかったのだろう。それでも私にはいつも優しい祖父だった。
「あの頃のお前は僕より祖父さんだったからな。ったく、てっきりあのくらい高齢の男が好みなのかと思ったぞ」
拗ねるような仕種に笑ってしまう。そう言えば、祖父と一緒の時はいつも以上に拗ねている姿を多く見せた。とても年上の男の子に見えないその仕種を可愛らしいと感じたのはいつからだろう。ことあるごとに得意気な様子を見せてくる姿も愛しいと感じるようになった。
彼が「この僕がなんとかしてやる」と根拠のない自信で胸を張って言う度に安心するようになったのはいつからだろう。
頼りにしていた祖父を失って塞ぎ込んでいたときに無理矢理部屋から引きずり出してくれたのは彼だった。
「おい、泣くな……なんでいきなり泣くんだよ……」
困り果てた殿下の声にまた泣いてしまったのかと驚く。
「……きっと寝不足だからですね。懐かしい話に……祖父が恋しくなってしまったのでしょうか……」
よく一緒に楽器を作った。
よく私を膝に乗せて、私には大きすぎるチェロに触れさせてくれた。
よく庭を散歩した。彼はなぜか毒草に詳しかった。
「……僕じゃお前の力にはなれないか? なら……不本意だが兄上を貸してやる。けど、僕の兄上だからな! 僕より兄上と仲良くなるなよ」
子供の頃と全く同じことを言い出す。本当に彼はいつもそうだ。私が泣くとどうしていいのかわからないと二人の兄に頼るのだ。
「いいえ、少し休めばいつも通りになれますよ」
「なら……」
不意に引き寄せられる。上体が崩れて彼の肩にもたれかかる格好になってしまった。
「着くまで休んでろ」
「えっと……これは……」
「肩を貸してやると言っているんだ。ったく、王子である僕が肩を貸してやるんだ。光栄に思え」
なんという……。
突然のことに驚いたけれど、あまりに彼らしく想像したよりもずっと大きな声で笑ってしまう。
「お、おい! なぜ笑う」
「す、すみません……でも、笑うことはとても健康に良いのでご容赦を」
彼が彼で居てくれることが本当に心強い。
「お前が元気になるならそれでいい」
少しだけ拗ねた表情で、それでもとても優しい手が髪を撫でる。
ああっ、この不器用な姿が本当に愛おしい。どうしてこうも仕種の一つ一つで私の心を震えさせてくれるのだろう。
苦しいほどに彼が好きなのに、きっと届かない。
「お前……さっきから泣いたり笑ったりなんなんだ! どっちかにしろ! あーっ、僕は兄上達と違って……泣いたやつの扱い方なんて知らないぞ……」
慌てる殿下に申し訳なく思う。
「婚約者が馬鹿すぎて婚約解消になりそうなんて言われたらいくらお姉様でも取り乱すと思いますよ。口には出さないだけで」
アマンダは本心ではなくたぶん殿下を攻撃するためにその言葉を選んだのだろう。
「なっ……ヴィオラ! お前、僕を疑っているのか? お前の為だったら僕はなんでもすると言っているだろう。絶対全教科満点を取ってやる。そうしたらお前が泣いてもどんなに嫌がっても僕の妻にしてやるからな」
それは最早脅迫だ。
「いや、お姉様が嫌がったらそれは諦めなさいよ」
普段私の前で見せる姿からは想像も出来ないほど冷たい声で言うアマンダに驚く。あの愛らしい姿からは想像も出来ないほど冷め切った目で殿下を見ている。どうもアマンダが殿下を敵視しているように思えて違和感を覚えた。まるでそれが異常だと知っているかのように。
「うるさい。大体お前はこの国の王子である僕に対して全く敬意がないぞ」
「偉いのは国王様であってあなたじゃないでしょ。それに三番目だし、留年してるし」
アマンダは殿下が日頃から気にしているであろう部分を突く。まぁ、留年に関しては本人はあまり気にしていないと思うけれど。
「僕はこの国で一番の身体能力だし、剣術だって父上の次だ。あと何年かすれば父上にだって勝ってみせる。それに、国一番の演奏家だぞ。お前みたいに基礎音階で躓いているやつとは違うんだ!」
年下の女の子と張り合って恥ずかしくないのだろうか。注意を殿下に向ければ、どうやら涙は治まってきたようだ。
「見てなさい! 私はお姉様に教わっているもの。すぐにあなたなんて追い越して見せるんだから」
アマンダはアマンダで張り合い始める。
「なっ、ヴィオラに教わってるって……まさか、ヴィオラ、お前こいつにヴァイオリン指導しているのか?」
「……あの扱いでは楽器が憐れでしたので良い先生と出会えるまでの間の繋ぎにと」
アマンダは早めに別の先生を見つけるべきだ。あの酷い演奏を褒めるような先生では上達できない。
「私はお姉様が良いです。お姉様に教わりたいです」
「私は演奏家ではないので教えるのは……」
「お姉様の教え方は本当に先生より丁寧でした」
がっちしと手を握られても困る。
「なっ、お前! 僕のヴィオラに触れるな!」
「お姉様は私のお姉様です。なにか文句でも?」
火花が散りそうなほど睨み合う二人に困惑する。
「な、仲が良いのね」
「よくない」
「誰がこんなのと」
否定する姿まで息が揃っている。
二人揃って競うように私の手を握ろうと手を動かしながら睨み合っているうちに学校に到着した時にはただただ安堵した。
授業中は余程ぼんやりしていたらしく、授業の内容はほぼ覚えていない上に先生に注意されてしまったようだがそれさえも気付かないほどだったという。だったというと表現したのはその事実にさえ気がつかなかったからだ。
昼休みに入ったときもそれにすら気がつかず、殿下に無理矢理手を引かれて辿り着いた食堂で弁当を抱えたアマンダに遭遇した。
「お姉様、お姉様のために四時起きしてお弁当を用意したんです」
嬉しそうな笑顔が眩しい。
「まぁ、ありがとうございます」
頭に靄が掛かるように上手く思考できない。決して授業中に眠ってしまった訳ではないのに体が随分と重く感じられた。正直なところ食欲はない。けれどもアマンダの善意を無下にすることはできなかった。
殿下に無理矢理手を引かれるまま席に着き、二人分には多すぎる弁当が並べられる。鶏肉や野菜をクリームソースで煮込んだ物を挟んだサンドウィッチとデザートのプリンが呆れるほど大量に並べられている。一体この量をどうやって持ってきたのかと呆れてしまうがアマンダの持っているバスケットは二重になっていたらしい。底一面にプリンを詰め込んでいるあたり、彼女の好物なのだろう。勿論、殿下は甘い物がお好きだから目を輝かせている。
「ヴィオラになにかあったら大変だからな。僕が毒味してやる」
殿下が真っ先にサンドウィッチに手を伸ばす。
「あ、こら! お姉様の為に作ったのよ! あなたなんかに食べさせるものはないっ。あ……もうっ……」
アマンダが言い終わる前には大きなサンドウィッチが一つ消えてしまった。
「冷めてはいるが意外と食えるな」
「お姉様に食べて欲しくて作ったのに……」
アマンダはすっかり拗ねてしまっている。
そもそも殿下はなぜ私より先に食べるのか。彼の方が毒味役が必要のはずだ。
「殿下、仮にも我が国の王子なのですから私の毒味役などなさらないでください」
「は? 婚約者を守るのは同然のことだろう」
「私の妹が毒殺するような人間に見えますか?」
本当のところ、彼は美味しそうなサンドウィッチを食べたかっただけに思える。現にカウンターに並ぼうとしていたブルースを呼び寄せている。
「俺までいいの?」
昼食に誘われたブルースは少しだけ申し訳なさそうな様子を見せたがたぶん建前だ。すぐにサンドウィッチに手を伸ばしている。
「もうっ……お姉様の為に用意したのに……」
アマンダは完全に拗ねている。
「こんなにたくさん作ってくれてありがとう。美味しい物はみんなで食べるともっと美味しくなるわ。ほら、アマンダも拗ねないで」
できるだけ柔らかく、を心がけて声をかける。するとすぐに機嫌を直してくれたようだ。
「はいっ、お姉様」
少し丸っこくて柔らかそうで可愛らしい子。子犬の尻尾の幻覚が見える気がするほど、私の前では懐っこい印象を見せるのに、どうしても殿下の前では印象が変わる。
「アマンダ嬢は随分とヴィオラ嬢に懐いているようだね」
「私、ずっと一人っ子だったからお姉様ができて本当に嬉しいの」
なるほど? けれどもアマンダの懐きようは少し納得できない部分がある。
「へぇ……クレムのことは随分嫌っているようだけど」
「私からお姉様を奪うものは全て敵です」
きりりとした表情で言われても困る。
誤魔化すようにサンドウィッチをかじる。まろやかな味わいでどこか素朴なそれは前世で食べたことのある物と似ているように感じられた。冷めていることが少し惜しい。きっと温かければもっと美味しかったはずだ。
それにしても、随分量を作った物だ。
「アマンダ、これ一人で作ったの?」
「シェフに手伝ってもらいました」
「そう。それにしても凄い量ね。何人分だったのかしら?」
このテーブルの人数では食べきれないだろう。そう思うのにアマンダは子犬のように笑う。
「お姉様にたくさん食べて欲しくて。食が細いようでしたので」
少食なのは元々だ。確かに……母の一件があってからはまた食欲が減少しているかもしれないけれど。
「お姉様、お姉様のお好きな物もたくさん作りますからなんでも言ってくださいね」
まるで褒めて褒めてと言うような様子に、やっぱり少し殿下と似ていると思ってしまう。
「ありがとう。でも、特に好き嫌いはないの」
あまり食に執着していないからとは言えない。
「そういえばヴィオラ嬢はあまり甘い物は食べないよね。苦手なの?」
ブルースに訊ねられる。
「食べられないことはありませんが、殿下が召し上がっている姿を見ている方が好きです」
殿下は本当に幸せそうに食べるから、ついつい私の分のケーキも譲りたくなってしまう。
「そう言えば……茶の席ではいつもお前が自分の分の茶菓子まで僕に渡してくるよな」
「殿下はチョコレートやクリームを使ったお菓子がお好きですよね」
食べる姿が本当に幸せそうで、頬に食べこぼしを付けてしまう王族とは思えない姿がまた本当に可愛らしいと思ってしまう。
「お前、今無礼なことを考えなかったか?」
そう言いつつも頬にクリームを付けながらプリンを食べている姿は本当に可愛らしい。
「ふふっ、プリンの上のさくらんぼって可愛らしいですよね」
ずっと眺めていたくなってしまうかわいらしさだ。
「お姉様、プリンがお好きでしたらたくさんありますからどうぞ」
「ありがとう。一つ頂くわ」
「一つと言わずいくつでも。あ、私の分のさくらんぼもどうぞ」
どうやらさくらんぼが好きだと思われてしまったらしい。
「あまり沢山は食べられないから一つだけ頂きます」
確かに甘い物よりは塩っ気のあるものの方が好きかもしれないけれど甘い物が嫌いなわけではない。
「なんだ? ヴィオラ、さくらんぼが好きなのか? だったらお前の家にたくさん届けてやるぞ」
「殿下、お気持ちは嬉しいのですがたくさん届けられても困ります」
それにさくらんぼが凄く好きというわけでもない。
「ヴィオラ嬢、顔色悪いけど大丈夫?」
「ええ。賑やかな殿下を見ていたら元気になりました」
ブルースにまで心配されてしまうとは情けない。
「試験勉強行き詰まってるの? ヴィオラ嬢の為なら一肌でも二肌でも脱いじゃうよ」
笑顔でそう言ったブルースは一冊のノートを差し出してきた。
「二年生用の試験対策ノート。役に立つと思うよ」
確かこの人は過去百年間のテスト問題を解析して対策ノートを作っているのだった。噂によると全学年分。
「ブルース様は三年では?」
「全学年分作っているんだよね。いやぁ、切羽詰まったやつは大金払ってくれるから小遣い稼ぎって感じ? 今のうちに弱味握っとくと将来的に役に立つかもしれないし」
なんという恐ろしい人だろう。その努力を別な場所で活かせばいいのに。
「ヴィオラ嬢には特別に美術史のノートもおまけしちゃう」
「あら? ブルース様はヴァイオリン専攻では?」
「美術も履修してるよ。ってか全科目履修してる」
どういうことだろう。音楽と美術は同じ時間に開講されているはずだ。
「物理的に不可能じゃ……」
「まあまあ細かいことはいいじゃん。これでちょっと試験勉強楽して休みなよ。頑張りすぎると倒れちゃうよ」
軽い調子で言うけれど、とても心配してくれたらしい。
それにしても、どうやって同じ時間の授業を受けているのだろう?
「ブルース! お前、まさか僕のヴィオラに気があるんじゃ……」
「んー? まぁ、ヴィオラ嬢かわいいし。俺はかわいい女の子みんなの味方ってことで」
「ふざけるな!」
殿下がブルースに掴みかかる。
「暴力反対! 俺運動はダメなんだって!」
「やる前から諦めるな! 僕がみっちり稽古付けてやる」
逃げるブルースを殿下が追う。大分性格が違うはずなのにあの二人は随分と長く友人で居る。得意分野が違いすぎるから補い合うのに丁度良いのかもしれない。
「お姉様、うるさいのが居なくなって二人でゆっくり出来ますね」
嬉しそうなアマンダに少し呆れる。
結局多すぎるお弁当の残りは持ち帰ることになりそうだった。
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