鉛の柩に眠る彼

ROSE

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間 運命の番様

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 冷たい鉛の棺で待ち焦がれた相手は何よりも美しく思えた。
 ぎこちない口づけ。
 本能に恐れ、わずかな拒絶。
 だと言うのに惹かれずにはいられない感情さえ感じ取れた。

 ドルチェ。
 なんて可愛らしい名前だろう。いや番でなければ全く興味を示さなかった響きかも知れない。
 ただ、番と言うだけでなにもかも特別に感じるものなのだろうか。
 鉛の棺はブランの力を奪った。二百年という長い時の中でブランを蝕み、生命力を奪っていった。美貌が損なわれなかったのは不老不死だからなのか、残った生命力を全て外見の保持に回したのかはわからない。けれども棺の中で、ブランは自力で動けないほど弱っていた。
 だというのに。
 あのぎこちない口づけが命を与えた。
 触れているだけで温かく、奥底からなにかが満ちる感覚。
 一瞬の口づけがブランを動かすに十分だった。

「ドールーチェー、微笑んでー」
 馬車の中で見つめながら声をかければ溜息を吐かれる。
 ブランの生まれた新緑の国の基準でも相当な美人なのに眉間に皺が寄ってしまって勿体ないと思う。
 睨みつける不機嫌そうな姿は男と女の二面性を抱えている。
 そう、ドルチェはどこか男性的な空気を纏っているが、少女だ。それも少し夢見がちな乙女。ブランが惑わしやすい対象。
「俺の番様はつれないなー。でもそーゆーのも好きだよ」
「黙れ……騒がしい」
 頭痛がすると頭を抱えるのに、魔法で無理矢理黙らせたりしようとはしない。
 破壊の魔力を持っているなら声封じくらい出来るだろうに。
「だって、二百年も棺の中でひとりぼっちだったんだよ? 人に飢えてるってか会話に飢えてるんだって。それに、せっかく迎えに来てくれた番様のこと知りたいし? 勿論、俺に質問もたくさんしてくれていいよ」
 運命の番だって会話は必要だ。お互い言葉で知り合うことも重要、なはずだ。
「……本当にお前が私の番なのか?」
「え? これ見ても疑う?」
 ブランはドルチェと繋がる鮮血色の鎖を示す。
 一度認識すれば、強く意識した時に見えるようになる。
「ドルチェが俺のことだーい好きってのが伝わってくるよ?」
「……お前のこれはなんだ……尋常じゃない執着を感じるぞ」
 ドルチェの顔には「逃げたい」とでも書かれているようだ。
 運命に怯んでいる。
 それはブランの同族にもたまに見られた。
「ま、いきなり運命の番なんて言っても躊躇うよね。俺は一目でドルチェだって思ったっていうか、あの口づけのおかげで生き返ったからね。しばらくはドルチェが居ないと動けないし、ドルチェが俺の番なら大歓迎って感じ」
 口づけだけでこの回復なら愛し合えばどれほどの力を与えられるだろう。
「それに、ドルチェ、俺の顔に耐性あるみたいだからさ。人間で稀少だよ? みんな俺に見つめられただけで魅了されちゃうから」
 狩りは簡単だった。
 人間で遊んだことも何度もある。
 けれども長い間一緒に過ごしたいと思うほど特別な存在はなかった。
「俺、普段なら俺に興味持たない相手は放っておくんだけどさ、ドルチェのことは欲しくて堪らないって感じがするんだ」
「……こんなに騒がしい男をなぜ殺そうと思わないのか疑問だ」
 ドルチェは苛立った様子で時折剣に触れ、それでも剣を抜くことはない。
 なにより、強力な破壊の魔力を持っているくせにブランを仕留めようとしない。
「それ、俺がドルチェの番だからじゃない? 俺の魔力も、ドルチェを傷つける目的では使えないから」
 魅了で操ったりは出来ない。
 ただ、淫魔のは番相手には効き過ぎるほど効果がある。
「だいたいなぜ封じられていた?」
「あー、うっかり引っかけた王子と王が俺を取り合って国が滅びかけたからさ……なんとかってやっばい魔術師が弟子をぞろぞろ連れてあそこに封じたんだ」
 ちょっと遊ぶつもりが、魅了が効き過ぎてしまった。
 そういえばあの王子は少しばかりドルチェと雰囲気が似ていたかもしれない。
「……王子はちょっと好みだったかな? ほんのちょっと。ドルチェほどじゃないけど、目元がすこーしだけドルチェと似てた」
「その情報は要らん。というか、お前、男の相手もするのか?」
 不快を隠さない表情で訊ねられ、ブランは思わず笑う。
「だって俺、淫魔だよ? 男も女も関係ないって。抱くのも抱かれるのも両方イケるからさ、番様も俺の事好きにしていいんだよ?」
 ドルチェは女だから当然自分が抱く方だろうと考えながらブランはドルチェの唇に視線を奪われる。
 赤々とした血のような唇が不満そうに結ばれている。
 あの唇が柔らかくブランを呼んでくれないだろうかと期待するのは、彼女が番だからだろうか。
「……私は不誠実な男は好かん。口数が多い男もだ。政治に口出しするのは論外。お前がずっと棺の中に居てくれればどんなによかったか……」
 深い溜息の後、ドルチェの視線がブランに向く。
 顔を隅々まで観察し、それからもう一度溜息を吐いた。
「……顔だけは完璧なんだがなぁ……」
「よかった。俺も俺の顔だーいすきっ。ドルチェが褒めてくれるもん」
 淫魔は自由に姿を変えられるけれど、ブランの今の姿は生まれ持ったものだ。
 ひとつでも合格点を貰えた。
 今はそれでいいことにしよう。
 どうせお互い、逃げられない身なのだから。
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