鉛の柩に眠る彼

ROSE

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4 運命の鎖

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「え? 中身、ご存命だったんですかー!?」

 ブルーノの絶叫が響く。
 ドルチェに負ぶさるようにまとわりついたブランの容姿以前に棺の中身が死体でなかったことに驚いている。
「え? なにこいつ。ドルチェの愛人?」
 後ろから回した腕にぎゅっと力を込めて訊ねるのは嫉妬のふりでもしたいのだろうか。
「なにをどうしたらそういう解釈になる。そもそも本命も居ないのに愛人がいるものなのか?」
 理解出来ないとブランを見れば、無駄に美しい顔に見惚れそうになってしまう。
 こいつは危険だ。
「えー? ドルチェの本命は俺でしょ? ね? 俺のかわいい番様」
 うっとりする程甘い声で囁かれるとなぜか腰の辺りがむずむずとする。
「私はお前みたいな口数の多い男は好かん」
「俺はドルチェみたいな可愛い子超好みだよ?」
 軽い。軽すぎる。
 婿に求める条件を容姿以外満たしていない。
「あー……確かに……殿下の好みとは……かなり、かけ離れていますね……」
 ブルーノは気を遣って表現を変えようとした様子だったが途中で諦めたようだ。
「……鏡に騙された」
「あはは……まあ、見た目は美しいですし……寝顔でも眺めていれば殿下の欲求も少しは満たされるのでは?」
 ブルーノは困り果てたような表情で無理に笑って見せた。ドルチェの機嫌を損ねてはいけないと思っているのだろう。それが透けて見えて気に入らない。
「……離れろ。重い」
「えー、だって俺二百年も棺の中だったんだよ? まだあんまり回復してないもん。ドルチェにくっついてないと動けないよ」
 だから甘やかしてとでも言うようにドルチェの顎を擽る。
「……棺に戻れ。馬車で引きずってやる」
「え? 酷くない? 俺、ドルチェの運命の番だよ? 番にはもっと優しくしてよ」
 ねーねーと、ドルチェの髪や首筋に口づけて必死に甘えようとする姿は小動物に見えなくもない。
 しかし。
「……この騒がしい生き物を黙らせる方法はないのか?」
 思わずブルーノを見る。
「……息の根を止めるという選択肢を殿下に与えないあたり……本当に運命の番なのだなと……」
 そう言われてしまうとドルチェは納得してしまう。確かに普段であればとっくに斬り捨てている。
「……こんなにも騒がしい生き物を連れ帰ろうとしている時点で私らしくないな……」
 外見は好み。しかしそれ以外はなにもかも論外としか言えない。
 政治に興味がなさそうな部分は及第点だろうか。
「だってドルチェ、俺の顔好きでしょ?」
 誘惑するようにドルチェの首を擽り、息が吹きかかる距離で囁かれる。
「……くっ……否定できん……」
 ドルチェでなくてもこの暴力的な美を前にどれほどの人間が抗えるだろう。
「二百年も棺の中だったからかなり力が衰えてるけど、ドルチェがたくさん俺のこと愛してくれたら回復するからさ、そしたら俺、ドルチェの役に立つと思うよ?」
 ぎゅっと抱きしめられ、全身がぞくぞくする。
「ふふっ、ドルチェ、俺に抱きしめられるの好きなんだね。わかるよ。番だもん。お互い触れあうだけで幸せだよね? ドルチェが幸せに感じてくれるだけで、少し動けるようになってくるから不思議だよ。ドルチェがたくさん俺の事求めてくれたら、俺も自由に動けるようになるんだけど……やっぱすごい空腹。もっと効率的にドルチェを摂取したい」
 だから口づけさせてとでも言うように、ブランの手がドルチェの顎を引こうとする。
「図に乗るな」
 思わず。
 反射的に。
 ドルチェはブランを振り払う。
「私は軽い男は好かん」
 番とはもっと真摯な関係ではないのだろうか。
 ドルチェは女神を恨む。
 どうしてこのような穢れた存在がドルチェの番なのだろうか。それも、糸ですらなく鎖で繋がれた。
 振り払ったはずの腕が、じゃらりと重く感じられる。
 鮮血色の鎖はがんじがらめになるほど纏わり付き、ブランの腕と繋がっている。
 恐ろしいことに、は一本ではない。複数の鎖がまるでドルチェを逃さないとでも言うように幾重にも絡まっている。
 執着。
 そんな言葉がしっくりしてしまう。
 この鎖はブランの執着だ。そして、ドルチェからもその鎖がブランへ繋がっている。
 どうかしている。
「諦めなよ、番様。君は俺から逃れられないから」
 魅惑的な笑みを見せ、それから迎えに来いとでも言うように両腕を広げるブラン。
 苛立つはずなのに、ドルチェの体は勝手に動き出したかのようにブランを抱き上げた。
「うわー、お姫様抱っこなんて久々ってか……ドルチェ、一応女の子だよね?」
 普通は逆。ドルチェだってそう思う。
 するよりはされたい。はずだ。
 なのに、体が勝手に動いた。
「俺がもうちょっと回復したらドルチェにもしてあげるからね?」
 拗ねているとでも思われたのか。
 ドルチェは複雑な思いでブランを見る。
「いや、違和感はないですけど……殿下……番とはそこまで特別な存在なのですか?」
 困惑した様子のブルーノにドルチェの方が困り果ててしまう。
「私だってわからん。勝手に体が動く」
 淫魔なんてとっとと捨ててしまえばいいのに。
 その考えを実現させることが出来ないのだ。
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