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第一章

大丈夫②

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「君に辛い決断を強いてしまうけど……エーデル公爵家の者達を罪人として、裁いてもいいかな?」

 絞り出すような声で優しく問い掛け、ヴィンセントはこちらの顔色を窺った。
気遣わしげな視線を送ってくる彼の前で、私は一つ深呼吸する。
ソレ・・はもう捨てなさい』と自分に言い聞かせ、顔を上げた。

「ええ、構わないわ。今回の件はさすがに私も看過出来ないと思っていたから」

 『徹底的に叩きのめす方向で異存ない』と告げると、ヴィンセントはどこかホッとしたような表情を浮かべる。

「分かった。近いうち、必ず公爵達に鉄槌を下すよ。ただ、場を整えるために少し時間が掛かる……待っていてくれるかい?」

 『本当は今すぐどうにかしたいんだけど』と零し、ヴィンセントは嘆息する。
見えない尻尾を下に垂らす彼の前で、私はふわりと柔らかく微笑んだ。
『貴方が落ち込む必要はないのよ』と教えたくて。

「もちろん、いくらでも待つわ。だから、あまり無茶しないでね……って、何も出来ない私が偉そうに言うのもなんだけど」

 『面目ない……』と身を縮こまらせ、私はドレスをギュッと握り締めた。

「何もかもお任せする形になってしまって、ごめんね。私の問題なのに……」

「ううん。全然構わないよ。むしろ、君の力になれて嬉しい。だから、存分に僕を頼って、使って、利用して」

 私の両頬を包み込む形でそっと持ち上げ、ヴィンセントは視線を合わせる。
吸い込まれそうなほど綺麗な黄金の瞳に見惚れていると、彼はゆるりと口角を上げた。

「僕の全てはリアのためにあるんだよ」

 どこか諭すような口調で教え込み、ヴィンセントは楽しげに笑う。
────と、ここで誰かの足音が聞こえてきた。

「おっと、もう時間みたいだね。ここで見つかる訳にはいかないから、そろそろ行くよ」

 名残惜しそうにこちらを見つめながらも、ヴィンセントは手を離す。
今生の別れという訳でもないのに大袈裟だが、なんだか嬉しかった。
『ヴィンセントらしいな』と頬を緩める中、彼は静かに窓縁へ手を掛ける。
と同時に、

「愛しているよ、リア」

 とだけ言って、外へ出た。
足音を立てずにこの場から去っていく彼を前に、私は放心する。
が、直ぐに正気を取り戻し、口元に手を当てた。

「最後にあんなの……狡いわ」

 頬が熱くなっていく感覚を覚えながら、私は悶々とする。
でも、気分は至って良かった。
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