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第一章
大丈夫①
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◇◆◇◆
「────という訳で、ここへ来たんだ」
『まあ、不法侵入だけど』と肩を竦め、ヴィンセントはニコニコと笑う。
全く悪びれない様子の彼に、私は思わず頬を緩めた。
なんだか、いつも通り過ぎて。
妙な安心感に包まれて肩の力を抜いていると、ヴィンセントがスッと目を細める。
「それで、君の持っている情報も教えてほしいんだけど……話せそう?」
明らかに顔色の悪い私を気遣い、ヴィンセントは『嫌なら無理して話さなくてもいいよ』と述べた。
心配そうに眉尻を下げる彼の前で、私はクスッと笑う。
「そんな表情しないで。私は大丈夫だから」
「セシリアはそう言って、いつも無茶するじゃないか」
「それは……そうかもしれないけど、今回は本当に大丈夫。というか大丈夫になった、貴方のおかげで」
そっと胸元に両手を添え、私は黄金の瞳を見つめ返した。
「正直ね、入れ替わりのことを誰も信じてくれなくて……気づいてくれなくて、辛かったの。今にも心が折れてしまいそうで、どこかに消えたくなった。でも、ヴィンセントが気づいてくれて……信じてくれて、本当に嬉しかった。だから、もう大丈夫。ありがとう」
心からお礼を言うと、ヴィンセントは少し驚いたように目を剥く。
「君の使用人達も、入れ替わりを信じなかったのかい?」
『あんなに慕っていたのに……』と零す彼に、私は苦笑を浮かべた。
「お父様が色々手を回したみたいで、完全にこちらへ不信感を抱いている状況なの。私も信頼を得ようと、頑張ってみたけど……点でダメね」
『情けないわ』と零し、私は肩を落とす。
己の力不足を責める中、ヴィンセントは
「主人の見分けもつかないなんて……とんだ、馬鹿犬だね」
と、呟いた。
彼らしくない一言に思わず空耳を疑っていると、不意に頭を撫でられる。
「今までよく頑張ったね、セシリアは偉いよ」
先程の暗い雰囲気を塗り替えるように、ヴィンセントは穏やかな声で慰めてくれた。
『もう一人じゃないからね』と繰り返し言い、私の不安を溶かしていく。
相変わらず私を甘やかすのが上手い彼に、スッと目を細めた。
「ありがとう。それで、私の知っている情報についてだけど────」
話を本筋に戻し、私はあったこと全てを伝えた。
すると、ヴィンセントは神妙な面持ちでこちらを見据える。
「なるほど、エーデル公爵家の家宝を……」
「ええ。一体、どこで見つけたのかサッパリ分からないけど」
「見つけたんじゃなくて、公爵がずっと隠し持っていた可能性もあるけど……まあ、それは一旦置いておこう」
『今、重要なのはそこじゃない』と切り捨て、ヴィンセントは自身の顎に手を当てて考え込んだ。
「“均衡を司りし杖”によって入れ替わったのなら、クライン公爵家の家宝の力を使えば今すぐ元に戻せるけど……それじゃあ────公爵達に罪を問えない」
『同時に証拠隠滅もしちゃうから』と語り、ヴィンセントは控えめにこちらを見つめる。
黄金の瞳に憂いを滲ませながら。
「出来れば、君の家族を貶めるような真似はしたくないけど……家宝の力を使ってまで邪魔してきたということは、あちらもかなり本気だろう。また何か仕掛けてくる可能性は高い。だから、ここで徹底的に叩きのめす必要がある」
私の立場が悪くなることや家族に対する情を捨て切れないことを考え、ヴィンセントは眉尻を下げた。
申し訳なさそうな表情を浮かべながら私の手を取り、ギュッと握り締める。
「君に辛い決断を強いてしまうけど……エーデル公爵家の者達を罪人として、裁いてもいいかな?」
「────という訳で、ここへ来たんだ」
『まあ、不法侵入だけど』と肩を竦め、ヴィンセントはニコニコと笑う。
全く悪びれない様子の彼に、私は思わず頬を緩めた。
なんだか、いつも通り過ぎて。
妙な安心感に包まれて肩の力を抜いていると、ヴィンセントがスッと目を細める。
「それで、君の持っている情報も教えてほしいんだけど……話せそう?」
明らかに顔色の悪い私を気遣い、ヴィンセントは『嫌なら無理して話さなくてもいいよ』と述べた。
心配そうに眉尻を下げる彼の前で、私はクスッと笑う。
「そんな表情しないで。私は大丈夫だから」
「セシリアはそう言って、いつも無茶するじゃないか」
「それは……そうかもしれないけど、今回は本当に大丈夫。というか大丈夫になった、貴方のおかげで」
そっと胸元に両手を添え、私は黄金の瞳を見つめ返した。
「正直ね、入れ替わりのことを誰も信じてくれなくて……気づいてくれなくて、辛かったの。今にも心が折れてしまいそうで、どこかに消えたくなった。でも、ヴィンセントが気づいてくれて……信じてくれて、本当に嬉しかった。だから、もう大丈夫。ありがとう」
心からお礼を言うと、ヴィンセントは少し驚いたように目を剥く。
「君の使用人達も、入れ替わりを信じなかったのかい?」
『あんなに慕っていたのに……』と零す彼に、私は苦笑を浮かべた。
「お父様が色々手を回したみたいで、完全にこちらへ不信感を抱いている状況なの。私も信頼を得ようと、頑張ってみたけど……点でダメね」
『情けないわ』と零し、私は肩を落とす。
己の力不足を責める中、ヴィンセントは
「主人の見分けもつかないなんて……とんだ、馬鹿犬だね」
と、呟いた。
彼らしくない一言に思わず空耳を疑っていると、不意に頭を撫でられる。
「今までよく頑張ったね、セシリアは偉いよ」
先程の暗い雰囲気を塗り替えるように、ヴィンセントは穏やかな声で慰めてくれた。
『もう一人じゃないからね』と繰り返し言い、私の不安を溶かしていく。
相変わらず私を甘やかすのが上手い彼に、スッと目を細めた。
「ありがとう。それで、私の知っている情報についてだけど────」
話を本筋に戻し、私はあったこと全てを伝えた。
すると、ヴィンセントは神妙な面持ちでこちらを見据える。
「なるほど、エーデル公爵家の家宝を……」
「ええ。一体、どこで見つけたのかサッパリ分からないけど」
「見つけたんじゃなくて、公爵がずっと隠し持っていた可能性もあるけど……まあ、それは一旦置いておこう」
『今、重要なのはそこじゃない』と切り捨て、ヴィンセントは自身の顎に手を当てて考え込んだ。
「“均衡を司りし杖”によって入れ替わったのなら、クライン公爵家の家宝の力を使えば今すぐ元に戻せるけど……それじゃあ────公爵達に罪を問えない」
『同時に証拠隠滅もしちゃうから』と語り、ヴィンセントは控えめにこちらを見つめる。
黄金の瞳に憂いを滲ませながら。
「出来れば、君の家族を貶めるような真似はしたくないけど……家宝の力を使ってまで邪魔してきたということは、あちらもかなり本気だろう。また何か仕掛けてくる可能性は高い。だから、ここで徹底的に叩きのめす必要がある」
私の立場が悪くなることや家族に対する情を捨て切れないことを考え、ヴィンセントは眉尻を下げた。
申し訳なさそうな表情を浮かべながら私の手を取り、ギュッと握り締める。
「君に辛い決断を強いてしまうけど……エーデル公爵家の者達を罪人として、裁いてもいいかな?」
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