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第一章

確信《ヴィンセント side》②

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「じゃあ、僕も行くとしよう────でも、その前に」

 僕は執事にあることを耳打ちし、その場から離れる。
『一体、どういう反応をするだろうか』と考えながら、中庭へ行った。
すると、こちらに気づいたセシリアがパッと表情を明るくする。

「ヴィンセント!会いに来てくれたの?」

「ああ。僕もご一緒していいかな?」

「ええ、もちろん!」

 ニコニコと機嫌良く笑い、セシリアは足を揺らした。
『嬉しい』と全身で表す彼女を前に、僕は向かい側の席へ腰を下ろす。

「果実水を」

 給仕係の侍女にそう指示すると、彼女は『少々お待ちください』と言って席を外した。
そして五分ほどしてから中庭に戻り、果実水の入ったカップを僕へ渡そうとする。
が、小石に躓いてしまい、バランスを崩した。
結構派手に転ぶ彼女は、うっかり・・・・カップを取り落とし────中身をセシリアに掛けてしまう。
と言っても、汚れたのはドレスの裾だけ。直ぐに乾かせば問題ない。
でも────

「ちょっと、貴方!何するのよ!?」

 ────セシリアは声を荒らげて、怒鳴り散らした。
『このドレス、いくらだと思って!』と喚く彼女を前に、僕は席を立つ。
テーブルに手をつく形で身を乗り出し、彼女の肩を掴んだ。

「────誰だ?お前」

 予想以上に低く冷たい声が出て、自分でも驚く。
だが、この感情を……衝動を抑えることは困難だった。

 コレ・・は確実にセシリアじゃない。
だって、僕の知っている彼女なら真っ先に侍女の体を心配する筈だから。
ドレスなんて、二の次だ。

 『仮に腹を立てたとしても、こんな風には怒鳴らない』と考え、確信を持つ。

 まさか、こんな茶番に付き合わされるとはね……僕も舐められたものだ。
バレないとでも思ったのかい?

 『見くびるなよ』と内心激怒し、僕は偽物をグチャグチャにしたい衝動へ駆られた。
が、すんでのところで思い留まる。
本物のセシリアがどこに居るかも分からない状況で、行動を起こすのは危険だから。
『最悪、消されかねない』と危機感を抱き、何とか怒りを鎮めた。
と同時に、顔へ笑みを張り付ける。

「ふふふっ。なんて冗談だよ。いつものジョーク」

「い、いつもの……」

「そう。セシリアなら、分かるよね?」

 無論こんなジョークを言ったことなど一度もないし、僕はいつでも真剣だが、敢えて日常茶飯事であることをアピールする。
そうすれば、この偽物は納得するだろうから。

「は、ははははっ……そうですわよね。私ったら、冗談を真に受けてしまいましたわ」

 案の定とも言うべき反応を示し、偽物は震える指先を握り込む。
彼女なりにセシリアを演じようとしているのだろう。
まあ、全くもって似ていないが。

 どちらかと言えば、そうだな────アイリス嬢に似ている気がする。

 分不相応という言葉が似合う無礼者を思い浮かべ、僕はスッと目を細めた。
だって、考えれば考えるほど彼女としか思えないから。

 となると、本物のセシリアは今────。

 エーデル公爵家のある方向を振り返り、僕は『こっそり確認してくるか』と思い立つ。
さすがに堂々と彼女の元を訪れるのは、不味いと思って。
僕の予想通りなら、エーデル公爵達もこの件に一枚噛んでいる。
下手に動けば、警戒されるだろう。
『今後のためにも、慎重に事を進めないと』と自制し、僕は空を見上げた。

 待っていて、セシリア。
君と僕の仲を引き裂く物や者は、徹底的に排除するから。
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