私に成り代わって嫁ごうとした妹ですが、即行で婚約者にバレました

あーもんど

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第一章

食事会②

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「ようこそお越しくださいました、エーデル公爵家の皆さん。どうぞ、お掛けになってください」

 人の良さそうな笑みを浮かべながら、主催者たるヴィンセントは席へ着くよう促す。
『陛下達は到着までまだ掛かるそうですから』と述べる彼を前に、私達は有り難く腰を下ろした。
すると、ヴィンセント達も向かい側へ座る。

「おや?クライン公爵や夫人はまだいらっしゃらないのですか?」

 上座に一番近い席へ腰を下ろしたヴィンセントに、父は首を傾げた。
『そこは本来クライン公爵の席だろう』と遠回しに指摘する彼の前で、ヴィンセントは小さく笑う。

「実は現在、父も母も家を空けていまして……」

「ほう?それはまた何故?」

 意地の悪い笑みを浮かべる父は、どうにかしてヴィンセントの出鼻を挫こうと必死だ。
正直、年下相手に大人気ないと思うが……主催側が欠席者を出すなど、本来なら有り得ないことなので庇いづらい。

 何より、今の私は喋れないから……。

 おもむろに自身の喉へ触れ、私は溜め息を零す。
別に口を動かすこと自体が出来ない訳では、ない。
ただ、声を出せないだけ。
出発前に、父が────“均衡を司りし杖”を使い、喋れないようにしたため。
『つくづく、厄介な力ね』とゲンナリする私を他所に、ヴィンセントは人差し指を唇に当てた。

「国防のためとだけ、お伝えしておきます」

「クライン公爵夫妻は仕事熱心ですな。大事なお役目を果たすために、皇帝陛下との約束をたがえるくらいですから」

 どこか小馬鹿にしたように振る舞う父は、『皇帝を軽んじた愚か者』と遠回しに言った。
思ったより露骨な態度に、私は内心ハラハラする。
実際はどうであれ、エーデル公爵家は家宝を失った立場。
きちんと守り抜いているクライン公爵家とは、やはり差が出る。
このような無礼を働いていい身分じゃなかった。
『せめて、もう少し言い方を……』と辟易する私の前で、ヴィンセントは笑顔を保っている。

「ええ、確かに仕事熱心ですね。なんせ、陛下から協力を仰がれるなり直ぐさま家を飛び出して行きましたから」

「!?」

 まさかの皇命だと知り、父は頬を引き攣らせた。
『は、はははは……』と乾いた笑いを零し、屈辱に耐える。

「そ、そうでしたか……」

「ええ。ただ、皆さんにお会いになれないことをとても申し訳なく思っていました。なので、代わりに僕が謝罪を……」

「いえいえ、そんな……もうすぐ親戚同士になるんですから、どうかお気になさらず」

 皇命に従っただけなのに謝罪を要求したとなれば、確実にこちらの立場が悪くなる。
なので、父は慌ててヴィンセントを止めた。
『陛下の命令なら、仕方ありませんよ』と言い、さっさと話を切り上げる。
────と、ここで食堂の扉が開いた。

「待たせてすまない」
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