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第一章

食事会③

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「待たせてすまない」

 そう言って、部屋の中へ足を踏み入れてきたのは────イセリアル帝国の君主であり、私とヴィンセントの婚約を承認してくれたロジャー・グレート・イセリアル皇帝陛下。
赤っぽい茶髪とエメラルドの瞳を持つ彼は、ゆったりとした足取りでこちらへ近づく。
慌てて席を立ってお辞儀する私達の前で、彼は『い。楽にせよ』と笑った。
と同時に、後ろからもう一人姿を現す。
恐らく、第三皇子のルパート・ロイ・イセリアル殿下だからだろう。

 長い間、戦場へ身を置いていた人だから見るのは初めてね。
ロジャー皇帝陛下の公務についてきたということは、これから公式の場へ顔を出していくつもりなのかしら?

 『皇位継承権問題』という言葉が脳裏を過ぎり、私は内心肩を竦める。
どこもかしこも親族間の問題はあるものね、と達観しながら。

「本日はお招きいただき、ありがとうございます」

 愛想の『あ』の字もない無表情で、ルパート殿下は形式に則った挨拶を行った。
かと思えば、私とアイリスを交互に見て眉を顰める。
海のように真っ青な瞳に困惑を滲ませ、ロジャー皇帝陛下に視線を向けた。

「父上……」

「ん?あぁ、お主には分かるのか。大丈夫だ。直ぐに元へ戻る」

 『問題ない』と告げ、ロジャー皇帝陛下は上座へ腰を下ろす。
ちょっと遅れて、ルパート殿下も隣に座った。
その際、艶やかな紫髪が小さく揺れる。

「そなた達も掛けたまえ」

 『立ったままでは辛いだろう』と気遣うロジャー皇帝陛下に、私達はお礼を言った。
と同時に、全員着席する。

「では、皆さん揃いましたので乾杯の挨拶を……ロジャー皇帝陛下、お願いしても?」

「う~ん……せっかくの申し出だが、今回はルパートに譲っても構わぬか?こやつはあまりこういう場に慣れていない故、練習させてやりたいんだ」

「もちろん、構いませんよ」

 快く応じるヴィンセントに対し、ロジャー皇帝陛下は『礼を言う』と笑った。
かと思えば、ルパート殿下に乾杯用のワインを持たせる。
『ほれ、早くしろ』と急かすロジャー皇帝陛下を前に、ルパート殿下はおずおずと席を立った。
こういう場に慣れていない、というのは本当らしい。

「えっと……本日の食事会はクライン公爵家とエーデル公爵家の親睦を深めるのが目的と聞きました。なので、両家の繋がりがより強固なものになることを願って……乾杯の挨拶とさせていただきます。では、乾杯」

 何度か言葉に詰まりながらも最後まで言い切り、ルパート殿下はグラスを持ち上げる。
それに習って私達もグラスを掲げ、一気に中身を飲み干した。
間もなくして料理が運び込まれ、本格的に食事会は始まる。
『さて、ここからどうなるか』と見守る中────セシリアたるアイリスが、真っ先にやらかした。

「んー!美味しい!」

 誰よりも早く料理へ手をつけ、彼女は目を輝かせる。
こういう場では、基本目上の者から順に食事を始めていくというのに。
毒味役でもなければ、皇族よりも先に料理を食すことは有り得ない。

 こんなの貴族にとっては、常識なのに……アイリスは本当に何も知らないのね。
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