私に成り代わって嫁ごうとした妹ですが、即行で婚約者にバレました

あーもんど

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第一章

アイリスの本音③

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「わ、分かったわ。当主にはならない。でも、アイリスが家を切り盛り出来るようになるまでは、面倒を見ないといけないわ」

 『放置は出来ない』と主張し、私は慌てて席を立つ。
どうやってヴィンセントを説得しようか考えながら、彼の隣に腰を下ろした。

「結婚は先延ばしになっちゃうけど……いいかしら?」

 『花嫁修業も一旦中止で……』と言い、私はそっと眉尻を下げる。
こちらの都合で振り回す結果となり、申し訳なく思っているから。
でも、今のアイリスにエーデル公爵家を押し付けるのはいくら何でも無理があった。
使用人達からのサポートがあるとはいえ、貴族としての教養を身につけながら家を切り盛りなど……考えただけで頭が痛くなる。
普通の人なら、まず間違いなく投げ出すだろう。

 エーデル公爵家の富や権力を付け狙う者達も、適度に牽制しないといけないし……現実的に考えて、今は私が主導権を握るべきでしょう。

 『とはいえ、それはこっちの事情だものね……』と嘆息し、罪悪感を募らせる。
『私の体が二つあれば……』なんて馬鹿らしいことを考え始める中、ヴィンセントは顔から手を離した。

「それならさ、君達の祖父────フランシス・ジェフ・エーデル前公爵に来てもらえばいいんじゃない?」

「えっ?でも、お祖父様は家宝紛失の責任を負って僻地に閉じ込められているのよ?エーデル公爵家の当主として、復帰するのは不可能じゃ……?」

 顔すら見たことがない祖父を思い浮かべ、私は戸惑う。
でも、頼れるなら頼りたいというのが本音。
母曰く、祖父はとても有能な人みたいだから────子育てを除いて。
祖母の忘れ形見だからか、なんだかんだ父を甘やかしていたらしい。
後継者教育に手を抜くことこそ無かったものの、何かやらかしても最終的には許してきたため、ああなったとのこと。

 お母様が言うには、許さず突き放す冷淡さが足りなかったみたい。
でも、当主としてのお祖父様は尊敬に値するって言っていたわ。

 評価の高低が激しい祖父について思い返していると、ヴィンセントがスッと目を細めた。

「確かに当主として復帰するのは、不可能だね。ただ、裏方として働いてもらうのは可能だと思うよ」

「私かアイリスを当主として据え、実際の公務はお祖父様に任せるってこと?でも、これだけ距離が離れていたら情報を知らせたり、指示を仰いだりするだけでも相当時間が掛かるわよ?とてもじゃないけど、当主と同じ仕事量をこなせるとは……」

 タイムラグという大きな問題を前に、私は『物理的に難しい』と思案する。
が、ヴィンセントに諦めた様子はなかった。

「大丈夫だよ。近いうち────前公爵はこちらへ来ることになるから」

「えっ……?何で?」

 『僻地から出て来れない筈じゃ……?』と頭を捻る私に、ヴィンセントはクスリと笑う。

「まあ、正確に言うと来る場所はここじゃなくて────城だけどね」

「あっ……」

 城というキーワードからヴィンセントの言わんとしていることを理解し、私はポンッと手を叩いた。
そういうことか、と納得しながら。

「家宝紛失の件で再度、事情聴取を受けることになっているのね?」

「そう、正解。まあ、念のため事実確認するだけだから滞在期間はどれだけ延ばしても一年程度だけどね。だから、アイリス嬢にはそれまでに家を切り盛り出来るようになってもらう」

 なかなか難易度の高い要求を口にし、ヴィンセントはアイリスに目を向けた。
かと思えば、真顔になる。

「出来るね?」
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