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第一章

第二皇子の嫌味①

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「申し訳ございません……現在、殿下はその……体調を崩しておりまして、挨拶はお控えいただきたく……」

 真っ青な顔で面会謝絶を言い渡し、従者の男性は『すみません』と頭を下げた。
絶え間なく聞こえてくる第二皇子の怒号と破壊音に、身を震わせながら。
産まれたての子鹿とも表現すべき状態に、私達はそっと眉尻を下げる。

「分かりました。今日のところは引き返します」

「どうぞ、ご自愛ください」

「それでは、これで失礼します」

 『自分達のせい』というのは明白なので、なんだか申し訳ない気持ちになりながら、来た道を引き返した。
少し煽り過ぎたことを反省しつつ、各々のテントへ戻る。
そこで武器を再び携帯したり、軽食を挟んだりして過ごしていると、あっという間に開会式の時間へ。

 第二皇子の癇癪は無事収まったかしら……?まだ引き摺っていたら、どうしよう?

 一抹の不安が脳裏を過ぎったものの……もう後の祭りなので、開き直ることにする。
『結果的に困るのは第二皇子なんだから』と自分に言い聞かせ、簡易ステージの前へ並んだ。
無論、アイリスやヴィンセントも一緒に。

「お集まりの皆様、静粛に願います。これより、第二百三回狩猟大会の開会式を始めます」

 司会進行を務める従者の男性はそう宣言し、チラリと第二皇子のテントへ視線を向けた。
というのも、ステージの上にはエレン殿下とルパート殿下の姿しかないから。
幸い、もう暴れている様子はないが……このまま出番を告げていいものか、悩んでいるのだろう。
癇癪を起こした後は些細なことでも、怒るから。

「え、えっと……まずは狩猟大会の運営を一任されている、マーティン・エド・イセリアル殿下から挨拶を頂戴し……ます」

 恐る恐る第二皇子の出番を告げ、男性はそっとテントの様子を窺った。
すると────バサッと勢いよく入り口が開かれ、何者かが姿を現す。
赤っぽい茶髪を風に靡かせ、真っ赤な瞳に苛立ちを滲ませる彼こそ、第二皇子マーティン・エド・イセリアルだった。

「チッ……!面倒くせぇーな」

 乱暴に前髪を掻き上げ、大股でステージに近づくマーティン殿下はギロリとこちらを睨みつける。
案の定とでも言うべきか、まだ腹の虫は収まっていないらしい。
『凄い殺気だな……』と身を固くしていると、マーティン殿下はようやくステージに上がった。

「あー……狩猟大会の運営を任されている、マーティン・エド・イセリアルだ。お前達、今日はよく来てくれた」
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