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第一章

母親の正体《アイリス side》①

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◇◆◇◆

「────お母様とよく会っていた神官」

 ほぼ無意識にそう口走ると、相手は一瞬固まり……プハッと吹き出した。

「やはり、覚えていらっしゃいましたか。野放しにせず、念のため殺す算段をつけておいて本当に良かった」

 そう言うが早いか、神官はこちらに手を翳したまま一歩前へ出る。

「さて、そろそろさようならの時間です。最後に言い残したいことはありますか?」

「別にない────けど、聞きたいことならある。結局、何で私を狙うの?」

 じっと神官を見つめ、私は怪訝な表情を浮かべた。

「私が知っているのはせいぜい、お母様と神官の接触くらい。他の人に知られて困るような内容じゃないと思うけど」

 『そこまで必死になって隠す意味が分からない』と述べる私に、神官は数秒ほど固まる。
が、直ぐに平静を取り戻し、ニンマリと頬を緩めた。

「なるほど、なるほど……アナスタシア・・・・・・は本当に何も言ってなかったんだな」

 半ば独り言のようにそう呟くと、神官はケラケラと笑う。
心底愉快そうに。

子供ガキに愛着でも湧いたのか、あの女……!あったま、おかしいんじゃねぇーの?あはははっ!」

 『あの経歴でいいママやってんのかよ!』と小馬鹿にしながら、神官はお腹を抱えた。
笑い過ぎて苦しいのか、ヒーヒー言っている。

「そうだなぁ……この際だから、教えてあげましょうか?貴方の母、アナスタシアは────」

 そこで一度言葉を切ると、神官は少しばかり前のめりになった。
と同時に、人差し指を口元に当てる。

「────神殿の暗部・・・・・に所属する、薄汚れた女なんですよ」

「「「!!?」」」

 神殿関係者であることは薄々分かっていたものの、まさかそういう類のものとは思わず……私達は言葉を失った。
衝撃のあまり固まる私達を前に、神官はニヤニヤと口元を歪める。

「暗殺、スパイ、ハニートラップ……何でもやる、人間の底辺。ローガン・アンディ・エーデルに近づいたのだって、上にそう命令されたから。つまり────貴方はアナスタシアにとって、好きな人との愛の結晶ではなく、目標を達成するための道具でしかなかったんですよ」

 『愛されて生まれた子供じゃなかった』という事実を突きつけ、神官は身を引いた。
かと思えば、嘆かわしいと言わんばかりにかぶりを振る。

「嗚呼……本当に哀れな子供だ」

 演技がかった口調でそう言う神官に、私は何も言えなかった。
『ふざけないで』とも……『嘘をつかないで』とも。
自分の世界の中心だったものがガラガラと崩れていく音を聞きながら、ただひたすら呆然と立ち尽くした。
悲しみなのか怒りなのかよく分からない感情が渦巻く中、神官は翳したままの左手を更に前へ突き出す。

「最後の慈悲として苦痛なく、死なせて差し上げます」
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