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第一章
母親の正体《アイリス side》③
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「そうね……本当に私らしくない。でも、しょうがないでしょう?────愛しちゃったんだから」
自嘲気味にそう吐き捨て、母は短剣を構える。
と同時に、ジュードへ斬り掛かった。
「悪いけど、貴方にはここで死んでもらうわ」
「っ……!」
母が余程強いのか、ジュードは急所を守るので精一杯。
瞬く間に、傷だらけとなった。
「チッ……!クソ……!神殿の暗部を担う粗大ゴミのくせに、母性なんて持つなよ!」
両手足から血を流しながら、ジュードは色素の薄い瞳に苛立ちを滲ませる。
だんだん余裕のなくなってきた彼を前に、母はチラリとこちらを振り返った。
すると、ルパート殿下とヴィンセント様が大きく剣を振り被る。
「合わせるぞ」
「はい」
全く意味の分かっていない私を置いて、二人は同時に剣を振り下ろした。
その瞬間────結界はパリンとガラスの割れるような音を立てて、砕け散る。
「な、何で……?さっきはビクともしなかったのに……」
思わず心の声を口に出すと、ヴィンセント様がこちらを振り向いた。
「この結界は神聖力によるもの。これほどの強度を保つとなると、かなり力を消費するだろう。他に力を割く余裕がないほどにね。それなのに、あの神官はうっかり自分の傷を治してしまった」
傷の量に反して出血が少ないことを挙げ、ヴィンセント様は『よく見てごらん』と述べる。
言われるがまま目を凝らすと、確かに傷口は塞がっていた。
血のせいで、少し分かりづらいが。
「治療したのは多分いつもの癖なんだろうけど、神聖力を分散させればその分結界の強度は落ちる。だから、その隙を狙って攻撃したという訳」
『それでも結構硬かったけど』と言いつつ、ヴィンセント様は結界の外へ出た。
周囲の安全を確認する彼の前で、私とルパート殿下も無事脱出する。
結界を修復され、また閉じ込められたら堪ったものじゃないため。
「何はともあれ、形勢逆転だな」
数の利はもちろん、単純な戦闘力も明らかにこちらが上。
だって、母単体でも手を焼いている状況だから。
そこに剣の達人であるルパート殿下やヴィンセント様も加われば、あちらにもう勝ち目はないだろう。
「とはいえ、油断禁物ですよ。あちらがまだ奥の手を隠しているかもしれません」
決して剣を鞘に納めず、ヴィンセント様は警戒態勢を貫く。
『神聖力はさておき、まだ魔力は残っている筈』と零す彼の前で、ルパート殿下は気を引き締めた。
────と、ここで母がジュードの右腕を切り落とす。
続けざまに、左手首も切断した。
「くっ……!」
魔力や神聖力の調整で重宝する手を奪われ、ジュードは顔を歪める。
たたらを踏んで距離を取ろうとする彼に、母はしつこく追撃を試みた。
が、何かを察したように踏みとどまる。
「全員逃げて……!」
自嘲気味にそう吐き捨て、母は短剣を構える。
と同時に、ジュードへ斬り掛かった。
「悪いけど、貴方にはここで死んでもらうわ」
「っ……!」
母が余程強いのか、ジュードは急所を守るので精一杯。
瞬く間に、傷だらけとなった。
「チッ……!クソ……!神殿の暗部を担う粗大ゴミのくせに、母性なんて持つなよ!」
両手足から血を流しながら、ジュードは色素の薄い瞳に苛立ちを滲ませる。
だんだん余裕のなくなってきた彼を前に、母はチラリとこちらを振り返った。
すると、ルパート殿下とヴィンセント様が大きく剣を振り被る。
「合わせるぞ」
「はい」
全く意味の分かっていない私を置いて、二人は同時に剣を振り下ろした。
その瞬間────結界はパリンとガラスの割れるような音を立てて、砕け散る。
「な、何で……?さっきはビクともしなかったのに……」
思わず心の声を口に出すと、ヴィンセント様がこちらを振り向いた。
「この結界は神聖力によるもの。これほどの強度を保つとなると、かなり力を消費するだろう。他に力を割く余裕がないほどにね。それなのに、あの神官はうっかり自分の傷を治してしまった」
傷の量に反して出血が少ないことを挙げ、ヴィンセント様は『よく見てごらん』と述べる。
言われるがまま目を凝らすと、確かに傷口は塞がっていた。
血のせいで、少し分かりづらいが。
「治療したのは多分いつもの癖なんだろうけど、神聖力を分散させればその分結界の強度は落ちる。だから、その隙を狙って攻撃したという訳」
『それでも結構硬かったけど』と言いつつ、ヴィンセント様は結界の外へ出た。
周囲の安全を確認する彼の前で、私とルパート殿下も無事脱出する。
結界を修復され、また閉じ込められたら堪ったものじゃないため。
「何はともあれ、形勢逆転だな」
数の利はもちろん、単純な戦闘力も明らかにこちらが上。
だって、母単体でも手を焼いている状況だから。
そこに剣の達人であるルパート殿下やヴィンセント様も加われば、あちらにもう勝ち目はないだろう。
「とはいえ、油断禁物ですよ。あちらがまだ奥の手を隠しているかもしれません」
決して剣を鞘に納めず、ヴィンセント様は警戒態勢を貫く。
『神聖力はさておき、まだ魔力は残っている筈』と零す彼の前で、ルパート殿下は気を引き締めた。
────と、ここで母がジュードの右腕を切り落とす。
続けざまに、左手首も切断した。
「くっ……!」
魔力や神聖力の調整で重宝する手を奪われ、ジュードは顔を歪める。
たたらを踏んで距離を取ろうとする彼に、母はしつこく追撃を試みた。
が、何かを察したように踏みとどまる。
「全員逃げて……!」
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